3-6 青い魔術師
「第二電装!」
ディメンダーXは前に突き出した青いプレートをXコマンダーのスロットに挿入し、イグニッションレバーを押す。
<アディション・ブルーマジシャン>
Xコマンダーが青いプレート――ブルーマジシャンプレートを認識。プレート内のデータを読み込み、青い装甲を生成。Xコマンダーのマテリアライズ・モニターから飛び出し、ディメンダーXの両手、両足、胸部、背中、そして頭部を覆う。
「す、姿が変わった……?」
戸惑うアラン少年の目の前で、ディメンダーXは銀色の姿から、背中のクレーンアームが特徴的な青い姿に変身した。
「ディメンダーX・ブルーマジシャン!」
ディメンダーXは背中のクレーン――マジシャンシャフトを外すと、槍のように振り回し、改めて名乗った。
ディメンダーX・ブルーマジシャン――それは、人命救助・災害対応に特化したディメンダーXの追加装甲である。攻撃に特化したレッドブレイカーに比べると戦闘向きではないが、今のようにインベーダーに人質をとられている場合には大きな効果を発揮する。
「へえ……色が変わっただけで何ができるのかな……?」
再びアラン少年の目が赤く染まる。再びトレントに乗っ取られたのだ。
トレントは大きな腕を振り回し攻撃してくる。
「ふん!」
しかしブルーマジシャンに変身したディメンダーXはそれをマジシャンシャフトで受け止め、
「てやああああ!」
振り下ろす。するとトレントの腕は木っ端みじんに砕け散ってしまった。
「ば、馬鹿な……なんてパワーだ!」
「悪いが、一気に決めさせてもらうぞ!」
ディメンダーXはマジシャンシャフトの先端を天に向けた。
「特化型急速劣化液、噴射!」
マジシャンシャフト先端のノズルから、対トレント用に特化精製した急速劣化液が噴水のように吹き出される。急速劣化液をシャワーのように浴びたトレントたちは急激に衰弱していった。これで救出中に妨害を仕掛けてくることはできないはずだ。
「体が……動かない……! ディメンダーX……お前はなぜ、平気なんだ……?」
「この急速劣化液はトレント、お前の構造に合わせて精製されたものだ。つまり、トレントにしか効かないというわけだ!」
ディメンダーXはマジシャンシャフトの先端をノズルからマジックハンドに切り替え、アラン少年を取り込んだトレントの親玉に向けた。
「アランさんを、返してもらうぞ!」
<フィニッシュモード・スタンバイ>
Xコマンダーの×ボタンを押し、フィニッシュモードを起動させる。
ブルーマジシャンの追加装甲に複合エネルギーがみなぎる。
「うおおおおおおおっ!」
<フルバースト!>
走りながら、Xコマンダーのイグニッションレバーをマジシャンシャフトに押し付け、複合エネルギーをマジシャンシャフトの先端、マジックハンドに集束させる。
「マジシャン・フィニッシュ!」
マジシャンシャフトのマジックハンドで、トレントの幹に張り付けられたアラン少年の体を挟み込む。同時に、インベーダーと人間の体を分離させる電磁エネルギーが流し込まれる。七式の解析データを基にトレントの構造データとアラン少年の身体データに合わせて調整された特別なものだ。
アラン少年の体とトレントの体が分離される。肌の色が元に戻り、目から不気味な赤い光が消えていく。
「う、うがあああああああ! 意識が……うばわれ……僕の……体が……もどる……怖いよ、死にたくないよ! 助けて!」
徐々に人格がトレントの支配から解放される。アラン少年の助けを求める声にディメンダーXは頷くとマジシャンシャフトを思い切り引き抜いた。アラン少年の体は急速劣化液と電磁エネルギーで弱ったトレントから引きはがされる。
「大丈夫ですか、アランさん!」
「う……兄さん……兄さんに……」
長期間トレントに取り込まれていて、疲労がたまっていたのだろう。ディメンダーXに抱きかかえられたアラン少年は気を失ってしまった。
「ディメンダー……エックス……! よくも……よくも……! せっかく手に入レタ、人ノジンカクヲ……!」
アラン少年を引き抜かれたトレントが片言になる。さっきまではアラン少年の口を介して流ちょうに話していたのに、急に知性がなくなったようだ。
「コウナッタラ、永遠ノ、闇デ、コノモリヲ、トリコム」
トレントたちが一斉に地面に潜り込む。同時に、左肩のレーダーデバイスが異常を検知した。
「これは……ダークゾーン! 地下か! このままでは危ない!」
森の地下に、無限にインベーダーを生み出し、インベーダーを強化する『ダークゾーン』の発生を確認する。ブラフが生み出したものとは違い、亜空間ではなく実空間に発生させるものだ。まだこの一角だけだが、森の地下全体まで広がれば、巨大なインベーダーの巣に変わってしまう。それだけは何としても避けなければならない。
「七式、アランさんを頼む! ワープスライダー!」
アラン少年を地面に寝かせ、七式に護衛を任せる。そしてダークゾーンに突入するためにワープスライダーをマテリアライズする。
「とうっ!」
Xコマンダーからプレートを引き抜き、ブルーマジシャンの装甲を解除。ディメンダーXは元の銀色の姿に戻る。そして飛んできたワープスライダーに飛び乗る。身をかがめ、トレントたちが地下に潜り込んだ穴に飛び込み、そのままダークゾーンに突入した。
ダークゾーンの地面は沼のようになっていた。レーダーデバイスの分析では強力な猛毒を含んでいるようだ。ディメンダースーツを着ていない状態で入れば、皮膚から染み込み死んでしまうだろう。
「あれか!」
次元センサー越しに、地下に潜り込んだトレントの姿を確認する。沼に根を張り、その猛毒を吸い取っているようだ。しかし、おかしい。いくらインベーダーと言えども、この沼の毒を吸収すれば構造体が汚染、浸食されて崩壊するはずだが……
「な、なに!」
ディメンダーXの目に映ったのは驚くべき光景だった。
沼の毒を吸収したトレントたちは崩壊するどころか、どんどん巨大化していく。さらに、トレント同士の体が複雑に絡み合い、一本の巨大な木……いや、一体の巨大なトレントへと変化していく。その大きさは目測で100m、いやもっと大きくなっていく。
「こんなものが実空間に現れたら……!」
トレントたちは猛毒に浸食されるされることで暴走することを選択したようだ。
ディメンダーXはXコマンダーのモニターをのぞき込み、ディーフェニックスとディードラゴンの状態を確認する。
「活動時間7分……自動修復ではこんなものか……」
前回よりも2分活動時間が伸びただけで、状態はあまりよろしくない。だが、やるしかない。ディメンダーXはXコマンダーの三角ボタンを押しながら叫んだ。
「ディーフェニックス! ディードラゴン!」
Xコマンダーから発せられたマテリアライズ・ビームが次元艇・ディーフェニックスと、次元戦艦・ディードラゴンを形成する。
「搭乗!」
ディメンダーXはワープスライダーから飛び降り、ディーフェニックスに乗り込んだ。
そこに、巨大トレントがツルのような触手を伸ばしてくる。
「危ない!」
ディーフェニックスは間一髪のところで回避。すかさず、ディードラゴンと共にビーム砲を打ち込む。
<残り6分>
「合体、グレートフォーメーション!」
ディメンダーXはコントロールパネルを操作し、合体態勢に入る。
ディードラゴンが両足と胴体に変形し、ディーフェニックスが背部の翼と胸部装甲、両腕に展開する。二つは合体し、最後に胸部のプレートが開き、頭が出現して合体が完了する。
背中に大きな翼、全身に火砲を満載した巨大な鋼鉄の巨人が出現した。
「完成、グレートディメンダー!」
合体したグレートディメンダーは全長約50m。巨大トレントのおよそ半分。大人と子供位の差がある。
「うわっ!」
巨大トレントが大きな腕を振り回し、グレートディメンダーを殴り飛ばした。グレートディメンダーは猛毒の沼に倒れてしまう。
<損傷拡大。残り時間3分>
「まずいな……一気に勝負をつけるぞ!」
毒の沼につかったことで活動時間が半分になってしまった。
ディメンダーXはバックルケースからブルーマジシャンプレートを取り出すと、コントロールパネルの専用スロットに差し込んだ。
「プラスパワー!」
<アディション・ブルーマジシャン>
グレートディメンダーの全身各部に、青いブルーマジシャンの装甲が50mサイズに合わせて巨大化してマテリアライズされ、グレートディメンダーに装着された。
「行くぞ!」
グレートディメンダー・ブルーマジシャンは起き上がると、背中の巨大なマジシャンシャフトを巨大トレントの体内に押し込む。巨大トレントは複数のトレントが絡み合ってできているため、全身隙間だらけだ。
「特化型急速劣化液、噴射!」
先ほどトレントたちの動きを封じた劣化液を今度は体内に噴射する。
巨大トレントの動きが固まる。
「とどめだ!」
<フィニッシュモード・スタンバイ……フルバースト>
ディメンダーXはXコマンダーの×ボタンを押し、イグニッションレバーを押す。グレートディメンダーはマジシャンシャフトを一度抜き取ると、その先端をドリルに変えた。
マジシャンシャフト先端のドリルに、複合エネルギーが集中する。
<残り1分>
「マジシャン・フィニッシュ!」
グレートディメンダーはマジシャンシャフトを槍のように大きく振り回し、巨大トレントの体をバラバラに切り裂いていく。劣化液で動きを封じられた巨大トレントに抵抗する術はなかった。全身を木材に変えられ、巨大トレントはついに毒の沼に沈んだ。
<活動限界……緊急脱出シマス>
「うわあああああああっ!」
戦闘終了と同時に、グレートディメンダーも時間切れになった。グレートディメンダーは一瞬でデータ化されてその実体を失い、ディメンダーXは宙に投げ出される。
このまま毒の沼に落ちるのかと思われたが、間一髪のところで旋回していたワープスライダーに受け止められた。
「ふう、助かった……」
巨大トレントが倒され、主を失ったダークゾーンは崩壊を始める。地下を無理やり押し広げた空間のため、外に押しやられた土や岩が雪崩のごとく流れ込んでくる。
「脱出!」
ディメンダーXは流れ込んできた土砂で生き埋めになる前に、ワープスライダーを地上に向けて大急ぎでこのダークゾーンから脱出するのだった。