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すみれ色の瞳  作者: mayan
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女神様との出会い

 



「あら、可愛らしい妖精さんだわ」


 人の声に顔を上げようとした時、私の前に屈強な男が立ちはだかった。


「何者だ!? 」


 そのドスの効いた低い声に私はビクッと体を震わせた。


 ……どうしよう。入ってはいけないところに入ってしまったみたいだわ。


「ジョージ、怒鳴ってはダメよ。相手は子供なんだから」

「しかし……」


「妖精さん、お名前を聞いても? 」


 私は急いで立ち上がり、カーテシーをする。


「スペンサー公爵の娘、アリスにございます」


「スペンサー公爵のご令嬢ね。ジョージ大丈夫よ。不審人物ではないわ」


 その一言で男は風のように身を消した。


「顔を上げて、アリス様」


 私はおずおずと顔を上げて、女性を見る。

 美しい銀髪を腰まで垂らした美女だった。

 例えるなら……、そう、女神のようだった。


 女神様と視線が合う。女神様は王と同じく、驚きの表情を浮かべた。


「……リーララピス」


 私は、目をそらすことができなかった。まるでその瞳に吸い込まれるようだった。


 自分と同じ、紫色の瞳に。





「ごめんなさいね、少し驚いてしまって」

 沈黙を破ったのは女神様だった。


「いえ」


「アリス様、よかったらお茶をご一緒しませんか? 」

「はい、喜んで」


 女神様はいらっしゃいと薔薇園の中の素敵な四阿(あずまや)に手招きなさる。

 そこには既に紅茶と美味しそうなお菓子が用意してあった。


「おかけになって」


 女神様のお言葉に甘えて座らせて頂く。


 まだ女神様のお名前を聞いたわけではない。この方が誰なのか私には分からなかった。しかし、その溢れ出る気品と慈愛に包まれた雰囲気に、ただの貴族夫人ではないと思った。そもそも王宮内でお茶をするくらいだから、おそらく……。


「一人でお茶は寂しかったのよ。あなたがいてくれて良かったわ」


 にっこり笑う女神様は思っていたより若かった。20になったばかり、下手すればまだ10代だ。


「あなた様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」


 身分が下の者は上の者に安易に話しかけてはならない。そんな決まりが貴族の世界にはあるが、今はこの方の正体が気になって仕方なかった。


「まだ言ってなかったわね。ごめんなさい。私は、この国の第2王妃、シアラよ」


 ……やっぱり。まぁそうじゃないかしらとは思ったけれど、王妃様。


 それが確定事項になってしまうと、途端に緊張が走る。そんな私の変化に気がついたのか王妃様は私に優しく微笑みかけた。


「そんなにかしこまらなくて大丈夫よ。ここには私とあなたしかいないのだから」


「ありがとうございます」


「アリス様は王子のお茶会から抜け出してきたのかしら?」


「はい、会場の人の多さに酔ってしまいまして」


 ふふふ、と王妃様はお上品に微笑んだ。


「アリス様……、アリスで良い?面倒になってきたわ」


「もちろんです」


「アリスは、王子を素敵だなぁとか思わなかったのかしら?」

「近くで拝見して確かに美しい方だと感じましたが、それ以外性格も何も存じ上げません。ですから、特に思いませんでした」


「不思議な子ね。あの王子を見ると年頃のご令嬢みなさんうっとりするのに」


「興味がないので」

 せっかくなので、お茶を頂く。



 ……美味しい、美味しい!これ、美味しい!


「でも、アリスはスペンサー公爵の長女でしょう?婚約者に選ばれる可能性は高いわよ」


「大丈夫です。王妃様。選ばれることなんてありませんから。私自身、望んでもいませんし」


「私のことはシアラと呼んで。もう一人第一王妃様がいらっしゃるから、王妃様だとややこしいのよ」

「畏まりました」


 ありがとう、シアラ様はふわっと微笑まれた。……美しい。


「話を戻すけれど、どうしてそんなに断言できるのかしら?この国の筆頭公爵家の長女なんて、むしろ最有力候補じゃない」


「公爵も夫人も妹を婚約者にしようとしています。それから……」

「それから? 」


 私は一瞬口籠った。

 私が双子の上の子だと知られてしまったら、拒絶されてしまうのではないかと怖くなったからだ。


 ……この方に嫌われたくない。

 嫌われ慣れている私が初めて抱いた感情だった。


 そっと、シアラ様の顔を伺う。

 その表情は柔らかく、優しい眼差しが私に向けられていた。


 ……調べればすぐに分かることだわ。


 ここで隠すのも意味がないと思った。

 それに根拠はなかったが、この方は大丈夫、そんな気がした。


「……私は双子の姉なのです。皆から嫌われる者なのです」


 私は恐る恐るシアラ様の表情を確認する。

 そのお顔は、変わっていなかった。


 ……良かった。拒絶されなかった。


 私はほっと安堵する。


「……ええ、知っているわ。スペンサー公爵家に双子の姉妹がいることは。そうね、普通ならばそうでしょうけど……」


 シアラ様は言葉を詰まらせた。


 ……一体どうしたのだろう。不思議そうに見つめてきたアリスに気がついて、シアラはハッとしたようだ。


「ごめんなさい。少し考え事をしていたの。……………あの、アリス」

「はい、なんでしょう? 」

「あなたは、自分の瞳について何か言われたり聞いたりしたことがある? 」


 瞳?


「いえ、ありません」


 またしばらくシアラ様は考え込んでしまわれた。

 話しかけていいものなのか、黙って見ているべきなのか、静かな空間が私を少しずつ緊張させていく。


 ……瞳?瞳がどうかしたのかしら。シアラ様と私の瞳は色が似ている。それに何か関係がある?……あるはずね。でないと瞳のことなんて。

 何を言われるのかしら。なんだかとっても緊張してきたわ。

 こういう時は……そうね!甘いものよ甘いもの!

 まだお菓子には手をつけていないのよ。食べなきゃ勿体無いわ、頂きましょう。


 ……このクッキーおいしいわ!流石王宮のお菓子ね。こっちのバナナマフィンも……美味しい!甘さが丁度いいわ。



「アリス、私の話を聞いてくれるかしら」

 はい、もちろん!

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