表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙戦艦の試験飛行をしていたら異世界を飛んでいた  作者: 世も据え置き
第1章 最新鋭艦、異世界に行く 
18/26

1-18.第18話 迫る追手

「さて今度はどうやって行こうか?」

『今回は三人ですし、バイクはもう使えませんね』

「……え?」

 

 リアンタはそんな何気なく始めた二人の会話に耳を疑った。

 

「この船で行くんじゃないの!?」

「……船と言っても陸に乗っかってるんじゃあ無理でしょうよ」


 片や悠々自適な空の旅を想像し、片やヒュータン号がどういう物なのかピンと来ていない。その結果の頓珍漢な会話である。

 

「せっかく旅をするのだから、せめて旅らしい思いをしたいじゃあないか」

『結局野宿もしていませんでしたしねえ』

「いやいやいや……こんな立派な乗り物があるのに、わざわざ野宿だなんて……頭がおかしいの?」

「随分な言われようだが、まあキャンプが趣味の人間が異世界に居るとは思えないしな」


 町を出れば直ぐに畑。それからちょっと離れれば森が川があるのだ。アウトドアな趣味人ならば垂涎ものの立地である。だが、だからこそ地元の人間が自然を満喫するなんて気も起きるわけがないだろう。海に近い土地の者ほど海水浴をしないのと同じ理屈だ。

 しかもこの世界には危険な野生生物、魔物がいる。

 

「ならキャンピングカーはどうだろう」

 邪道ではあるが、それならシアンタも文句を言わず、快適な野宿が約束される。と考えて思いついたのがそれだ。

『森の中ですからキャンピングカーも地面を走れないでしょう』

「……道がないというのが、こうも難しいものだったとは」

 地面が走れないということは、キャンピングカーならぬ、キャンピングプレーン、空飛ぶキャンプ施設である。情緒もへったくれもない。

 

「そのキャンピングカーというのが何なのか分からないけれど、どうにかして辛い思いをしようとしているのは分かる」

 頭が痛くなる。発達した世界の異世界人は根本的な何かがずれているとしか思えない。自虐趣味があるのではないか? 

 シアンタは失礼なことを考えた。

「あっしなら何だっていいですぜ!」

「私は良くないわよッ。取り敢えず庵に連れて行ってくれない? 野宿がしたければ前の空き地ででもすればいいから」

 家の前でキャンプなど、情緒もへったくれもない。ファンタジーな異世界人はいささか趣味人に冷たいのではないか。実利主義が行き過ぎではないか? 

 シンは不満げに考えた。

「……まあ仕方がない、か。よしアニマ、出港準備だ」

『了解艦長。安全装置各種解除。出力上昇開始します』


 取り敢えずはお使いを完了させるために、シンはコクピットへと向かうのであった。

 

 

 

「こ、こいつは……」

 地平線まで続く広大な森が、眼下に、眼下に広がっている。

「ね、凄いでしょう。シンは可笑しいのよ、わざわざ森を進もうだなんて」

 いやそうじゃない、そういうことではない。とグリントは言いたかったが、目の前の光景に飲まれてそれどころではなかった。

 

 場所はヒュータン号のコクピット。広く取られた外周監視モニターは外の様子を、まるでガラス張りの窓から覗くように鮮明に伝える。

 ちなみにモニターは3次元ホログラムシステムによって、覗き込むことも出来る。まさにガラス窓から外を見るのとそん色ない景色がモニター越しに見えるのだ。

 

『到着しました』

「流石早いわね!」

「へぇ……?」

 グリントは変な声を上げる。

 眼下に見える緑色の絨毯が迫っては足元にを通り過ぎていく。それを唖然と眺めていたら、何時の間にか目的地に着いてしまったようだ。

「シアンタ嬢の爺さんの家ってやつで?」

「そうよ。本当なら三日は歩かなきゃならないんだけど、本当にあっという間ね」

 

 そう自慢げに語るシアンタは嬉しそうだ。この感動を共有できる存在が有難くて仕方がないといった様子だ。

 当のグリントは、エルフの住家ってのはこんな町に近かったのか。と解釈しているが。

 

「さ、グリントも案内してあげる」

「へ、へえ!」


 さっそうと、シアンタはグリントを引き連れてコクピットを後にする。

 

「……なんだかお転婆姫と、お目付け役の爺……みたいになっているな」

『言い得て妙ですね』

 シンはそんな二人を見送った後、我に返ると後を追うのだった。


 *

 

 こうして到着したシアンタの祖父の庵。その上空にヒュータン号は浮かんでいる。

 それはヒュータン号を降ろすスペースが無かったからだ。小屋の前の空き地もそこそこの広さであるが、それでも降ろすには無理のある程度の広さである。

 

 三人は何時もの出入り口からではなく、後部格納庫のフロートエレベーターを利用する。

 本来は格納庫内の物資、車両等を降ろすために使うのだが、もちろん搭乗員用の小型の物もあった。それに乗ったのだ。

 

 

「ひひぇえええ」

「何でもありね……」

 ゆっくり降りる柵付きの板の上で呆れて呟く。上を観察してみるが、紐のような物で吊るされている訳ではない。それなのに風邪にも揺れず、真っすぐ地面へと降りていくのはどういう仕組みなのだろうか。

「原理はあのバイクとそう変わらない、らしい」

「らしい?」

「俺が作ったわけじゃないからな」

「それは……そう、そういうものね」

 

 必要になればアニマが作成に必要な膨大な知識を与えてくれるだろうが、その必要はない。作りたいならアニマが作ってくれる。

 

「はぁ~着いた……」

「だらしないわね、男なんだからしっかりなさい」

「へぇ……」

 

 地面に着くまでグリントはへっぴり腰で柵にしがみ付いていたのだ。それがお姫様は気に入らなかったらしい。

 ちなみに下降速度はアニマの心遣いで遅くしてある。

 

「なんかグリント爺に当たりが強くないか?」

「そうかしら?」

 と構わず荷物を持って庵へと歩いていく。

「ほらグリントも手伝って。大掃除をしなきゃ」

「へ、へい!」


『あれがシアンタの本調子、なのでしょう』

「そうか……まあ色々あったからな。気を張っていたんだろう」

『猫を被っていたの間違いでは?』

「アニマ、聞こえてるんだから!」

 声を外に流して話をしていたのだが聞こえてしまったらしい。

『エルフという種族は耳が良いのですね』

「……だな」

 

 アニマの返したその涼し気な雰囲気に、何故かシンはどっと疲労を感じるのだった。

 

 

 

 それから三人で大掃除をした。

 窓を全て開け、天井の煤を落とし、床を雑巾がけし、周囲の草を刈り、井戸の中に積もった落ち葉を掬いだす。壊れかけた箇所の修復は、アニマが補修材を用立てした。これにより見た目は大きく変わらずとも新築時よりも丈夫となった。

 

 小さな小屋であるが、それなりに時間は掛かり、気が付くと外は夕暮れ時。背の高い木々に囲まれ周囲は随分と暗くなっていた。

 

「みんなありがとう、本当に助かったわ。一人だともっと時間が掛かるんだけど、三人だとあっという間ね。本の陰干しもしなくていいし」

「お疲れさん。シアンタには世話になっているからこれ位はしないと」

「もう……お世話になっているのは私だっていうのに」

「へっへ、シンさんはそういうお人ですよ」

『シンはおせっかい焼きなんですよ』

「……まあ首を突っ込む質ではある」

 各々の論評にシンは苦笑いするしかない。

 

 ひとしきり笑いあって大掃除はお開きとなった。

 



「さ~て、今日は私が夕食を振る舞い……材料買ってなかった」

 腕まくりして固まる。そうだ、今朝はギルドに呼び出されて、そのままヒュータン号に乗り込んだんだのだ。

 

『よろしければ食材を提供しますよ』

 ヒュータン号ならいくらでもある。

「そうね、出来ればお願いするわ。ちゃんと美味しく作るから任せて!」

『では運ばせますね』


 アニマの会話には通信機が必要なので、その場に立って二人の会話を聞いていたシン。自分もそろそろ動こうと、付いていくような形で庵の外に出た。

 

「荷物運びならあっしに任せてシンさんは休んでてくだせえ。足を直してもらってから、最近妙に体の調子がいいんで」

「いや俺もやりたいことがあってね」

「へえそうですかい?」

「ああ」


 

 結局全員で外へ出る。

 既にヒュータン号からは食材を載せたエレベーターが降りてきていた。食材の詰まった箱の側には、武骨な二足歩行のロボットが待機している。どうやら荷物運びをする為に、アニマが用意したインターフェースロボットのようだ。

 

「なに……あれ? ゴーレム?」

『私の手足のようなものです』

 とロボットが言葉を発した。その声色はアニマのものだ。

「へぇえ!??? 貴方がアニマさんですか!?」

「……は、初めましてアニマさん!」

 二人は突然の異形との邂逅にカッチカチだ。

『それは私では……まあいいです。運びますから置く場所を指定してください』

「わ、わかった……アニマさん、でいいのよね?」

「て、手伝わせてくだせえアニマさん!」

『……呼び捨てで結構ですよ』



 インターフェースロボットとは。アニマが、人が使うことを前提とした機材を取り扱う必要がある時に利用されるロボットである。

 ヒュータン号にある殆ど全ての装置類は、アニマが遠隔操作で動かすことが可能であるが、船外への荷運びなど、時にはこういう人の形が必要な場面も出てくる。その為のロボットだ。

 見た目は武骨そのもの。頭部に双眼カメラ、二本足で五本指のマニピュレーターを持つ以外は人とは呼べない見た目をしている。似ているといえば、某星の戦争の映画に出てくる下っ端ロボット兵だろう。

 その細さはまるで骸骨のようだが、丈夫で非常に力が強い。人間が殴り合いなどしたら労災ものだ。

 

 

 シアンタとグリントはギクシャクとロボットの側で食材を運ぶ。

『……怯えさせてしまいましたか……ではやはり……』

 それを追うように食材を運びながら、アニマはある計画を実行しようと考えた。


 

 

 アニマが荷物を運んでいるのを見て、人員は足りていると予定変更。シンはそのままやりたかったことを実行することにした。

 

 荷物を小屋において踵を返したグリントはそれを見付けた。

「……シンさん。それは何で?」

「テントだよ」

「テント……それがですかい?」


 シンがリュックから取り出し家の前に広げだしたのは、軍で正式に支給されている携帯テントだった。

 カーキ色の三人用のやや大きめのテントで、あらゆる天候に対応しているどころか、ちょっとした防弾、防炎効果もあり断熱効果も万全な逸品だ。

 そしてそれは異世界のテントとも、現代のテントとも違うものであった。

 

「……ホントにこれがテントですか?」

「そうだよ」


 薄茶色い塊が餅の様に膨れだしたかと思うと、それがゆっくり建造物の形を作っていく。それはかまくらそのままの見た目である。

 しかし膨らみ切ったそれには、布製だったような扉、ビニールだったような窓が付いている。

 膨張の止まったそれらは、しわも無くなり非常に丈夫そうである。

 

「うん、これでテント設営は完了だな」

「……家じゃあないですか?」

 至極ごもっともなご意見。

 それは誰が見ても家である。現代の人がそのテントを見れば、一時期話題になった発泡スチロールの家を想起させるだろう。

「ああまあいいじゃないか。非常時には裏から引き裂いて、それを張ってテントにするっていうのも出来るし。それに初めての野宿だから安全のマージンは取って置きたいしな」


 目の前に現れたテントと言い張る家を見てグリントは呆れる。これが野宿なら普通のテントは只の布である。

 

「後は……焚火だな」

 

 シンは手ごろな岩をひょいひょいと拾い集めるとかまど型に積み上げ、固形燃料をその真ん中に置く。これで完了だ。

 

「よし」

「よしじゃないわよ」

 パコンと小気味よい音と衝撃が頭に響く。

「シアンタ?」

 後ろを振り向くとエプロンをしたシアンタとアニマ操るロボットが居た。シアンタの手にはお玉を持っているところを見ると、音の出所はそれのようだ。

 

 アニマはロボットを使って料理の手伝いをしていたようだ。地球産の食材を使うのであるから必要な措置だろう。何時用意したのかシアンタとお揃いのエプロンまで付けている

 

「家の前になんてものを建てているのよ!」

「いやこれはテントだから直ぐ収納できる。安心して欲しい」

「……はぁ~……。まあ、それならいいけど……おじいちゃんの小屋より快適そうねそれ」

「ヒュータン号に戻ることも考えたが、せっかくだからな。したかった野営をすることにした」

 小屋は狭い。であるから男衆は宿泊地を考えねばならなかったのだ。

「……これは野営って言わないわよ」

「まあ充分な広さがあったからな。森の中だったら諦めて普通にテントを張っていた」

 呆れ顔だったシアンタだが気になる事に気付いた。

「シンはうちに泊まらないの?」

「流石に女性と一緒に寝るわけにはいかないだろう? グリントもこっちで寝るよ」

「どうもご同伴頂きやす」

 シアンタはそう言われて庵の間取りを思い出し直す。

 

 入り口入ってすぐの、キッチン兼ダイニング兼リビングの一部屋。その左手の書斎は本は圧縮収納で奇麗に無くなっているが、それでも机や本棚だらけで狭い。奥の寝室は祖父が使っていた一人用のベッド一つ。

 三人が小屋で寝るならば、二人がキッチンか寝室で雑魚寝になる。

 

「……そうね、そうしてもらえると助かるわ」

「ヒュータン号に戻ってもいいが?」

「それも考えたけど、やっぱり久しぶりに……ね」

 庵を振り返るその横顔は切なげで、郷愁の思いに囚われている……そんな気がした。




 ***

 

 

 

 その後皆で盛り上がった。

 

 テーブルを外に出し、焚火の側で夕飯を食べながら様々なことを話した。

 地球産の食材に苦労したという話から始まり、アニマがそのサポートをしてくれた事、その旨さに感嘆したこと。そして国に来たら是非その種や苗を譲って欲しいという事。

 シン達は快く了解しながらも、原生植物の保護と、外来生物汚染の危険性を警告し、まだそのような事態に疎い二人に教鞭を振るった。

 

 グリントはエルフの国に行ける事を誰よりも喜んでいる様に見えた。

 エルフの国はまさにおとぎ話で聞かされるような所らしく、子供の頃に寝物語に母から聞かされたと、懐かしそうに語ってくれた。

 

 アニマはそろそろ艦外活動用のインターフェースの必要性を感じたらしく、既に工作室で製作を始めたらしい。

 確かにあのロボットで外をうろつくのは目立ち過ぎるだろう。確かにあれの評判は良くなかった。シアンタはアンデットのような雰囲気があって慣れない、というような事を言っていた。

 グリントは直ぐに慣れて「アニマさん」と親し気に話しかけていた。まあ声だけだった存在に姿が付いたのだ。それだけで安心感が違うものなのだろう。

 シンとしては武骨なロボットが可愛らしいエプロンを付けているのはギャップがいい、と妙なフェチズムを披露していた。

 


 そしてアニマ提供のお酒に舌鼓を打ち、夜も更けてきた頃にお開きとなった。

 俺とグリントがテントで、シアンタは祖父の庵で寝ることになる。

 「また明日」と声を掛け合い、テント前でも焚火を前にグリントと少し酒を飲んでその日は横になった。

 

 酒はあまり嗜まないシンが、この日の酒は美味かった、と後に述懐した程度には楽しい夜だった。

 

 

 ***

 

 

『何者かが此処に接近しています』

 シンはその声で目が覚めた。

 体内のナノマシンが覚醒物質を投与することで寝起きは最高のコンディションになる。

 直ぐさま起き上がると、対面のグリントを揺さぶった。

 

「おい、グリント起きろ」

「……にぁ……どうしたんですかい?」

「誰かが此処に向かってくる」

「誰かって……」

「この場所を知っているのは俺達と……あと他にもひとつ」


 そこまで言ってグリントは跳ね起きた。

「あ、あいつらの残党ですかい!」

「かもしれない。シアンタを起こしに行ってもらえるか?」

「もちろんでさあ!」


 飛び出すグリントに続いてシンもテントから出る。外はまだ暗いが星は少なくなっている。そろそろ夜明けだ。

 

「アニマ対象の情報をくれ」

『人数は13人。二脚の爬虫類に騎乗して真っ直ぐこちらに向かっています。時速およそ20キロ。到着予想時刻は47分後です』

「この鬱蒼とした森でその速度か……速いな。名前は二足竜といったところか」


 シンが街中で見た荷車を曳いていた生き物の中に、爬虫類のように鱗を持ったものも居た。しかしそれは四足歩行でずんぐりとしたものだった。それとは違う小型で快速の騎乗種が存在するのだろう。それも森の中でも俊敏な動きが出来るような。

 

『武装は刀剣。鉄製の甲冑を着た者が大勢を占めます』

「甲冑……冒険者じゃない……騎士か?」

 観測により遠出が基本の冒険者は重装備を好まないと分かっている。

『そのようです。ですが一人は軽装、鎖帷子を纏っているのが彼らの主かと』

「……まさか領主じゃないよな?」

『……冒険者ギルドがしくじったのでは?』

「う~ん……」


 冒険者ギルドは人身売買を行っていた者、その顧客も罪を犯したとして捕縛に動いていた。

 その中にはハイテの町で代官を務める貴族の息子、男爵の次男坊も居た筈である。


『恐らく衛兵から情報が漏れたのかと。それも人攫いと通じている者が居たのでしょう』

「だからこの場所を知っているのか」

『森に目印を付けていたのでしょう。ここまでの道筋を示す……シン、申し訳ありません』

「ん、なんだ?」

『私は状況把握に失敗していました。市井に紛れる協力者を未然に探知できなかった。そして、その前も人以外の協力者、伝書鳩の存在を看過できませんでした。すべて私の落ち度です』

 

 

 アニマはそれらが己の失態であると後悔していた。いや、恥じてさえいた。

 一つはシアンタの後を追跡して森の庵に訪れた髭面一味の接近感知の遅れ。そしてその彼らが連絡用に使った鳥を持っていたと気付かなかった事。

 もう一つは衛兵の中に人攫いの協力者が居たと推測していたのに手を打てなかった事。



「アニマは軍艦に所属するAIなんだ。探偵じゃあない。落ち込むことはないさ」

『……ありがとうシン。ですが私もまだまだです』

「俺達はこの見知らぬ世界では新参者だ。少しずつ学んでいけばいいさ」

『そうですね……私とシンで。二人三脚というやつですね』

「ハハッそうだな、それだ」


「私達もいるわよ」

「そうですぜ」


 森を睨んでいたシンの側には気付けばシアンタとグリントが。

『じゃあ四人五脚ですね』



 シンの言う通り、二人には全く未知の土地勘の効かない地である、というのもある。なにせ地理も、風土も、慣習も、全ての知識が役に立たない土地なのだ。人の動きを、心の内を全て把握しきるなど、AIであるアニマにとっても容易ではない。

 だがそれ以上の理由に、AIには心がある、ということだ。マザーより末娘として産まれた最も若いAIであるアニマは、それが特に顕著である。

 長い訓練期間を経ての最終工程。ヒュートン号の初任務である処女航海を心の底から楽しんでいるのだ。浮かれていると言ってもいい。だからこそ己を恥じた。

 

 だがしかし、電子機器がAIにAIが心を持った時代。心を持つが故の不思議な信頼関係で人とAIは繋がり、共に成長してきた歴史がある。

 ならばこそ、AIは人を助け、AIを人は助ける。この遠い異世界でも、その歴史は続いていくのだろう。

 

 

「そうね! 私も頼ってね! ……で、どういう意味なのそれ?」

「あ、あっしも知りたいです」

 

 シアンタもグリントもノリで返しただけで、二人三脚の意味は知らなかった。

 

 

 *

 

 

 揃った四人は素早く情報共有を行う。テントは既にしまった。

 

「シンのあの魔法でババっとやっつけちゃえばいいじゃない」

 開口一番はシアンタの身も蓋もない言葉だった。

「そうですぜ! あのビビっと出るあの魔法があれば何人来ても余裕でさあ!」

 グリントも乗り気だ。

 

「まあ……穏便に行くならそれに越したことはないんだが」


 友好を結ぶはずが、遊戯を結べたのは2人。対して敵対して撃退することになったのは20人下らないのだから今更、しかし尚更である。

 

 そこにアニマから新たの情報が入る。

 

『待ってください。荷物を載せた二足竜を2頭連れていると思われましたが、片方の積載物に生命反応があります、人です』

「……そ、それってもしや……」

「……最悪だわ」

 

 今の状況から考えられるその想像に、グリントは顔を真っ青に。シアンタは苦虫を噛み潰したように顔をゆがめた。

 

「領主の所に、さらわれた少女がまだ居たか……」

 荷物の様に扱われる人物と聞いて考えられるのは一つ。人さらいから買った少女を連れ回しているのだろう。

 立派な髭のギルド長の顔が浮かぶ。

 冒険者ギルドの冒険者は領主の方面まで手が回らなかったのか? もう少し初動が早ければ、こんな事にはならなかったかもしれない……いや、向こうの動きの方がそれ以上に早かったのか。

 

「しかし何故奴らはこの場所を目指しているんだ? ハイテの町は最南端の居住地なのだろう? そこから以南は人知未踏だと。逃げるにしても北に逃げるべきだ」

『確かにそうです。不思議ですね』


 こちらに逃げたとしてもこの庵以外には森が続くばかりである。ドローンよってそれは確認している。さらに南は海である。

 ほとぼりが冷めるのを森で待つ、という手も考えられるが。いずれにせよ森から出る場合は補給の為にも一度、ハイテの町に戻らなければならないだろう。この森はそれほど険しく厳しい環境なのだ。

 だからこそそんな場所に住んでいたシアンタの祖父は、かなりの変人と言えるが……。

 

「アニマ、その運ばれている人物をヒュータンで何とかできないか?」

 つまり周囲の者を狙撃出来ないか聞いた。

『……成功率は低いです。不規則な蛇行走行かつ木々が濃すぎます。下手をすれば生命の危険があるかと』

「……相手が停まった時が勝負か」

「何にせよ奴らがこちらに向かってくるなら好都合だわ。今度こそ私の本気を見せてあげる!」

「あっしは……面目ない。お役に立てそうもありません」

「問題ない。グリントは隠れていてくれ」

「そうそう。荒事は冒険者に任せておけばいいのよ」




『あ』

 監視していた対象に新たな出来事が起こったようだ。

「どうした?」

『一頭脱落しました。どうやら原生生物に襲われた模様』

「まさかそれは人を載せているやつ!?」

 シアンタが最悪に事態を想像して声を上げる。

『いいえ、荷物を載せていいた二足竜のうちの一頭です……助けようとせず諦めてそのまま進むようです』

「ふう……そうか」

 逃避行に必要な荷物を持たせていたが、重さの分遅れたため襲われたのだろう。

「冒険者が依頼で、町に近づく危険な生き物を定期的に間引いているけれど、森の奥に行けば危ないわ」

 ヒュータン号を止めた耕作放棄地を思い出す。自然と人間の戦いは一進一退なようだ。

「えっ……そんな場所に私達はいるんで!?」

 危険な森であると聞いて、今更グリントが怯える。

「ここは問題ないわよ。おじいちゃんが庵周辺に獣よ避けの結界を張っているから。そんな大層な物じゃないけれど、野生動物の意識を逸らすことが出来るの。その張り直しも私がここに通っている理由の一つってわけ」


 シアンタはその魔法的な行為を前の大掃除の最中にしている。アニマは何時ものようにそれを興味深そうに観察し、新たな知識の出会いに喜んでいた。

 

「しかしシアンタ嬢は森を抜けてここに通っているんでやすよね……?」

 この庵周辺が安全であってもそれまでは守る術がない、という意味での尋ねだ。

「私は強いから……本当だからね!」

 自慢げだったシアンタだが、シンの視線を感じて再度強調する。

「ほらこれッ! あまり依頼を受けてはいないけど銀等級なんだから!」

 と言って、以前見せてくれた銀の首飾りを胸元から取り出して見せつける。その様は必死である。

 

 

 シンに助けられっぱなし、醜態をさらしまくりな印象の強いシアンタだが、冒険者の中では有名な熟練冒険者なのだ。

 

 等級は銀。これは練度を表すもので、上から数えた方が早い位置に居ることを示している。

 木版の仮登録から、鉄、銅、銀、金と等級は上がる。

 これは依頼の難度からその達成率を勘定して判定される。つまり難しい依頼を達成し続ければ、自ずと等級は上がっていく。

 であるから冒険者ギルドの等級は実は強さのランクではない。高難易度の依頼には『遠方まで荷物を運ぶ』『巨大な都市での人探し』など様々であるからだ。

 しかし今日では冒険者ギルドの等級を見れば、その人物の強さが測れるとまで言われるようになっている。

 

 それはつまり冒険者とは、稼ぎたければより危険な依頼を受けなければならない、過酷な職業であるという事を意味している。

 

 

「切った張ったは冒険者が専売特許よ!」

 腰に佩いた細剣をスラリと抜いて構える姿は、なるほど様になっている。

「まあ取り敢えず相手がどう出るか見ようじゃないか。いくら何でもそう何度も血なまぐさいことにはならないだろう。取り敢えず同士討ちにならないように……シアンタあの光の精霊を呼んでおいてくれないか」

「いいわよ」

「そして空き地の上空に待機させて置いてくれ。不可視状態でな、出来るか?」

「……? まあ出来るけど……」

 明かり代わりにでも使うのだろうか? しかし今夜は月も出ている明るい夜だ。妙に細かくよく分からない注文だが、それぐらいはお安い御用だ。

「それから――」

 

 

 *

 

 そうしてシン達の会議を済ませた。後は相手が来るのを待つだけだ。

 

「さて、話し合いで済むといいが……」


 しかしシンの希望は見事に外れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ