6-6 ベルゼブブの襲撃!
<コマちゃん、ナナちゃん、ディメンダーX連れてきたよ!>
エクスカリバー――ギーの魔力を帯びた声に応えるように、外務局の受付で保管されていたタケシのXコマンダーが独りでに宙を舞い、タケシの左腕に装着される。ナナシキが勝手に鳥型に変形し、タケシの装備ベルトとレーダーデバイスを足でつかんで持ってくる。
「よし、これで準備はできたな」
「アダム兄ちゃん、どうするの?」
「ベルゼブブは王宮を中心に発生している……奴らの狙いは、おそらく陛下だ。すぐに王宮に戻る。タケシ殿、ベルゼブブがどこから発生しているかわかりますか?」
「アダム様の読み通りです。私のレーダーデバイスによれば、奴らは王宮方面から発生しています。恐らく王宮内に発生源もあるでしょう」
タケシの言葉にアダムの背筋が凍る。敵は――魔王軍は王宮内に侵入している可能性がある。そして最悪のことを考えるのであれば……ニラーナ将軍のような裏切り者が潜んでいる可能性もある。
「……先生やカルロスを待っている時間はない、俺たちだけでベルゼブブを殲滅する!」
アダムは最悪の想定を振り払い、現実に集中する。ターニアとタケシを率いて外務局の建物を飛び出し、王宮に走る。
途中襲い掛かってくるベルゼブブをアダムとターニアが走りながら切り裂く。ベルゼブブに襲われている人をタケシが助ける。王宮に近づくにつれて、ベルゼブブの数はどんどん増えていく。そして三人は、ベルゼブブ大量発生の大元である王宮へと辿り着いた。
「うわーん! ベルゼブブだらけで前が見えないよー!」
ターニアが嘆くのも無理はない。王宮内1階部分は、ベルゼブブの大群が所せましと飛び回り、日の光も遮られているような状況だった。
王宮の兵士たちも戦っているが、大量発生したベルゼブブに数で押されて苦戦している。ベルゼブブの爪や牙により、死傷者も出ている。
これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない。
だが、終末の音速剣では時間がかかる……
「ギー、終末の衝撃剣を試すぞ」
<りょーかい>
アダムは自身の周りのベルゼブブを一掃すると、一旦後ろに下がった。エクスカリバーを横に構えて、力をためる。無数の刃をイメージし、ベルゼブブの大群に狙いをつける。
そして、
「『終末の衝撃剣』!」
アダムはエクスカリバーを大きく横に振るう。すると無数の風の刃が発生し、戦う兵士たちを避けて、王宮内を覆いつくすベルゼブブに向かって飛んでいく。ベルゼブブは『終末の衝撃剣』によってその大部分が切り裂かれた。
「うわっ!」
同時に、アダムは無数の風の刃の発生に伴う衝撃を受け止めきれず、大きく後ろに倒れた。終末の音速剣のような疲労はないが、技の発動に伴う大きな反動が、この終末の衝撃剣と言う技の、文字通りの反動というわけか。
「勇者様が一掃してくださったぞ! 残りを片付けろ!」
「負傷者は後ろに下げるんだ!」
「左右の扉を塞いでバリケードを作るんだ! 王の間に続くこのホールを通すな!」
王宮1階部分の形勢は逆転した。生き残った兵士たちによって、残りのベルゼブブたちが倒されていく。
ベテランと思しき一人の兵士がアダムに話しかけてきた。
「ありがとうございます、勇者様。おかげで全滅は免れそうです」
「それよりも、奴らは一体どこから出てきたのですか?」
「わかりません、気が付いたら王宮はあのハエ共に占拠されておりまして……」
ベテランの兵士は、申し訳なさそうに首を横に振る。
王宮内にいた彼でも、ベルゼブブ発生の原因はわからないようだった。
「タケシ殿」
「バグタイプ、いえ、ベルゼブブの発生源は6か所、ここから12時、3時、4時、5時、9時、11時の方向にあります」
「12時? 3時?」
「え? ……あーそうか。すみません、こちらをご覧ください」
タケシはレーダーデバイスを操作して、立体映像で王宮の簡易図を出現させた。王宮を取り囲むように付いた赤い点の場所が、ベルゼブブの発生源を示しているらしい。
「これらの地点に、ベルゼブブの発生源である『エッグ』があるはずです。エッグはエネルギーが尽きるまで、ベルゼブブを生み出し続けます。ですがそれさえ破壊できれば、大量発生は収まるはずです!」
「よし……俺たち三人で手分けして、エッグとやらを破壊する。ターニアは左から回って破壊してくれ。俺は右から回る。タケシ殿はディメンダーXで先行して、ベルゼブブを引き付けてください。場合によってはエッグの破壊もお願いします」
「りょーかい!」
「わかりました」
タケシの説明を受けて、アダムはターニアとタケシに指示を出す。だが、
「ダメだ、バリケードが持たない!」
「無理するな! 一度後退しろ!」
ベルゼブブがまたも1階部分に攻め入ろうとしているようだ。兵士たちがありあわせの物で作った築いたバリケードにも限界がきている。
「まずいな……!」
この1階ホールには、3階の王の間へと続く階段がある。非常時には王族たちは王の間の裏にある避難用の頑丈な部屋に隠れているため、ここを通すわけにはいかない。しかしアダムたちがこの場を離れれば、王の間へとベルゼブブの大群が押し寄せる危険性が高まる。
(どうする……?)
アダムが考えているその時だった。
女性用の鎧に身を包んだ一人の少女が階段を走り下りてきた。
「魔物……ヴォルフの仇!」
「ソ、ソニア王女殿下!? なぜここに?」
死んだヴォルフの婚約者、避難していたはずのソニア王女だ。王族の証である金の宝剣を振り回し、崩れかけたバリケードを乗り越えて、ベルゼブブに斬りかかる。
「きゃあ!」
「ソニア殿下!」
だが所詮は護身術程度の剣技しか覚えていない素人だ。たちまちベルゼブブの反撃を受ける。アダムや兵士たちが救助に向かおうとするが、ベルゼブブの大群に邪魔されてたどり着けない。
「そんな、剣が……!」
そして、金の宝剣は実戦向きに作られてはいない。ベルゼブブの牙で簡単に曲がってしまい、使い物にならなくなってしまう。
「あああああああああ!」
追い詰められて、ソニア王女は完全に錯乱した。涙を流しながら、曲がった剣を振り回して、独りベルゼブブの大群へ無謀な突撃を敢行する。当然、兵士たちも守るべき王族を放っておくわけにもいかず、結果として戦列が乱れてしまう。
「『終末の音速剣』!」
「コンバットシステム、起動!」
緊急事態に、アダムが終末の音速剣を発動し、タケシがディメンダーXへの変身態勢に入る。まず、アダムがソニア王女の周りのベルゼブブを超高速で一掃する。
「タケシ殿!」
「電装!」
続いてタケシが、走りながら顔の横で両腕を交差する。その瞬間、タケシの体が光り、その姿がアダムとソニア王女と共に消える。兵士たちが驚く中、タケシはディメンダーXの姿となって、バリケードの後ろに立っていた。両腕にはソニア王女と、技の反動で動けないアダムを抱きかかえている。
「大丈夫ですか、王女殿下?」
「……あなたは……一体……?」
「次元機動、ディメンダーXです」
涙目のソニア王女に、タケシ――ディメンダーXはそう答えた。
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「コンバットシステム、起動!」
「電装!」
久保田武は左腕のメインコントロールブレス・Xコマンダーの丸ダイヤルを回すことでディメンダーXのコンバットシステムを起動させ、イグニッションレバーを押すことでディメンダースーツを展開、0.07秒で『電装』し、ディメンダーXに変身する。
電装前にコンバットシステムを起動させることで、ディメンダースーツを装着後、すぐにディメンダーXは超人的なパワーとスピードを発揮することができるのだ。
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崩れた戦列は、なかなか元には戻せない。立ち上がりつつ、アダムは作戦の変更を決断した。
「作戦変更だ。俺とターニアもベルゼブブの足止めに参加する」
「エッグはどうするの、アダム兄ちゃん?」
「……タケシ殿、ディメンダーXで全てのエッグの破壊をお願いいたします」
有無を言わせない表情で、アダムはディメンダーXにベルゼブブの発生源の破壊を要請する。この場にビルがいれば確実に反対されたであろう。手柄をすべてディメンダーXに渡してしまうような真似だ。だが、今はそんなことにこだわっている場合ではない。アダムはそう判断した。
「よろしいのですか?」
「……今は一刻を争います」
「……了解しました、ここはお願いいたします……アクセル・ダッシュ!」
ディメンダーXもアダムの気持ちを汲み取り、エッグの破壊へと向かった。残像が残るほどのスピードでバリケードを飛び越え、ベルゼブブを撥ね飛ばしながらエッグのもとへと向かう。
「ソニア王女殿下、ここは危険です。ベルクやルリアナのところにお戻りください」
「はい……レオトレーシー殿、あの銀色の戦士は一体……?」
ソニア王女がアダムに尋ねる。初めて見るディメンダーXの実力に驚いているようだ。無理もない、リサによればラスコー王国の10年先を行く戦士だ。
「彼はディメンダーX……俺たちの味方です」
「私たちの……味方……」
ソニア王女は不思議そうにつぶやきながら、他の兵士に連れられて3階へと連れられて行った。
「ターニア、覚悟はいいか?」
「もちろん! ディメンダーXが、タケシのおっちゃんが戻るまで、踏ん張るよ!」
<コマちゃんががんばっているあいだ、ギーもがんばる!>
「よし、行くぞ!」
アダムとターニアは、ディメンダーXがエッグを破壊する間、足止めをすべく、左右に分かれてベルゼブブの大群の中に飛び込んでいった。
このあと……王都上空大決戦!