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予言

作者: 神尾つかさ

 私は予言者だ。当然だが、巷に氾濫しているようなペテン師とは違う。正真正銘、本物の予言者だ。その証拠、といっては何だが、私はこの界隈ではちょっと名の知られた占い師なのだ。そこらを歩いている人に、私の名前を訊ねてみるといい。

「ああ、あの先生の占いはよく当たるよ」

 と、口を揃えて言うだろう。

 なに? 占いが当たるからといって予言の出来る証拠にならない?

 もちろん、君の言うとおりだね。それだとちょっと名のある占い師がみんな予言者になってしまうからね。だが、一度私の占いの方法を見れば、信じてもらえると思うよ。私は、他の占い師のように、手相を見たりだとか、棒の束をジャラジャラさせたりだとか、水晶玉を覗き込んだり、といったことは一切しない。することといえば、目を瞑るだけ。ただ、それだけなのだ。客の職業やら名前やらも一切聞かない。眼を瞑ると、瞼の裏にその人の未来が鮮明に浮かんでくるんだよ。だから、そんなものは聞く必要がないんだ。

 どうだい。これで、私が予言者だって事を信じてくれたかい?

 …………。

 いや、実際にやってくれと言われても、私の占い料は高いよ。こう言っては何だが、君はあまり金を持っているように見えないんだが……。

 ダメだ、ダメだ。その程度の金額じゃあ。占いの安売りはしないことにしているんだ。

 …………。

 だからペテン師じゃないって言っているだろ。ようし、それなら、こんな話をしてやろう。

 三日ほど前のことだったかな。隣国が核実験をしただろ。

 そう、その話だ。みんな驚いたね。寝耳に水だったろう。そうだ、隣国がそんなことをするなんて誰も想像していなかったからね。大学の教授だとかが、うろたえながらコメントする姿がテレビでも何度も放送されたものだ。だが、少しおかしいと思わないかい。何がって、我が国の政府の対応がだよ。隣国が核実験をおこなったかと思うと、ものの数分も経たずに抗議声明をだした。事前に核実験の兆候を掴むことが出来ていなかったのに、こんな素早い行動を取れるなんておかしいと思わないかい。

 そう、ここで私が出てくるわけだ。核実験が行われる一週間ほど前かな。ある一人の中年の男が私のもとへやってきてんだ。そして、男は占ってくれと言うから、私はその男の未来を見た。すると、どうだ、隣国の核実験を知って慌てふためいている男の姿が見えたんだ。そう、男は我が国の外交筋で働いている男だったんだよ。

 そうして、男に核実験のことを教えたんだが、最初は半信半疑といった態でね。いつもだったら、信じない客なんて放っておくのだが、今回ばかりはそうはいかない。国の一大事だからね。精一杯男に説明して、しっかりとした対応を取るように約束させたんだ。男はそれでも完全には信じていないようだったが、あの対応を見ると私の占いを信じてくれたようだ。おかげで、世界に狼狽している姿を見せないですんだ、というわけだ。

 さぁ、どうだい。これでも信じられないのか? 私は言うなれば国を動かしたんだぞ。これだけ言えば君も信じざるを得ないだろう。

 なに? 作り話かもしれないだって? 政府は核実験の兆候を掴んでいたが、国民に知らせなかっただけじゃないのかって?

 君も疑り深いなあ。仕方がない、こうなったら君の未来を予言してやろう。いや、金などいらない。これは、私のプライドの問題だ。ペテン師扱いされたまま、君を帰すわけにはいかないからね。じゃあ、その椅子に座って私の顔をじっと見つめるんだ。さぁ、やるぞ。

 …………。

 …………。

 …………。

 …………。

 ま、待て。そう、焦るな。

 …………。

 …………。

 だ、だめだ……。何も見えない……。

 いや、ペテン師なんかじゃない!

 今日は調子が悪いだけなんだ。いつもだったら、目を瞑れば、映像が浮かんでくるはずなんだが、今日に限っては何も浮かばない。眼を瞑っても、真っ暗なままなんだ。

 違う、調子が悪いだけなんだ。もう一度やれば未来が見えるはずだ、さぁ、もう一度やるぞ……。

 おい、どこへ行くんだよ。待てよ、今予言してやるから、戻ってこい! おい!

 …………。

 いっちまった。あいつ、俺のことペテン師だと思っただろうな……。だが、どうして今日に限って予言が出来なかったんだ。まさか、俺の力が無くなってしまったのか? もし、そうだとすると、一大事だぞ。俺はこの力のおかげで今まで生きてきたみたいなもんだ。この力が無くなるって事は、翼をもがれた鳥みたいになるって事だ。

 ああ、大変だ。この年になって転職なんてできるだろうか。俺は生まれてこのかた占い師以外の仕事はしたことがないんだ。力もないし、頭も悪い。蓄えもほとんど無いし、これからどうしていこう……。

 いや、力が無くなったと決まったわけではない。あの男が特別だったのかもしれない。別の人間なら予言が出来るかもしれない。

 あ、お嬢さん、占いどうです? いえいえ、今日はサービスです。無料でやってあげますよ。ええ、ええ、どうぞ。では、そこの椅子に座ってください。いえいえ、名前は結構。私の占いは一風変わったものでしてね。では、はじめさせてもらいますよ。

 …………。

 …………。

 …………。

 な、何も見えない。眼を瞑っても真っ暗だ。力が無くなったんだ……。もう、絶望だ。おれはこのまま野垂れ死ぬしかないのか……。

 え? 何? 占いの結果? うるさいよ。とっとと帰れ!

 …………。

 はぁ。これからどうしよう……。とにかく店じまいだ。店じまいした後はどうしよう。アパートに帰って寝るか。それで明日からは職探しだ。一日でも早く新しい職を見つけなきゃならんな。ああ、もっと貯金をしとくんだった。今の蓄えじゃ一ヶ月も暮らせないだろうな。ああ……、死のうかしら……。首でも吊るか、電車に飛び込むか……。

 そうだ! 死だ!

 俺が占った男も女も近い将来に死んでしまうんだ。だから真っ暗で何も見えなかったんだ。そうだ、そうに違いない。だが、偶然俺が占った二人が二人とも死んでしまうなんてあるだろうか……。

 そういえば、男も女も、同じ方向へ向かって歩いていったな。じゃあ、そっちの方向で大きな事故でもあるのか。そうだ、その事故に二人は巻き込まれて死んでしまうというわけだ!

 俺の力はなくなったわけじゃないんだ!

 いや、まて、断言はできないぞ。証拠が欲しい。お、ちょうど良いところに男が歩いてきたぞ。さっきの男女が去っていった方向から歩いてくるから、事故に巻き込まれる心配もないだろう。あの男を占ってやるか。

 お兄さん、お兄さん、今、サービス中で無料で占いをしているんだけど、どうです?

 ああ、そう。それなら、ここに座って。じゃあ、今、占ってあげますから……。

 なに? 世界情勢を占って欲しい? どうして、またそんなことを? へぇ、ついさっきニュースがあった。我が国が隣国に対して武力制裁を行った。それで行く末が気になるってわけですか? 隣国が核爆弾を打ち込んでくるかもしれないですって? そんな馬鹿な話あるわ――。

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