3-5 森の奥の戦い
今回はちょっと短いです
時間はアダム達と別れたところまでさかのぼる。
「よっ、とっ、とっ!」
武は改造マウンテンバイクを走らせながら、木のインベーダー達――武は初めて見るタイプのインベーダーだ。アダム達が『トレント』と呼んでいたことから以後トレント型と呼ぶ――の太い枝のような腕の攻撃を回避していく。
トレント型に寄生されたアラン少年を救出するためには、データが足りない。そこでバードモードに変形させた可変型自律機動デバイス『七式』――普段はデバイスモードで武の右肩に装着されている――を使い、トレント型を解析させる必要があった。その間、武はこうやってトレント型の周囲を走り回り、囮になっているのだ。
「ええい、ちょこまかちょこまかと逃げて……!」
トレント型に寄生されたアラン少年の表情に焦りが見えはじめる。やがてそれは焦りから、明確な怒りの表情に変わった。
「おとなしくしろってんだよおおおおお!」
武を取り囲んでいたトレント型が一斉にその腕を巨大化させ、地面にたたきつける。武は改造マウンテンバイクを操り、その直撃を回避するが、
「う、うおおおおおおおっ!」
腕を叩きつけたことによる地面の大きな揺れからは逃れられない。ハンドルを取られて、こけてしまった。
「死ねえええええええええ!」
アラン少年に寄生した、否、アラン少年を取り込んだトレント型が触手のような腕を伸ばしてくる。武を絞め殺すつもりだ。
「うおっ!」
武は間一髪のところで触手を回避すると、改造マウンテンバイクを乗り捨てて、トレント型の群れの中を走り回る。捕まれば死ぬ、地獄の鬼ごっこだ。
「ええい! 解析は! まだか!」
次々と地面に叩きつけられ、地面に突き刺さる木の枝のような触手を、武はジャンプしたり前回りしたりして避ける。避けながら、七式によるトレント型の解析を待つ。
「いいかげんに、捕まれ!」
しかしその前に、トレント型が先に動いてしまった。アラン少年を取り込んだトレント型が触手を無数に伸ばして、武を絡めとろうとしてきたのだ。
「いいっ!?」
目の前に網のようになった触手の壁が立ちふさがる。武に逃げ場はなかった。
「コンバットシステム、起動! ……うわっ!」
ディメンダーXへの変身を試みるが、間に合わない。網をかぶせられた野生動物のように、全く身動きが取れくなってしまう。
触手の壁は武の体を絡めとり、玉のような形になる。武はトレント型に捕らえられてしまった。
「おじさん……押し潰してあげるよ!」
トレント型は締め付けを強くする。とらわれた武の体を木で締め付けて、潰してしまうつもりだ。
まさに絶体絶命。だがその時、武は腕を伸ばして叫んだ。
「電装!」
その瞬間、玉のような形になった触手が銀色の光を放ち、バラバラに吹き飛んだ。
「な、なんだ!?」
トレント型が驚くのも無理はない、。触手を打ち破った銀色の光は、ゆっくりと地面に着地すると、やがて人の形になった。
「だ、誰だ、お前は……?」
銀色のディメンダースーツに身を包んだそれは、アラン少年を取り込んだトレント型の方を振り向くと、
「次元機動、」
ゆっくりと腕を左右に振り回し、
「ディメンダーX!」
右手で大きくXを描き、そう名乗った。
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「コンバットシステム、起動!」
「電装!」
久保田武は左腕のメインコントロールブレス・Xコマンダーの丸ダイヤルを回すことでディメンダーXのコンバットシステムを起動させ、イグニッションレバーを押すことでディメンダースーツを展開、0.07秒で『電装』し、ディメンダーXに変身する。
触手の玉の中で武が思い切り腕を伸ばしたことにより、Xコマンダーの丸ダイヤルとイグニッションレバーがたまたま枝のように硬い触手に当たったため、変身ができたのだ。
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「ディメンダー……エックス……?」
アラン少年を取り込んだトレントは、見知らぬ銀色の戦士の登場に驚きを隠せない。
ディメンダーXの動きを見極めるように様子を見ている。
「行くぞ! トレント!」
対するディメンダーXはすぐに動き始めた。
右手で地面を強くたたくと、大きく後ろに跳んだ。
「ソニックブーム・アタック!」
地面に水平にジャンプし、トレント型の周囲を超高速で飛び回り、衝撃波を発生させてトレントたちを攻撃。
「デュアルマグナム!」
さらにデュアルマグナムからスタン弾を発射し、トレントたちの動きを一時的に封じようとする。
「体が……しびれる……でもこれくらい!」
しかし、トレント型は根のような足から、地面にスタン弾の電流を放出してしまった。これでは意味がない。
「今度はこちらから行かせてもうよ!」
トレントたちの『口』のような部分が開く。するとそこから、紫色のガスが噴き出された。
「な、なんだこれは……!」
<高濃度酸性ガス検知……電子回路に異常、キケン!>
「なんだと……!?」
左肩のレーダーデバイスが示したのは、ディメンダースーツの超合金装甲をも溶かし、電子回路にダメージを与える溶解ガスが散布されたという事実だった。
「まずいな……!」
ディメンダーXとしては一刻も早くこの場から離れたいが、ここで後ろに下がれば、トレントたちは逃げたアダム達を追いかける危険がある。向こうにはジョンという民間人もいるため、それは避けなければならない。さらに、トレントからアラン少年を救い出すチャンスを失う可能性もあるのだ。
(どうすれば……)
ディメンダーXの装甲が溶けていく。見た目にはわからないが、装甲からは煙が噴き出している。
(このガスを振り払うことができれば……まてよ、そうだ!)
ディメンダーXはひらめいた。
腕を大きく横に広げると、その場で高速で回転し始めた。
「スピン・アタック!」
強力な風が発生し、充満していたガスは吹き飛ばされていく。
スピン・アタックはもともとはコマのように回転しながら敵を切り裂く技だ。ディメンダーXはこの技で風を起こし、ガスを吹き飛ばしたのだ。
「やるねえ……でも……」
しかし、トレントは余裕だった。その理由は明白である。
アラン少年の赤い目が急に元の目の色に戻った。
「ディメンダーXさん! 僕を殺して! 早くこの森を焼き払って!」
「人質作戦か……」
乗っ取られていたアラン少年の自我が戻る。
トレントの人質作戦のようだ。同情を誘い、動きを止めるつもりである。
「アランさん! あなたは必ず救出します。少し待っててください!」
人間の体を乗っ取たり、取り込んだりするいわゆる『寄生型』と呼ばれるインベーダー。幸いにも、ディメンダーX=久保田武が最も得意とする相手だ。
七式からの通信で、トレント型の解析が終了したことが伝えられる。ここまでくれば、ディメンダーXの独壇場だ。
ディメンダーXはベルトのバックルケースから、青いプレートを引き抜いた。
プレートを大きく前に突き出し、叫ぶ。
「第二電装!」