2-6.第6話 エルフの国ジュオモール、の牢屋から
その後の展開は早かった。
「だいじょぶだいじょぶ」と謎のテンションのままの、シアンタの紹介によりエルフの国へと入国が叶ったシン一行。
ピピフットを兵に取り囲まれたまま、田畑を越えて向かった先は、町ではなく大きな砦であった。
そして今、シン達は牢屋に閉じ込められている。
「本当に済まなかった!」
硬い石畳の上でするのは土下座である。
「いや、旦那が大騒ぎを起こしたお陰でこうして中へと招かれたのですから……」
「そうじゃそうじゃ! 弓引いたのは向こうからじゃ。何もシンは悪うない!」
「この石牢は砦の外れ、その地下のようですね」
牢の中。囚われた一同は思い思いに胸の丈を明かす。
シンはとても反省していた。出来るかも知れないと、何も考えずに結界に穴を空けた事をだ。慎重な性格とは何だったのか。
「いえ。シンのお陰で結界の対処法が見つかりました。ヒュータン号にフィードバック出来るかも知れません」
「いや、そうじゃなくてだな」
アニマの慰め? につい突っ込んでしまう。
「しかしお二人は無事でしょうか?」
「そうだな」
「……何故あの二人だけ別なのじゃ」
現在。牢に居るのは、シン、アニマ、グリント、そしてツイバミの四人。その中にはシアンタとキリカの姿はない。
「まあエルフだからだろう。あの隊長格のエルフもシアンタのことを知っていたみたいだ」
「シアンデレーヌカッタ、と呼んでおったの」
「シアンドレーヌアンタです」
ツイバミの間違いに即座に突っ込むアニマ。
「我の名付けのほうが、体を表しているのじゃ!」
非常に失礼である。
「まあまあ。悪いようにはしないでしょう。どうやらシアンタ嬢はいい処のお嬢さんの様ですし」
グリントは物事をよく見ている。
後になって反省したシンの一声で、一切抵抗しなかったとはいえ、非常に警戒された状態でここまで来たのだ。しかしシアンタに対しては腫れ物でも扱うかのような応対であった。まあ……あのシアンタの様子を見れば、誰でもそうなるかもしれないが……。
「兎も角」
ここは牢屋。見張りも檻の外に居る。事を荒立てても良いことはない。
「先ずは先方に謝罪し、賠償関係の話し合いをする。その為には大人しくしておこう」
「了解しました」
「あっしは旦那に従いやす」
「むう……」
じゃが先に攻撃したのは――とツイバミは終始不満げだった。
*
「出……ろ?」
エルフの兵がそう指示したのは牢屋に入れられてから三日後の事であった。
その命令をした兵が絶句している。それも仕方がない。牢の中が一変していたのだ。
六畳ほどの多人数を押し込める牢屋には物は二つしかない。寝床の代わりとなるが、量も少なく、寝ると石畳の冷たさ体をむしばむ藁山が人数分。それと排泄物を溜めるための中央に丸く穴の開いた蓋のある膝ぐらいの高さの壺である。
この冷遇は、結界に穴が開いたという重大な報告があったということと、シアンタには知らせていない処遇であることが理由であった。
しかし今はどうだ。
高さは無いが、ハンモックのように布の張られた金属製のベッド。そして暖かそうな毛布が人数分。そしてトイレである壺のあった場所には奇妙な、扉が付いた人一人が入れるような小屋があった。
そして閉じ込められている筈の者達は中央に置かれた丸いテーブルでカードゲームに興じている。しかも焼き菓子のような物を摘まみ、飲み物を片手にだ。
「これはどういうことだ?」
「……それが、気が付くと物がドンドン増えていて……注意はしたのですが、罰を与えようにも一切関わらぬようにとの厳命を受けていましたので……」
老番が申し訳なさそうにそう説明した。
もちろんこれらの物品はシンの持ち物と、ヒュータン号から取り寄せた物である。というか彼等は大人しく牢に居たわけではなく、隙を見ては転移で船に帰っていたのである。
そこで風呂に入り、食事を摂り、暇つぶしのゲーム類を持ち出しと、やりたい放題である。
ただシン一人を覗いて、ではあるが。
「罰なのだから俺はここに居なければ」と頑なであった。そしてグリントも共感して一緒に残ると言い出したのだ。
であるから、アニマは一先ずはと、ユニットバスと寝床はこうして持ち込んだ。艦長は清潔であるべき云々と説き伏せてである。
「ようやくじゃわい」
とジュースをチューっとストローから飲むツイバミ。最近のお気に入りはアセロラジュース。
「いやこんな暮らしならハイテの町に居た時よりも豪華すぎますぜ」
とクッキーをパクリ。シンと残るとは言ったがヒュータン号からの差し入れは有難く頂いている。
「転移が結界で阻まれないのは僥倖でした。座標の策定には少々時間が掛かりましたが……ああ」
と、グリントの差し出すトランプを一枚引き抜くアニマ。カードの絵はジョーカー。ゲームの際は各種センサーも切れるのだ。もちろんそれ以外はアンドロイドの性能で全てを見透かすことが出来る。ヒュータン号の本体よりは性能が落ちるが、それでも超高性能に仕上げた素体だ。
牢屋への座標合わせにも一役買い、兵が牢に降りてくるのも事前に把握している。
「こ、この者達は……」
牢番よりも身分が高いであろうエルフは、呆れと怒りが混じった感情を押し殺そうと必死である。
「……ん。出れるのか?」
そして最後。主人公であるシンはその気配でようやく起きた。カードを興じる様子を眺めていたら寝てしまったらしい。どれだけお膳立てされていようと。それなりに牢屋生活は疲れるのだ。
「じゃあ片付けようか」
兵の目の前で次々と畳まれ、まるで消えていく品々。
「……シアンドレーヌアンタ様がお待ちだ」
彼はやっとの思いで絞り出すようにそう述べると、それ以降口を噤んだ。
*
「みんな!」
「みなさん!」
通された部屋には二人が居た。シアンタとキリカだ。
「……どうしたんだその恰好」
感動の再開、とはならず。シンの第一声はそれだった。
「まあ……に、似合うでしょう?」
「は、恥ずかしいです……」
二人はドレスに身を包んでいた。
薄緑と白を基調としたゆったりとした服を、植物の蔓を模した紐で要所を留めている。髪は綺麗に結われ、これも植物の葉と赤い実のアクセントが付いた優美なものである。
「は~……」
グリントは溜息をついて見惚れている。
「ま、まあ馬子にも衣裳じゃな!」
ツイバミは何故か張り合っている。
「で、なにか冠婚葬祭の式でもあるのか?」
と、唐変木は尋ねた。
「あって最初がそれ? 三日も離れ離れだったのよ?」
「そ、そうですよ! ……あんまり見ないでください」
とまあ二人は呑気なシン達を、二人なりの言葉で安心したのである。
「で、俺達が牢から出られたのはどうしてだ?」
「え、牢?」
シアンタはキョトンとそれを聞いた。
「み、皆さん牢屋に入れられていたんですか!?」
――コンコン――
とノック、続いて扉が開いた。
「それは私から説明しよう」
現れたエルフはそう言って苦笑いを見せ。
「改めて自己紹介をしよう。私の名はゴウルナウ・ジュオモール。シアンドレ――シアンタの父だ」
と名乗ったのだった。
*
場所は同じ。応接室であろう部屋で一同はソファに座っている。対面にはシアンタとキリカそして彼女の父を名乗ったゴウルナウ・ジュオモール。対してシン達は彼とツイバミ以外はソファの後ろに立って居る。
「君達は座らないのかね?」
「私はシンの部下ですから」
「あっしはそのような身分ではねえですので……」
とアニマとグリントは辞退したのだ。
ツイバミもちろん堂々と座っている。
「先ずは――」
「いや、先に俺から、私から謝罪したい。結界に不用意に触れて申し訳なかった。罰は甘んじて受ける」
ゴウルナウが何かを言い出す前に、シンが先手をとり謝罪した。シンはこれがずっと言いたかったのだ。防衛の壁に穴を空けるなど重罪である。
であるから先ずは謝罪、その後に犯罪者の処罰。それがシンが住まう世界での鉄則である。
「ちょ、シン!」
そんな彼にシアンタから驚きと、焦りの声が飛ぶ。
「……シアンドレーヌアンタ。君の報告と違うようだが?」
「……ああ」
頭を抱えるのはシアンタ改め、シアンドレーヌアンタ。どうやらこの三日間でいろいろ事情を報告していたようだが……。
「つまりシン君。いやデイビス・シンザエモン君だね。君が結界に穴を空けたというのは間違いないのだね」
「そうであります」
「何か申し開きは?」
「ありません。ただ、死罪は勘弁願いたい」
死罪という刑がある事は知っている。しかしシンの時代にはもう廃れた刑罰だ。それは道徳的観念からというよりも、科学の発展により死の概念があやふやになり、死が個の終焉ではなくなったから、という理由である。
だが死の恐怖はもちろんある。であるからシンは、殺されるならまだしも、死というものが罰として存在した時代に産まれなくて本当に良かったと思っていたものだ。
が、異世界転移したとなればそんな常識は通用しない。
「ふむ、殊勝な態度かと思いきや……奇妙な若者だ」
ゴウルナウは顎に手を当てて何やら思案しだした。
しかしそれが様になっている。彼は美丈夫という言葉を体現するような見た目であった。
髪は白に近い金。背は高くシンよりおでこ一つ分くらい高い。服は山の紅葉を思わせる赤、黄、緑の複雑な色使いの服を身にまとっている。それは派手ではなく、より落ち着いて見えるのだ。
シアンタの父とは思えないほど若々しく、しかしその雰囲気はいぶし銀とでも言おうか、老獪さを併せ持つ迫力がある。しかし白い肌と見目好く整った目鼻立ちと凛とした佇まいは、どこか某歌劇団の男優のような色気がある。
つまり美青年というやつだ。
「先ず、その謝罪受け入れよう。そして罰だが、この国には結界に穴を空けた際の罰則が規定されていない。何故だか分かるかい?」
「いいえ」
「想定していなかったからだよ。であるから今、元老院はてんてこ舞いさ」
そこで一息区切るとゴウルナウは再び話を続ける。
「つまり君は無罪放免だ。不当な拘束に対する補償も出る。つまりこの話はお終いだ」
シンは二の句の告げない。あっさりと罪が許されたのだから。
「それで、君は別の世界。つまり別の、夜空に煌めく星から来たというのは本当なのかい?」
ゴウルナウの唐突な話題。それはどうやらシンの出自のようだった。
「……ああ、いやはい。そうです」
「硬くならなくていいよ、普段通りに接してくれても構わない。で、どうなんだい?」
「どうとは?」
「ああ、もう焦らさないでくれ。どんな世界なんだい? その世界には魔法も精霊も存在しないと言うけれど本当なのかい? それならどうやって生活しているんだ?」
シンはちらりとシアンタを見る。非常に申し訳なさそうな顔をしている。
「君達は空飛ぶ船でここまで来たのだろう? 是非見せて、いや乗せてもらえないかな?」
「お父様!!」
じわりじわりとシンに身を乗り出し始めた彼を止めたのはその娘であった。
「先ずは牢に入れたことを謝罪すべきです! そしてこれだけ時間が掛かった理由も説明すべきでしょう」
「んん、そうだったそうだった」
するとコホンと咳払いをして席に座り直し、
「君達を牢に入れたのは此方の不手際だった。申し訳ない」
と頭を下げたのだ。
「いやそれは仕方がないことで――」
「いいえ。娘の訴えで君達に危険はないと説明されていたのに、その処遇を疎かしていたのはこちらです」
「いや、緊急対処として一時的にでも対象を拘束するのは何処でもやっていることだ――」
「いいえ、話を聞いた後直ぐに指示して客室に案内すべきだったのです。それを忘れて――」
「いや、自分の娘が久しく帰ってきたのだから、親子水入らずの時間が――」
「いいえ――」
「いや――」
「いい――」
「お「二人とも!」」
止めたのはシアンタとアニマである。
「どちらも悪かった。これでいいでしょう!」
「デッドロックに陥りかけていましたので」
「ああ、そうだね。この話は終わりにしよう」
「む、まあ確かにはやり過ぎた」
二人の制止によって落ち着きお取り戻した二人は、同じように目の前に出されていたカップに手を付けて一息。
カップの中身はカティであった。渋みのあるコーヒーに似た飲み物でお茶のように葉を煎じだものだ。コーヒーと紅茶の中間の様な味わいで慣れると美味しい。
出された物はそこに甘味を一匙加えてあった。
「では本題に入りましょう。貴殿の所属する『地球国連盟』と我が国との国交を望んでいると娘からは聞き及んでいる」
「……え?」
「違うのかい?」
「いや、あってはいますが……」
シンは困惑した。
シアンタはそんなことまで話してしまっていたのかという思いもあるが、それよりも『地球国連盟』という名称に対してだ。
「地球国連盟という名はヒュータン号を中心とした集団として考えた名称です。私自身が所属しているのは地球国の国際銀河統合軍。その軍属のテストパイロットとなります」
「ほう」
「あらそうだったの?」
「そうだったんでやすね」
「じゃあ私も地球国連盟の一員ってこと!?」
黙って会話を聞いていたヒュータン号の面々も声を上げて驚いた。それはそうだろう。オークとの宴会の時に堂々と語っていた肩書が、まさか自分達も所属しているのだとは欠片も思っていなかったのだから。
「今の我々は寄り合い所帯で根無し草も同然であったから……アニマ、説明頼む」
言っていて説明が難しく、また照れもある。ので丸投げした。
「はい。現在、シンとヒュータン号のAIである私アニマは、軍規に照らし合わせた正確な身の上を語るならば、絶賛遭難中の身の上です。でありますからシンは現在、この世界に唯一存在する国際銀河統合軍所属の人物ということで艦長兼、総司令官の肩書を得ています。つまりヒュータン号が小さな国、と呼べるわけです。ですからシンは便宜上の組織名を名乗った、というわけです」
とシンの言いたかったことをアニマは一気に説明してくれたのだ。
「というわけです」
「なるほど……小さな国、地球国連盟ですか」
「そんな体逸れた物ではありませんが」
「じゃあ私が国民第一号ね!」
「あっしは二号ですか」
「あたしが三号!」
何故、皆が嬉しそうにそう宣言するのがシンはよく分からなかったが、自分が組織名を付けるなどと体逸れた事を指摘されたくないので黙っていた。
「ちなみに国民になる条件は何でしょう?」
ゴウルナウは興味深そう、というより興奮した様子である。
「え、いや……なんだろう?」
「もしかして地球国に忠誠を誓うとかですか?」
「あいや、そういう訳では……」
なんか凄いグイグイくる。
「シンと私が永続的な乗艦を認めた者、でいいのではないでしょうか?」
「そうだなそれでいい、それです」
シンの敬語の覚束なさも誤魔化せない限界である。
「う~ん……そうですか。簡単なようで難しいですね」
と悩みだすゴウルナウ。
「お父様!」
「おっと失礼した。シン君の人柄もよく分かる有意義な対談でした」
対談であったらしいことが今明かされた。
「嫌疑も晴れた事ですし、調印などの準備もあります。しばしこの国を観光して楽しんでいってください」
「ありがとうございます」
一同はゴウルナウに感謝の意を示した。
「それとキリカ嬢は正式にジュオモールの国民となりました。私の養子となります」
そして何でもないことの様に重大発表がなされた。
「! それは重ね重ねありがとうございます。キリカ、良かったな」
「えへへ……これでシアンタさんとは姉妹です」
「私も可愛い妹ができて嬉しいわ」
本当に良かった。シンはキリカの幸せを心から願った。
しかし、とシンは思う。
ゴウルナウというシアンタ、もといシアンドレーヌ何某の父である御仁は一体何者なのであろうか?
――コンコン――
扉がノックされる。タイミングをみると中の様子を伺っていたようだ。
「国王様、時間です」
「そうか、時が経つのは早いものですね。はは、ハイエルフがそのようなことを言うとは耄碌してきましたかね」
「国王!!」
シアンタとアニマ以外の者が同時に目を丸くした。
***
「で、どういうことか説明してもらおう」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
場所は変わってシンにあてがわれた豪華な客室。そう、入れられていた牢も、応接室も、そしてこの客室も国の城の内部だったのである。
そして今、ヒュータン号の何時ものメンツがシアンタを囲んで尋問している状況だ。
当の本人はクッキーをパクついてどこ吹く風である。
「父親が国王であるならシアンタ……シアンドれ~にか、た……は姫様ということだろう?」
「シアンタでいいわよ」
「記憶を固着させましょうか?」
「……いやいい」
シンはそれほど記憶力が悪い方ではない。だが固有名詞、特に人の名前を覚えるのが苦手だ。それでアニマは忘れないようにナノマシンを使うかと問うたのだが、いくら何でも情けないので断ったのだ。
「私は“変わり耳長”だから――」
「シアンタさん! 私も知りませんでしたよ!?」
当の本人にも知らされていなかったというのだから酷い。キリカは何時の間にかエルフの国のお姫様になってしまっていたのだ。
「いくらなんでも……シアンタ嬢、説明するべきですぜ」
ヒュータン号の良心もこれには厳しい意見である。
「……はあ、分かったわ。私はずっと冒険者で居たかったのだけど」
そう前置きしてから彼女は語りだした。
「私の本名はシアンドレーヌアンタ・ジュオモール。この国の第三王女をやっているわ」
「“ただのシアンタ”と名乗ったのはそういう意味か……」
「あら覚えていてくれたの、嬉しい」
「茶化さない。それで、何故王女が冒険者なんかになったんだ?」
「退屈だったから、というのもあるけど……これは血ね。私だって上の二人が今どこに居て何をしているのかここ数十年知らないもの」
上の二人とは即ち、第一第二の王子、あるいは王女、シアンタの兄姉のことである。
「それは……大丈夫なんでしょうか?」
キリカにも心配されるエルフのお国事情が赤裸々に明かされていく。
「私はまだよく国に変える方よ! おじいさまの庵の手入れもあったし。まあシンのお陰でしばらくは問題ないでしょうから、これからは何処へでも遠出出来るわよ!」
「出来るわよ!」の所はシンを見て満面の笑みで、である。
「跡継ぎがそれで国は成り立つのでしょうか?」
歴史もデータバンクに収められたアニマは疑問であった。王子に何かあればそれで王の血が絶たれてしまうことになる。そうなれば国体が揺らぐであろうことは想像に難くないのだから。
「大丈夫よ。死んだら死んだでまた作るでしょうし。ハイエルフってのは気が長いのよ」
一同あんぐりである。神秘的なエルフ感が崩れる。
意外にもキリカとグリントも失望感を隠せていない様子。この世界の一般人にとっても、エルフとは高貴な種族……という幻想は普通のようだ。
「……身も蓋も……まて、ハイエルフとはなんだ? エルフと違うのか?」
確かゴウルナウも自分の事を「ハイエルフ」と呼んでいたのを思い出した。
「ハイエルフはエルフよりも長命で、精霊との親和性に優れた個体の総称。以上」
……え、終わり?
「……何かもっとないのか?」
「えー……う~んと……エルフよりも子供っぽいかも、というか変人が多いわ。私が言うんだから間違いない」
自爆を辞さぬ酷い言いようである。
「あ! キリカは違うから! 貴方のその大人びた性質はハイエルフの希望よ!」
「はあ……え?」
「きっと市井で育ったのが、ご両親の育て方が良かったのね。エルフはハイエルフってだけで一歩引いちゃうから……いえ、嫌がられているっていう意味じゃなくて、こう、高貴な存在って意味で――」
「あ、あたしってハイエルフなんですか!?!?」
またもポロリと飛び出したのは誰も知らない事実であった。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「は、初めて知りましたよ!! 紙に何か書かされた時も「名前だけ書けばいい」ってしか言われなかったですし!」
キリカが書いたのは養子縁組の手続き書類である。
「ま、まあキリカの何が変わるでもないし……キリカ、貴方は私の可愛い妹よ」
「誤魔化されません」
「う゛」
おかしい。シアンタはこんなギャグキャラであっただろうか?
「……シアンタ。俺からも説明してくれ。キリカはチェンジリング、獣人のご両親から産まれたエルフではなかったのか?」
「……まあ私も最初はそう思っていたの、本当よ。でも年齢と見た目が普通のエルフとは合わないって気付いて……それで国に帰ってから調べてもらおうと思っていたの。そしたら予感が的中したって訳」
「……もしかして国王、ゴウルナウ陛下の養子になったのはハイエルフだったから?」
「凄いわねシン。ご名答よ。ハイエルフはすべからく王族でなければならないの。チェンジリングから産まれたハイエルフだろうと例外はない。……まあこの国を興して以来、初めての事だったから色々揉めたけどね」
捕捉すると、チェンジリングで産まれたエルフがこの国に住むというのは稀にあるらしい。その場合は普通に市民権を得て住人になるのだそうだ。
「まあエルフって大人しいというか、個性が薄いから。つまんないのよね」
シアンタが国を飛び出した理由の一端が垣間見えた話である。
「だ・か・ら、地球連盟の一員としてこれからもよろしくね、シン総司令官殿!」
その笑みは悪戯が成功した時の、悪童の顔そのものであった。




