セラフィーナ視点1
私には、嘘を見抜く能力がある。
はったりでも、魔法の類でもない。
それは私の生まれ持った能力であった。
私はとある子爵家に生まれた。ワインの製造で多額の利益を出していた我が家は、子爵家の割に良い生活をしていた。しかし、父は母を放ったらかしにし、母もそれについて口を挟むことはしなかった。それも、子爵夫人である母は昔から体が弱く、私を産んだことでベッドに寝たきりになってしまっていたからだ。
私の父親は人として最低だった。父は母が弱っているのを良いことに、好き勝手やっていたのだ。
母という妻がいるにもかかわらず、愛人を何人も屋敷に住まわせた。
子爵夫人の座を狙う愛人たちと父との間にできた子供は我が物顔で屋敷の中で生活する。
父と母は政略結婚だったので、仕方ないと割り切っていたけれど、母と私を離れに追いやった時は流石に怒りが湧いた。
父に比べて母はとても美しい人だった。貴族としての品があり、化粧っ気のないその顔は子供の私でもはっきり分かるほどの美人だった。
追い出されるように離れに住み始めた私たちだが、月に一度しか母を医者に診せることができず、母は段々と衰弱していった。
私は使用人がいない離れで一人母の看病をしていた。母はいつも私に謝る。
「迷惑かけてごめんね、フィー」
「そんなこと言わないで! 私は大丈夫だから」
辛いと思ったことはなかった。
ただ、母がそこにいてくれるだけで私は十分だった。
身の回りのお世話をする私に、母はマナーや貴族として必要な知識を教えてくれた。……それから、魔法も。
本当は、まだ幼い私は魔法の練習をしてはいけなかったのだけれど、母は自分が長くないことを悟っていたのか、私に丁寧に教えてくれた。
10歳の誕生日の日、母は自身が持っていた指輪を私にプレゼントした。
「新しいものをあげられなくてごめんね。フィー、お誕生日おめでとう」
母はそのやつれた顔に笑顔を浮かべ、差し出してきた。
……私は受け取れなかった。受け取ってしまったら、母が居なくなってしまうような気がして。
「……この指輪はあなたに受け取って欲しいの。私やあなたの瞳の色と似た、綺麗なピンクでしょう?私はお母様……あなたのお祖母様から10歳の時に頂いたわ。だから、あなたにも今日これを渡そうと思うの。受け取ってくれないかしら?」
母は苦しそうにしながらも懸命に話した。
その言葉には……1つも嘘はない。
私はもう拒否はできなかった。
「お母様……ありがとう」
うん。
母はそう頷くと、嬉しそうに笑った。
その数日後、母は静かに息を引き取った。
母が亡くなってから何ヶ月か経った頃、彼らはやってきた。
心地よい風が吹く朝、なんだか屋敷の外がうるさいような気がして私は玄関の方まで様子を見に行った。
すると、野太い男の人の声を皮切りに、騎士の格好をした男たちが屋敷の敷地内に乗り込んできた。
「当主はもちろん、大人は誰一人逃すな!! 」
「隊長、子供女はどうしましょうか」
「女は捕縛しろ。子供は放っておけ」
「了解! 」
その普通じゃない雰囲気に私は恐ろしくなり、急いで離れに帰った。
……どうしよう。
セラフィーナは賢い子供であった。
ただ事ではないことを十分に理解していた。
セラフィーナは離れにある僅かな硬貨を掻き集め、それをポケットにそのまま放り込む。
……とりあえず、お金があれば……。
ドンッ!!
と大きな衝撃音と共に屈強な騎士が部屋に入ってきた。
「中にいる大人を捕まえろ!! 」
先頭に立っている男が部下に指示を出す。
男たちはなだれ込むように離れの奥に向かう。
「……ここには、私一人です」
消えそうな小さな声だった。
私は、母と共に過ごしたこの家に、兵士が土足で乗り込んでくるのが嫌だった。思い出を踏みにじられている気がして……。
けれど、目の前にいる自分の背の2倍ほどの身長を持つ男に対して抱く恐怖の方が大きかった。
「そこのお嬢ちゃん、今すぐここから出て行ったら見逃してやろう。出て行かなかった時は……」
私はその言葉を最後まで聞く前に男の横をすり抜け、離れから出た。
……ここにいたら、確実に殺される。
私は懸命に走り、街に出た。




