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6-2 謁見の間

 「リーダー、リーダーが養子というのは……?」

 「言っていなかったか? 俺はレオトレーシー家の養子だ」

 「私も初耳ですな……」


 アダムはカルロスの疑問に答える。ビルも知らなかったらしい。

 アダムはもともと、辺境のピニャン村出身の村人だった。10年前、7歳のころに剣の才能があると言われ、レオトレーシー家の当主、今の養父に引き取られた。

 

 「アダム兄ちゃん、最初会った時はすごい緊張していたよねえ。僕にも『ターニア様』って召使いみたいな感じで」

 「それをこんな生意気に変えたのはお前だからな、ターニア。お兄ちゃんがほしかったとか今でも理解できん……」

 「えー、そう?」


 話しながら、アダムたちは憲兵の詰所を出た。案内係の官吏に先導されて謁見の間へ向かう。


 「「アダム兄様! ターニアちゃん!」」


 謁見の間へ向かう途中、アダムとターニアを呼ぶ声が聞こえた。アダムとターニアが振り向くと、豪華な衣装を着た少年と少女が駆け寄ってきた。


 「お、王子様! 王女様!」


 二人を見たアダム達はすぐに跪いた。ギーとタケシは意味が分からず立ったままだ。


 「アダム様、この方々は?」

 「……この国の第一王子ベルク殿下と、第二王女ルリアナ殿下です」

 「し、失礼しました!」

 「ギーちゃんも!」

 「な、なに? ターちゃん?」


 ラスコー王国第一王子・ベルク=ラスコリア、御年10歳と第二王女・ルリアナ=ラスコリア御年14歳。2人がこの国の王族だと分かり、タケシも慌てて跪いた。ギーは意味が分かっておらず、きょとんとして立ったままだったが、ターニアによって無理やり跪かされる。


 「アダム兄様、ターニアちゃん、そんなに畏まらないでください。いつもみたいにルリちゃんって呼んでください」

 「謁見の間に入るまでは公式の場じゃありません。もっと普通にしてください」


 しかし、王子と王女の方はもっと『友達』として接してほしいようだった。


 「あ、そう……じゃあ久しぶり、ルリちゃん、ベルくん!」

 「はい、おひさしぶりです。ターニアちゃん」

 「元気そうでよかったです、ターニアちゃん」


 ルリアナ王女とベルク王子に促されて、ターニアは立ち上がり、2人に抱き着いた。3人は楽しそうにはしゃいでいる。ビルが諫めようとするが、アダムに引き留められた。 

 

 「……アダム殿、ターニアが王女殿下と王子殿下に対して非常に無礼なのですが、よろしいのですか?」

 「ターニアは殿下たちの幼馴染です。殿下たちがよろしいのであれば、特に止める必要はないでしょう」

 「そういうアダム兄ちゃんもルリちゃんとベルくんの幼なじみだけどね」

 「アダム兄様、もう私のことを名前で呼んではいただけないのですか?」

 「アダム兄様、もう僕と遊んでくれないの?」

 「アダム兄ちゃんは冷たいなあ」


 ねえねえ、ねえねえ、としつこく3人がアダムに寄ってくる。アダムは無視して聞き流していたが、あまりのしつこさに、静かに切れてしまった。


 「……お二人とも王族としての自覚ををお持ちください、王女様、王子様」


 爆発しなかっただけ、まだましなほうか。3人はつまらなそうにしている。


 「ちぇーここまでしてもダメか」

 「まあ、王女様という砕けた呼び方をしてくれただけでも合格です」

 「僕たちはあきらめませんからね、アダム兄様。昔みたいに呼んでくれるまでやめませんよ」


落ち着け、落ち着くんだ、アダム……

 アダムは自分に言い聞かせる。

 自分は聖剣の勇者だ。そして今は戦時だ。流されるな、もっと緊張感を持て……


 「ギーもはいる! いいよね、ターちゃん!」

 「いいよ! ターちゃん!」

 「ターニアちゃん、この子は?」

 「ギー! エクスカリバー!」

 「すごい! 聖剣エクスカリバーが女の子になったんだ!」


 気が付くと、ギーも3人の輪の中に入っていた。あっという間に解けこんでいた。

 ……ターニア、ギーを巻き込むな。いくらなんでも無礼だぞ。

 ……王女様、なんですぐにギーを受け入れられるのですか?

 ……王子様、エクスカリバーが人になったことが分かるのなら、もっと驚いてください。


 「……殿下、我々はそろそろ謁見の間に向かいたいのですが」


 しびれを切らしたビルが、怒りを抑え込んだ声で言った。その声にわいわい騒いでいたターニアたちが押し黙る。


 「じゃ、じゃあ、僕たちもう行くね、ルリちゃん、ベルくん」

 「へ、陛下がおまちですからね」

 「い、一緒に行こうか」


 王子と王女と合流したアダム達は、謁見の間へと向かった。




 「勇者一行でございます」


 近衛兵に通され、アダムたちは荘厳な謁見の間へ入った。

 赤い絨毯を歩き、跪く。

 前には国王と王妃、さっきまで一緒だったベルク王子とルリアナ王女を含む王女たちが兵に守られて豪華な椅子に座っている。国王は40代くらい。国王としては若い。その周りには、儀式用の豪華な鎧で身を固めた騎士たちと同じく豪華な衣装の一部の大臣たちがアダムたちを囲む。


 「アダム=レオトレーシー以下6名、協力者ギー、タケシ=クボタと共に参上しました」

 「面を上げい」


 国王に言われ、アダムたちは一斉に顔を上げる。

 謁見は儀式的な側面が強い。話の内容は事前に官吏との打ち合わせによって決められる。

 とはいえ場違いな格好の人間が二人――見たことのない薄手の服を着た東洋人・タケシと10歳前後の普通の少女にしか見えないギー。この二人を見て、騎士と大臣たちがひそひそとざわめきだす。

 アダムは周囲のそんな声を無視して、勇者たちの代表として、国王と打ち合わせ通りの受け答えをする。

 

 「聖剣の勇者よ、これまでの旅について報告を」

 「はい」


 国王の側に仕える官吏に促され、打ち合わせ通りアダムは旅について報告する。

 4枚の封印の鏡を手に入れたこと。アミアンでの戦いでブラフによって苦戦し、アミアン市の住民を逃がすために取り引きで2枚の封印の鏡をブラフに渡したこと。アミアン市からの撤退戦で召喚の勇者・モニカ=フエーテルと魔剣の勇者・ヴォルフ=スリーファイブが戦死したこと。

 ジャンドール砦まで後退し、ブラフとの戦いでニラーナ将軍に見捨てられたこと。マリー=キアコルの暴走でマリー本人とリサ=ミスティックレンジャーが負傷し戦闘不能になったこと。

 ジャンドール砦からの撤退戦でアダムが追い詰められたところを、タケシ=クボタ――ディメンダーXに助けられたこと、その際に驚異的な強さでブラフを圧倒したこと。その際にエクスカリバーがギーと言う少女に変わったこと。 

 ジャンドール砦を放棄したニラーナ将軍が魔王軍とつながっていたこと。そして死の館においてアダムがブラフと決着をつけたこと。

 リサとマリーの治療、カルロスの魔弾や薬の補給のためにこうして王都に戻ってきたこと。


 「報告は以上です」

 「大儀であった。今はゆっくりと休むがいい」

 「はっ! ありがたきお言葉」


 これまでの旅の報告を終え、国王からねぎらいの言葉が伝えられる。

 大臣や騎士たちからは、エクスカリバーがギーになったことやディメンダーXの強さについては小声で疑問の声が上がる。さすがに実物を見ないと信じられないのだろうか。

 とにかく謁見はこれで終わりだ。

 そのはずだった。


 「レオトレーシー殿! ヴォルフは、本当に死んだのですか?」


 王女の一人が大きな声を上げた。想定外の事態だ。

 声を上げたのは、第三王女のソニア=ラスコリア。確かヴォルフの……


 「……私の愛するヴォルフは、本当に死んだのですか?」


 ……ヴォルフの婚約者だ。

 ソニア王女は泣きながらアダムを問い詰める。

 アダムは辛い気持ちで真実を話す。


 「さようでございます……重傷を負ったヴォルフ=スリーファイブは、俺たちを守るために……勇敢にも魔剣レーヴァテインもろとも、自ら命を投げ出しました……」

 「許さない……ヴォルフを死なせたあなたを、絶対に許さない!」


 ソニア王女は隠し持っていたナイフを取り出し、アダムに向かって走り出した。

 だが、護衛の兵士たちによってすぐに止められてしまう。


 「どきなさい! そいつを殺せない!」

 「王女殿下、落ち着いてください!」

 「王女殿下がご乱心である! 早く別室へお連れしろ!」


 アダムは何も言うことができない。

 ソニア王女の憎しみをただ一身に受けることしかできなかった。




 最後に大きなトラブルに見舞われたが、謁見は何とか終了した。

 

 「ふう、何とか終わったね」

 「ああ。だがソニア王女殿下には悪いことをした……」

 「アダム殿が気にすることではありません。これは戦いなのです」

 「先生……そうですね……」


 アダム達は謁見の間をでる。これからはしばらく自由行動になる。それぞれ休養を取ったり、補給を済ましたりする必要がある。  

 

 「ギー、ここの探検したい!」

 「いいよ、僕が案内してあげる。いいよね、アダム兄ちゃん?」

 「ああ。いいぞ」

 「行ってくるね、アダム」


 ギーとターニアは王宮の探検に行くらしい。この王宮は広い。ターニアが入れる場所だけでも、ギーの探検ごっこには十分だろう。


 「あ、そうだ、アダム」

 「どうした、ギー……うわ!」


 突然、ギーが自分の額をアダムの額にくっつけた。驚くアダムだったが、そこに情報が流れてくる。

 剣を振るい、発生した衝撃波で多くの敵を一度に倒す技……


 「終末の……衝撃剣……新しい技か?」

 「うん。コマちゃんのアドバイスで完成した。暇なうちにアダムに教える」

 

 『終末の音速剣』の時と同じように、『終末の衝撃剣』がアダムの体に溶け込んでいく。まるで今まで使っていたかのように、自然に。


 「ありがとう、ギー」

 「ううん。それじゃあ探検行ってくるね」


 ギーはターニアに連れられて王宮の探検ごっこに向かった。

 

 「先生とカルロスはどうする?」

 「私は家に顔を出します」

 「僕はリサさんとマリーのお見舞いに行きます。リーダーは?」

 「俺はタケシ殿を外務局に連れていく。そのあと――」


 アダムはこれからのしなければならない行動を考えると気が重かった。だが、リーダーである自分がやらなければならない。


 「モニカとヴォルフの家に……フエーテル家とスリーファイブ家に、2人の戦死を報告しに行く」

 思うところあって、マリーの性格を変更したいと思います。

 ちょっとひねくれさせる予定です。ご了承ください。

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