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6-3 フエーテル家

先週は更新サボってしまい、申し訳ありませんでした。

暗い話が続くと意欲がわかないんです……

あと短いです。

 「――では、タケシ殿をお願いいたします」

 「わかりました……タケシ=クボタだな? こっちだ」

 「はい。アダム様、また後ほど」


 アダムはタケシを外務局へと連れていき、保護を依頼した。今のタケシには後ろ盾がない。とりあえずラスコー王国に迷い込んだ遭難者として国の保護を受けなければならなかった。

 タケシは外務局の職員に連れられて外務局の建物の中に入っていった。ここで取り調べを受けることになる。外交の専門家集団である外務局なら、もしかしたらニホンやカガクについてもわかるかもしれない、とアダムは期待している。


 「さて、行くか……」


 アダムは重い足取りで外務局を後にした。

 ……まずは、フエーテル家だ。




 フエーテル家は伝説の勇者の家系の1つで、『召喚の勇者』を輩出する家だ。その教育方針はかなり厳しく、徹底していると聞いたことがある。たしかにモニカを見ているとわかる気がする。わずか10歳ながら、他人にも自分にも厳しい真面目な性格だった。

 今からアダムは、そのモニカの戦死を報告しなければならないのだが。


 「ようこそいらっしゃいました、レオトレーシー様。当主がお待ちです」


 使用人に案内されて、アダムは王都にあるフエーテル家の屋敷に入った。レオトレーシー家と同じように、古いが豪華な造りの屋敷だ。

 アダムは大きな部屋に案内される。中にはフエーテル家の当主がいた。アダムはここで当主に――モニカの父親に、彼女の最期を伝えることになる。

 

 「お待ちしておりました、アダム=レオトレーシー殿」

 「この度はお嬢様をお守りすることができず、申し訳ありません、フエーテル殿……」

 

 フエーテル家の当主は厳しい面持ちでアダムに視線を向ける。気圧されつつも、アダムは席に着き、モニカの勇者の紋章をテーブルの上に置いた。


 「それでは、モニカの死について聞かせて頂こうか」

 「はい……」


 アダムはポツポツと召喚の勇者だったモニカ=フエーテルの最期について語りだした。


 「アミアン市での戦いは、熾烈を極めました。仮面の悪魔・ブラフの『永遠の闇』によって無数の魔物が出現し、俺たちは次第に追い込まれていきました……」


 勇者たちとアミアン市を守る兵士たちは『永遠の闇』から無尽蔵にあふれ出てくる魔物と懸命に戦った。だが、魔物の数は一向に減らない。最前線のアダム達勇者は満身創痍。守備隊の兵士たちの犠牲者も増えていき、疲労の色が濃ゆくなってくる。

 終わりの見えない激しい戦いは数日に及んだ。

 そしてついに、限界が訪れた。


 「……無数の魔物による激しい猛攻に耐えられず、ついにアミアン防衛線は崩壊しました」


 アダムたちはアミアン市の放棄を決意した。しかし、アミアン市はラスコー王国の中でも王都オルレイアンに次ぐ巨大都市。住民の避難は進んでいない。

 悪いことに、連日に及ぶ戦いによる疲労と負傷で勇者たちは動けない。

 たった1人――召喚の勇者・モニカ=フエーテルを除いて。


 『……私が残ります。私が召喚魔法で敵を足止めしている間に、住民の避難と兵の撤退を完了させてください』

 『待て、モニカ……その役目は俺が……!』

 『ここは私の召喚でなければ止められません。アダム様たちはお行きください』

 『しかし……!』

 『アダム様たちは動けません。私がやるしかないんです……ラスコー王国の貴族として、召喚の勇者として、無様な姿は見せられません……勇者の紋章をお願いいたします』

 『モニカ! 待つんだ! 誰か、誰かモニカを止めてくれ! モニカ!』

 

 モニカは野戦病院で横たわるアダムの前に自分の勇者の紋章を置き、最前線へと飛び出していった。モニカはその後、魔力を大量消費する召喚魔法を連発したらしい。魔物の侵攻は一時的に止まり、アダム達勇者と生き残りの守備隊はアミアン市から撤退に成功した。

 モニカの消息は、分からない。だが、状況から考えて生存は絶望的だった。魔力が尽きたところを、魔物の大群に蹂躙されて死亡したというのが軍の見解だった。

 こうしてモニカは、遺体を見つけられないまま戦死が認定された。


 「我々の中で唯一動けたモニカは、自分の命を懸け、前線で召喚魔法を連発しました。斥候からの情報も併せて分析すると、精神力まで削って召喚魔法を放ち続けたそうです。最期まで勇者としての使命を果たし、実に……勇敢な……勇者でした……」


 アダムは涙をこらえる。いろいろな感情があふれる。モニカを止められなかった後悔、なぜこの時にディメンダーXが現れなかったのかという叶いもしない願望、ブラフを倒せなかった悔しさ……

 結局アダムは涙をこらえることができなかった。当主の前で、声を押し殺しながらもうつむき、アダムは涙をこぼした。


 「……すみません……モニカを殺したのは俺です……すみません……」

 「いや、レオトレーシー殿、実に有意義な報告であった。わが娘は……モニカは、召喚の勇者の誇りを守るために死んだのだ。なんと喜ばしいことだろうか!」


 実の親の発言とは思えない当主の言葉に、アダムは耳を疑い顔を上げた。フエーテル家の当主は深い悲しみを見せまいと、気丈にふるまって笑っている――ことはなかった。曇りのない、満面の笑みを浮かべていた。


 「フエーテル殿、俺はお嬢様を死なせてしまったのですよ?」

 「いやいや、とんでもない。レオトレーシー殿は娘に死に場所を与えてくれたのだ。それも大勢の人間を守ると言う立派な死に場所を! もともとできの悪い娘で心配だったが、こんな立派な散りざまを見せてくれるとは!」


 アダムは唖然とする。自分の娘の死を、こうも前向きにとらえられるものなのか?フエーテル家の当主殿は気がふれてしまったのか?


 「これで我がフエーテル家の名声も上がるというものだ。きっとモニカも天国で喜んでいる事だろう。ありがとう、レオトレーシー殿、素晴らしい報告だった」


 当主の言葉にアダムは何も言えなかった。モニカの死は、もっと悼まれるものではないのか? 喜ぶべきものなのか? アダムには分からなかった。当主にモニカの残した勇者の紋章を返すと、アダムは茫然としながらフエーテル家の屋敷を後にした。

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