5-0 単独行動
ディメンダーXこと、宇宙ハンター部隊に出向中の科学者・久保田武は、次元艇ディーフェニックスでインベーダーを追跡中、ワープ空間からインベーダーの発生源である『ネスト』内に迷い込む。
ネストの内部はインベーダーの巣窟であると考えられていた。しかし、ネストはインベーダーの巣窟ではなく、地球とよく似た異世界だったのだ。
ネストの中で武は、インベーダーを『魔物』と呼び、それらと戦う『勇者』たちと出会った。
ジャンドール砦から逃亡したニラーナ将軍は、魔王軍と内通していた。『魔物寄せ』という薬物を使い、スケルトンタイプの大群をけしかけて勇者たちの抹殺を企む。武はディメンダーXに変身。ブルーマジシャンとレッドブレイカーの力を使い、スケルトンタイプを一掃した。
ニラーナ将軍の企みを阻止したと思った次の瞬間、武たちの目の前に現れたのは、ダークゾーン内部で倒されたはずの人型インベーダー・ブラフだった。
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ブラフは『永遠の闇』を発生させた。
中から大量のゴブリンがあふれ出てくる。
「それでは皆さん、ごきげんよう」
「待て! ブラフ!」
ブラフは永遠の闇の中に消えてしまった。アダムは追いかけようとするが、囮のゴブリンたちの攻撃に阻まれて前に進めない。ブラフが飛び込んだ永遠の闇は、そのまま夜の闇に溶け込むように消え去ってしまった。
「くそ! 逃がしたか!」
ゴブリンを切り裂きながらアダムは悔しそうに叫んだ。
永遠の闇が消えたためゴブリンが無限にあふれ出ることはなく、着実に数は減ってきている。しかしそれでも数が多い。アダム・ビル・ターニアの3人が前衛で剣を振るい、カルロスが後衛から狙撃し、ディメンダーXが群れの真ん中に飛び込んで遊撃しても追いつかない。
「キリがない……! 『終末の音速剣』!」
アダムは切り札の終末の音速剣を使った。目にも止まらぬ速さで魔力を込めたエクスカリバーを振るい、目の前のゴブリンの群れの半分ほどが倒される。しかし、そこでアダムの勢いが止まってしまい、技の反動で大きな隙が生まれてしまう。
「やばいよ! アダム兄ちゃん!」
「大丈夫だ! ……クボタ殿!」
アダムの言葉を受け、ディメンダーXはデュアルマグナムの×印を押し、すばやくXコマンダーを操作する。
<フィニッシュモード・スタンバイ……フルバースト!>
「マグナム・フィニッシュ!」
ディメンダーXはデュアルマグナムを構えて薙ぎ払うようにその場で回転する。デュアルマグナムから放たれた光線が、残ったゴブリンたちの体を貫き、切り裂いた。
こうして、ブラフの残したゴブリン達は掃討された。
ゴブリンを掃討したアダム達は再び馬車に集まった。
「とりあえず何とかなりましたな、アダム殿」
「しかし、ブラフが生きていたとは……どうしましょう、リーダー?」
「そうだな……」
カルロスに問われて、アダムは考える。
ジャンドール砦の兵士たちの生存は……残念ながら絶望的だろう。何より追いかければブラフと遭遇する可能性が高い。
アダムは拘束されているニラーナに尋ねる。
「ニラーナ将軍、ブラフの『実験』について何か知りませんか?」
ブラフは去り際に『実験』を行うと言っていた。この『実験』の中身が気になる。
「……死の館」
「はい?」
「……死の館だ……そこでブラフは実験を行うと言っていたのを聞いたことがある……」
死の館……不気味な名だ。おそらくそこに、ジャンドール砦の兵士たちはいる。生きているかどうかはわからないが……
「その死の館はどこにあるんですか?」
「わからん……そこまでは聞かされていない……」
ニラーナは全てに絶望した表情で、消え入りそうな声でそう答えた。
「アダム様、もしブラフが死の館に向かっているのなら、追尾できます。ナナシキを放っておきました」
変身を解いたクボタが言う。よく見ると右肩に付いていた箱――ナナシキがない。いつの間にかブラフを追跡させていたらしい。
「アダム殿……まさかブラフを追いかけるつもりですか? いくらなんでも危険すぎますぞ! 砦の兵士たちの生存ももはや絶望的! 無理をする必要はありません!」
「分かっています、先生……ですから、ニラーナ将軍を王都まで護送することを優先します。ブラフのことは王都で補給を済ませてから考えましょう」
ブラフ追跡に反対するビルに対しアダムはそう答えた。
深夜。
「ギー、起きているか?」
「……どしたの、アダム?」
食事を終え、皆が寝静まったころ、アダムは小声でXコマンダーを抱えて眠るギーを起こした。
「ちょっと死の館まで出かけようと思う。ついて来てくれないか?」
「……? 王都に戻ってからやっつけるんじゃなかったの?」
「あれは嘘だ。俺はブラフとの決着をつけたい。それにはお前の力が必要だ。モニカとヴォルフを死なせ、アミアンで多くの犠牲を出したリーダーとしての責任を取りたい……」
アダムの独白にギーはしばらく考え込み、無言で頷くとギーはエクスカリバーの姿に変わった。
<アダム、今回はギー、口出ししない。でも最後まで一緒に戦う>
「ありがとう……」
アダムはエクスカリバーを持つと、皆を起こさないよう、こっそり出発しようとする。
だが、
「アダム兄ちゃん、待って」
「ちょっと待って、アダム君」
見張りをしていたターニアと、いつの間にか起きていたリサに呼び止められてしまった。
「アダム君、ビルさんの言う通り、ブラフを追いかけるのは危険よ。やめておいた方がいいわ」
「アダム兄ちゃん……アダム兄ちゃんが全部背負い込む必要はないよ。どうしても行くなら、僕も一緒に――」
「ターニア、リサさん……悪いが止めないでくれ。俺はブラフと決着をつけたい。だが、かなり危ない橋だ。こんな愚策にみんなの命を懸けるわけにはいかない。みんなを連れてはいけない。俺が一人で決着をつける」
アダムの決意は固かった。危険と分かっていても、自分自身のプライドのために、かつリーダーとして仲間を危険にさらさないように、アダムはブラフのいる死の館へ乗り込むつもりだった。
「大丈夫です、リサさん。今回は命を捨てるような真似はしません」
「そう……しょうがないわね……」
アダムの決意を聞いて、リサは肩をすくめた。
「アダム君、必ず帰ってきなさい。それが条件よ」
リサはアダムが行くことを認めた。
「ちょっと、リサさん!?」
「これはダメね……ターニアちゃん、アダム君の決意は固いわ。何を言っても無駄よ。それにアダム君がここまで覚悟を決めているなら、もう止める必要はないわ」
「そんなあ……」
ターニアは落胆する。
「ありがとうございます、リサさん。必ず生きて帰ってきます。行ってきます」
「……ちょっと待って、アダム兄ちゃん」
出発しようとしたアダムをターニアが呼び止める。
「死の館がどこにあるか、わかるの?」
「…………適当に探す」
「それじゃあいつまでたってもたどり着けないでしょ……」
呆れるターニアに、アダムは何も言えない。
そんなアダムに、ターニアはボソッと呟いた。
「……北北東」
「え?」
「北北東! クボタのおっちゃんが食事中にそう言っていた。大体の方角は北北東だって。そこに向かえば死の館はあると思うよ」
「分かった。ありがとう、ターニア……行ってくる。みんなは先に王都に向かっていてくれ」
<ありがとう、ターちゃん。ギーも頑張るね>
ターニアから情報を得て、アダムはエクスカリバーと共に出発することにした。
アダムの姿が、夜の闇の中に消えていく。
「アダム兄ちゃん……ギーちゃんも、気を付けてね……」
ターニアは寂しそうに、死の館へ向かうアダムを見送った。




