1-6 戦え、ディメンダーX!
作者の趣味により、戦闘シーン増量
「コンバットシステム、起動!」
「電装!」
久保田武は左腕のメインコントロールブレス・Xコマンダーの丸ダイヤルを回すことでディメンダーXのコンバットシステムを起動させ、イグニッションレバーを押すことでディメンダースーツを展開、0.07秒で『電装』し、ディメンダーXに変身する。
ディメンダーXは対インベーダー試作型戦闘パワードスーツである。武の身体に合わせてカスタマイズされている。あらゆる機能を備え、各種試作兵器を自在に扱うことができる。
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「ディメンダー……エックス……?」
銀色の男――否、ディメンダーX。
短時間に、目の前で理解を超える現象が次々と起きて、アダムは混乱していた。
「ディメンダーXさん……いいでしょう、まずはいい所を邪魔してくれたあなたから、あの世に送って差し上げましょう……行け!」
ブラフの指示に、アーマーゴブリンを先頭に、バーサークゴブリン、メイジゴブリンたちが一斉にディメンダーXにむかって走り出す。
「行くぞ!」
対するディメンダーXも右手で地面を強くたたいて改造ゴブリン達の群れに向かって飛び込んでいく。
「グラビティパンチ!」
アダムはディメンダーXの右手に闇の魔力が集中するのを感じ取る。
ディメンダーXがその拳で一体のアーマーゴブリンを殴ると、近くにいた十数体のアーマーゴブリンが同時に吹っ飛ばされる。
「ボルトキック!」
続いて雷の魔力が彼の両足に集中する。その両足でバーサークゴブリンやメイジゴブリンを連続で蹴ると、やはり周囲の別のゴブリン達を巻き込んで強烈な電撃のダメージを与える。
「む!」
生き残った改造ゴブリン達も負けじと攻撃を仕掛けてくる。
狂戦士・バーサークゴブリンがディメンダーXに乱暴に殴りかかる。しかし攻撃はディメンダーXの左腕に簡単に受け止められた挙句、右腕から放たれたパンチを食らいバーサークゴブリンたちは一発で昏倒してしまう。
続いてメイジゴブリンたちが爆炎魔法を放つ。
「とうっ!」
ディメンダーXはこれを大きく後ろに宙がえりして回避。
「ソニックブーム・アタック!」
地面に並行にジャンプして、爆発の中を潜り抜け、改造ゴブリンたちに超高速で体当たり。その際に発生した魔力を帯びた衝撃波を受けて改造ゴブリンたちは木っ端微塵になってしまった。
「なんて強さだ……」
アダムは茫然とその光景を眺めていた。
エクスカリバーでも倒せなかったアーマーゴブリンをパンチで吹っ飛ばし、勇者たちに大きなダメージを与えた爆炎魔法を軽々と避け、アダム達があんなに苦戦した改造ゴブリン達をたった一人で一掃してしまった。
「おのれ……ゴブリン達がここまで数を減らされるとは……しかし」
改造ゴブリンの数を大きく減らされて動揺しつつも、ブラフにはまだ余裕があった。
「この永遠の闇がある限り、ディメンダーXさん、あなたの戦いは終わらない。ゴブリンども、ディメンダーXさんを袋叩きにしてしまいなさい!」
ブラフの背後、永遠の闇の中から新たに生み出された改造ゴブリン軍団があふれだす。
「ダークゾーンか……デュアルロッド!」
無尽蔵にあふれる敵に囲まれ絶望的な状況であるはずなのに、ディメンダーXは動じない。左腰に備え付けた銀色の鉄の棒を、剣を抜くように振り抜く。
新たにあふれ出てきたバーサークゴブリン、アーマーゴブリン、メイジゴブリンがディメンダーXにじりじりと近づいてくる。凄まじい威圧感だ。
ディメンダーXは振り抜いた銀色の鉄の棒、デュアルロッドと呼ばれたそれを構える。
「はあっ!」
ディメンダーXは残像が残るほどのスピードで駆けだす。
改造ゴブリン達が攻撃を仕掛ける前に、超高速で移動しながらデュアルロッドを叩きつける。
「たあっ!たあっ!たあっ!……たあああっ!」
瞬く間にすべての改造ゴブリン達を叩きつけた後、改造ゴブリンたちはその動きを止める。そしてそのままゆっくりと地面に倒れ、大爆発。全滅してしまった。
「おのれ……」
「お前がブラフか?人型インベーダー」
ディメンダーXはブラフにデュアルロッドを向ける。
永遠の闇からは改造ゴブリン達が生まれ続けるが、ディメンダーXには雑魚同然。何百体生み出してもすぐに一掃されるだろう。
「こちらが圧倒的に不利か……総員退却!」
ブラフは撤退を選んだ。前に出ていた改造ゴブリン達が一斉に永遠の闇の中に飛び込む。
「命拾いしましたねえ、アダムさん……ディメンダーXさん、その名前覚えておきましょう」
ブラフも、改造ゴブリン達と一緒に、永遠の闇の中に消えていった。
大きく広がっていた。永遠の闇がどんどん小さくなっていく。
「助かった……のか……」
「いえ、まだです。ダークゾーンの中に逃げ込まれてしまった」
想定外の出来事が起き、捨てるはずの命を捨てずにすんだ。
アダムは胸をなでおろす。
だが、ディメンダーXはそうでもないようだ。まだ緊張感を維持している。
「アダムさん……ですね?あなたは仲間の皆さんのところに戻ってください。多分、砦のところに戻っているはずです」
アダムにそう言うと、ディメンダーXは左腕を目の前にもっていき、叫んだ。
「ワープスライダー!」
左腕の籠手から水色の光の筋が天に向かって伸びる。すると空から、銀色の板が飛んできた。
「とうっ!」
ディメンダーXは銀色の板に飛び乗る。そのままディメンダーXは、小さくなり続ける永遠の闇の中へ飛び込んでいってしまった。
「え……」
アダムはまた茫然となってしまった。
永遠の闇の中に飛び込むなんて、考えもしなかった。
永遠の闇はどんどん小さくなり、そして消えていく。
アダムはただ、眺めていることしかできなかった。
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ワープスライダーに乗り、ダークゾーンの中に飛び込んだディメンダーXは途中のワープゾーンを抜け、その最深部に到着した。
「とうっ!」
ワープスライダーから飛び降りる。
ダークゾーンの内部は、光の一切届かない、次元のゆがんだ広い空間である。不安定な空間のため、ダークゾーンごとにその地形は異なる。今回は硬い石の地面がどこまでも広がっている空間だった。ディメンダーXも次元センサーを介さないと内部の様子を視認することができず、さらにディメンダースーツに内蔵されたキープ・ボーン・フレームがないと動くことすらできない。
「出たな」
そしてダークゾーンの内部は、インベーダーの巣窟でもあった。
変異ゴブリンタイプのインベーダーが、侵入者であるディメンダーXに襲い掛かってくる。
「デュアルマグナム!」
右腰に備え付けた特殊拳銃・デュアルマグナムを抜き、ビーム弾を連射して無数の変異ゴブリンタイプのインベーダーを一掃する。
「アナライズ・ビーム!」
ゴーグル部分から高感度解析光線を放ち、インベーダーの発生源『エッグ』を探す。
「そこか!」
ディメンダーXから遠くの方に、無数に並んだ、大きな卵型の装置――インベーダーを生産し続けるエッグを見つけ出す。
ディメンダーXはデュアルマグナムの銃身を伸ばし、スナイパーモードに変形させる。
「くらえ!」
遠距離からの高精度の射撃でエッグの生産コントロールシステム部分を破壊。
これでインベーダーが生まれることはなくなった。
「よし……」
「やってくれましたねえ、ディメンダーXさん……」
エッグを機能停止にしたディメンダーXの前に、闇の中から仮面をつけた人型インベーダーが現れる。彼らが言っていたブラフという者だろうか?
「しょうがありません。こちらも本気を出しましょうか……」
ブラフがその両手を広げる。ブラフの全身がぶくぶくと膨れ上がり、その姿が変わっていく。人間サイズだったものが10メートル位に巨大化する。
「ガアアアアアアアッ!」
「ゾンビリザードタイプ……それが正体だったか!」
理性を失ったブラフが変身したのは、全身がゾンビのように腐敗をしている、巨大なトカゲ型のインベーダーだった。人型の面影は額に乗せた仮面だけだ。
「ウガアアアア!」
「うおっ!」
ブラフ巨大変身態は怪獣のように口から強力な溶解液を吹き出す。ディメンダーXは回避する。溶解液が吹きかけられた石の地面が煙を上げて溶け出し、大きな穴が開く。ディメンダースーツとはいえ、まともに受ければおそらく無事では済まない。
あまり時間はかけられない。
ディメンダーXはすぐに決着をつけることにした。
「デュアルロッド・ブレード!」
デュアルマグナムをデュアルロッドに持ち替え、先の方から光り輝くエナジーブレードを展開させる。
「ウガアアアア!」
ブラフ巨大変身態がディメンダーXを噛み砕こうと、突撃してくる。
〈フィニッシュモード・スタンバイ〉
ディメンダーXはそれを前に突っ走りながら横に避け、デュアルロッドの×ボタンを押す。システム音がフィニッシュモードに入ったことを告げる。
「うおおおおおっ!」
ブラフ巨大変身態の懐に潜り込み、左腕の籠手・Xコマンダーのイグニッションレバーを押す。
〈フルバースト!〉
ディメンダーX全身のパラドックスエンジンがフル稼働し、デュアルロッドのブレード部分に膨大な電子エネルギーが集中、銀色に強く輝く。
「ブレード・フィニッシュ!」
ブラフ巨大変身態の腹部を一直線に切り裂き、突き抜ける。
「ガアアアアアアアッ!」
断末魔の咆哮を上げ、ブラフ巨大変身態が崩れ落ちる。
ブレード・フィニッシュによって全身に注入された電子エネルギーが内部からブラフ巨大変身態を破壊していく。
そして、大爆発。
ブラフはダークゾーン内で完全に消滅した。
「なんだ……?」
ディメンダーXのレーダーデバイスが警告音を発する。
まだ敵がいるらしい。ディメンダーXは注意深く周囲を見回す。
「ヨクモ……ヤッテクレタナ……」
インベーダー反応は真下の地面から。さらにレーダーデバイスはノイズのような恨みのこもった声を拾う。同時に地面が激しく揺れだす。
「やばい!」
ディメンダーXは嫌な気配を察知し、大きく後ろにジャンプした。
ディメンダーXがいた場所の地面が二つに裂けて、地面の下から巨大な影が姿を現す。その大きさはブラフ巨大変身態の比ではない。
「ヤツザキニシテクレル!」
「くそ! ジャイアントティラノか!」
レーダーデバイスが、現れた超巨大インベーダーの声を拾う。
超巨大インベーダー……恐竜ティラノサウルスのような姿をした、ジャイアントティラノタイプは全長約50m。通常のジャイアントティラノタイプとは異なり、爪が異様に鋭く、大きくなっている。
これがブラフの本体なのだろうか?
「ウガアアアアア!」
ジャイアントティラノが口から炎を吐き出す。ディメンダーXの周囲はたちまち炎の海になる。
「うわあああああ!」
炎を避けるディメンダーXに、ジャイアントティラノは大きな爪を振り下ろす。
ディメンダーXは間一髪のところで回避するが、このままではなす術がない。
「このままでは……しかし……!」
ディメンダーXは迷う。対抗手段はある。対抗手段はあるが、墜落の衝撃で相当ダメージを受けているはずだ。かなり不安定な状態だろう。
「持ってくれることを願うしかないか……」
ディメンダーXはXコマンダーの三角ボタンを押しながら叫んだ。
「ディーフェニックス! ディードラゴン!」
Xコマンダーのメインモニターから、水色のマテリアライズ・ビームが天に向かって伸びる。マテリアライズ・ビームは巨大な戦闘機と宙に浮かぶ戦艦を作り出す。
ディメンダーXが乗ってきた次元艇・ディーフェニックスと、多数のマルチキャノンを装備した次元戦艦・ディードラゴンだ。
「搭乗!」
ディーフェニックス下部から発せられたトラクタービームに乗り、ディメンダーXはディーフェニックスに乗り込む。緊急用搭乗シューターから操縦席に座り、イグニッションレバーを倒す。
<パラドックスエンジン出力不安定……最大活動時間5分>
「5分か……だがやるしかない。行くぞ!」
コンピュータがあまりよくない情報を知らせる。予想した通りだ。しかし、他に手段はない。ディメンダーXは覚悟を決めた。
ジャイアントティラノが火を噴く。ディーフェニックスとディードラゴンは左右に分かれてこれを回避する。
「ディードラゴン、ボンバー!」
ディメンダーXの遠隔コントロールで、ディードラゴンのマルチキャノンから多数のミサイルが雨あられと発射される。
「ギヤアアアアアアアア!」
「フェニックス・レーザー!」
ミサイルの雨の直撃を受けてもだえ苦しむジャイアントティラノ。そこにすかさず、ディーフェニックスが両翼からレーザー攻撃をジャイアントティラノの口の中に撃ち込む。
間髪入れずに繰り出される攻撃に、ジャイアントティラノがひるんだ。
<残り3分>
「グレートフォーメーション!」
ジャイアントティラノがひるんだ隙に、ディーフェニックスとディードラゴンは合体態勢に入る。
ディードラゴンが両足と胴体に変形し、ディーフェニックスが背部の翼と胸部装甲、両腕に展開する。二つは合体し、最後に胸部のプレートが開き、頭が出現して合体が完了する。
背中に大きな翼、全身に火砲を満載した巨大な鋼鉄の巨人が出現した。
「完成、グレートディメンダー!」
合体したグレートディメンダーは全長約50m。ジャイアントティラノと同じサイズだ。
「ウガアアアアアア!」
起き上がったジャイアントティラノが再び爪を立てて襲い掛かってくる。
「時間がない……フィンガーキャノン!」
グレートディメンダーの指からエネルギー弾が発射される。ジャイアントティラノの動きが鈍る。
<残り1分>
「とどめだ!」
<フィニッシュモード・スタンバイ>
ディメンダーXがコントロールパネルの×ボタンを押す。
グレートディメンダーの胸部・エナジープレートに大量の電子エネルギーが集束する。
「グレートバニッシャー!」
<フルバースト!>
エナジープレートに集められた電子エネルギーがジャイアントティラノに向かって一斉に放出される。全身を電子エネルギーの高出力ビームで焼かれてはひとたまりもない。ジャイアントティラノは断末魔を上げて爆発四散した。
<活動限界……緊急脱出シマス>
「ん……? うわあああああああっ!」
戦闘終了した直後、グレートディメンダーも時間切れを起こしたようだ。グレートディメンダーの巨体は一瞬でデータ化されてその実体を失い、中のディメンダーXは50m下の石の地面に落下した。
「痛たたた……!」
ディメンダースーツを装着しているおかげで無傷ではあったが、衝撃を完全になくすことはできないため、どうしても体が痛む。
「チェック……やっぱり、しばらくは使えないか……」
ディメンダーXは立ち上がり、ディーフェニックスとディードラゴンのデータを確認する。やはり、ネスト内に飛び込んだ時の衝撃で何かしらのデータ上のダメージを受けていたようだ。モニターを見る限り、自動修復には時間がかかりそうである。
「むっ!」
突然地面が揺れだす。
主を失い、不安定な状態だったダークゾーンがついに崩壊を始めたのだ。
石の大地がひび割れ、奈落の底に落ちていく。
ディメンダーXはすぐさま、空中で旋回していたワープスライダーに飛び乗った。
「脱出!」
そして消滅を始めるダークゾーンから脱出するのだった。