6-7 王子と王女を奪還せよ!
すみません、サブタイトルとトドメの一撃を変えました。
「『終末の衝撃剣』!」
「『連続斬り』!」
アダムとターニアは王宮1階ホールに続く左右の扉を交互に移動しながら、ベルゼブブたちを迎撃する。ターニアの連続斬りでベルゼブブの動きを牽制し、アダムの終末の衝撃剣がベルゼブブを一掃する。この繰り返しで無限にわいてくるベルゼブブの侵攻を防ぐ。
ディメンダーXがベルゼブブの発生源を攻撃しているおかげだろうか、ベルゼブブの数は少なくなっているように思える。
「アダム兄ちゃん、これ行けるんじゃない?」
「ああ、だが気を抜くな」
アダム達の奮闘で、王宮を覆う黒い霧のようなベルゼブブは徐々に薄くなっていく。あと少しで、ベルゼブブによる王宮占拠は終わる。もうすぐディメンダーXが帰ってくる。
アダムとターニア、兵士たちの間に楽観的な空気が出てきたその時だった。
「た、大変だ! 王の間にベルゼブブが!」
王の間のある3階から、階段を転げ落ちるように傷だらけの1人の兵士が下りてきた。すぐさまターニアが駆け寄り、回復薬を飲ませる。
「大丈夫ですか?」
「お、王の間に……言葉をしゃべるベルゼブブが……」
「言葉をしゃべるベルゼブブ?」
「王が危ない……強すぎる……」
ベルゼブブを一掃したアダムも傷だらけの兵士のもとに駆け寄る。
「王はご無事なのですか?」
「我々近衛兵だけでは限界だ……頼む、応援を……!」
兵士はそう言うと気を失ってしまった。どうにか、かろうじて生きてはいるようだ。
「……ターニア、ここを任せてもいいか?」
伝令の兵士の状態を見るに、事態は緊急かつ深刻だ。このままでは、ラスコー王国の最高権力であり、国の要である国王、そして王族が危ない。強力な言葉をしゃべるベルゼブブが現れたのなら、今この中で一番攻撃力のあるアダムが行かなければならない。
「任せて、ベルゼブブの数も減っているし。それよりもルリちゃんとベルくんを守って!」
「わかった。タケシ殿が戻ってきたら、すぐに一緒に来てくれ」
「りょーかい! がんばって!」
アダムはエクスカリバーを携え、階段を駆け上がる。2階を飛び越え、王の間がある3階へ向かう。広い3階廊下を走り、王の間に向かう。
「陛下! ルリアナ! ベルク!」
「アタラシイ、ヤツカ?」
アダムが王の間にたどり着くと、そこには伝令の兵士の報告通り、片言だが言葉をしゃべるベルゼブブ――正確には、人のような手足の生えたベルゼブブがいた。周りには何人もの兵士たちが倒れている。王や王族を守る近衛兵は高い実力のある兵士たちだ。それが一体の魔物のために、壊滅的な打撃を受けるとは。
「ギー、行くぞ」
<うん!>
アダムはエクスカリバーを構える。黒い手足の生えたベルゼブブはアダムの方に向き直り、脅すように手を広げる。
「オレハ、キングベルゼブブ……コノクニノ、オウ、ヲ、コロスマエニ、オマエカラ、コロシテヤル!」
手足の生えたベルゼブブ――キングベルゼブブを名乗るそいつは、大きな羽を羽ばたかせてアダムに襲い掛かってきた。すかさずアダムも迎撃する。
「てやあっ! ……なにっ!?」
「ホウ、ナカナカ、イイ、ケンヲ、ツカッテイルヨウダナ?」
鋭い爪を立てて降りかかるベルゼブブに、アダムはエクスカリバーで斬りかかる。だがエクスカリバーはベルゼブブの手に受け止められてしまった。さらにそのまま、アダムは蹴り飛ばされてしまう。
「うわっ!」
アダムは倒れつつも、どうにか立ち直りもう一度斬りかかる。
「ムダ、ダ!」
キングベルゼブブは羽を振動させ、怪音波を発生させた。思わぬ攻撃に、アダムは頭を抱えてうずくまってしまう。
「く、あ、頭が……!」
「オマエモ、オワリダ……コロス」
キングベルゼブブがアダムの首を斬り落そうと爪を振り下ろそうとした。
<来るなあああああっ!>
「グ、ア、アアアアアア!」
その時、ギーが魔力を帯びた声で叫んだ。その声にキングベルゼブブの動きが止まる。
<アダム、今だよ!>
「ギー、助かった……『終末の音速剣』!」
アダムはすかさず終末の音速剣を放った。すばやい動きでキングベルゼブブの胴体を何度も斬りつける。
「ソノテイド、オレニハ、ツウジナ……ナニ!?」
キングベルゼブブの皮膚は、エクスカリバーを素手で受け止めたことでもわかるようにかなり強固にできている。しかしそれでも、一点を高速で何度も斬りつけることで確実なダメージを与える。
「クソッ!」
「逃がさん!」
キングベルゼブブは逃亡を図る。だが、アダムはすばやく回り込んで逃亡を阻止する。
「これで終わりだ! 『終末の衝撃剣』!」
「グワアアアアアアア!」
アダムはとどめに終末の衝撃剣を放った。放たれた無数の風の刃がキングベルゼブブに襲い掛かり、その体を切り裂き、黒い霧へと変えた。
「……ふう」
技の反動で倒れたアダムはゆっくりと起き上がった。キングベルゼブブの脅威は去ったが、近衛兵の手当てと、王と王族の無事の確認をしなければならない。
「う……勇者様、こちらは大丈夫です。早く、陛下のもとへ……」
「……回復薬を置いていきます。皆さんの手当てをお願いします!」
1人の近衛兵が起き上がり、アダムに王のもとへ向かうように促す。アダムは回復薬を置いて、王の間の隠し部屋へと向かった。
王の間の裏、隠された仕掛けを動かし、アダムは隠し部屋の中に入る。
「陛下、ご無事ですか!?」
「ああ……我々は無事だ。事態はどうなった? 兵たちは?」
「王宮を覆うベルゼブブは壊滅寸前です。兵の犠牲は少数にとどまっています」
「そうか……大儀であった」
王と、王族たちはどうやら無事なようだ。先ほどベルゼブブの群れに無謀な突撃をしたソニア王女もおとなしくしている。
「アダム兄さま!」
ルリアナ王女とベルク王子がアダムの方に駆け寄ってきた。
「アダム兄様、大丈夫でしたか?」
「怪我しているじゃないですか!」
「ありがとう、ルリアナ、ベルク。大丈夫、かすり傷だ」
ルリアナ王女とベルク王子が抱き着いてくる。アダムはそんな二人を優しく抱きしめた。
とりあえずこれで全部解決した――わけではなかった。
突然部屋の壁が崩れ、王宮の外から何者かが入り込んでくる。
「ミーツケタ」
不気味な、片言の人の言葉。人間のような手足の生えた、巨大なハエの姿――もう一体のキングベルゼブブだ。隠し部屋の中に侵入し、両足でルリアナ王女とベルク王子の襟首をつかんでアダムからものすごい力で引きはがす。
「アダム兄様!」
「うわあっ!」
「ルリアナ! ベルク!」
キングベルゼブブはルリアナ王女とベルク王子を連れて王宮から飛び去ってしまった。
飛行手段を持たないアダムには手の打ちようがない。
「お待たせ、アダム兄ちゃん……って何があったの?」
「すまん! ルリアナとベルクを連れ去られた!」
「なんですって!」
遅れて、1階のベルゼブブを倒したターニアとディメンダーXも隠し部屋に入ってくる。
国王は全身銀色のディメンダーXに驚いているようだが、説明している暇はない。
「タケシ殿、どうにかなりませんか?」
「アナライズビームによる探知完了。対象は変異したバグタイプ……何とかしましょう。ワープスライダー!」
ディメンダーXはXコマンダーから銀色の光線を発射し、空を舞う板・ワープスライダーを出現させる。
「とうっ!」
ディメンダーXはワープスライダーに飛び乗ると、キングベルゼブブを追って飛び出した。
<アダム、ギーたちも!>
「ギー達もって……どうするつもりだ?」
<ギーをワープスライダーみたいにすれば、アダムも飛べるよ!>
ギーが驚くことを言った。突拍子もないことだが、試してみる価値はある。
「ターニア、陛下を頼む」
「うん。と、飛べるの?」
「わからん。とりあえずやってみる」
アダムはエクスカリバーを手放した。アダムの手を離れたエクスカリバーは床に落ち――ることはなく、宙に浮いている。アダムはディメンダーXの見よう見まねで、勢いをつけてエクスカリバーの上に飛び乗った。
「す、すごい……浮いている……!」
<操作はアダムに任せる。ルリちゃんとベルくん助けに行くよ!>
「ああ……よし、いくぞ、ギー!」
<あいあいさー>
エクスカリバーに乗ったアダムも、キングベルゼブブとディメンダーXを追って大空へと飛び出した。
王都オルレイアン・上空。ここでは、ワープスライダーに乗ったディメンダーXと、ルリアナ王女、ベルク王子を誘拐したキングベルゼブブとが空中戦を繰り広げていた。
「デュアルマグナムスナイパー!」
銃身を長くしたデュアルマグナムでディメンダーXはキングベルゼブブの羽の付け根を狙って攻撃を仕掛ける。しかしキングベルゼブブはまるでディメンダーXの狙撃を察知したかのような機動で回避。振り返り、口から毒液を吐いてディメンダーXを攻撃する。
「なんの!」
ディメンダーXもこれを回避。だが、このままでは王女と王子の救出はままならない。ディメンダーX考えあぐねていたその時だった。何者かが高速で後方から接近してくる。
「タケシ殿! 遅れてすみません!」
<助けに来たよ、コマちゃん!>
「アダム様!? ギーちゃんにこんな力が……!」
エクスカリバーに乗って現れたアダムに、ディメンダーXも驚きを隠せない。
アダムはキングベルゼブブに捕らわれたルリアナ王女とベルク王子に向かって叫んだ。
「ルリアナ! ベルク! 今助ける! もう少し我慢していてくれ!」
「アダム兄様!?」
「僕たちのことは構わないで、早くこいつを倒して!」
アダムはエクスカリバーを加速させた。ワープスライダー以上のスピードだ。キングベルゼブブに接近し、アダムは足を器用に動かしてエクスカリバーで羽を斬ろうとする。
「エエイ……ナラバ!」
キングベルゼブブは両足で掴んでいたルリアナ王女とベルク王子を放した。二人は空中に放り出され、下に落下していく。
「きゃああああああ!」
「うわああああああ!」
「ルリアナ! ベルク! ……ぐわあ!」
キングベルゼブブはそんなアダムの隙を見逃さなかった。アダムに毒液を吹きかける。毒液はアダムの紅龍の鎧に染み込んで、その下の皮膚を溶かす。
ルリアナ王女とベルク王子の命は風前の灯火、一方、前からはキングベルゼブブが迫ってくる。もはやこれまでかと思われたが、ディメンダーXが動いた。
「トラクタービーム!」
ディメンダーXが両腕から放った不思議な光線が、ルリアナ王女とベルク王子の体を引き寄せる。落下する二人はディメンダーXによって抱きかかえられ、無事救助された。
「今です! アダム様!」
ルリアナ王女とベルク王子の無事を確認したアダムはエクスカリバーを急上昇させる。十分な高度を確保したところでアダムはエクスカリバーから降りて柄を握った。
「『終末の衝撃剣』!」
無数の風の刃がキングベルゼブブを斬りつけ、羽を奪い取る。
<フィニッシュモードスタンバイ……フルバースト!>
「スナイパー・フィニッシュ!」
そこにディメンダーXのデュアルマグナムスナイパーから放たれた魔力の弾が、キングベルゼブブに命中。落下するキングベルゼブブは大きな爆発の中に消え去り、その中から再びエクスカリバーに乗ったアダムが現れた。
「ありがとう、アダム兄様。それと……ディメンダーX……様?」
「ディメンダーX……タケシ殿については後で説明する。とりあえず、2人が無事でよかった」
「すごい! かっこいい! 僕もその鎧欲しい!」
「お、落ち着いてください、王子殿下。暴れられると落ちてしまいます!」
アダムと、王子と王女を抱きかかえたディメンダーXはゆっくりと降下する。とりあえずこのまま王宮の前に着陸する予定だ。
「うふふ。アダム兄様と空の旅ができたなんて嬉しいです。ターニアちゃんに自慢できますわね」
「ディメンダーX……魔物退治の専門家……異世界にはこんなにすごい装備が……!」
キングベルゼブブに誘拐された直後だというのに、ルリアナ王女もベルク王子もどこか興奮気味だ。突発的な空の旅とディメンダーXの未知の技術に触れたせいだろうか。
眼下に段々と王都オルレイアンが見えてくる。後処理はたくさんあるが、これで本当に一件落着だ。
「あ、あれは……!」
しかしアダムたちは、信じられない光景を目にしてしまった。
「王都が……魔王軍に包囲されている……!」
第6話終了
次話「新たなる勇者」
鉄腕戦車ロボタンク登場