プロローグ
初めて書いた小説なので至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします!
「疲れたわ……」
人通りが多く、栄えた王都の街並みを眺めながら私は溜息をついた。
「お疲れ様です」
向かいの席に座る侍女、セラフィーナは苦笑まじりに主に労いの言葉をそっとかける。
私、アリス・スペンサーはラシオン王国筆頭公爵、スペンサー公爵家の長女として生を受けた。
……王国筆頭公爵家の長女など、さぞかし蝶よ花よと甘やかされて生きてきたのだと誰もが思うだろう。
しかし私の場合、そんな人生とはかけ離れた、真逆の日々を生きてきた。
……私は双子の姉なのだ。
このラシオン王国には双子の兄、姉は不幸を招くといった迷信がある。これは国中の子供達に読まれている絵本に、双子の上の子が呪われるという話が存在したからだ。
はっきりとした科学的根拠は何一つ無い。以前双子が生まれた時に災いが起きた、などの実例もない。
それでもこの国の人間はその迷信を信じ続けていた。
私が物心ついた時には既に自室に監禁、という隔離生活を余儀なくされていた。お世話をしてくれるメイドも妙によそよそしく、自分が嫌悪されている理由を知らなかった私は幼い子供なりにそれを寂しく思うことも多かった。
朝起きてから寝るまで、私は基本的に部屋の外に出してもらうことができなかった。
室内で出来ることは限られていたので、私はメイドによく絵本の読み聞かせをねだったものだ。
5歳になると、私は自分で字が読めるようになる。
あからさまに嫌がるメイドに頼らず、絵本を読めることに私の気分は高揚していた。
私はそれから部屋の大きな本棚にある絵本を片っ端から読破していったのだ。
……何にしろ、それ以外やることが無かったのである。
私は絵本から外の世界には何があるのか学んでいった。
町にお城、王様にお姫様、騎士に冒険者。
空想上の生き物、ドラゴンも外の世界にはいるのだと信じ込んでいた。
次から次へと新しいものを知るたびに、私は外に出てみたくなる。当然といえば当然だろう。
当時の私の外の世界は、部屋の窓から見える景色だけだったのだから。
「アリスね、お外に出たいの」
そうメイドに頼んだことがあった。
しかし彼女たちは、お嬢様はお部屋でお待ちください、お外は危険です、と言って外へ連れ出してはくれなかった。
そんな危ないわけないじゃない! と主張したが、彼女達は首を横に振るだけだった。
「はぁ」
真っ白な天井を見つめながら、アリスは溜息をついた。
……ちょっとぐらいいいじゃない。
それでも彼女達は頑なに私を部屋から出そうとはしない。
……このまま終わるものですか!
しばらく考え込んだ小さなアリスはパッとベッドから起き上がると、本棚から一冊の本を取り出し、ベッドの上で読み直し始めた。
朝食を食べ終えて、メイド達が食事を片付ける。
「失礼しました」
扉が閉まる音を確かに聞いたアリスは即座に動き出す。
自分のベッドに近寄り、シーツを思いっきり剥がす。
それを紐状にして、バルコニーの柵に縛り付ける。
……お姫様は、こうやって城を抜け出したのよ!
行ってはいけません、と言われれば行きたくなる。
アリスの好奇心は収まらなくなっていた。
少しだけ引っ張って結び目が解けないのを確認すると、アリスはスルスルと地上へ降りていった。
無駄に器用な人間なのである。
……地面!!
地に足をつけたアリスは感動で固まっていた。
日光に照らされ、暖かくなった草を足の裏に感じる。
……外に出たわ!!
ぴょんぴょんと飛び跳ねたアリスは達成感に満ち溢れていた。
……距離としてはほとんど変わらないのに、こんなにも空気が違うものなのね!!
アリスは大きく深呼吸をする。
……少し歩いてみようかしら。
存分に外の空気を味わったアリスは庭の探索を始めることにした。
……綺麗なお花だわ!
さすがは公爵家の庭園といったところだろうか、庭師によって完璧に整えられた庭はとても美しかった。
……お花はいい香りがするって、本当だったのね!
ピンク色のバラに顔を近づけたアリスは頬を緩ませる。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
部屋を出てからどれくらいが経っただろうか。
随分と歩いた気がするけれど。
「おとうしゃま、おかあしゃま〜!」
可愛らしい女の子の声が聞こえた。
「アメリア、こっちにいらっしゃい」
「美味しいお菓子もあるぞ」
続いて、大人の声がする。
アリスは茂みに隠れてそっと覗き込む。
そこには少し霞んだ金髪の男性と、焦げ茶色の髪を美しく結い上げた女性、それから、赤いフリフリのドレスを着た金髪の少女がいた。
「やったぁ」
少女が彼らに走り寄る。
その子は男性からクッキーを貰っていた。
……美味しそう。
アリスの部屋には、週に1、2回しかお菓子が運ばれてこない。
……お願いしたら貰えるかしら。
アリスはドキドキしながら、茂みから声を発する。
「私にも一枚ください!」
和やかな空気が一瞬で凍りついた。
幼いながらに、何かやらかしてしまったことを悟る。
……どうしよう。
しばらくして沈黙を破ったのは大人の女性だった。
「どうして!? どうしてこの子がここにいるの!?」
「使用人は何をしているんだ!!」
女性に続いて男性も声を張り上げる。
「申し訳ありません!」
控えていたメイドが必死に頭を下げる。
「早くこの子を連れていって! 顔も見たくないわ!!」
私は即座にメイドに抱えられる。
「双子の呪われた姉が……」
連れ去られる寸前呟かれたその言葉は、何故かはっきりと聞こえた。




