2:hinc illae lacrimae
感謝と罪悪感。僕を形作った言葉は二つ。その言葉は、僕とあの人を繋ぐ道だった。生きていること、生まれたことは嬉しい。だけど同時に僕の存在は僕を密かに苦しめ続ける。
「シャル“ロット”、ジャンヌちゃんをよろしくな」
「任務なら当然ですよね」
「お前も変装のエリートだけどさ、女心って複雑だろ」
「杞憂にして愚問です。僕は貴方のようなスピネルと違って、心の性別まで偽れる。必要に応じて、護衛対象を支えます」
「マジかよ、ちょっと包容力のある妹系彼女風味に俺を送り出してくれ」
「いってらっしゃいエティお兄ちゃん♪ お給料が出たらこの口座番号まで全額振り込んでくれなきゃ私泣いちゃう、ぐすん」
「それたかり力だろ! ちょっと可愛かったから半分くらい振り込みそうだけど! 」
そう、杞憂。かつて級友に言われたように、僕は有能だったはず。僕に足りない物はない。どんな任務も遂行できる。
シャトランジア国王の名はシャルル陛下。その陛下のご慈悲による場所……とは逆に、聖教会の庇護の下、僕は命を吹き返す。純血に似た外見の混血とも違う。本当に純血を装える……僕のようなものはCharles's。
中でも僕が一番最初だったから、名付けられた名はCharles'S。他の子は、もっとまともな名前をしている。僕はこの名があまり、好きじゃない。
外見は稀少なカーネフェル人男児。金髪に青い瞳。教会が手配した家の養子になれば、陛下も僕らを放っておかない。
シャルルズは監査組織。運命の輪とは違って、国王派の情報を教会派に流すスパイ組織として機能するはずだ。もしかしたら僕以外の子達は、本来の目的通りその任についているのかも。生温い物だ。シャトランジアに死刑はない。政敵に正体を知られたところで、極刑は免れる。最期は必ず命を落とす、運命の輪とは……比べようがないぬるま湯。
潜入先は引く手数多であったが、自ら申し出るような場所にろくな家はない。聖十字の士官学校を優秀な成績で卒業すれば、欲しがる名家は幾らでも。潜入するなら其方だと、先代神子……チャリス様は仰った。
「シャルルス、お前に会わせたい子が居る」
卒業し、次は何処へ行くのか。チャリス様はまだお悩みのようで、しばらくは海上任務に当てられた。任務内容は、カーネフェル王妃候補の護衛。学生時はあまり親しくなかったが、要人の護衛なら……養子先はカーネフェル? シャルルスからカーネフェリスとかに改名させてくれないかなぁ。そう思ったことも懐かしい。
数度の任務の後、僕はチャリス様に呼びつけられた。やっと養子先が決まったのだと思ったが、向かった第一聖教会……チャリス様の傍には僕より幼い混血が居た。養子先の両親ではない、小さな子供が。
カーネフェルの金髪に、同じく黄金色の瞳。それは光の角度によって宝石の琥珀のようにも見える。緑でも青でもない瞳……その子は歴とした混血だった。
「神子様……? ええと」
「この子は次代の神子じゃ。名はイグニス」
「は、はじめまして」
お目にかかれて光栄です、そんな言葉が出る前に……その子が僕に聞いてきた。
「はじめまして。君がシャルル? 」
「シャルル“ス”です」
「失礼、シャルルス。君の評判は聞いているよ。いつか僕も君を頼ることがあるだろう。その時はよろしく頼むね。ところで……君以外にもう一人、いるね。その子の名前は? 」
あの人は僕を覗き込み、彼女の存在を瞬時に見抜く。輝くあの人の瞳には、僕とは違う物が見えていた。琥珀色……? 黄金にも見える瞳に魅入られて、僕は嘘の言葉も出ない。
「あの子は……アルファ」
「それはあんまりじゃないか? 実験動物みたいで」
「それは……その」
事実、あの子はそんなようなもの。実験の結果、僕が生き延び生きて居る。考えたこともなかった。僕は、僕の片割れが……可哀想だなんて。僕は、僕が幸せだと思うことがあっても……あの子のことを考えなかった。考えたなら、僕があの子の犠牲の上に生きて居る、その事実に押し潰されそうで怖かったんだ。
「それじゃあ、“魂”。君の片割れの名は今から“アルマ”だ」
小さな神子は、彼女に名前を贈る。僕が省みなかった影に。
「シャルルス、僕はアルマにも挨拶がしたい。会わせて貰って良いかい? 」
「会わせる……ですか? そんなの無理です」
「無理じゃない。僕が名付けた。会えるはずだよ。君は数術に優れているね。僕が伝える数式を、展開してくれるだけで良い」
イグニス様が手を伸ばす。僕の額に手が触れる。無礼だとか不敬だとか、そんな思いも吹き飛んで……僕は咄嗟に後ずさる!
「嫌だ、やめてっ! 僕は怖い。彼女を引きずり出さないで! 僕は恨まれてる! きっとあの子に殺されるっ! 」
「彼女はそんなことはしない。仮にしようとしたって……僕がさせない」
頭を抱えその場に座り込んだ僕と、視線を合わせ、神子様が膝を折る。僕は僕が思っているより、ずっと子供のようだった。対する神子は、僕よりずっと大人びて見えた。
「約束するよ。僕が君を守ってあげる。でもそのために、君はそのままじゃいけない」
「い、嫌だっ……ぼくはっ! 」
「知りたくないかい彼女のことを。自身の半身に、恨まれていると思い込んだまま……君は生きていて本当に、幸せ? 君がそんなにも必死なのは、犠牲にした彼女の分も……そう思うからなんだろう? 」
展開される数術。聞こえる、僕ではない誰かの声が……僕の咽の奥底から。
*
(シャルルスアルマは偵察に出かけた。リオは監視が必要。ジャンヌ様は……休息が必要だ。俺などよりも……)
第五公への挨拶は……俺が行くしかない。冷静にもなった、考えはまとまった。ランスはゆっくり目を開く。
信頼できる者がもう一人……ジャンヌ様の護衛に欲しい。リオ=プロイビートは憑依数術のこともあり、安心出来ない。ジャンヌ様も連れて行く? アルドール様を残して? それも不可能。情報収集に向かった他の聖十字が戻るのを待つべきか。ここまで追い込んだのだ。道化師の追撃はないと思うが……
「ラトゥールさん、同行して頂けますか? 」
「アロンダイト様、寝惚けました? 」
目覚めて早々、第一声がこれでは頭を疑われる。まずは誤解を解いておこう。
「あれ以上何か言えば、本当に気絶するまで攻撃されると思ったので」
「気絶したフリですか? 」
「頭と身体は休めました。感謝します貴女には」
若い女性に殴られ倒れたとあっては騎士の名折れ。可憐な外見に反し、彼女は教会暗部の一員。あんなギャグパート内であっても、適確なダメージをぶち込む。急所を一撃され、一瞬意識が飛んだのは事実。そんな自分を馬鹿だと思う。
悔しいと思った。この状況で冷静さを欠く自分達とは違う、彼女達運命の輪。俺の王はまだ生きているのに、主を失った彼女達より俺は惨めな醜態をさらしていた。そのことに、気付かせられた。
「まずは助力の件、ディスブルー公に感謝を伝える必要があります。それと同時に、彼の思惑を探ろうと思います」
「確かに、アロンダイト様だけじゃ心配ね。今のメンバーだと……別行動ならそれがベストだと私も思います」
「助かります、ラトゥールさん」
「……ルキフェルで良いです。少し……貴方のこと、誤解していました」
名前で呼ぶなと敵愾心を露わにしていた彼女が、柔和な笑みを浮かべる。
「リオが貴方に迷惑を掛けたけど、まだ奥の手はいくつかありました。私も感謝します、“ランス”様。その手を明かさずに済んだこと。リオが生きて居るのは貴方のお陰です。イグニス様に代わってお礼を言わせて下さい」
毒薬で憑依数術を打ち消したが、自分も触れた毒に倒れ……大事なときに何も出来なかった。俺の行動はアルドール様を見捨て、部外者を救っただけ。結果だけ見た過大評価だと、俺は彼女を直視できない。
「俺は何も。ルキフェルさん、リオさんは本当にもう大丈夫なのですか? 」
「貴方が解毒毒を飲ませたんでしょう? あの薬なら大丈夫です。神子様が保証して下さいました」
あの場を打開するため、俺はリオさんに口移しで毒薬を飲ませた。今更減るようなものでもないと、俺の口から乾いた笑い声が落ちた。かつてエレイン……マリアージュを撒くために、従弟に無理をさせたことがあった。当時から俺は、目的のためなら手段を選ばない男だったのだろう。
(今更、何だ……)
主の危機だ。一大事だ。ジャンヌ様の反応など気にしていられるか! 第一彼女は俺のことなど何も思っていないのだ。俺が誰に何をしようと……彼女は気にも留めない。
「“カーネフェリア”様」
「!? 」
呼ばれた名前に、固まった。振り返る先、ルキフェルさんは目を瞬いている。
「? カーネフェリア様のこと、心配でしょうけど……出来ることをしましょう。城へはいつ出発しますか? 今すぐ行くなら、視覚数術の弾ならまだ余分にありますけど」
「あ、ああ……お願いします。出発は早い方が良い」
カーネフェリア。カーネフェル王家の名。俺の身にも流れる血の名前。
(何を馬鹿なことを)
考えるな。決して考えてはならない。主を裏切って手にする王の座も、王妃様も……俺が触れた途端に穢れてしまう。俺が手にして良いのは剣だけだ。カーネフェルを、我が王を守る道具があればそれで良い。俺は剣だ。アルドール様の、カーネフェルの剣なのだ。道具に心など要らない。
(母さん……)
*
「戻りましたよ第五公! 」
「こ、これは僧祗様」
二度と会いたくない。どこかで戦死してくれないか。そう思っていた男に再び出会した。私達を出迎えたディスブルー公はそんな心が表に出ている。カーネフェルの血は嘘の吐けない心根か、だからこの国では搾取される側となる。ああ、でもそれは……彼へと言うより私に向けてのものかしら。
「お久しぶりディスブルー公、お元気そうでなにより」
タロックの将に付き従う私の姿に、彼は大層驚いた。直接こうして顔を合わせるのは何年ぶりか分からない。
「……プリディヴィア公、ご健勝のようで」
「あらつれない。ファルマシアンと呼んで下さっても良いのに。いつかのように……ふふ」
「儂に近寄るな魔女がっ! 」
「そんなに邪険にして良いの? その魔女の力が貴方は必要なのですよ? 」
弱みならばいくつか握っている。その上、私を助けた相手から……とっておきの情報も聞かされていた。私は出し惜しみせず、交渉カードを表に出した。
「貴方の無能っぷりもカーネフェルの血? いいえ、あんな愚策は無能であっても使わない。どこぞと密約を結んだようね」
「……ここは、私の領地だ。王であっても干渉はさせぬ。それがセネトレアの在り方だ」
「そうね。王は君臨すれども統治せず。どんな手でも最終的に勝てばそれが正義」
第五公は、敵国カーネフェルを表向き支援は出来ない。その出自から責められることになるが、そうなればこの男の後継が困る。だから出来ない。でもそっと手助けは出来る。予め茶番を伝え、追い立てて追い詰める振りで、第一島に渡れるようにする。
「貴方に圧力を掛けた相手は知っている。何故貴方が教会に逆らえないかも、無策で戦に挑んだのかも。しかし哀れですね。貴方が溺愛するエリアス様は……既にあの病に感染しています。長くはないでしょう」
「!? 出鱈目を言うな魔女っ! エリアスは、私の……大事な」
「だって貴方の兵に入れ知恵し、ご息女とご息子を襲わせたのはこの私。いいえ、そもそもそういう輩を貴方に仕えさせたのはこの私ですのよ? 」
犯人が自らそう言うのだ。わざわざ嘘を吐く必要もないことを、第五公も知っている。故にがっくり膝を折り……涙ながらに床に拳を打ち付ける。この者達を殺せと叫んだところで、従う兵がいないこと。それにも彼は気付いていた。そうでなければ公爵に一報もなく城に侵入など出来まい。如何に私が同じ身分でも、此処は彼の島なのだ。
「カーネフェリアは人が良く、それ故に人を見る目がない。つまるところ、王の器にない。滅ぶべくして滅ぶ血なのです」
少しだけ、彼を哀れんだ僧祗の声。敗者へかける勝者の憐れみ。優しげな声はこの場に場違いで、彼の心を抉るだけだった。彼特有の、無意識な死体蹴り。
「何故……私が、あの子達が何をした!? 」
「貴方が何度も言ったことですわ。私は魔女なのでしょう? 魔女に人の心は分かりませんもの。知識のため……欲しいもののためなら何でもするのが、魔女と呼ばれるものでしょう? 」
このままこの男を支配するのは容易いが、それでは人手が足りないと……私は別の提案を持ちかけた。
第五公が養子を取らない理由。……それは公爵家の血を重んじるためだが、当人も息子も輸血で他人の物も混ざっている。完全に消えてしまうのと、人格や心……記憶や過去が残るならどちらがいいか。本当に我が子が大事なら、この男は私に屈する。
「……一つだけ、方法がある。貴方の愛するご子息は、器? それとも魂かしら? 」
見栄えの良い青、縋る誇りの王家の血。抜け殻の器なら……この地に一つ、あるだろう。
*
「……どうして、わかった」
「こちらの動きが決まるまで、貴方も動けないと思ったからです……」
シャルススがフロリアスを発見したのは、城下町内。アルドール王の安否が気がかりだったのか。宿の出入りが目視できる高台だった。少しでも公爵側に不審な動きがあったなら、その排除を考えていたに違いない。
《へっ、よく言うよ。この俺のお陰だろうが》
(ごめん、アルマはちょっと静かに)
交渉や説得に、アルマは不向きだ。シャルルスはそう判断した。彼女の嗅覚を頼り、フロリアスを捕捉したのは事実であるが、同時に外部と内部の声とで会話をするのは困難だ。僕は神子様とは違って、思考の並列処理は苦手。憑依数術だって純血は、同時に複数人は操れない。複数操る潜在能力があるのは混血だけ。第四公は、自分の身体を何処かにかくし、別人として行動している。この場合、視覚数術で見抜けない変装、身代わりと判断してまず間違いない。
(フロリアス……さん)
外見だけならカーネフェル人。人工的な哀れな紛い物。
彼は複合元素を操る数術使い。こうして直接会った彼を、神子レベルの術者とは思えない。相手がそのレベルなら、僕の追跡では追いつけないから。
《その程度の実力で、複合使いってなれば……》
(うん、消去法で……僕らと同じ。それ以外は残らない)
ハイレンコールには、フロリスという青年……それにフローリアという娘がいた。今ここにいるのは、フロリアスという名の混血一人。外見はフロリスをベースにされているが、日中に見た彼の数値と大きく異なるものがある。彼らは、僕らと同じで……僕らとは違う。
「貴方はあの事を気に病んでいるから……離れたんですよね」
説得は慎重にすすめなければ。彼らの中に、どんな爆弾があるかわからない。
「僕らは戦力が足りない。一緒に戦ってくれることが一番有り難いです。それはカーネフェルにとっても」
「それは出来ない」
「それなら、一度だけで良い。力を貸して下さい! 少しでもあの事を気にしているのならば……いいえ、貴方にはその、責任があります。貴方の情報があれば、カーネフェリアを元に戻すことも……不可能じゃありません」
「それも出来ない」
「フロリアスさん! 」
「……“私達”が知る王は、彼らの知る王とは違う。僕の情報では無理だろう。情報数術の恐ろしさはよく理解している。失敗すればどうなるかも想像に難くない。ならば違うやり方で償う。貴方がたが都に来るまでに、すべて片が付くよう私が道を切り拓く」
「張りぼてでも、別人でも……荷物よりは動く人形の方がマシです。一度……試させて下さい。その後は貴方の邪魔を僕らはしません。その通りの筋書きになるよう進言します」
「……情報数術は、誰にでも扱えるものじゃない。相手を壊さず使用できるのは、一部の者だけだ」
「フロリアスさん……貴方の仰るとおりです。アロンダイト卿は情報数術にも開花しましたが、荒技です。引き出された側は唯では済まない。あれが純血の限界でしょう」
自身が壊れることを危惧するフロリアス。その不安を取り除くべく、僕は僕の瞳を現わした。赤い瞳で彼を見つめる。
「だけど、僕は混血です」
「! 」
「勿論神子には及びません。それでも教会内部では情報分野で五本の指には入ります。フロリアスさん……手を、貸して下さい。数秒で構いません」
「お前……」
今使った情報数術は、彼の情報を引き出すもの……違う。僕らの情報を彼へと伝えるもの。そして……
「僕はシャルルス。妹はアルマ。本人は兄と自称していますけどね」
やっとこちらを見てくれた彼らに、僕らは改めて自己紹介。挨拶代わりに彼へと小瓶を与える。
「何だこれは」
「これは教会が開発した、風土病Disの薬です。治療とまではいきませんが、症状を和らげ進行を遅らせる。延命にはなります」
「こんな形状の薬は見たことが無い。石みたいだ」
「液体では不便ですからね。教会兵器ですよ、数値を弄り形状変化をさせました」
赤い石が詰まった瓶を、フロリアスは繁々と眺める。
「王妃殿には」
「同じ物を与えます。もっと良い薬も今手配しているところです」
「そうか……」
ほっとしたように、それでも何やら含みを混ぜて彼が言う。
「カーネフェリア様は、どうして彼女を妻としたのか聞いてもいいか? 」
「政略結婚ですよ。アルドール様には民を率いる魅力がなかった。彼女の存在が士気を上げ、タロックを追い返すに至ったのです」
「……」
「ですが、それなりに仲睦まじい二人ではありました」
「……ありがとう。君たちのことは信用しよう。だが共に行くことは出来ない」
態度こそ和らいだが、フロリアスは未だ頑なだ。仕方ないと、シャルルスは一枚カードを切る。
「貴方の仇は……教会の協力者が既に、討ちました。死神を見つけて、王の治療を行うことはもう無理です」
「!? 」
仲間が掴んだ情報では、死神オルクスは星が降って間も無く……セネトレアの魔女に討たれた。オルクスと同等、情報分野では神子レベルにあったセネトレアの魔女も、今は既に命を落とした。才能が散ってしまった以上、これから先は犠牲で補う事しか出来ない。
「……ならば尚更、其方には行けない」
「何故ですか? 貴方には」
「都には、丁度いい名前があると聞いた」
「まさか暗殺請負組織を、……“SUIT”を騙るつもりですか!? 」
王都では、東と西の請負組織……暗殺組織と商人組合の抗争があった。東西共に本来の長は死亡、代理の長が手を結び……今は休戦となったと聞いている。
《おい、シャルルス》
(うん、分かってる)
その情報を教会は入手していたが、ずっと第五島にいた人間には知る由もない。“情報数術”使いでもなければ。
「貴方はどこで、その“情報”を……? ハイレンコールにいた貴方達が知ることは出来なかったはず」
「情報数術じゃない。目を増やせば自然と情報は集まるものだ」
複合数術の一種で、それを為したと彼は答える。こんな状況でなければ是非とも教会で匿いたい才能持ちだ。
「一緒には行動できない。僕がカーネフェルのためと言えば、カーネフェルの評判が下がる。最期に私を賊として、カーネフェリアが討ってくれ。その時までに彼が……あのままだったなら、先の申し出を受けよう」
「あっ! 待って下さいフロリアスさん! 」
カーネフェルの兵を名乗れば、名誉が汚れる戦いをする。それでも勝利を引き寄せようと、フロリアスは言い残す。それが“カーネフェリア”への償いだとでも思っているのか?
《俺が行く! 》
(駄目だよアルマ! まずは報告だ)
《なんでだよ馬鹿!! 逃げちまうぞあいつ! 》
動かずその場に立ち止まり、身体もアルマに渡さない。僕の行動に、アルマは怒りを露わにするが……僕は彼女に訴える。
(……彼の、言った通りだと思う)
《シャルルス? 》
(僕はまだ、信用されてない)
混血の僕であっても、たぶん……僕の知る式では失敗する。僕は昔からそうだ。イグニス様が居なければ、自分の片割れさえ救えなかったのだから。