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宇宙戦艦の試験飛行をしていたら異世界を飛んでいた  作者: 世も据え置き
第1章 最新鋭艦、異世界に行く 
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1-3.第3話 新たな星

 シンはコーヒーを飲みながら、しばし深海を優雅に泳ぐ大魚のような青い惑星を眺め続けた。大魚の影から白い小さな小魚のような衛星が時折顔を出す。その数は2。

 この惑星の月は二つあるようだ。

 やはり地球ではない。分かっていたことだが、失望を感じないのとはまた別だった。

 

『暫定ですが調査結果が出ました』

「聞こう」

 シンは姿勢を正す。

 

『三つの惑星を便宜上、アルファ、ベータ、ガンマと呼称します。目の前の惑星をアルファとし、時計回り――今見ている状態からの時計回りでベータ、ガンマです』

 モニターにはこの恒星系を真上から見た図が映っている。命名された惑星はどれも太陽となる恒星からほぼ同じ距離を保ち、かつぶつからない軌道を描いて周回している。

「うん」

『まず三つの星全てに生命の存在を確認しました』

「……それは大発見じゃないか」



 これまで人類が見つけてきた居住可能な惑星には生命は存在しなかった。せいぜいバクテリオファージのようなウィルスが見つかった程度だった。

 それにより「すわバクテリオファージはやはり宇宙人だった」という説がにわかに広がった程度で、未知のウィルスによるパンデミックも起こる事無く、幾つかの星に奇特な人々が移住したのだった。

 現在の地球は、古典SFのように人口爆発で過密状態ということもなく、緩やかな増減を繰り返す安定した状態を保っている。

 それでも外宇宙を目指すのは、ひとえに人のフロンティア精神と、空間跳躍という便利な移動方法があった賜物だろう。

 しかしテラフォーミングなど大それた事には時間と費用が掛かるため、ほとんどを環境保全の名目でそのまま残し、他の星に移民した人類は巨大なドームで暮らしている。

 それでも発見された植民星は、新しい資源や寄港地、観光地として大いに賑わうのであるから新たな星は人々が待ちわびるニュースの一つでもあったのだ。



『ベータ、ガンマには約紀元前500万年程度の哺乳類に酷似した生物が確認されました』

「わあお、生物学者が泣いて喜びそうだな」

『人類学者も大泣きしますよ』

「ん……それは……まさか?」

『惑星アルファには人類に酷似した生物が存在。しかも文明を築いています』

「……なんと……」

 

 それはいわゆる宇宙人、あるいは異星人の存在が人類史で初めて観測された瞬間だった。

 

「……え、映像は見れるか?」

 興奮からくる胸の動悸を抑えて尋ねる。これではまるで初恋でもした幼子のようだとシンは自嘲する。だが気持ちは収まらない。

 それでもシンは努めて冷静に振る舞う。古くから宇宙飛行士に伝わる慣例に従ったのか。それともアニマにからかわれないようとする意地なのか。

『上空からの望遠になりますが』

「それでいい。あまり刺激しないように」

『では映します』


 中央モニターに大きくドローンからもたらされた映像が映る。それは巨大な都市だった。

 長大な壁に囲まれた家々は、煉瓦造りか石造りのであろう。赤い瓦状の屋根が街並みに美しく映えていた。

 道路を行き交う人々は多い。恒星はヒュータンの後ろにある。つまりは今は昼時だ。煙突から立ち昇る煙は水蒸気が多いのか、空気に触れては掻き消えていく。方や町の外れでは黒い煙を吐き出す煙突が幾つも見える。きっとあそこの辺りは工房街なのだろう。

 そんな風に、シンは熱心にその風景を眺めた。

 

『ドローンの現在高度は上空1万6000フィート。空に雲の少ない都市を選んで撮影しています』

「ちょっと低すぎじゃあないか?」

 幾らドローンが小型とはいえ、地上から見れば5キロ先だ。レンズ付きの光学望遠鏡を使えば見られてしまうかもしれない。

『問題ありません。現在まで航空機のようなものは観測されておらず、文明も地球の中世程度のようです。それほど高性能な観測機器は存在していないでしょうし、ドローンは音もしません。気にしすぎです』

「アニマが言うなら問題ないか……」

『それとそれほど重要ではない項目でしたので後回しにしていて、今気付きましたが――』

「え」

 ドキリとするようなことをアニマはのたまう。まさか大きな見落としがあったのか?

『この惑星系はマナの濃度が異常です』

「マナ?」

 意外な返答と、突然のファンタジー要素にシンはオウムの様に言葉を返してしまう。映像に映る中世的な光景にAIさえも感化されたのか――と思ったが、どうやら違うらしい。

『エーテル対流炉にも使われている多元理論粒子です』

「ああ……確か習ったな」

 記憶の片隅に置かれていたマナ、そしてエーテルという名詞がアニマの指摘で浮かび上がってくる。

 

 

 マナとは別の次元に存在するとされている粒子である。それは空間も時間にさえも縛られず、あらゆる場所に存在するとされている。マナを縛るのは

 そのマナをこの次元に持ち込み、エネルギーに還元し利用するクリーンな動力機関がエーテル炉と呼ばれるものだ。

 

 そしてヒュータンに搭載されているエーテル対流炉はその発展形である。

 サイクルをループさせる。つまり一度、膨大なエネルギーを使い別次元から持ち込んだマナをエーテル変換。僅かなマナでもその際に、使用したエネルギーをも凌駕するエネルギーを得られる。そしてエネルギーとして利用しつつ、得られた残りのエネルギーで次のマナを呼び込む燃料とするのだ。その様がマナというマグマ様に熱い海からその熱を拝借している。そんな様子から“対流炉”と名付けられた。

 マナをエーテルに変換し、そして再びマナを別次元から呼び出すエネルギーとする。このサイクルで得られる余剰エネルギーはほんの僅かでしかない。しかし旧式の核融合炉などとは比べ物にならない程に効率的、かつ莫大なエネルギーを得られた。

 これを繰り返すことで事実上、永久機関を実現した世界唯一の動力である。

 欠点を上げるなら、初めて動かす際には呼び水ならぬ呼びマナが必要であるため、初動に多くのエネルギーが必要で、止めてしまうと再び膨大なエネルギーが必要になることだろう。

 

 一説によると、マナはエーテル炉でエネルギーとなって消えるのではなく、エネルギーという形に姿を変えただけ。と言われているがそれはまた別の話である。

 

 

『観測を後回しにしていた理由は、ヒュータンは一度動き出せばエーテルを必要としないからですが……この惑星系ではもうその心配ないようです。このマナ密度であればエーテル対流炉は止めたり動かしたりし放題ですね。』

「ちょまてよ……ということは」

 シンはとある恐ろしい考えが脳裏を駆け巡った。

『マナは別次元に“あるとされていた”粒子です。こうして研究所以外で観測したのは私が初めてでしょう。いや、研究所でもまだ観測はされていないのでしたか。それなら間違いなくノーベル賞ものですね』


 いやその場合はマナの存在を示唆した学者が賞を取るだろう。そう突っ込むことさえはばかられる。

「……何故、そんな空想の物質をアニマは観測することが出来たんだ?」

『最新鋭の名を舐めないで欲しいですね。理論と推論を重ねに重ねた最新のセンサーを搭載しているからです』

 なるほどそういうものか。

 しかし見つかっていないナニかで動く機械で人は日々を享受していたのかと考えるが、まあそんなものだと開き直る。一介の人間なんて仕組みを分かっていないものに囲まれて暮らしているのが当たり前なのだ。

 いや、そうではない。シンは先程閃いたもしもの事実に意識を戻す。

 

「それじゃあまるで、ここは異次元の世界だと言っているみたいじゃあないか」

『素晴らしい推察ですシン。正解ですよ。言うなれば異世界転移ならぬ異次元転移。新左衛門艦長はお好きでしょう、そういう創作物』

「好きだけどなんで知ってるんだよ!」


 シンはこの日一番の声を上げた。その原動力は趣味がバレた照れか、その身に降りかかったことへの驚愕か。それは彼にも解らない。

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