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魔法使いの証明  作者: 0℃
1章 逮捕不可能な魔法使い
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02.魔動隊②

 鹿上が放心したままトイレの鏡を見ていると、後ろで個室の扉が開く音がした。


 驚いて、そちらを振り返れば、見知った顔がそこにはあった。鹿上は安堵から胸をなでおろす。


「……なんだ、早乙女サオトメ管理官ですか」


「なんだとはずいぶんな挨拶だな。……どうした、随分と疲れた顔をして。まさか、仕事がうまくいってないのか?」


 井上係長とは違うどこか冷たさのある笑みを浮かべて、早乙女管理官は鹿上の隣で手を洗い始めた。


 早乙女管理官は5年前に魔動隊を組織した張本人だ。


 魔動隊の存在は、警察内部でも一部の人間しか知らない特秘の事実。その魔動隊を管理、指揮するのが彼であり、鹿上はその構成員だった。


 鹿上は、ため息を吐いて言う。


「こんなのうまくいくわけないじゃないですか。俺、朝比奈先輩にメチャクチャ嫌われてるんですよ?

 さっきなんて、俺が魔動隊だってバレそうになったんですから。

 シャレにならないですよ」


「ははは、なるほどな。

 まあ、どうにかうまくやってくれ。

 しかし、そのだらしない格好もなかなか似合ってるな、鹿上」


「……褒められても嬉しくありません」


 鹿上は、先ほどの朝比奈が言った通り、情報収集のためにボウエキに潜入していた。


 魔動隊はその特異な部隊の性質のために情報不足となっており、窮地に立たされていたのだった。


 人目のない隙を見て、ボウエキの書類を漁る。そんな情けない行為を、鹿上はボウエキに配属されてから今日まで続けていた。


 しかし、鹿上には作戦当初、潜入任務に当たるには一つ大きな問題があると考えられていた。鹿上は、少し真面目すぎるのだ。


 そのまま真面目にボウエキの仕事をされてしまっては、今度は魔動隊の仕事がおろそかになる。それは鹿上の性格上、目に見えていた。


 そのため、鹿上はボウエキの中では不真面目な性格を装うこととなった。


 そうなれば、いつ何時いなくなっても怪しまれない。不真面目なやつだ、という認識が深まるだけで終わるだろう。


 鹿上は、本来ならしっかりとした格好で、朝比奈警部補と言う人物と向き合いたいと考えていた。


 彼女のことを知れば知るほど、鹿上にとっては尊敬に値する人物だった。


「それにしても、すごい人ですね。朝比奈警部補は。正面から魔法使いの事件を捜査する人なんて初めて見ましたよ。

 あの人は魔法使いを、ちゃんと人として見ている」


 鹿上は3年ほど前に、研修という形で、他の署のボウエキが行う捜査を見たことがある。そこで見たものは、とても捜査と呼べる代物ではなかった。


 市民は、過度に魔法使いを怖れてる。

 他のボウエキはそれを利用するのだ。


 魔法使いの情報を流し、市民に魔法使いを攻撃させる。それは、捜査という名の村八分だった。


 攻撃にあったものは、まともな生活が送れなくなる。


 そうなると、街を出る者もいる。自殺する者もいた。逆上して、更に悲惨な事件を起こす者もいる。


 しかし、そうなったとしても警察は関与してないの一点張りだ。一部情報が漏洩しただけ。主導してないと言い張った。


 そんな捜査が、他ではまかり通っていた。

 しかし、鹿上はそれを見て『仕方ない』と思った。


 魔法使いの力は強大だ。まともに捜査をしても勝ち目はない。


 それだけに、朝比奈の捜査は目を見張るものがあった。

 魔法使いに対して、普通の捜査をしている。正直、信じられない光景だった。


「朝比奈君は優秀だからね。捜査一課にいたら、第一線で戦っていただろう」


 早乙女はニコリと笑いながら、ハンカチで手を拭く。


「もったいないですね。あれほどの人材が、あんなところでくすぶってるだなんて」


「惜しいが、仕方ない。抗体遺伝子を持っている人物をボウエキに入れないわけにはいかないからね。

 それより、残念だったね。秋山秀夫の事件。一瞬期待したのだが、黒氏クロウジの犯行ではなかったか」


 黒氏クロウジトオル

 その名前を聞いて、鹿上は顔をしかめた。


 黒氏は4年前、作戦途中で鹿上たちを裏切った、魔動隊の隊長だった。

 隊員たちは次々と殺されていき、残ったのは鹿上と他4人のみ。


 それ以来、鹿上たち魔動隊は黒氏のことを追っていた。

 彼の能力はテレポーターだとわかっている。


 先日の神宮の起こした事件のうち、一件目の秋山の事件は、黒氏が行う手口に酷似していた。


 それ故に期待したのだが、結果は神宮の飛行能力による犯行という結果に終わってしまった。


 鹿上の胸には落胆だけが残っている。


「また、捜査はふりだしですね」


「仕方ない。まあ、気長にやるしかないだろう。折れずに頑張ってくれ」


 そう言いながら早乙女は鹿上の肩を叩き、トイレから出ようとする。


 鹿上は早乙女を引き留めた。


「あっ。ちょっと、待ってください」


 早乙女は不思議そうに首を傾げる。


「あの……そろそろエーテルが底をつきそうなんです」


 鹿上は申し訳なさそうに言う。


「……早いな。先日、家に送ったばかりだろう」


「すみません。今、持ってませんか?」


 言われて、早乙女は胸ポケットを探る。手ごたえがあったような様子を見せると、彼はそこから粉末の入ったビニールの小袋を取り出した。


「手持ちはこれだけだ。あとは家に送っておく」


 そう言いながら早乙女は小袋を手渡し、トイレから出て行った。


 それを見届けると、鹿上は血相を変える。


 鹿上は震える手で小袋を破き、中の粉末を鼻から一気に吸い込んだ。


 鹿上は恍惚の表情を浮かべる。

 同時に、強烈なめまいに襲われ鹿上はその場に倒れた。

 手に持っていた粉末は、そこら中に飛び散ってしまった。


 鹿上の意識がはっきりすると、今度はあたりに飛び散った薬を指先でまとめた。少量の粉末を手に取ると、床に落ちていたのも構わず鼻で吸う。


「……鹿上。なにやってんだ、お前」


 鹿上は突然の声に驚く。トイレの入り口を見てみれば、先ほど出て行ったはずの早乙女がこちらを覗いていた。


「……なっ!? 何してるんですか!?

 早乙女管理官!」


 早乙女は右手に持っていたスマホを振ってみせる。


「事件が発生したらしい。お前はボウエキとして現場に向かえ。それから、ボウエキの情報はもう十分だ。しばらくはこちらに顔を出す必要もない。朝比奈君と仲良くしておけ」


 そう言って、早乙女は今度こそトイレから出て行った。

 鹿上は周囲の惨状を見て、自分の顔を手で覆う。


 ――――こんな所、他の刑事に見られたらどう説明する気だったんだよ。


 鹿上は自分の頬を強く叩くと、掃除用具入れを開け、その怪しい粉を片付けた。

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