4-0 将軍との再会
すみません、週1回の投稿を目指していたくせに、大幅に期間が開いてしまいました。
申し訳ございません。
ディメンダーXこと、宇宙ハンター部隊に出向中の科学者・久保田武は、次元艇ディーフェニックスでインベーダーを追跡中、ワープ空間からインベーダーの発生源である『ネスト』内に迷い込む。
ネストの内部はインベーダーの巣窟であると考えられていた。しかし、ネストはインベーダーの巣窟ではなく、地球とよく似た異世界だったのだ。
ネストの中で武は、インベーダーを『魔物』と呼び、それらと戦う『勇者』たちと出会った。
ラライアン村の近くの『魔の森』に出現した木のインベーダー・トレントは、村の少年・アランに憑依していた。武はディメンダーX・ブルーマジシャンの力を使い、アラン少年を救出。そしてトレントを打ち倒し、『魔の森』を普通の森に戻したのだった。
「ニ、ニラーナ将軍……!」
街道に倒れていた軍服姿の男。それはジャンドール砦を守る任を負っていた、ニラーナ将軍だった。ブラフ率いる改造ゴブリン軍団を前にして、兵と共に砦と勇者たちを捨てて逃げた男だ。
「ニラーナ将軍……! なぜあなたがこんなところに? 兵たちはどうしたのです⁉」
「ビル=ケンブリッジか……わからん……兵たちとは途中ではぐれてしまった……」
詰め寄るビルに対し、ニラーナは息も絶え絶えといった様子で答える。目立った外傷はないが、かなり疲れ果てているようだ。
「……なぜあなたは我々を見捨てて逃げたのです? おかげで我々は全滅するところだったのですよ!」
「……私は悪くない……全滅する危険があったから兵を逃がしただけだ……全滅しそうになったのは、お前たち勇者自身の責任だ……」
「あなたという人は……!」
「せ、先生、落ち着いて……!」
ビルがニラーナの胸ぐらを掴む。今にもニラーナに殴りかかろうとするビルを、アダムがなだめながら引き離す。
「それよりも……早くここを離れろ……! 奴らが来る……」
「奴ら? 将軍、一体何があったのです?」
「アダム兄ちゃん! 魔物だ!」
アダムがニラーナに聞き返すと同時に、気配を察知したターニアがいち早く声を上げる。
「これは……!」
「まずいですね……」
ビルとカルロスが剣と弓矢を構える。
道の両脇、茂みの中から、数十体のゴブリン達が現れた。
ブラフによって生み出された改造ゴブリン――魔術師のメイジゴブリン、鉄の皮膚を持つアーマーゴブリン、そして狂戦士のバーサークゴブリンだ。
気が付くと、改造ゴブリン達はアダム達の馬車の周りを取り囲んでいた。それぞれの得物を手にし、低いうなり声をあげて、攻撃を仕掛けようとしている。
「ギー!」
「ちぇんじえくすかりばー!」
馬車の中からギーが変身したエクスカリバーが飛んできて、アダムの手におさまる。
「来るよ!」
「みんな、行くぞ!」
それと同時に、改造ゴブリンの大群が雄たけびを上げて襲い掛かってきた。アダム達は戦闘態勢に入る。
アダム達は四人、対する改造ゴブリン達は数十体の大群。だが今回は、ジャンドール砦の時とは違う。人数は減ったが、アダム達には切り札がある。
「『守りの太刀』」
「『影縫いの術』」
ビルの『守りの太刀』の堅い防御が改造ゴブリンたちの攻撃を一手に引き受ける。
ターニアの『影縫いの術』が改造ゴブリンたちの動きを止める。
カルロスの矢が改造ゴブリンの足元に突き刺さり、その動きをけん制する。
「アダム兄ちゃん!」
「一気に決めるぞ! 『終末の音速剣』」
アダムは終末の音速剣を放った。エクスカリバーに魔力を込め、目にも止まらぬほどの速さで動く。メイジゴブリンが魔法を放つ前に切り裂き、バーサークゴブリンの荒々しい攻撃を避け、すれ違いざまに切り倒す。そしてアーマーゴブリンの硬い皮膚をも一撃で切り裂いた。
「これで最後だ!」
終末の音速剣は次々と改造ゴブリンたちを切り裂き、最後に残ったメイジゴブリンが黒い霧となって消滅する。改造ゴブリンの大群は瞬く間に全滅してしまった。
「くっ!」
技の反動で、アダムはエクスカリバーを杖代わりにして膝をついた。まだ技が――週末の音速剣が体になじんでいない。これは何の苦労もせずに強力な技を習得した代償なのだろうか?
「な、なにが起こったんだ……?」
事情を知らないニラーナが驚きの表情を浮かべてアダムの方を見る。
アダムは何とか立ち上がると、エクスカリバーを放り投げ、ギーの姿に戻した。
その様子にニラーナは再び驚きの表情を浮かべる。
「聖剣の勇者殿……その娘は一体なんだ? なぜ聖剣エクスカリバーが娘の姿になったのだ? さっきの剣技は何だ? あんな凄まじい剣技見たことがない……!」
「ニラーナ将軍、詳しいことは馬車の中でお話しいたします。こちらもいろいろ聞きたいことがあるので」
御者台にはカルロスが座り、アダムはニラーナの説明のために馬車の中に入る。
「……信じられん話だ。聖剣が人の姿に変わったり、凄まじい強さを持った戦士が現れるなど……」
「信じられないかもしれませんが、すべて事実です、将軍。我々全員がその証人であり、ディメンダーXももうじき我々を追って現れるでしょう」
「堅物のケンブリッジがそこまで言うのなら、事実なのだろうな……実際私もエクスカリバーが変身するのは目撃してしまったわけだし……そこのナナシキとかいう鳥型の機械も見てしまっているし……」
ジャンドール砦での出来事をビルが説明する。ディメンダーXこと、クボタとの出会い、そしてエクスカリバーが少女の姿に――ギーに変わってしまったこと。ニラーナは相変わらず信じられないという顔をしている。ビルの説明を聞き終え、本物の鳥のように羽ばたくナナシキに話しかけ続けるギーの方を見つめる。そしてニラーナは観念したかのように大きくため息をついた。
「わかった。お前たちの話を信じよう。それで、ジャンドール砦を出た後、どうしたのだ?」
ニラーナに促され、続きをアダムが説明する。
「俺たちはトゥーリー村に向かい、そこで村の人々を利用し悪だくみをしていたオークの群れを、クボタ殿と共に倒しました。そしてラライアン村の近くに出現したトレントと戦い、これをクボタ殿が殲滅しました」
「トレントと戦う前の日の夜に、ギーちゃんがクボタのおっちゃんの力を勉強して、アダム兄ちゃんに教えました。それがさっきの剣技、『終末の音速剣』です」
「教えた?」
「教えた、というか………額をくっつけて伝えた? ……アダム兄ちゃん、合ってる?」
「合っている。間違いない。不思議な力で伝えられ……気が付くと技が身についていた」
『終末の音速剣』についてターニアが補足し、それをアダムが肯定する。
「なんと……! そこの少女はそんな力を秘めているのか?」
ニラーナは席から身を乗り出して驚く。
無理もないか、とアダムは思う。
自分たちはギーの存在にもすっかり慣れてしまったが、ギーの不思議な力は本当に驚くべきことだ。
「アダム、ギーなんかした?」
「いや、何もしていない。ギーはよく頑張っているということだ」
「そーなんだ!」
「ああ、そうだ」
アダムの言葉に、ギーは笑みを浮かべる。そしてナナシキとの一方的にしか見えない会話に戻っていった。
「ところでニラーナ将軍……」
黙って話を聞いていた、リサが切り出した。最近は話し合いに消極的なマリーも睨みつけるようにニラーナの方を見ている。
「そろそろ、あなたがたが逃げた理由を話していただけませんか?」
「……」
リサの言葉に、ニラーナが口を閉ざす。言葉を選んでいるようだ。
リサは追い打ちをかける。
「なんで私たちを捨てて、ジャンドール砦から逃げ出したのか……ご一緒に逃げたはずの、ジャンドール砦にいた兵たちはどうしたのか……全部説明してください。こっちはマリーちゃんが無理心中しようとしたほど追い詰められていたのです」
「…………わかった、全部話そう」
アダム達勇者は、助けを寄こさずに逃げたニラーナに対して強い不信感を抱いている。そんな重い雰囲気の中、ニラーナはようやく口を開いた。