表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/50

5-2 何のために戦うのか?

 「うっ……」


 リビングメイルの攻撃で大きな傷を負ったアダムは、床の上に座り込んでしまった。


 「アダム様! まずい、酷い怪我だ……!」

 「いや、大丈夫です……『癒しの光』よ」


 心配するクボタに、アダムは自分に回復魔法をかける。アダムの出血は止まり、受けた傷はみるみるふさがっていく。


 「やはりすごいですね……魔法と言うのは……」

 「俺から見ればディメンダーXの方がはるかにすごいですよ……それよりも、」


 アダムは立ち上がり、クボタと向き合う。


 「クボタ殿……助けてくれたことは感謝します。しかし……」

 「ターニア様とリサ様からお話しは伺っております。アダム様はお一人でブラフと決着をつけたがっていると」

 「そうです。今回はディメンダーXの力を借りるつもりもありません。俺一人で、勇者として責務を果たしたいのです。ですから、」

 「わかっております。ですから私は、アダム様とブラフとの決闘に手出しはしません。しかし、私もインベーダーハンターとして……魔物退治の専門家として、ブラフの実験台にされた人々を見捨てるわけにはいかないのです。私は、ジャンドール砦の兵士たちを救出に来たのです」


 クボタは死の館で実験台にされている兵士たちを救出しに来たのだという。しかし、彼らの生存はもはや絶望的だ。すでに殺されて、魔物のエサや何かの触媒にされている可能性が高い。ここに来る途中でアダムが見た、何体もの白骨死体のように。だからこれは、クボタがアダムに付いてくるための建前だと思った。


 「クボタ殿……ジャンドール砦の兵士たちの生存は絶望的です。残念ですが、すでに殺されている可能性が高い」

 「それでも行きます! 行かせてください! 1パーセントでも生きている可能性があるのなら、私は彼らを見捨てるわけにはいかない!」


 冷静なクボタにしては珍しく、語気を荒げて付いてくると言う。アダムはそんなクボタに気圧されてしまった。


 「わ、わかった……わかりました。ブラフとの決着に手を出さないと言うなら、付いて来ても結構です……」


 こうして半ば無理やりに近い形で、クボタが付いてくることになった。


 <ありがとう、コマちゃん、ナナちゃん……ディメンダーXも>

 「ははは、ギーちゃんも無事そうで何よりだよ。ナナシキ・デバイスモード」


 リビングメイルに追い詰められたアダムを助けたのは、やはりブラフを追いかけていたナナシキだったようだ。シューターモードという銃のような形になり、壁に張り付いて援護射撃をしてくれたらしい。

 クボタはナナシキをデバイスモード――箱のような状態に戻すと、右肩に装着した。次に大きく反った黒塗りの眼鏡をかける。


 「アダム様、ナナシキの情報によると、実験を行っているのはこの下のようです。ブラフの反応もあります」


 クボタはそう言って、床をこぶしでたたき出した。何かを探すように、場所を変えながらトントンと床を叩いていく。


 「お、ここだな」


 ある場所でクボタは立ち上がり、床を強く踏みつけた。床板の一部分が沈み、取っ手のようになる。


 「よいしょ」


 クボタは取っ手ような部分を持ち、床板を持ち上げた。床板はふたのように簡単に開き、その下に木でできた階段が現れた。地下室に続く階段だろう。


 「アダム様」

 「ええ、行きましょう。『灯』よ」


 アダムは再び光魔法で明かりを灯し、クボタが開いた地下へ続く階段を下っていった。

 

 


 階段は狭く、らせん状になっており、ぐるぐると回って下に降りる形になっていた。かなり地下深くまで続いているようだ。アダムとクボタは光魔法を頼りに、下へ下へと降りていく。


 「ところでクボタ殿、一つお聞きしてもよろしいですか?」

 「なんでしょう、アダム様?」


 階段を下りながらアダムはクボタに話しかけた。どうしても気になることがあった。これまで理由をつけて直接聞いてはこなかったが、思い切って本人から聞いた方が良いだろう。


 「クボタ殿はどうして、俺たちのために戦ってくれるのですか? なぜ自分の活躍を隠そうとするのですか? あなたには俺たちに、ラスコー王国に配慮をする理由は無いはずだ」


 なぜクボタは自分と無関係な国で命を懸けて魔物と戦うのか? なぜディメンダーXの存在を隠そうとするのか? いくらディメンダーXが魔物に対して一騎当千の活躍をしているとはいえ、戦いである以上、当然死とは隣り合わせだ。どうしてそこまでしてディメンダーXは――タケシ=クボタは戦うのか?


 「前にお話ししませんでしたか? 外国の兵器であるディメンダーXの存在が表沙汰になれば、社会に混乱が――」

 「ですから、なぜあなたはそこまでわが国のために気を配るのかと聞いているのです! あなたには謎が多すぎる。あなたはなんのために戦っているのです?」

 「ああ……」


 クボタは少し考えこんだ。そしてゆっくりと話し出した。


 「私はインベーダーハンター……魔物退治の専門家を職業としています。だから、魔物の被害に苦しむ人々を放っておけないだけなのです。平たく言えば正義と平和のためでしょうか? あとは……自分の給料のため?」


 給料のために戦う、というのは納得できる。しかし遭難同然で外国に迷い込んで、給料がまともに支払われる保証は無いのに、給料のために戦うというのは納得できない。

 ジャンドール砦ではアダムを助けるため、トゥーリー村では村人を魔物の支配から解放するため、そしてラライアン村ではアランを魔物から救い出すため。クボタが戦ったのはこれらが理由だと言うのか。これらはすべて魔物退治の専門家、クボタが言うところの『インベーダーハンター』としての仕事だからだと言うのか。見ず知らずの他人のために、見返りが期待できないのに戦うことがインベーダーハンターの仕事だと言うのか。


 「アダム様、これで信じてはいただけないでしょうか?」

 「にわかには信じられませんね。正義のため、平和のために戦うなんて、おとぎ話の主人公じゃあるまいし」

 「じゃあ、アダム様は何のために戦っているのです? アダム様なんて本物の正義の勇者じゃないですか?」

 

 逆にクボタに尋ねられた。アダムは答える。


 「俺は……俺たちは貴族と先祖と、勇者の誇りのために戦っています」


 ラスコー王国の勇者は、300年前の魔王との戦いで神に選ばれた勇者たちの子孫だ。同時に、ラスコー王国の公爵家の一員でもある。つまり、ラスコー王国を背負って戦っているのだ。自分たちが魔王軍と戦うことは、王国の名のもとに戦うということと同義である。勝てば王国の栄誉であり、負ければ王国の恥となるのだ。

 アダムはそう教わってきた。


 「誇り……」

 「そうです。俺たちは誇りのために戦っている。正義なんてあいまいなものじゃない。勇者の責務も非常に重いものなのです。あなたにはそれが感じられない」


 なぜタケシ=クボタは戦うのか? 正義のため平和のためというのでは理由としては弱すぎる。とても信じられる理由じゃない。


 「もう一度お聞きします。クボタ殿、あなたは何のために戦っているのですか?」

 「私は――」

 <アダム! 下!>


 エクスカリバー――ギーが何かに気づいた。アダムとクボタが下を見ると、小さな影が下から階段を上ってくる。小さくてよく見えないが、スケルトンだ。スケルトンの大群が階段を上って押し寄せてくる。


 「くそ! こんな狭い場所で……!」

 「アダム様、失礼します!」

 「え!?」


 臨戦態勢を取ろうとするアダムを、クボタは抱きかかえる。そして腰の銃・デュアルマグナムを上に向かって撃った。細い糸が発射され、上の階段に突き刺さる。そして、


 「行きますよ、アダム様!」

 「え、ちょっと、うわあああああ!」

 

 アダムを抱きかかえて、クボタは手すりを飛び越えてらせん階段から飛び降りた。デュアルマグナムの細い糸だけを命綱に、二人はどんどん下に向かった落ちていく。


 「おりゃああああ!」


 クボタは下に落ちつつ、体を振り子のように揺らし、階段を上がってくるスケルトンを蹴り飛ばした。狭い階段で勢いよく蹴り飛ばされ、スケルトンたちは階段を元来た下の方へ転がっていった。


 「うわあああああ!」

 <きゃあああああ!>


 ものすごい勢いで落下する中、アダムとギーの悲鳴じみた絶叫が響く。アダムとクボタの二人はそのまま下に向かって落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ