表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/50

4-6 生きていた男

 「ば、馬鹿な……」


 2000体を超えるスケルトンの軍団がディメンダーX一人の前にわずか数十秒で跡形もなく消滅し、拘束されているニラーナは馬車の中で呆然となった。そこに、レッドブレイカーの装甲を解き、元の銀色の姿に戻ったディメンダーXと勇者たちが集まってくる。

 ビルが無言で、ニラーナを馬車の外に引っ張り出した。勇者たちの前に座らされたニラーナは恐怖でがくがくと震えている。

 皆を代表するようにアダムがニラーナに話しかける。


 「将軍、悪あがきもここまでです。あなたは重い罪を犯した……」

 「い、嫌だ! 私はまだ死にたくない!」


 ニラーナは縛られたままみっともなく喚く。

 ニラーナはブラフの甘言に乗り、国を裏切り魔王軍に加担した。それだけじゃなく、自分の部下の命を奪ったとも自白している。もはや軍法会議で極刑は免れないだろう。


 「た、頼む、見逃してくれ! 金も土地もいくらでもくれてやるから!」

 「ニラーナ……貴族としての誇りを失い、そこまで落ちぶれたか……!」


 顔をぐしゃぐしゃにして涙を流すニラーナに、ビルは剣を抜いた。

 ラスコー王国の勇者たちには、特別法規で魔王軍に関する者を自らの判断で処刑する権利を有している。ビルはそれを行使しようとしていた。


 「お前の元部下として、その情けない顔を晒すのは忍びない。せめてこの場で、貴族の象徴であるこの剣で、終わらせてやる」

 「いやだ……死にたくない……死にたくない……」

 

 そう言って、ビルはニラーナを首を切り落とそうとする。

 上段に構えた剣が、勢いよく振り下ろされる。だが、

 

 「ダメだ! 先生!」

 「ビル様、お待ちください!」


 ビルによって振り下ろされた剣が、アダムのエクスカリバーとディメンダーXの鉄の棒――デュアルロッドに受け止められる。

 

 「アダム殿……! クボタ……!」

 「ビル様、お気持ちはわかりますが、殺してはいけません!」

 「先生、ここで将軍を殺すべきじゃない……この男には正式な取り調べを受けさせたうえで、魔王軍に関する情報を引き出し、特別法規ではなく、軍法会議に則って処罰するべきだ」

 「…………アダム殿がそうおっしゃるのであれば。命拾いしたな、ニラーナ」


 ビルは悔しそうな顔をするも、剣を収めた。

 アダムはホッとする。

 ここで魔王軍に関する情報が失われることも問題だが、なによりアダムは特別法規で勇者が独断で処刑ができることに反対だった。犯罪者は1人の選ばれた人間の意思ではなく、慎重な取り調べと合議制によって裁かれるべきである――それがアダムの考えだった。


 「脅威が去った以上、今は移動しないほうがいいな……」


 アダムが呟く。辺りは真っ暗であり、視界は確保できそうにない。ラライアン村からの連戦で疲労もたまっている。行方不明になっているジャンドール砦の兵士たちのことも気になるが、今は休むしかないだろう。 

 

 「とりあえず、今日はここで野宿ですね……リサさん、マリーは大丈夫ですか?」

 「大丈夫よカルロス君、気を失っているだけ。アダム君、マリーちゃんに回復魔法をかけてあげて」

 「わかりました」

 

 リサに言われて、『風の守り』を使って気を失ったマリーに回復魔法をかけるべく、アダムは馬車の中に戻ろうとする。

 その時だった。


 「……! 危ない!」


 急にディメンダーXがニラーナを突き飛ばした。

 そしてその直後、ディメンダーXは炎に包まれた。


 「クボタ殿!?」

 「そ、そこか!」


 ディメンダーXは炎に巻かれながらも、デュアルマグナムを抜き、茂みの中に向かった光線を放った。茂みの中から黒い影が飛び出し、アダムたちに襲い掛かる。


 「させん!」


 ディメンダーXは炎を振り払い、デュアルロッドで黒い影の攻撃――ナイフを受け止める。

 黒い影は真っ黒なローブで全身を覆っていた。顔は見えない。


 「やりますねえ……ディメンダーXさん」


 黒い影はそうつぶやくと、大きくジャンプして後ろに下がった。

 アダム達も武器を構えて黒い影に対峙する。 


 「お前……いったい何者だ! ニラーナを口止めに来たか?」

 「そのつもりだったのですがねえ。せっかく『霧』まで用意してあげたのに情けない……まあ、いいでしょう。ついでにご挨拶をば……」


 黒い影はアダムの問いかけにそう答えると、ナイフをしまい全身を覆うローブを脱ぎ捨てた。


 「どうも、おひさしぶりです、勇者の皆さん」

 「お、お前は……!」

 「なんで……クボタのおっちゃんが倒したはずじゃ……!」


 アダムとターニアは驚愕の表情を浮かべ、ディメンダーXを見る。

 仮面に隠れてディメンダーXの表情は見えない。しかし、明らかに動揺している。


 「どういうことだ、クボタ? 我々を騙したのか?」

 「アーカイブとエネルギー反応が一致……馬鹿な、おまえは確かにダークゾーン内で倒したはず……!」

 「ああ、ディメンダーXさんの名誉のために言っておきますが、確かに私はディメンダーXさんに倒されました。ただ1回倒しただけでは死なないと言うだけです」


 黒い影は……ディメンダーXが『永遠の闇』の中で倒したはずの仮面の悪魔・ブラフは、穏やかな口調で不気味な笑みを浮かべた。


 (まずいな……!)


 倒されたはずの強敵・ブラフが生きていた。その事実にアダムは焦る。これまで封印の鏡を2枚奪い、モニカとヴォルフを死に追いやったのがこの人型の魔物――仮面の悪魔・ブラフだった。クボタが……ディメンダーXが倒したと思われていたが、こうやって再びアダム達の目の前に現れた。


 「まあ、そう怖い顔をなさらないでください。別に今、あなた方と戦おうなんて思っていませんよ……こちらも『実験』がありますので」


 ニラーナも砦の兵士たちを「実験に使った」と言っていた。何か関係があるのか?


 「実験……なんだそれは?」

 「さあ、何でしょう?」


 ブラフははぐらかすと、『永遠の闇』を発生させた。中から大量のゴブリンがあふれ出てくる。


 「それでは皆さん、ごきげんよう」

 「待て! ブラフ!」

 

 ブラフはそう言い残すと、永遠の闇の中に飛び込む。アダムは追いかけようとするが、囮のゴブリンたちの攻撃に阻まれて前に進めない。ブラフが飛び込んだ永遠の闇は、そのまま夜の闇に溶け込むように消え去った。

短いですが、第4話終了

次回「アダムとクボタの冒険」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ