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4-5 青と赤の乱舞

 アダム達は気が付くとスケルトン軍団に囲まれていた。霧の向こうで、無数のスケルトンたちが剣や斧、弓矢を携えてアダム達を狙う。


 「しまった、話し過ぎたか……! 戦闘用意!」


 アダムの号令に、ビルとターニアが馬車を守るように前に出る。カルロスが怪我人のマリーとリサ、拘束したニラーナを馬車の中に運び入れる。


 「無駄だ! お前たちはスケルトンたちによって無残に殺される! そして私は、魔王軍の幹部として新たな栄光を築くのだ!」


 カルロスに連れられるニラーナが叫ぶ。ニラーナの叫び声をバックに、アダムたちはスケルトンに対峙する。しかし、数が多すぎる。アダムたちは後方のカルロスとクボタを含めても戦えるのは5人。スケルトンたちは兵士たちの死体と魔物寄せの薬で増殖・活発化して、数えきれないほどの数がいる。

 逃げるのは無理だろう。


 「1000……2000…………気配が多すぎる! ダメだ……数えきれない!」


 ターニアが呟いた直後、弓矢を持ったスケルトンたちが一斉に矢を放った。無数の矢が風を切り、アダムたちに迫る。

 スケルトン1体程度の攻撃なら、勇者の紋章で守られたアダムたち勇者にとってはかすり傷だが、こう数が多いと話は別だ。しかも馬車を引く馬に当たれば、当然馬車は使い物にならなくなってしまう。


 「か……『風の守り』よ!」


 馬車の中に退避したマリーが力を振り絞って防御魔法を使う。優しい風の結界がアダム達と馬車を覆い、スケルトンたちの放った矢を防ぐ。


 「マリー!」

 「……これが限界……ニラーナのために、こんな奴のために死ぬわけにはいかない……アダム先輩! クボタさん! 絶対に勝って!」


 マリーの魔力はわずかにしか回復しておらず、足りない分は精神力を使って補ったのだろう。もともと負傷していたマリーには無茶だったらしい。『風の守り』が安定すると同時にアダムが馬車の方を振り返ると、マリーは気を失ってしまった。

 スケルトンたちは攻撃を仕掛けてくる。剣や斧を手に、『風の守り』を崩そうと得物を振り回す。


 「マリーが命がけで作ってくれたチャンスを無駄にするな! 行くぞ!」


 アダムは叫び、『風の守り』の中から迫りくるスケルトンたちに向かう。エクスカリバーを振るい、次々と切り倒していく。ビルとターニアも双剣と兵士用の剣を抜き、近づいてくるスケルトンたちを切り裂く。カルロスとクボタは弓矢と銃で、遠くから弓を引くスケルトンを狙い撃つ。

 しかしスケルトンは一向に数が減らない。倒しても倒しても次々地面の中から湧き出てくる。それだけじゃない、切り倒したはずのスケルトンが黒い霧となって消滅することなく、再び起き上がって襲い掛かってくる。これではキリがない。

 考えられる原因は――


 「この霧……もしかして魔物寄せの効果もあるのか?」

 「それだけじゃないね……この霧、スケルトンを蘇らせている!」


 アダムのつぶやきに、ターニアが答える。

 ターニアの言う通りだろう。魔物寄せにスケルトンを蘇らせる効果はないはずだ。そしてこの霧を――この霧と、できればニラーナがまいた魔物寄せの効果まで何とかしないことには、アダムたちは物量に押されて全滅してしまう。『風の守り』もいつまで持つかわからない。マリーが気を失ってしまった以上、魔法をかけ直すこともできない。


 「アダム様! よろしいですか?」


 クボタがアダムに大きな声で問いかける。

 

 「先生、良いですね?」

 「…………わかりました、やむをえません」


 アダムはビルの了承を取り、後ろに向かって叫んだ。


 「クボタ殿! 何とかできませんか!?」

 「何とかやってみます! コンバットシステム、起動!」


 クボタは銃をしまうと、Xコマンダーの丸い部分を回した。クボタの周囲が、半球状の結界に覆われる。近づいてきたスケルトンたちが弾き飛ばされる。


 「電装!」


 顔の横で、腕を交差するようにしてXコマンダーの横の小さなレバーを押す。するとクボタの体は銀色の眩い光に包まれ、瞬く間に銀色の戦士・ディメンダーXの姿に変わった。

 と、同時に、今までアダム達を守っていた風の守りが消えてしまう。


 「まずい! 風の守りが……!」

 「バリアーフィールド!」


 ディメンダーXが両手を広げる。

 すると、風の守りの代わりに、巨大な結界がアダム達の周囲を覆った。


----------------------------------------


 「コンバットシステム、起動!」

 「電装!」


 久保田武は左腕のメインコントロールブレス・Xコマンダーの丸ダイヤルを回すことでディメンダーXのコンバットシステムを起動させ、イグニッションレバーを押すことでディメンダースーツを展開、0.07秒で『電装』し、ディメンダーXに変身する。

 ディメンダーXは対インベーダー用攻撃装備だけでなく、インベーダーから人を守るための装備も備えられている。バリアーフィールドもその一つである。


----------------------------------------


 「巨大結界まで張れるのか!」


 アダムは驚く。

 しかもディメンダーXの結界は風の守りよりも強力だった。アダム達が武器を振るうまでもなく、接近してきたスケルトンたちは結界の壁に触れた途端に弾き飛ばされてしまう。


 「行くぞ! 第二電装!」


 ディメンダーXはベルトから、青い小さな板を取り出した。アダムは初めて見るが、以前見たレッドブレイカーのプレートに似ている。

 もしかしてあれが……

 ディメンダーXは青いプレートをXコマンダーに差し込み、横の小さなレバーを押した。


 <アディション・ブルーマジシャン>


 Xコマンダーから声が鳴り、複数の青い装甲が飛び出す。レッドブレイカーの時のようにディメンダーXの両手、両足、胸部、背中、そして頭部に装着される。背中の大きな長い角材のようなものが特徴的だ。あれも武器だろうか?

 

 「ディメンダーX・ブルーマジシャン!」


 背中の角材のような物を取り外すと、槍のように振り回しながら、ディメンダーX・ブルーマジシャンは名乗りを上げる。


 「ふん!」

 

 角材のような物を軽々と振り回し、襲い掛かってくるスケルトンたちを次々と薙ぎ払う。

 

 「あれがブルーマジシャンか……」


 『魔の森』でアランをトレントから切り離すという奇跡のような技を見せたと言う謎の力、その正体は青いディメンダーXだった。アダムが呟く横で、ディメンダーXは角材のような物をスケルトンたちに向ける。


 「エネルギー中和液、噴射!」


 角材のような物の先端から、透明な液体が霧状に散布される。液体を浴びたスケルトンたちはその動きが鈍り、遅くなっていく。


 <フィニッシュモード・スタンバイ……フルバースト!>

 「マジシャン・フィニッシュ!」


 ディメンダーXは結界の周りを走りながら、液体を散布していく。遠くに、近くに、液体をまんべんなく散布していく。

 地面から出現しようとしていたスケルトンが途中で崩れ去る。さらにアダム達を覆っていた濃ゆい霧も徐々に薄くなっていく。


 「霧が晴れていく……魔物寄せの効果も弱まっている……」

 「これがブルーマジシャンの力か……」

 

 カルロスとビルが感嘆の声を上げる中、ディメンダーXはXコマンダーから青いプレートを引き抜き、レッドブレイカーの赤いプレートに交換する。


 「第二電装!」

<アディション・レッドブレイカー>


 Xコマンダーの小さなレバーが押される。

 ブルーマジシャンの装甲が消え、代わりにレッドブレイカーの赤い装甲と2枚の大きな板が現れる。ディメンダーXの銀色の装甲が赤い装甲に覆われる。


 「ディメンダーX・レッドブレイカー!」


 レッドブレイカーはトゥーリー村でジャイアントオークとキメラオークを圧倒的な力で倒した形態である。スケルトンたちを一掃するつもりだろう。


 「ブレイカーキャノン!」


 レッドブレイカーに再変身したディメンダーXの背中の2枚の板――以前はブレイカーソード、今回はブレイカーキャノンと呼ばれているものが、独りでに起き上がり、両肩に乗る。2枚の板の先端がスケルトンたちに向けられる。動きが鈍ったスケルトンたちが迫る中、ディメンダーXはXコマンダーの×印部分を触り、横の小さなレバーを押した。

 

 <フィニッシュモード・スタンバイ……フルバースト!>

 「ブレイカー・フィニッシュ!」


 2枚のブレイカーキャノンの先端から、無数の赤い光線が放射状に発射された。光線はスケルトンたちの体を貫き、破壊していく。


 「うおおおおおおお!」

 

 結界の周囲をゆっくりと歩き回りながら、周囲を取り囲むスケルトンたちを次々と破壊していく。高い知能を持たないスケルトンたちはなおも襲い掛かろうとするが、ブレイカーキャノンの光線の前にはなす術もない。

 十数秒後、スケルトンたちの気配は完全になくなり、ディメンダーXは攻撃を停止させた。 せた。 

あれ? あんまりディメンダーXが動いていない……

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