2-0 トゥーリー村へ
ディメンダーXこと、宇宙ハンター部隊に出向中の科学者・久保田武は、次元艇ディーフェニックスでインベーダーを追跡中、ワープ空間からインベーダーの発生源である『ネスト』内に迷い込む。
ネストの内部はインベーダーの巣窟であると考えられていた。しかし、武がそこで見たのは、地球とよく似た風景だった。
ネストはインベーダーの巣窟ではなく、地球とよく似た異世界だったのだ。
ネストの中で、武は、インベーダーを『魔物』と呼び、それらと戦う『勇者』たちと出会った。
ブラフという人型インベーダーに追い込まれていた勇者・アダムを、武はディメンダーXに変身し助け出す。そしてダークゾーンに逃げ込んだブラフを追いかけ、見事これを倒したのだった――
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ディメンダーXことタケシ=クボタと聖剣エクスカリバーが変身した少女・ギー。
謎の人物二人と出会った聖剣の勇者・アダムは、エクスカリバーを追いかけてきた重装の勇者・ビル、忍びの勇者・ターニアと共に、魔弾の勇者・カルロスが待つジャンドール砦へと戻った。
「リーダー!・・・・・・よかった・・・・・・無事だったんですね!」
アダム達がジャンドール砦に戻ると、意識を失った魔導の勇者・リサと癒しの勇者・マリーを護衛するために残ったカルロスが出迎えた。荷車の上で寝かされているリサとマリーもとりあえず無事のようだ。
「すまん、カルロス・・・・・・恥ずかしながら帰ってきた」
「リーダーが無事ならいいですよ!それよりも・・・・・・」
アダムの生還を喜びつつも、カルロスは自転車を押す東洋人の男――クボタとアダムの横にピッタリ寄り添う白いワンピースの少女、ギーに目を向ける。
「リーダー、この二人は一体・・・・・・」
「今から説明する。信じられない話かもしれないが、信じてくれ」
アダムは話し始めた。自分が見た、クボタの活躍と、目の前で起きたエクスカリバーの異変を――
「では、このクボタという男がディメンダーXとやらに変身してブラフを倒し、エクスカリバーがこのギーという女の子に変身した、と?」
「そうだ・・・・・・といっても信じてもらえないだろうが・・・・・・」
「すみません、とても信じられません・・・・・・」
アダムの話を聞いたカルロスだったが、やはり信じられないようだ。ビルとターニアに顔を向ける。
「ビル殿、ターニアちゃん、リーダーの話は本当なのですか?」
「ギーちゃんに関しては本当だよ。クボタのおっちゃんの方はわからないけど・・・・・・」
「アダム殿が生きて帰ってきたのが何よりの証拠だ。私もいまだに信じられないが」
ビルとターニアの証言を聞き、カルロスはとりあえず信じることにした。このまま疑い続けていても、話が先に進まない。
「えーと、よろしくお願いします、カルロスさん。タケシ=クボタです」
「あ、ああ、よろしく・・・・・・」
黙って話を聞いていたクボタが、カルロスに握手を求める。
平民がこうやって気安く貴族に握手を求めることは、ラスコー王国の常識ではありえない。ビルが咳ばらいをして注意する。
「クボタとやら、ここにいる勇者は皆、ラスコー王国の貴族だ。お前の国ではどうかは知らないが、平民が貴族に握手を求めるなどありえん。わきまえろ」
その言葉にクボタは一瞬で硬直し、カルロスから手を放して大きく後ろに下がって直立不動になり、深々と頭を下げた。
「も、申し訳ありませんでした!カルロスさん、じゃなくてカルロス様!」
その光景にアダムはため息をついた。
「先生、彼は俺たちの命の恩人ですよ?そこまで強要しなくても・・・・・・」
「いえ、ダメです!確かにアダム殿の命の恩人かもしれませんが、このクボタが怪しい人物であることに変わりはありません!ラスコー王国の貴族として、勇者として、ここで舐められるわけにはいかんのです!」
ビルは主張を譲らない。
クボタも控えめに自分の意見を述べる。
「アダム様、私もこの国の貴族の方々に無礼なふるまいはできません、どうかお気になさらないでください」
「まあ、クボタ殿がそう言うなら・・・・・・」
話がひと段落したところで、ギーがアダムの手を引っ張った。
「ねえ、アダム」
「どうした、ギー?」
「これからどうするの?」
「そうだな・・・・・・」
アダムは黙考する。
ブラフが滅びた今、わざわざ遠回りして王都を目指す必要はない。リサとマリーのこともある。
「予定変更だ。このまま最短ルートで王都まで向かう」
「と、なると次の行き先は・・・・・・」
カルロスが地図を取り出す。
「トゥーリー村ですね」
「ああ。とりあえずトゥーリーを目指す。そこで可能ならば、リサさんとマリーの意識を戻そう」
主に魔法担当のリサとマリーの二人が倒れて動けなくなり、アダム達四人の魔力も底をつきかけている。回復魔法で二人の意識を取り戻すことは難しい。トゥーリー村は大きな村ではないが、魔力回復薬ぐらいはあるはずだ。これを用いてアダムの魔力を回復し、アダムの回復魔法を使ってリサとマリーの意識を取り戻すことができる。二人とも今のところ勇者の紋章のおかげで命に別状はないが、このまま放っておけば二人の体力を消耗させ、命の危険をもたらすことになる。可能であれば、一刻も早く意識を取り戻した方がいい。
「・・・・・・アダム殿、リサ殿はともかく、今、マリーの意識を取り戻すのは危険ではないですか?」
ビルが異論を唱える。
「彼女は『魔の全の解放』で我々を巻き込んで心中しようとした。いま、意識を取り戻した場合、同じことをしないとも限らない」
ビルの懸念はもっともだ。リサとマリーが倒れたのも、もとはと言えばマリーの無理心中未遂が原因だ。ブラフの永遠の闇の脅威に圧倒され、ニラーナ将軍の裏切りを受けたために精神が不安定になったマリーは、自分の魔力をすべて使い、アダム達を巻き込んで無理心中を図ったのだ。
マリーの現状を不安視するビルに、カルロスが反論する。
「でも、もうブラフはいません。この状況を説明すれば大丈夫ではないですか?」
「信じてくれなかったらどうする?不安定な精神状態のまま、またあの魔法を使われたら?」
ビルの指摘に、カルロスは何も言うことができない。
アダムはパン、と手をたたいた。
「その話はトゥーリーに着くまで保留にしよう。とにかく、出発だ。ギー」
ビルとカルロスの話を一旦中断させ、アダムはギーの方を見る。
「元の姿に・・・・・・エクスカリバーに戻ってくれないか?」
「嫌」
ギーはアダムの要求を拒否し、ターニアの背中に隠れた。
「どうしてだ、ギー?」
「罰」
アダムの問いかけに、ギーは無表情で短く答えた。
ターニアがしゃがみ込んでギーに理由を尋ねる。
「罰?ギーちゃん、どうしてエクスカリバーに戻ってくれないの?」
「アダムはギーのこと捨てようとした。だから、罰」
なんてことだ――アダムは天を仰いだ。
武器が無ければ、道中で魔物に襲われたとき対処できない。
自分が殿になろうとしたことがこんなところで仇になってしまうとは・・・・・・
アダムは素直に謝る。
「すまなかった、ギー。俺が悪かった・・・・・・どれくらい待てばいい?」
「次に魔物が襲ってくるまで」
「・・・・・・わかった、ありがとう」
「感謝するといい。ギーのありがたみを身をもって味わうといい」
ギーの返事は、意外とありがたい返事だった。
とりあえず戦いに支障は出ないだろう。
「エクスカリバー!お前自分の主人であるアダム殿に向かって――」
「先生はちょっと黙ってて!念のため、この砦の剣を拝借しよう。さすがに丸腰はきつい」
武器庫には一般の兵士に支給される剣が残っていた。それを二本、アダムとビルの分をもらうことにする。アダムはエクスカリバーが使えないため、ビルはアダムがブラフとの戦闘中にビルの鋼鉄の剣を折ってしまったため。
勇者が使う武器としては能力不足だが、やむを得ない。
「それと、封印の鏡。カルロス、全部持っているな?」
「はい。ここに」
魔王ジゴ・ラドキ封印のために必要な『封印の鏡』、合計四枚。管理を任されていたカルロスが懐から取り出し、確認する。
「よし、準備を整えて、出発だ!」
アダム達はトゥーリー村へと向かう。
二人の負傷者と、二人の謎の存在を連れて。