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5-1 死の館

いつも読んでくださりありがとうございます。

 「『灯』よ……こっちだな……」


 暗闇の中で光魔法を使い、アダムは携帯方位磁針を見て方角を確認する。エクスカリバーで茂みをかき分け、北北東を――死の館を目指す。


 「可哀そうに……ご遺体は後で必ず葬ります。どうか安らかな眠りを……」


 途中、白骨化した兵士の死体を何体か見かけた。アダム達を襲ったスケルトン発生の触媒にされた哀れな被害者たちのものだろう。1人1人の遺体の前でアダムは彼らの死を悼んだ。


 <アダム……こっちで合ってるの? お屋敷全然見えてこないんだけど> 

 「わからん……ターニアだけでも連れて来るべきだったかな? ギーの方は何か感じないか?」

 <すごく弱いけど、確かにこっちの方角からあの仮面の魔物の気配がする……ようなきがする……ギーはターちゃんほど感受性強くないからわかんないけど>

 「そうか……」


 結構長く歩いたが、『死の館』らしきものはなかなか見えてこない。

 夜はまだ深い。

 月明かりと光魔法だけを頼りに、アダムはエクスカリバーを携えて前進する。

 魔物も野獣も寝静まっているような時間だ。不気味なまでの静寂に、アダムがエクスカリバーを振るう音だけがやけに大きく木霊する。


 「そういえば、ギー」

 <なに? アダム>

 「お前はどうして今まで人の姿にならなかったんだ?」


 エクスカリバーを振るいながら、アダムは今まで気になっていたことをエクスカリバーに――ギーに尋ねる。

 ジャンドール砦を撤退するまで、ギーは剣のまま、人の姿になることもしゃべることもなかった。それが何をきっかけに人の姿になったのか。


 <前に話さなかったっけ? アダムがギーを重装の勇者に渡そうとしたから、ギーはこうぎのためにギーになったんだよ>

 「それまではどうして人の姿にならなかったんだ?」

 <…………? わかんない。そういえばギーになる前の記憶がはっきりしない……ごめん>

 

 ギーはどこか寂しそうに、申し訳なさそうに答えた。

 ギーの自我が芽生えたのは、ジャンドール砦でエクスカリバーを手放した時だったのか。それまではエクスカリバーにギーの意識はなかったのだろうか――

 

 <ごめん……>

 「いや、いいんだ。難しいことを聞いてすまなかった、ギー」


 アダムがギーを慰めていると、不意に霧が立ち込めてきた。

 カラカラと、骨の鳴る音がする。

 

 <アダム……!>

 「ああ、ここで正解だったみたいだ」


 この霧は、スケルトンを活性化させたブラフの『霧』と見て間違いないだろう。つまり、ブラフが近づけたくない場所――死の館の近くだということだ。

 それを裏付けるように、地面から次々とスケルトンが現れる。手には斧を持ち、ゆっくりとアダムに近づいてくる。

 

 「ギー……いくぞ!」

 <うん!>


 スケルトンはアダムの姿を認識すると、うって変わって勢いよく斧を振り回してきた。アダムは斧による攻撃を避けつつ、スケルトンを真っ二つに切り裂く。


 「てやあああああ!」


 スケルトンは骨を鳴らして四方八方からアダムに襲い掛かる。アダムは前に向かって走りつつ、次々と降りかかる攻撃を避けながら、エクスカリバーでスケルトンたちを蹴散らしていく。

 

 <アダム、あれ!>

 「ああ。やっと目的地に着いたみたいだ」


 スケルトンたちの相手をしながら、アダムは前進する。すると暗闇の中に、大きな明かりが見えた。近づくにつれて大きな館の輪郭が見えてくる。

 間違いない。おそらくあれがニラーナの言っていたブラフの実験場、『死の館』だ。


 「しつこいな……一気に決めるぞ」


 スケルトンは死の館の前までアダムを追いかけてくる。まるで館の中に入れまいとするように。

 アダムは振り返ると、エクスカリバーに魔力を込めた。スケルトンたちを十分に引き付ける。そして、


 「今だ、『終末の音速剣』!」


 切り札の終末の音速剣を繰り出す。超高速で駆け抜け、1ヶ所に固まったスケルトンたちをまとめて一掃する。……いや、1体だけ残ってしまう。


 「たあああああっ!」


 技の反動で回避動作ができないアダムはエクスカリバーを地面に突き刺して支柱にし、襲い掛かる残ったスケルトンに回し蹴りを放つ。そのまま、バランスを崩したスケルトンをエクスカリバーで一刀両断する。


 「ふう……」


 切り裂かれたスケルトンたちが黒い霧となって霧散する。アダムは大きくため息をついた。そしてそのまま後ろを振り返る。元々はどこかの貴族の邸宅か別荘だったのだろうか。半分朽ち果てた大きな館が、アダムの前にそびえたつ。


 「ここが死の館……」


 アダムはエクスカリバーを構えたまま、慎重に館の扉を開ける。

 大きさの割に殺風景な館の内部は、不気味なまでに静まり返っていた。予測していた敵の待ち伏せもない。明かりもも煌々と輝き、まるで入ってくださいと言わんばかりだ。

 罠か?

 アダムは緊張感を保ったまま、館の中を進む。何かしらの『実験』を行っているとすれば、館の奥か地下だろう。あからさまにはしていないだろう。何かしらの偽装が行われているはずだ。アダムは手掛かりを見逃さないよう、注意深く周囲を観察しながらとりあえず屋敷の奥を目指す。


 (なにか……なにか、おかしなところはないか? ……ん?)


 壁に掛けられた大きな絵。両隣に鎧兜が立てかけられている。農村の風景が描かれている絵だが、どう見ても上下がさかさまだ。アダムは絵を取り外すと、ひっくり返してかけ直した。

 遠くで大きな音がする。


 「当たりか」


 アダムは仕掛けが動き出すのを待つ。しかし、動き出したのは実験場へ向かうための仕掛けではなかった。

 絵の両隣の鎧兜が急に動き出し、アダムに襲い掛かってきたのだ。


 「リビングメイル……! しまった!」


 リビングメイルとは、鎧兜が魔力を帯びて意志を持った魔物だ。魔王軍の中にも目撃例が報告されている。この2体のリビングメイルもおそらく魔王軍の――ブラフの配下だろう。実験場に近づくアダムを殺すつもりだ。


 「てやあああああ! ……なにっ!?」


 アダムはエクスカリバーでリビングメイルを斬りつけるが、リビングメイルはエクスカリバーの聖なる刃を通さない。通常のリビングメイルなら、エクスカリバーで簡単に切り裂けるはずだが、このリビングメイルは通常よりも装甲が硬くなっているのか全くの無傷だ。


 「くっ!」


 2体のリビングメイルの猛攻で、アダムは一気に壁際にまで追い詰められてしまう。リビングメイルは壁に飾っていたサーベルを手に取り、アダムを刺し殺そうと素早く突きを繰り出してくる。エクスカリバーを盾にリビングメイルのサーベルを防ぐが、追いつかない。


 「ぐわああああっ!」

 <アダム!>

 

 ついに防ぎきれなくなり、アダムはリビングメイルのサーベルに貫かれてしまった。アダムの全身に激痛が走る。急所を外したことと勇者の紋章による守りで致命傷ではないが、大きなダメージだ。

 リビングメイルはとどめを刺そうとアダムの喉元にサーベルを突きつける。

 絶体絶命、その時だった。


 「ナナシキ・シューターモード、アタック!」


 館の中にクボタの声が響く。同時に、どこからともなく光線が飛んできて、リビングメイル達に命中。アダムから注意がそれた。


 「うおりゃああああ!」


 さらにクボタの飛び蹴りがリビングメイル達をアダムから遠ざける。

 隙ができた。アダムはエクスカリバーに魔力を込める。

 

 「ひ……『光の刃』!」


 アダムは息も絶え絶えの状態で剣技を繰り出した。魔力を込めたエクスカリバーで何度もリビングメイル達を斬りつける。硬い装甲を持ったリビングメイル達も、アダムの連続攻撃に耐えきれず、粉々に砕け散り、黒い霧となって消滅した。

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