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1-7 謎の男と謎の少女

「アダム兄ちゃん!」

 「アダム殿!」


 木々をかき分け、逃げたはずのターニアとビルが駆け寄ってくる。

 

 「ターニア・・・・・・先生・・・・・・なんでここに?」

 「アダム兄ちゃん・・・・・・よかった、無事だったんだ」

 「アダム殿、よくぞご無事で」


 涙目のターニアがアダムに近づいてくる。そして、


 バン!


 ジャンプして、アダムの頬を思いっきりひっぱたいた。


 「バカ」


 そう言ってアダムの腰に抱き着いた。顔をアダムの腹に押し付けて表情は見えないが、嗚咽が漏れる。


 「ごめん、ターニア」

 「アダム兄ちゃんの大バカ野郎・・・・・・本当に死んだかと思った・・・・・・もう会えないかと思った・・・・・・もうお話しできないかと思った・・・・・・」

 「ごめん」


 アダムはターニアの体を抱きしめて、謝ることしかできなかった。

 

 「アダム殿、よろしいですか?」


 ビルが割って入る。アダムはターニアを抱きしめたまま質問に答える。

 

 「アダム殿、ブラフは・・・・・・」

 「逃げました。あの東洋人の男が・・・・・・ディメンダーXが追い払ってくれました」

 「ディメンダーX?」

 「彼は自分のことをそう名乗りました」

 

 ビルは首を傾げた。


 「その・・・・・・彼が、追っ払ったんですか?我々が敵わなかった――いや、軍を動員しても勝てなかったブラフを?」

 「ええ・・・・・・信じられませんか?」

 「信じられませんね・・・・・・もし本当にたった一人でブラフを追い払ったのなら、それはとても人間技とは思えない・・・・・・」

 

 そうだろうなとアダムは思った。

 目の前でその光景を見た自分ですら、いまだに信じられないのだ。ビルが信じられないのも無理はない。今、アダムがこうやって無事であることが何よりの事実の証明であっても。

  

 「ところで、そのディメンダーXとやらはどこにいるんですか?」

 「ブラフを追って永遠の闇の中に飛び込みました」

 「はあっ!?飛び込んだ?永遠の闇に?」


 驚くのも無理はないか、とアダムは思った。

 

 「ディメンダーXはそのまま姿を消しました。どうなったかはわかりません」

 「なんと・・・・・・」


 ビルはやはり信じられないようだ。訳が分からないという顔をしている。

 アダムは話を切り替えることにする。自分が知ったことを話さなければならない。

 

 「とにかく、自分は助かりました。ただ、ブラフには我々の情報が漏れています」

 「情報が漏れている?」

 「はい。ブラフは俺が囮になることを知っていました。それに勇者の紋章のことも」

 「本当ですか?・・・・・・国家機密まで漏れているとは・・・・・・」


 勇者の紋章のことも含め、勇者に関する情報はラスコー王国の国家機密だ。平民はもちろん、貴族でさえそう簡単に知ることはできない。

 さらにブラフはアダム達の作戦まで察知した。何をどうしたかわからないが、恐るべき諜報能力だ。


 「作戦を変えましょう。遠回りは逆に待ち伏せされている可能性があります。こうなったら危険ですが最短ルートを高速で駆け抜けて――」

 「その必要はありませんよ」

 

 空から声が聞こえた。

 アダム達が空を見上げると、銀色の空飛ぶ板に乗った全身銀色の男――ディメンダーXがいた。永遠の闇から無事生還したようだ。


 「ディメンダーX!」

 「え、これが・・・・・・?でも、姿が・・・・・・」

 「変身魔法ですよ、先生。彼は俺の前でこの姿に変わりました」


 ディメンダーXは板から飛び降り、地面に着地する。ターニアもアダムから離れ、三人の勇者とディメンダーXが向かい合う。

 最初に話し出したのはディメンダーXだった。


 「ご安心ください。皆さんがブラフと呼んでいたインベーダーは倒しました」


 インベーダー・・・・・・彼が何度か口にしていた言葉だ。

 文脈から察するに魔物のことだろうとアダムは思った。

 ディメンダーXの言葉を信用するのであれば、ブラフは滅びたらしい。


 「ディメンダーX・・・・・・俺を助けてくれて、ブラフを倒してくれてありがとうございます」


 アダムは彼に感謝を述べる。そして続ける。


 「しかし、あなたの強さは異常です。あなたはどこの国の人間ですか?あなたが使う魔法は一体何なのですか?」


 アダムは問いかける。

 するとディメンダーXは左手の籠手の丸い部分を回した。再びその姿が銀色の光に包まれる。光が消えると、ディメンダーXの姿は元の姿――体に密着した服を着た、東洋人の姿に変化した。


 「ディメンダーX・・・・・・やはり銀色の姿は鎧のようなものでしたか。それがあなたの本当の姿ですか?」

 「はい。それと私の本当の名前はディメンダーXではありません。ディメンダーXはコードネームです」

 ディメンダーXは本名ではない?確かに変わった名前だとは思っていたが。

 ディメンダーXは続ける。


 「私の名前はクボタ=タケシ。ニッポンのウチュウハンター部隊出向中のカガク者です」


 ディメンダーX、いや、クボタ=タケシはそう言った。

 しかしわからない単語が多すぎる。

 ニッポン?ウチュウ?カガク?

 ニッポンは国の名前だろうか?聞いたことがない国だ。


 「タケシ殿、ニッポンというのは、国の名前ですか?」

 「はい。私はニッポンのカガク者です。今は軍人みたいなことをしていますが」


 カガク者――軍人ではないのか?

 アダムは彼が使った魔法について再度質問する。


 「あなたは魔導士なのですか?あなたが使った魔法は一体何なのですか?」

 「あれは魔法ではありません。カガクです」


 カガク――魔法のことだろうか?

 アダムが首をひねっていると、今度はビルが問いかけた。


 「タケシ殿とやら・・・・・・名字を持っているということは、貴殿は貴族なのか?」

 「いいえ、違いますが・・・・・・」


 貴族じゃない?

 名字を持っているのに貴族じゃない?

 また不思議なことが出てきた。いったい彼は何者なんだ?

 ビルがアダムに耳打ちする。

 

 「アダム殿・・・・・・この男、怪しすぎます。ブリテンか、ゲルマンか、最悪魔王軍の間者かもしれませんぞ?」

 「かといって、どうすることもできません。今は事を荒立てないように。拘束なんてもってのほかですからね。殺されますよ」

 「そんなに強いのですか?」

 「おそらく、俺たちが束になっても勝てません」

 「なんと・・・・・・」

 

 タケシの強さを目の前でアダムはビルに釘を刺した。

 自分たちがブラフの二の舞になったら洒落にならない。


 「タケシ殿、俺たちはとりあえずあなたと敵対する意思はありません。ただ、念のためあなたには俺たちの監視下に入ってもらいます。このまま王都までご同行願いたい」

 「ありがとうございます!私もいきなりここに迷い込んで困っていたのです。公的機関に連れていってもらえるのなら、非常にありがたいです!」


 そう言ってタケシは頭を下げた。

 本当に貴族ではないようだ。簡単に頭を下げるし、口調も丁寧だがどこか軽い。

 タケシはアダムに近づき、右手を差し出し、握手を求めた。


 「改めまして、クボタ=タケシ・・・・・・ああ、ここでは逆ですね、タケシ=クボタです。クボタが名字です。よろしくお願いします」

 「それではクボタ殿ですね。アダム=レオトレーシーです。こちらこそよろしく」


 アダムはクボタの手を握る。


 「アダム殿、この男は平民ですぞ!そんな簡単に握手してよろしいのですか!?」

 「俺はその辺気にしません。何より命の恩人です」

 「じゃあ、僕も。よろしくクボタのおっちゃん。僕はターニア=ザクトリー。よろしく」

 「ターニア・・・・・・お前まで」

 

 勇者たちはラスコー王国の貴族である。貴族と平民が握手をするなど考えられない。ビルはアダムをいさめるが、アダムはまったく気にしていないようだった。

 アダムに続いてターニアもクボタと握手する。ビルもあきれ果てた。


 「皆さん、よろしくお願いします。ところで、皆さんのことについても教えてほしいんですが――」


 クボタが言いかけたその時だった。

 空から、アダムの目の前に一本の剣が落ちてきた。


 「うわっ!」


 思わず後ろにのけぞる。

 

 「これは・・・・・・エクスカリバー?」


 空から降ってきた剣――それはアダムがビルに預けたはずのエクスカリバーだった。

 それがなぜ空から降ってきたのか?アダムはビルの方を向く。


 「それが・・・・・・砦から出てしばらくして、クボタが自転車で立ち去った後に、いきなり私の手元を離れて飛んで行ったのです」

 「飛んでいった?」

 「はい、文字通り飛んでいきました。そしてそれを追いかけていくと、アダム殿がいらしたわけです」

 「どおりで、先生とターニアが俺のところに来れたのか・・・・・・」


 アダムのいないところでも、信じられない不思議なことが起こっていたらしい。


 「あ、アダム兄ちゃん、エクスカリバーが・・・・・・!」

 「なんだ!?」


 突然、エクスカリバーが輝きだした。

 光に包まれて、ゆっくりとその形が変化していく。

 

 「これは・・・・・・人・・・・・・?女の子・・・・・・?」


 光が弱まり、消える。

 アダムの前で、エクスカリバーは剣の形から、十歳くらいの白いワンピースの女の子の姿に変化した。

 アダムは恐る恐る目の前に現れた女の子に話しかける。


 「エクスカリバー・・・・・・なのか?君は一体――」

 「ギー」


 女の子は「ギー」と口にした。


 「ギー?」

 「ギーはギー。アダムの聖剣だよ。ずっと一緒だったよ」


 ギー・・・・・・それが彼女の名前のようだ。


 「アダムが重装の勇者にギーを渡しておいていくから、追いかけてきたの」


 女の子――ギーは無表情で答える。

 そしてクボタの左手の籠手を見ると、急に表情を明るくして、友達に話しかけるかのように籠手に向かって話しかけた。


 「こんにちは。ギーだよ。よろしくね」


 剣が変化した少女が、身元不明の男の籠手に話しかけている。

 おかしな光景である。クボタも含めて、唖然としている。

 今日は、不思議なことがたくさん起きるな・・・・・・

 アダムは大きくため息をついた。

間が空きましたが、ようやく1話完結です。

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