6-0 王都到着
あけましておめでとうございます。
今年も本作をよろしくお願いいたします。
ディメンダーXこと、宇宙ハンター部隊に出向中の科学者・久保田武は、次元艇ディーフェニックスでインベーダーを追跡中、ワープ空間からインベーダーの発生源である『ネスト』内に迷い込む。
ネストの内部はインベーダーの巣窟であると考えられていた。しかし、ネストはインベーダーの巣窟ではなく、地球とよく似た異世界だったのだ。
ネストの中で武は、インベーダーを『魔物』と呼び、それらと戦う『勇者』たちと出会った。
聖剣の勇者・アダムと共に『死の館』へ潜入した武は、ソウルボムの材料にされそうになっていたジャンドール砦の兵士たちを発見するも、全員の命を救うことはできなかった。武は異世界に来て改めて、自分の、ディメンダーXの無力さを痛感する。
しかしアダムはそんな武を励まし、正式に協力を要請することで、武を――ディメンダーXを正式に仲間として受け入れるのだった。
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『死の館』での戦いから10日。
ターニアの伝令によって編成・出発した救助隊は無事到着した。23名の生存者たちは救助隊によって王都からやってきた大きな馬車に搬入された。実験によって死亡した者たちの遺体は近くに埋葬された。裏切り者・ニラーナの身柄も勇者たちから救助隊の兵士たちに引き渡された。
生き残ったジャンドール砦の兵士23名分の食料や医薬品は、カルロスの交渉とラライアン村のジョンとアランの兄弟の努力によって無事確保された。生き残った兵士たちは実験台にされた影響で衰弱しているが、これ以上悪化することは無いようだ。
馬車は王都オルレイアンに向けて出発した。
馬車の中で、聖剣の勇者・アダム=レオトレーシーら6人の勇者たちとタケシ=クボタ、ギーは一週間ぶりに一堂に会した。
予想通り、アダムが独断でタケシへの協力要請を正式に出したことについて、勇者たちの間で意見が割れた。
「絶対に反対です! 我ら誇りある勇者の一団に、縁もゆかりもない外国人を入れるなどとんでもない! 確かにディメンダーXの力は必要です。ですがそれは最終手段にとどめておくべきです!」
重装の勇者・ビル=ケンブリッジは予想通り断固反対。
「えー? 僕は良いと思うけど。ディメンダーXの力を借りるのは僕たちがピンチの時だけでしょ? 最近ピンチが増えているけど……まあ、今までと変わらないよ」
忍びの勇者・ターニア=ザクトリーは賛成。
「僕も賛成です。むしろ今まで協力要請をしてこなかったのが不思議なくらいです」
魔弾の勇者・カルロス=ゲイツももちろん賛成。
「……私は別にどっちでもいいです」
癒しの勇者・マリー=キアコルは……保留だろうか。
「私も反対ね」
意外なことに魔導の勇者・リサ=ミスティックレンジャーの意見は反対だった。
「リサさんも反対ですか?」
「別にクボタさんの事が嫌いなわけじゃないのよ? ディメンダーXの力が必要なのもわかっている。でもね……」
アダムの問いかけに、リサは複雑そうな顔をする。
「どうなんだろう……クボタさんには悪いけど、今のままで……私たちが圧倒的に弱いままで、ディメンダーXの力には頼りたくないの」
とは言え賛成3、反対2、保留1なら決まりだろう。
「一応、多数決でタケシ殿への協力要請を決定したいと思う。ターニアも言ったとおり、ディメンダーXの力を借りるのは最終手段だ」
「皆さん、及ばずながら、私にも魔物と戦わせてください。よろしくお願いいたします」
アダムの宣言に、タケシは勇者たちに向かって頭を下げた。
ターニアとカルロスは満足げな顔をしているが、ビルは露骨に嫌な顔をしている。
「改めてよろしくね、クボタの……タケシのおっちゃん! 僕のことはターニアちゃんって呼んでくれるとうれしいな!」
「よろしくおねがいします、クボタ殿。ビル殿のことはあまり気にしないでください」
「…………私はまだお前のことを信用していない。これはブラフの影響を考慮した、あくまで一時的な協力関係に過ぎない。全員に受け入れられたと勘違いするな、クボタ」
こうして、ややわだかまりを残しつつも、タケシはアダム達の仲間となった。
ラライアン村近郊、死の館から出発した勇者一行と救助隊は、王都オルレイアンに向けて出発した。アダムがブラフを倒したからだろうか、途中魔物の襲撃はあったものの、ディメンダーXでなければ対処できないほどの強力な魔物、特殊な魔物は出現しなかった。永遠の闇や霧も出なかった。
救助隊の兵士の一人に馬車の運転を任せ、勇者たち一行は久々のまとまった休息を味わっていた。
「びっくりするくらい何も起きませんね……」
「油断は禁物ですぞ、アダム殿」
アダムのつぶやきに、隣のビルが厳しい口調で警戒するように言う。だがそのビル自身もあくびを噛み殺したような顔をしている。
「ギーちゃん、コマちゃんはなんて?」
「あのね、ブルーマジシャンみたいなじょうかわざ? 教えてくれって!」」
ギーはXコマンダーやナナシキと、そしてターニアとなにか楽しそうに『会話』をしている。やはりギーが一方的に話をしているようにしか見えない。ターニアはXコマンダーとナナシキの話している内容をギーから聞く形でなんとか会話に参加しているようだった。
「クボタ殿、そのボウガンというものについて教えていただけませんか!」
「はい。ボウガンというのは――」
カルロスはタケシに『ボウガン』というものについて教えてもらっているようだ。カルロスは熱心にメモを取っている。銃と弓と箱を組み合わせたような図が見えた。何かの武器だろうか?
マリーとリサは眠っている。重傷を負ったところに、これまでの旅の疲れが出たのだろう。救助隊から分けてもらった回復薬を飲んだ後は、ぐっすりと寝入ってしまった。アダムは近くにあった毛布を2人に被せてあげた。
こうして一行は、これまでの戦闘がまるで嘘だったかのような何も起きない状況で王都オルレイアンへの道をゆっくりと進んだ。そして7日後、ジャンドール砦の生存者と救助隊、タケシとギーを含む勇者たちは王都オルレイアンに到着した。
王都オルレイアンはラスコー王国の政治的な中心地だ。政治・軍事の中枢がこの大きな都に集中している。アダム達勇者の当初の目的は、ここでブラフとの戦いで消耗したカルロスの魔弾や薬品の補給、損傷の激しい装備の修理・新調、そして欠員の補充だ。
馬車は城門で検査を受け、高い城壁で守られた王都に入る。
にぎやかな大通りを抜け、街の中央に位置する王宮に向かう。
「ふ~やっと帰ってこれたよ、オルレイアンに!」
「かなりの長旅だったね、ターニアちゃん」
「ここがラスコー王国の首都、オルレイアンか……」
馬車から降りて、ターニアは大きく背伸びをする。
その後ろから、カルロスに肩を支えられたマリーが降りてくる。
初めてオルレイアンに来たタケシは物珍しそうに王宮を眺めている。
負傷したリサとマリーは王宮の職員に連れられてこのまま病院行きだ。そしてアダム、 ビル、ターニア、カルロスの4人は王への謁見をする予定になっていた。そしてその後は……フエーテル家とスリーファイブ家に、モニカとヴォルフの戦死を報告しなければならない。
そういえばタケシとギーはどうしようか? 二人とも説明が難しい。タケシは外務局に保護を依頼するとして、ディメンダーXのことをどう説明するか。ギーはエクスカリバーが変身したと説明しても信じてもらえるかどうか……
「レオトレーシー様」
「はい?」
アダムが1人悩んでいると、憲兵の一人が声をかけてきた。何かあったのだろうか。
「ご予定が詰まっているところ、申し訳ありません。ニラーナ将軍の逮捕について事情聴取をお願いします」
勇者たちは特別法規で魔王軍に加担する者を自らの判断で逮捕、場合によっては処刑する権限を有する。しかし、その特権がある代わりに、容疑者を憲兵に引き渡す際には証人として事情聴取に応じなければならなかった。
「わかりました。私一人でもよろしいでしょうか?」
「いえ、できれば負傷されている方以外は全員の証言を頂きたいです」
「わかりました。あ、そうだ……タケシ殿!」
ギーと一緒になって王宮を眺めるタケシにアダムが声をかけた。
「なんでしょう、アダム様?」
「これからニラーナの取り調べが行われます。一緒についてきてもらってもよろしいですか?」
最初にニラーナの魔物寄せに気づいたのはタケシだ。彼を連れていった方が、説明しやすいとアダムは考えた。
「ねえ、アダム、ギーは?」
「そうだな、ギーも来てくれ」
ギーを一人にしていくわけにもいかない。広い王宮内でたぶん迷子になる。
「それじゃあ、ここで私とマリーちゃんはお別れね」
「……皆さん、いままでお世話になりました。アダム先輩、私の勇者の紋章は後任に渡してください」
「……マリーちゃん」
負傷したリサとマリーは王宮の職員に連れられ、医務室に向かった。このまま病院に向かうことになるだろう。
負傷の原因となったマリーの無理心中未遂については、アダムは正直に報告することにしていた。その上でこの行動はニラーナによる裏切りが原因であり、勇者たちは誰も厳罰を望んでいないことから、減刑を嘆願するつもりでいた。
「マリーちゃん、また復帰できるかな……?」
「難しいだろうな。自分から勇者の紋章を捨てただけでなく、リサ殿を負傷させている以上は……」
不安げなターニアに、ビルが過酷な現実を突きつける。
「でもリサさんは許すって!」
「それでも、マリーが勇者として戦うことをやめ、勇者の活動を害する行動を行ったのは事実だ。何らかの処罰は避けられないだろう」
追い打ちをかけるように、アダムもターニアの甘い考えを否定する。ターニアの顔が暗くなる。
「大丈夫だ、ターニア。俺もリーダーとして、マリーの罪を引き受ける」
「それにマリーの出した被害は俺たちだけですからね。大きな処分は下されないはずです」
「なんかよくわかんないけど、大丈夫だよ、ターちゃん」
「……ありがとう、アダム兄ちゃん、カルロス君。ギーちゃんも」
落ち込むターニアをアダムとカルロスが励ます。そしてギーに手を握られ、ターニアの表情が少しだけ明るくなる。
「レオトレーシー様、そろそろ……」
「すみません。よし、みんな行こうか」
憲兵に促され、アダム達は事情聴取を受けるべく憲兵の詰所へ向かった。