表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

5:emque metumque inter dubiis.

 

「……ほんま、悪趣味」


 遠く離れた砂の上……阿迦奢はその状況を一人眺める。簡単な変装でも周りは男と疑わない。貴重なタロック女が歩いているのに今はそれどころではないのだ彼らは。あれは僧祗の仕業だろう。街の噂を聞くだけでも、多くの情報が手に入る。

 風土病の特効薬が混血。そんな話は以前からこの島にあったそうだが、奴隷として混血はこの上なく高価。簡単に手に入る物では無い。故に広まる噂が、生娘やら童貞やらそういう者と契れだの生き肝を食らえだのそんな物騒な話であるくらい。もっとも、そんな噂が広まれば……第五島を訪ねようという馬鹿も減る。第五島の人間が他島に渡ることを厳しく罰する動きもあるが、死に物狂いの人間はどんな手も使う。止められない以上、セネトレアは放置する。

 いや、君臨すれども統治せずのセネトレア王が最後にした仕事。タロックの後ろ盾を失うわけにはいかないと、猛毒Disは……第五島由来の風土病と話が片付けられる。先の大戦の後、この風土病について島外での箝口令を布いたのだ。

 “安いからとカーネフェル女と寝る奴が愚か”

 “だから混血なんて生まれる”だなんて。混血迫害がセネトレアで生じた一因はこのDisとも言えよう。セネトレア王は、タロックが持ち込んだ毒を……国の安定と繁栄へ利用した。第五島ディスブルーを贄とすることで。


「うち、こういうの嫌いやわ」


 私も切り捨てられた側だから。やはり放って置けない。それに……あの子も混血だから、同胞が危険な目に遭うのは嫌だろう。


(……エリスやったっけ)


 ディスブルー公が荒れているのは、我が子のため。無事だと良いけど、その子。


「そやなぁ……」


 さて、どちらの味方に付こう。……もっともらしい理由が在るのは、そうだ。彼方にするか。


 *


 ジャンヌは呆気に取られていた。目覚めて欲しい、欲しくない。そう思っていた相手が……人形のように眠り続けたアルドールが、人間に戻ったというのに。


「ねぇ、さん!?」


 様子がおかしい。中身がおかしい。彼が名乗る名は、フロリアスがアルドールを初期化した時に、発した言葉と同じ物。つまり……アルドールの真名である。


(ローザクアに着く前に殉職されたというルクリース様のこと? 私と姉君を間違えている? でも……)


 アルドールには一人……実の姉君が居たとは聞いていた。彼女は弟と再会しても、終ぞその愛しい名前を呼ぶことが叶わなかったと言う。その名を本人が口にしてしまうとは……。アルドールは養子奴隷からカーネフェル王までの記憶を失った代わりに、それ以前の自分を取り戻したの? それなら私が本当の姉君と別人だと分かりそうなものなのに。


「こ、これは不味い!? 今のアルドール様は奇跡的に復旧しましたが、自分で言った言葉を耳にしてまた初期化され永久機関が完成する可能性が!!」

「解りました! アルドールの耳は私が塞ぎます! なんなら鼓膜破ります!!」


 ランスがアルドールを拘束し、私は鼓膜破り許可が出るのを待機。状況判断を任せたリオ先生とルキフェルさんは……その間口論を繰り広げていて話にならない。


「カーネフェリア様がバグった……!」

「こらルキフェル! 聞こえるだろう!」

「いや、でもずっとリアルお荷物で引っ張るのも大変だし、寝たきりだと下の世話とか誰担当するのよって困ってたし再起動したのは助かった感あるわ」

「そ、それは……同性の騎士様に任せるのが良いのではと言う話になっていただろう!?」

「え!? いや、それは……俺などで良ければ勿論。墓の下まで主君の秘密は持って行く覚悟で臨ませて頂きますが、その話初耳ですよ!」

「聞いてないって、ランス様やっぱりあの時半分くらい寝てたんじゃない」

「そ、そそそそそのくくくらい、伴侶のわわわわ私がやります!」

「確かにジャンヌでは無理そうだ。壊れかけでも目覚めて頂き助かった。しかし状況を見るにこれは……壊される前の人格が戻って来ている?」

「それは無理よ。新人格をインストールされるまでのシステム誘導的なあれで、ちょっとデータ残して置いたんでしょうよ。断片的なキーワードと案内用の人格を」

「では、シャルルスアルマが人格データを完成させるまで……この仮人格を引き連れていかなければならないのだな」


 アルドールが、介護老人扱いされていた。王族の誇りがあるらしい本人は羞恥心も取り戻しているようで、とても辛そう。


「おいそこの騎士。私が誰か解っていての狼藉か? まさか貴様等私と姉さんを攫った奴隷商か!? 手を放せ!」

「これは……最初に目にした相手を家族と認識させ、言いなりにさせて新人格情報の植え付けまでをスムーズに移行するための情報が組まれているようですね」

「流石はアロンダイト卿、カーネフェル一の騎士! 冷静な人が一人でも居て助かりました。純血の癖にそこまで見えているなんて!」

「本音で言うと、王としてはこういうアルドール様、実に良いです。色々命令してくれそうな理想の上司ですね」

「おいこら命令乞食騎士!! 実は凄く混乱してるんでしょ!? ちょっとでも見直した私が馬鹿みたいだからやめて!」

「姉さん、何だこの五月蠅い連中は。ここは何処?」


 詳しいことは解らない。それでも彼らの話を聞いて、このアルドールは私の言うことは聞いてくれる状態にあることは解った。本当かどうか、まずは試す必要がある。


「……“マリウス”」

「はい」

「ま、マリウス。私達は今訳あってお忍びの旅をしています」

「なるほど」

「貴方のことは私達が絶対守ります。だから私を信じて付いて来てくれますか?」

「わかった。僕は何をすればいいですか?」


 これは私の知っているアルドールではない。それでもアルドールの顔で、声で……私の言うことを聞く、人形。嬉しさと虚しさを同時に覚える。そのどちらかに目を瞑れることが出来たなら、私はもっと喜べるのに。


「ジャンヌ様の敬語口調移ってるし……」

「空っぽだから吸収率が良いんだろう。これではカスタマイズが容易なはずだ。セネトレアめ……なんて数術を」

「でも、あのさリオ。なんか、今のアルドール様…………エフェトスみたい」

「ルキフェル! 聖教会は、イグニス様はセネトレアとは違う! あんなものは作らない! 壊れたあの子を拾って救っただけだ」

「解ってるわよそれは! でもさ、……イグニス様が必死になって守ろうとしたのが、こんなのになるなんて……悔しい」

「話は、後です」


 その場の流れを断ち切るように、ランスが剣を構える。敵の接近を察知したのだ! 慌てて私も武器を手に取る。


「こんな拓けた場所に長居をするのは間違いでしたね」

「いや……不可指数術は効いている」

「嘘……不可視数術は使っていたのに」

「天九騎士……僧祗。見えているのか、数術が」


 ランスが敵意を向ける先、漆黒の騎士が一人。双陸様以外の敵将は、師団を預かっておきながら何故揃いも揃って単独行動が好きなのか? 余程の自信家か間抜け。その間抜けにハイレンコールで痛手を負わせられた。ここで討ち取りたいけれど、容易ではない。そんな隙をこの男は残すような馬鹿ではないのだ。


「我々も我々なりに、数術の研究はしているんですよ。シャトランジアから協力が得られない分、試行錯誤ではありますが」

「その目は……混血の物か」

「研究のためなら片目で十分。見えさえすれば、理解できる頭がありますから」


 彼は私の親友のよう、左右の目の色が異なる。この敵将はタロック人の黒と赤の目を持っていた。その片方が混血の目? どちらも真純血の深すぎる色合いに見えるのに……そんな目を持つ混血も居たのか。数術や混血の話は私の知らないことばかりが次々明かされる。

 駄目、理解しようとするな。混乱しては駄目。解析はランス達に任せて……私はアルドールを守る! 私のカーネフェルを。


「そう、研究と言えば……面白いことが解った。どうも風土病に混血は感染しないらしい」

「あ、貴方……まさか」


 愉快そうに語る僧祗。気を張り守りに入った私の耳に、続いてルキフェルさんの脅えた声が届いた。


「まだ手を出すなと言われているのでね。タロックは高みの見物。これはあくまでセネトレアとカーネフェルの戦。シャトランジアがそちらの肩を持つ程度には、こちらもセネトレアに肩入れしますが」

「何が言いたい。忠告か?」

「好意的に解釈して貰えるならばそうです」


 そんなつもりない癖に! 敵将は恩を売るよう不遜な態度。怒る私に代わり、ランスが静かな怒りを向けていた。


「この男の相手をしている暇はありません。今すぐ橋を渡って、第一島へ渡りましょう! これから大勢の人がここへ押し寄せる。混血の生き血が、Disの特効薬だと噂を流した馬鹿がいるんですこの目の前の馬鹿が!」

「馬鹿と言った方がその五倍馬鹿なんですよ失敬な」


 ああもう! 子供の喧嘩かと怒鳴り散らしたい。恐ろしい程の冷酷さと頭脳を持っている騎士僧祗! 変なところであまりに幼い。それも煽りのようで腹が立つ。私が翻弄される様を面白がってわざとやっているなら許せない。


「混血、を……?」


 僧祗の策略の全貌を知って、教会の二人の顔から血の気が引いていく。遅れて私も。


「第五島は切実です。他島よりマシな島。混血を特別、憎くも思わない彼らも、自分たちの命が掛かっているなら話は別。手を取り合えると思いますかカーネフェル? 純血と混血、どちらも軍に加えるなんて無理なんですよ。その惨めな数の兵だけで、ベストバウアーを落とせると?」

「駄目だ、もう遅い!! 引き返す方が賢明だ!!」

「リオ先生!?」

「リオ、駄目! 後ろからも来てるわ!」

「貴様、第一島で……同じ噂を広めたなっ!?」


  橋を渡ることが出来ない。都で混血を捕まえて、第五島に売りに来る商人が……第五島へとやって来る。先にも後にも戻れない。逃げ込んだ橋の上に取り残されることになる。


「海へ飛び込めっ!!」


 リオ先生は大きな精霊を取り出し、私達を海へ向かうよう叫ぶ。


 *


「……一体、どうしたら」


 リオの精霊数術で何とかあの場は逃げおおせ……今私達は海の底。ルキフェルは暗い夜の海を見上げる。水と風の精霊の合わせ技、それなりに強力な。海底に空気を送り込み、海底野宿を可能とする。タロック側にはここまでの数術理解能力はないから追っては来ない。時間稼ぎが僧祗という男の目的なのだから、今頃大喜びだろう。


(イグニス様……)


 これまで特効薬とされていた純血から、この非常時に悪意は混血へと向かう。高価で手に入らない物を、この騒乱で奪い取ることが叶うなら……商機を奴らは逃さない。


(シャルルスとフロリアス……無事なのかしら)


 あの子に、フロリアスを追わせたりしなきゃよかった。もっと他の奴も連れてきたら良かった。


(だけど私の話……ちゃんと聞いてくれるの、シャルくらいしか。ラディウスも聞いてはくれたけど……すぐ茶化すし)


 運命の輪は皆、イグニス様が好き。例外も居るけれど。だから一番最初に救われた私、古株の私は態度も大きい。あの人に一番信頼されているって自負して威張る。感じが悪いと思われているのも解ってた。私だって、私のそういう所が駄目だと思う。それでも周りに良く思われるよう愛想振りまくより、私はあの方の忠実な僕でいたかった。


(シャルルスとアルマは……)


 アルマはライバル。獣のような、赤子のような……。でも彼は違う。

 潜入任務ばかりであまり第一聖教会には帰らない。メンバーが戻った時に私はお帰りと言う、ロセッタ以外には全員に。あの女は一度言ったが無視されたから、それ以来言っていない。イグニス様は私にあまり外の任務は与えてくれず、皆を待つ役を命じられることばかり。それが、私の役目の一つでもあった。まともな人生を送れなかった運命の輪に、教会という家を与え、私に母の役を演じさせていたのだろう。私にその役割を上手く果たせたとは思わない。僅かの言葉と食事だけ。それが何になるのだろう。何にもならない。だけどアルマは嘘を吐かない。私に美味いと言って、シャルルスは……一番の笑顔でただいまと言ってくれた。運命の輪の、他の誰より素直に。


(帰って、来るわよね……シャルルス、アルマ?)


 私、今日は言っていない。貴方があんまり急ぐから……いってらっしゃいも言いそびれたの。


「暗い顔だなルキフェル。手元が狂っているぞ」

「う、五月蠅い!」

「野菜は切れた。魚の方は?」

「い、今やってる! はい、終わった!」


 ランス様とジャンヌ様には料理をさせてはいけないと聞いている。ランス様は最近まともになったという話もあるが、他人を頼るより自分を使った方がずっと楽。


「海底でまともな食事が出来るとは思いませんでした。ありがとうございます」

「ええ、本当に。リオ先生、やっぱり私も何かお手伝いを……」

「座っていてくれまだ病み上がりなのだから!! しっかり栄養を取って、明日に備えることが大事だ」

「それなら先生だって」

「私は……大丈夫だ。心配掛けてすまない……ジャンヌ」


 この状況でカーネフェリア呼びは心労が祟るか。私もリオに倣うべきか、嫌底まで親しくないのだから止めておこう。アルドール様の勘違い問題も残っているから、勘違いさせておくのは好都合だろう。


「うわ、ほんにおいしおすなー」

「何よリオ、変な声出して」

「私ではないが」

「じゃあ誰よ」

「アルドール様が寝惚けたのでは」

「はぁ……倶盧舎クローシャ沢庵こおこが恋しゅうなるわー。食後の甘味も……そやそや、ついでにお寺さんくらい行かな」

「え!?」


 作った料理が消えている。皿の上は空っぽ。犯人と思わしき謎の声の方……ルキフェルの視界は黒へと染まる。長い黒髪をゆったり編んだ女は、タロック風の衣装に軽装らしき戦装束。


「た、タロック人!? それもその格好……」

「馬鹿なっ、純血が……たった一人でこのような場所に来られるはずがない! 皆武器を構えよ!」

「流石はイグニスの部下やね。うちが誰かもわかっとるようやし」

「まさか、天九騎士……“阿迦奢アーカーシャ”!?」


 何て日だ。第五騎士の次は第二騎士!? イグニス様からその名を聞いていたランス様が彼女の正体を見破った。私達がローザクア攻略で使った女の名!


「イグニスは、うちの弟やね。なんや世話なってはるん? 堪忍な」


 笑う姿は邪気がなく、品のある美女。ジャンヌ妃とはまた違うタイプの戦乙女と言ったところか。


「って、お、弟ぉおおおおおお!?」

「待てルキフェル。それ以上は黙れ」

「ほんで海戦でばったり会うてな。最初は驚いたんやけど、一つ借りが出来てしもうて」


 どっちだ。この女はどちらのイグニス様のことを言っている? イグニス様に扮した道化師のことなら……いや、どちらにしろこの女は敵に違いない!


「借り、とは……?」

「……“私がこうして、生きて居る”」


 阿迦奢の口調が変わる。タロック語からシャトランジア共通語に切り替えた? ……違う、これは! 気付いているのは運命の輪のメンバーだけ。カーネフェル陣営は存在すら知らないだろう。


(“言語数術”!?)


 イグニス様なら知っていた。情報数術系統の、高等数式。

 私達運命の輪、全員に学があるとはとても言えない。狡猾であれ、強くあれ、そして正義であればそれで良い。足りない物は数術が補う。他国の言葉は頭に情報数術で叩き込まれているから理解は出来る。唯、即時通訳されているような物だから……今どの言語を相手が使っているかを正しく知るのは難しい。シャルルスとかリオのように元々言語学習も済ませた者なら可能だけれど。私の焦りにリオが頷く。


 《あの女、此方が解るよう言葉を変換させている。話しているのはタロック語のままだ》

(……厄介ね。これまでの敵は、ご丁寧にカーネフェル語か共通語を話してくれていたけど)


 本国暮らしの箱入り娘。純粋培養のタロック人。タロック語しか話せない彼女は、数術で言葉の壁を乗り越える。たかが純血が……イグニス様と同じ事を。


 《展開は見えない。恐らく数式を刻んだ札か装備があるはずだ》

(なるほど、言葉の他に文字を使った数術か)


 リオの念話に私はほっとする。そこまでイグニス様と同じではないことを知って。阿迦奢は油断ならない相手。それでもイグニス様には敵わない。運命の輪として毅然と挑まなければ。


 「……そうですか。それが聖下の思し召しなら、如何に貴方が天九騎士であれ……この場ですぐに剣を向けるわけにはいきませんね。話くらいならば伺っても良いですよね皆様?」


 この場にいる人間の名をこいつに教えてはならない。どこから聞かれていたかも解らないが念のため。誰の名も呼ばずにこの場を乗り切ろうとする私の考えをカーネフェリア達も受け入れる。記憶がすっからかんの王様が何か言いたそうではあったが、ジャンヌ様が口に指を当てると命令通りに大人しくなる。


 「ありがとうございます……では阿迦奢様。貴方は我々に、具体的にはどう力になってくれるんです?」

 「……あんさん、この数で都入りってほんまなん? 見苦しゅうてしゃーないわ」


 私がこの場の代表と認めたわけではないだろう。それでも私が“イグニス”様の部下であることは悟ってか、阿迦奢は応じる姿勢を見せる。


 「刹那とやり合うんなら、せめて公爵はんの後ろ盾くらいもろて格好付けへんと」


 こちらの戦力数に阿迦奢は笑いを越えて呆れていた。


 「それぞれ一人一人が強うても、無意味やね。相手はあの刹那や」

 「それは、そういう意味ですか?」

 「言葉通りの意味やわ」


 取るに足らない戦力でも、最後は一人一人が考え動く。命令に従う者、従わない者……。カードですらない人々の、動きが時に運命さえねじ曲げる? 殊更に戦場という舞台では。


 「英雄を殺すのは、何も英雄と限らへん。上位カードいうんは、そのために周りを兵で囲むんやろ?」


 そうだ。強いだけのカードは、身分が低い。王族には簡単に近づけない。今回私達はそこを逆手に取った。数を減らして速度を上げて……最速で最小限の犠牲で女王を、セネトレア落とすと。第四島に敵を引き付ける作戦は、イグニス様の殉職により無効となった。彼らを王都まで連れて行くのがこんなにも難しいとは。


(悔しいけど、こいつの言ってること……正論だわ)


 空間転移で、女王の暗殺は可能。城の地形情報は既に運命の輪が入手している。それでもそれが出来ないのは、兵を率いたカーネフェル王が都を落とさなければならないから。私達だけではとても……カーネフェル王の偉大さを知らしめられない。視覚数術で一時的に兵の数を誤魔化して見ても、その後の統治でボロが出る。カーネフェルはセネトレアで兵を募らなければならないのだ。

 第五島はカーネフェルとも縁のある地。第五公への根回しは済ませていたのに土壇場で裏切られるだなんて……。


 「うちと取引せぇへん? うち、第五公には貸しがあるんよ」


 此方の心を読んだわけではないだろう。阿迦奢が第五公の名を出し、ランス様を見る。私では役不足…………真純血の彼がこの場を取り仕切る者だと思ってのことだろう。


 「……内容によりますね。聞かせて頂きましょう。構いませんか?」


 この場で交渉に長けた人物はランス様……次点でリオ。

 悔しいけれど運命の輪はあくまで車輪。下り坂なら転がるが、殆どの者に考える頭はない。イグニス様という正しき人の命令があって、初めて機能する組織。あの人は私に考えろと言ってくれた。でも私は、私の考えを信じられない。イグニス様以外のことは何も、自信が持てない。私の虚勢をこの女はもう見抜いている。恐ろしい女……こんな奴が、刹那姫の騎士? 騎士程度でこんな奴なの?


(それじゃあ本当の親玉って……)


 私達が戦おうとしている相手。イグニス様がもういないのに、討ち滅ぼさなければならない相手はあまりに強大。

 あの人が希望と信じた王は、今はあんな抜け殻で頼りない。不安がっているジャンヌ様。私達に支えきれるのだろうか? 私も不安なのだと思い知らされる。

 隠し持ったロザリオを掴み……私はあの人を感じ取ろうと縋るけど……まだ、その時ではないと形見がそっと囁いた。


やっとまとまりました。絵本シリーズはライフワークなので仕事が忙しくなると、書きたくて書きたくてつらい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ