1-10.第10話 新たなる道連れ。エルフの少女シアンタ
「それって……本当なの?」
「嘘はない」
約二十分間の説明を終えぬるくなったお茶をすすったシンは大きく頷く。
「ちょっと待って……整理させて」
「ゆっくりでいいぞ」
とは言うものの、話してみて相手がどう出てくるか分からず。シンは内心ドキドキしていた。
『これで協力してくれるなら一気に情報の収集が捗ることになりますね』
「そうだな」
そうだといいな。
「……ちょっと分からないところがあるんだけれど」
「質問は随時受け付けるぞ」
「ありがとう。……そのアニマ……さんは“えーあい”なんですよね?」
『アニマ、と呼び捨てで結構ですよシアンタ。はい、私はAIです」
「その……“えーあい”が何かよく分からないんだけど、精霊とは違うのよね?」
『はい。私はマザーより生まれた高度な知性を持った人工知能です。精霊のような低俗な思考を持った存在とは似ても似つきません』
「て、ていぞく」
バッサリといかれた精霊たちは――オウボー――、――アカンデー――と抗議している。その声はシンとアニマしか聞こえず、さらに言えば直接であるのはシンだけ。アニマはシンの翻訳したものを聞いているに過ぎない。
つまりシンだけが周りがうるさい状況である。
それでも気を取り直し。
「えーとだな、つまりアニマは化学という人の技術によって生み出された……なんだろう?」
シンは『AIとは何か』という根源的な命題に突き当り思考停止してしまう。
『難しく考える必要はありません。私はシンを――ヒュータン号をサポートするために存在するのです』
「ということでいいかな?」
「……いちおう」
納得いっていないのは丸わかりだが、本人ならぬ本AIがそう言い切ってしまってはしょうがなかった。
「話を戻して整理しますと――」
とシアンタは咳払いして語りだした。
「シン達はヒュータン号という空飛ぶ船で、ある場所に向かっている途中、原因不明の問題が起きて遭難。この森に迷い込んだ。で合ってる?」
「大体合っている」
『概ねその通りです」
「……そして此処が何処なのか、どうすれば帰れるのか。そして当面の食料なんかを確保するために探索中、こうしておじいちゃんの小屋を見つけた、と」
「食料云々は理由付けだが……まあそういうことだ。出来れば何か知っていることがあるなら教えて欲しい」
『情報提供をお願い致します』
「……」
難しい顔をして目を閉じ、押し黙ったシアンタを二人は見守る。
――ソコデチュー――
――チューヤデ――
黙っていない者もいる。
「分かりました。命を救って貰ったのです。私の出来ることならなんでも協力します」
――ン、イマナンデモッテ――
――オトコミセタッテ――
「……感謝する」
『ご協力感謝致します』
シンはホッと肩を撫で下ろす。異星人の友好関係の構築は取り敢えず上手くいったようだ。もちろんあの賊共は頭数には入れていない。
シンの時代は犯罪者が激減している代わりに法の厳罰化が進んでいた。つまり犯罪者には死を、が共通の厳しい世界だ。それはAIと協力した捜査によって冤罪がゼロになったお陰でもあった。
「でもそれには条件があります」
内心、ドキリと跳ねた。自身に交渉術のイロハない。無茶な事を言われても、それを逸らすすべを知らないのだから。
「……なんだ言ってくれ」
「その“船”を見せてください!」
***
ということで、二人はシアンタを連れて、ヒュータン号へとんぼ返りすることになった。
シンはその前にと、精霊の事を話してみた。「うるさいから消してくれ」などとは言えず、「精霊を返した方が良いのでは?」といったオブラートに包んだ説得である。
「あれ? 貴方達どうして居るの……? まあいいわ、ありがとうまたお願いね」
シアンタは召喚したはずの無いフォトンの気配に気が付いて首を傾げるも、シンの言葉に従い、帰還の呪文を唱えるのだった。
精霊達はシアンタの感謝の声を受けるとゆっくりと見えなくなる。
――マッタネ――
――オオキニ――
そして精霊達は騒々しさの余韻を残して消えるのだった。
だがシンには不安がぬぐえなかった。
もしかして、彼等は召喚されずとも勝手に来たり帰ったりできるのではないだろうか、と。
「忘れ物はないか?」
「ええ、大丈夫」
準備を完了して二人で庵、崩れかけた小屋の前に集合する。
シアンタの祖父のお墓参りは既に済ませている。
それは家の裏にひっそりと立っていた。
石を置いただけの簡素な墓だ。確かに少しその周りだけ草が低い。しかし自然の力はその小さな墓を容易く飲み込もうとしており、言われるまでそうと気づくことは難しいだろう。
「なんかもったいなくて、こうして定期的に手入れをしに来ているの」
そう話す彼女の草むしりをシンは手伝った。
「あの本はそのままでいいのか?」
シンが尋ねたのは書斎にあった物が高価そうだったからだ。
「運ぶことも考えたけど大変だし、こんな所に来る人なんていないから……いなかったからね。一応保護の魔法は掛けてあったし、私も掛け続けているから朽ちる事はないけど……」
「人攫いの連中は?」
「多分町から尾行していたんだと思う。噂になってはいたみたい……毎年一人で森の中に入っていくエルフが居る……て感じでね」
そしてそれを聞きつけたならず者がシアンタを狙った、というのが真相のようだ。
「こんなこともあったし、今度は仲間と一緒に来ることにするわ」
「そうした方がいい」
そこでアニマから提案があった。
『本は圧縮ケースがありますからそれに詰めてはどうですか』
「そうだなそれがいい。シアンタそれでどうだ?」
「え、なんのこと?」
シアンタは急な提案に目を白黒させる。
「あのハンバーガーのように、大きくしたり小さくしたり出来り入れ物があるんだ。あの量ならポケットに入る大きさにできる。重さももちろん軽く出来る」
「そ、それならお願いするわ! あの書物は貴重な物も沢山あるから。本当にありがとう!」
その意外な提案にシアンタは顔をほころばせた。
本の片付けはあっという間に済んだ。あれほどあった本は、今や小さなキューブ2個に収まっている。全部手の平に乗る位の量だ。
「あれだけの本がこんなに小さくなるなんて……実際に見ていなければ信じられない所ね」
「教えたとおりにツマミを捻れば元の大きさに戻る。もちろん広い場所で行うようにな」
「うん分かった。本当にありがとう、シン、アニマ」
本の事はシアンタの長年の憂慮でもあった。それが解決したのだ。嬉しくない筈がない。
祖父がコツコツ書き溜めた財産は、こうして孫の元へと帰ったのだ。
彼女は丁寧に手持ちの肩掛け鞄の中に仕舞う。
しかし、とシンは疑問に思う。こういったファンタジーでは定番のアイテムがあるのではないのかと。
「ここにはこういった、物をを沢山運べる道具は無いのか? 何でも入る魔法の鞄、マジックバック的な」
「マジックバック? う~ん、聞いたことはあるけれど……おとぎ話の類よ?」
「そうか……いや判った」
残念である。こっちには圧縮ケースという魔法の鞄があるというのに、これでは自分達の文明の方が幾らか異世界している。まあ魔法に期待しよう。
シンは一人で残念がって、一人で気を取り直す。
「シンってこの世界に初めて来たっていう割には、変なことには詳しいよね。私の事を『エルフ』だった知っていたり……」
「え、ああ……まあ、な」
エルフはおとぎ話で知りました。エルフは娯楽作品では人気です、とは言えるわけもない。それに別の世界からやって来たという、先程説明した話とは矛盾してしまう。
憧れのファンタジー世界にやってこれたというのに、その知識のせいで嘘を言っているのではと、疑われてしまうとは……なんという皮肉。
シンは頭を悩ませる。何かいい理由はないだろうかと。
『船で観察していたのです』
「ん?」
「そうなの?」
『はい。ここは見知らぬ世界です。そこで先ず、遠くを眺める装置を使って観察することから始めたのです。その時に、耳の長い種族はエルフと言うのだと知ったのです』
「……そうだったのね」
シンはアニマの機転に感謝した。
見知らぬ世界に漂着したと説明されれば、誰もがしばらくは警戒して情報収集に努めるのが普通と、そう考えるだろう。
早くファンタジーの世界を見てみたいからと、後先考えずに探検を始めました、なんて誰も思うまい。
まさに『事実は小説よりも奇なり』だ。慎重な筈のシンだがこの世界に来てからタガが外れかかっている。
そうして出発することになったわけだが、また一つ悶着が起こった。
「ギャーシぬーー!! ゥオチちるーーーッ!!!」
『シアンタ。そんなにしがみ付かなくても落ちません。シン、もう少しゆっくり走行してください』
シアンタはバイクに乗せてからはずっとこんな調子だ。
バイクを見せた時は大いに驚き興奮していたのだが、今では別の意味で興奮しっぱなしなのだ。
「そうは言っても……」
走っているのは森の中。木の間を縫うように走らなければならない。そうすると自然、加速と減速を繰り返し、スラロームを要求される。その結果。
「ィィィイイーーー!」
シアンタは迫る巨木を躱すたびに女性とは思えぬ奇妙な悲鳴を上げる羽目になる。
「しょうがない。森の上を飛ぼう」
ホイッスルと呼ばれるこのバイクは、短時間なら飛行が可能になるオプションパーツが存在する。そして今乗っているものはシアンタのフルカスタマイズ品である。その機能もしっかりと装備されていた。であるから木々の間を抜けて飛ぶよりも、その上を飛ぶ方がシアンタの心労も減らせるのでは、と考えたのだ。
『これまで誰も発見されていない道程ですので問題ないでしょう。もちろんドローンによる監視は続けています』
「ああ頼むよ」
シンは後ろから聞こえ続ける悲鳴に大分げんなりしていた。
バイクはシンの操作で、枝葉の隙間から僅かに見えていた空を目指して上昇を開始する。
「フいィィィッ!!」
体が浮き上がる感触にに、シアンタは声にならない声を出す。
この森の樹木の高さは、平均100メートル。中には200メートルを超す巨木も混じっている。
シンはその中間。150メートルの高さまで登り、水平飛行に移った。
この高さならほぼ真っすぐに飛行でき、さらに目立ちにくい。
「……す、すごい」
ようやく静かになった後ろから感嘆の声が聞こえた。どうやら高い所は問題ないらしい。シンはホッと溜息を吐いた。
「これなら暗くなる前に到着できる」
「……本当にシン達は違う世界から来たのね」
緑色の絨毯の上を走る。そんな初めての光景を目に焼き付けながら、シアンタは改めてその事実を噛み締めた。
***
「到着だ」
シンがそうバイクを止めたのは、岩山に囲まれた盆地を見下ろす上空だった。
「……何もないじゃない」
その場所は大雨などで浸水してしまうのか、それとも地面が硬く適していないからなのか。木々は生えておらず、背の低い草が生えている程度の拾い空き地だ。
確かに空飛ぶ船を置いておくならいい立地であろうが、その隠してあるはずのものがどこを探しても見えない。シアンタは訝しむ。
『始めは迷彩を施したシートを掛けていたのですが、野盗が居る世界ならば万全を期すべきだと判断し、光学迷彩で船体を覆う加工を施しました。……奇麗な白に重ねるようなことはしたくなかったのですがね』
とアニマは不満そうだった。
迷彩ならば普段は透明にしておけばいいのではないか、とシンは慰めるが『反射率が0.00003パーセント落ちるのです』と拗ねてしまう。人には分からないがAIに分かる。そんな誤差だ。
「ねえその迷彩ってどういうもの?」
「覆って物を隠すんだ。森の中で緑色の服を着ていたら見つかりずらいだろう?」
「そりゃそうだけど」
シアンタはそれらしいものを探してみるが、緑色の布などここからは見えない。
「論より証拠。アニマ迷彩を解除してくれ」
『了解しました』
周囲には何もないことを確認済みだ。アニマは命令を実行した。
「……こ、これが船!?」
シアンタが想像していたのは、以前乗った事のある、海に浮かぶ木造船だった。
それが、これはなんだ!?
白く光り美しい曲線を描くその巨体は、まさしく神の造った船と確信できるほど。それは大自然の中で、いやこの世界の中で異質に浮かび上がって見えた。
「ようこそ最新鋭多目的強襲艦“ヒュータン”へ。君が最初のお客さんだ」
シンはそう笑いかけた。
***
「……つ、疲れた」
シアンタは柔らかいソファで項垂れて居た。
驚きも束の間、茫然自失状態で連れ込まれた先は医務室だった。アニマの言う『ケンコーシンダン』とやらを今までやらされていたのだ。
霧のようなものを吹きかけられ、血を抜かれ、奇妙は筒に入れられ。『問題ありません』の合図でやっと解放されたのは、およそ一時間後だった。
「済まなかった。だが必要なことなんだ」
「……まあいいわ。小さな古傷まで奇麗に直して貰ったんだから」
アニマは診断の合間に治療も行っていた。いわゆる検体として扱ったことへのお詫びのしるしだ。
「回復魔法はないのか?」
「あるけど、直ぐに魔法を掛けないと奇麗には治らないの」
「そういうものなのか」
魔法も万能とはいかないらしい。それともまだ進歩の余地があるのだろうか。
『最終結果が判明しました。完全なる健康体、異常なしです。お疲れ様でした』
「どうも……」
「これでも飲んで一休みするといい」
そう言って差し出したのは、砂糖をたっぷり入れたココアだ。
「……わあ、甘くておいしい」
シアンタは仕打ちも忘れ、その未知の飲み物を堪能することに専念し始めた。
『ここからは私達だけが知るべき情報です』
アニマは脳波通信を使ってシンにだけ聞こえるように語る。
『シアンタの身体構造はほぼ限りなく人間に、地球の人類と変わりません。子を生すことも、ほんの僅かな遺伝子改造で可能なほどです』
それが小説などで語られる異世界としては普通の事。しかしそれが、偶然漂着した惑星であれば異常なことだ。
『もしヒュータンの性能を用いて、ランダムにワープを繰り返し、知的生命体に遭遇する確率。人類が観測した宇宙に、知的生命体が存在しないと仮定しても確率は、ゼロコンママイナス19乗。100ゼプトを下回ります』
それは六徳。仏教における心が死に、また生き返る刹那と言われる瞬間よりも小さい数字である。
アニマが言いたいことを一言で表すと「有り得ない」である。
「アニマは偶然ではないと……?」
それならば自分達は神にでも導かれてここに来たとでもいうのだろうか?
と、そこでシンはある考えを思いつく。
「ではこう考えたらどうだ? ここは地球の存在する宇宙とは別の宇宙で、宇宙は二つしかなく、更にこの宇宙にはこの惑星系しか存在しない。そう仮定したらどうだ」
と小声で話す。
つまり、こちらに来る可能性の問題はあるが、別の宇宙に跳んでしまった場合、到着する場所がここ、とてつもなく狭い宇宙しか無かったらどうか。という理屈だ。
『それならば……確率はぐっと上がりますが……そんな宇宙が存在するのでしょうか?』
「それは……分からない」
『……』
つまり虚無の広がる世界にポツンと浮かぶ、この星しかない小さな小さな宇宙である。寄り添うように存在するのは、地球を内包する宇宙。この太陽型惑星系の周囲に見えた星々は全て近い位置にあるなら。
そんな寂しい宇宙を二人は想像して無言になった。
「それで、『ほぼ限りなく人間』というのはどういう意味だ?」
先に声を出したのはシンだった。
『はい、限りなく、というのは彼女の、シアンタの種族特性なのか、この惑星の人類共通の特性なのかは分かりませんが……』
「耳が長いことか?」
『いえ、それも遺伝的特徴ですが。そうではなく、エーテル的とでも言える特性があるのです』
「エーテル的?」
シンの知るエーテルとは、宇宙船の動力を始め、様々なところで利用されているエネルギーであるというくらいである。それ以上は専門的で、テストパイロットである彼であっても原理程度の知識しか有していない。
だがエーテルの本質は、それが別の次元からエネルギーを取り出すという世紀の発明であるということ。
『始めはノイズと勘違いしました。しかしこの惑星系が私達の世界、便宜上『地球宇宙』としますが、その物理法則の差異を鑑み、再度検査したところ、エーテルを内包した分子構造であると判明しました』
その難解さにシンは頭を抱えそうになる。
『分かりやすく、エーテルの権威である学者の発言を引用します。『もし精霊が居るとしたら、それはマナから産まれ、エーテルの身体で出来ている』だそうです」
「精霊……」
あのうるさい精霊が脳裏をよぎる。その特性がシアンタにある。これはどういう事だろうか?
『エーテルはマナがこの次元で振る舞う際の仮の姿ではないか。と言われています。つまりマナが実際に存在するこの世界では、エーテルというエネルギーがその実存をより鮮明に形作っているのではないでしょうか?』
「……なるほど」
シンは思う。
それはまるで。幻想の地。幽霊が日向を散歩していても可笑しくない世界。そんな意味に聞えるようだと。
「ねえ、もうお話は済んだ?」
気付かぬうちに随分話し込んでいたようだ。シアンタはもうココアを飲み終え、手持ち無沙汰にそわそわしていた。
顎に手をあてブツブツと呟いているシンを見ておかしくなったのかと訝しんだが、どうやらアニマと話し込んでいると気づいて、今まで黙って待っていたというわけだ。
『お待たせしてしまって申し訳ありません』
「ああ話は終わったよ」
「それは私の話?」
その表情から訝しんでいるのがありありとうかがえる。
「……まあそうだが」
何となく気まずい。
「いやらしい事じゃない……のはその顔を見れば分かるわね」
『シンはそのような人ではありません』
「そう? まあ信じてあげる」
警戒されるのも問題だが、あまり信用されても困る。シンは“親しき中にも礼儀あり”を重んじる性格だ。
「これから風呂に入るといい。隊員用の浴場があったはずだ」
「お風呂!」
先程までの態度はどこへやら。シアンタは身を乗り出さんばかりに喰い付く。誤魔化されたと分っていても、喰い付かずにはいられない提案だった。
本来ならば医務室内に設置された、除菌、殺菌、老廃物除去効果により、風呂に入る必要はないのだが、それはそれ。客人である彼女への詫びを兼ねた提案である。
『この艦自体が、大人数の乗員を想定しているわけではありませんが、それなりの大きさですよ』
シアンタは導かれるように開く扉から、飛び出す様に出ていった。
――お風呂なんて久しぶりー――
そんな声が廊下の奥から聞こえてくるのを確認して、シンは自分も風呂に入って置こうと艦長室へと歩き出した。
そこには部屋風呂がある。つまりラッキースケベは起こりようがない。
ちなみに個室に風呂が併設しているのは、艦長室を含む士官室と客室の、合わせて5つである。
***
「……私もうここに住みたい」
お風呂から上がって食堂に集合した面々。その一人であるシアンタの開口一番の声がそれだった。
「気に入ってくれてよかった」
自分の世界の最新鋭艦を褒められるのはまんざらでもない。
シンは不器用な笑みを浮かべてそう応えた。
『遅くなりましたが夕飯にしましょう。その間に明日の予定を説明します』
テーブルの中央がせり上がると、トレーをするりと吐き出す。そこには今日の献立、カレーライスが載っている。添え物はサラダにコンソメスープ、レモネードだ。
「今日は金曜日だったか」
「へ、なにそれ?」
料理に釘付けだったらしいシアンタが、間の抜けた声で尋ねる。
「統合軍、特に宇宙艦隊に属する組織は、何故か金曜日はカレーなんだ」
「“かれー”ってこの料理の名前?」
「そうだ」
「きんようびって言うのは?」
『私達の世界では7日を一週間として区切り、その六番目の日を金曜日と呼んでいるのです』
「へー」
「ちなみに何故金曜日がカレーなのかは知らない。俺は軍人ではないしな」
シンは民間から選出されたテストパイロットである。
『では私から……宇宙軍の前身となったある海軍の――』
「もういいから食べよう! 冷めちゃうわよ」
「そうだな」
『……』
アニマのうんちくは、シアンタの空腹によって、披露されることは無かった。




