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3-0 行き倒れの男

ディメンダーXこと、宇宙ハンター部隊に出向中の科学者・久保田武は、次元艇ディーフェニックスでインベーダーを追跡中、ワープ空間からインベーダーの発生源である『ネスト』内に迷い込む。

 ネストの内部はインベーダーの巣窟であると考えられていた。しかし、ネストはインベーダーの巣窟ではなく、地球とよく似た異世界だったのだ。

 ネストの中で武は、インベーダーを『魔物』と呼び、それらと戦う『勇者』たちと出会った。

 聖剣の勇者・アダムの計略により、トゥーリー村の人々は自分たちがオークに騙されていたことを知る。そしてディメンダーX・レッドブレイカーに変身した武の活躍により、オークたちは倒され、トゥーリー村は救われたのだった。


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「う……自分は……一体……?」

 「おはよう、ビルのおっちゃん。よく寝てたね。もう夕方だよ」

 「重装の勇者気絶しすぎ。重装の勇者なのに虚弱とか笑える」

 「……うるさい」

 

 ターニアとギーの容赦のない言葉が突き刺さる。

 無理やりディメンダーXへの変身を試み、泡を吹いて気絶したビル=ケンブリッジ。

 夕陽が沈みかけた頃、馬車の中で眠っていた彼はようやく目を覚ました。

アダムは御者台からビルに声をかける。


 「おはようございます、先生」

 「すみませんでした。よくわからないものを何も考えずに身に着けた挙句、気を失ってしまうとは……お恥ずかしい限りです」

 「もういいですよ。それよりも、もうすぐ到着です」


 次の目的地であるラライアン村にはもうすぐ到着するところだ。

 ビルはゆっくりと体を起こし、御者台のアダムに尋ねる。


 「アダム殿、ところで話し合いの件は……」

 「クボタ殿の力は借りる、しかし勇者として戦う、ということに決まりました。結局、俺たちのやることは変わりません」

 「……結局、クボタの力に頼ることになりましたか」


 ビルは悔しそうにつぶやく。

 アダムはそんなビルを慰めるように言う。


 「先生が不満なのはわかります。でも、クボタ殿が俺たちに協力的なのは、俺たちが苦しい状況の中でも懸命にあがいているからです。だから、誇りに思っていいと思います。俺たちの戦いは、無関係の外国人の心を動かしたんです……と、いうのが話し合いの結果です。自分で言っててかなり恥ずかしいですね……」

 「それが話し合いの結果ですか……」

 

 アダムは照れる表情を隠すように顔を背けた。そんなアダムにビルはため息をつく。 

 

 「ビルさん、私たちの使命は魔王軍を倒すことよ。ブラフの残した影響で魔物も強くなってきている……正直、あまりなりふり構ってはいられないわ。勇者の誇りを持ちつつ、新たな流れを受け入れることも必要よ」

 「……そうだな」

 

 横になっているリサの反論にビルは頷いた。その様子にカルロスが驚く。


 「どうされたんですか、ビル殿? あなたなら真っ向から反対すると思ったんですが?」

 「カルロス、私だってそこまで馬鹿じゃない。リサ殿の言う通りだし、私も前の戦いではクボタに命を救われた」


 ビルは一回黙り込み、そしてボソッと呟いた。


 「勇者の誇り……か……」


 ビルが呟いたその時、馬車が急停止した。車内が大きく揺れる。

 ターニアが御者台の二人に声を掛ける。


 「ど、どうしたの、アダム兄ちゃん、カルロス君?」

 「人が倒れている!」

 「え?」


 御者台のアダムとカルロスが見たのは、路上で倒れている若い男だった。口から血を吐き、全身傷だらけだ。二人は御者台から飛び降りて、ターニアとビルも馬車の中から飛び出して倒れた男に駆け寄る。


 「大丈夫ですか、しっかりしてください!」

 「うう……アラン……どこだ……」


 アダムの問いかけに、男はうわ言のようにつぶやく。

 内臓をやられている可能性もある。危険な状態だ。


 「『癒しの光』よ!」


 ギーに回復してもらった魔力はまだ残っている。

 アダムは急いで男の体に回復魔法をかけた。

 

 「う……うう……」


 『癒しの光』が男の内蔵を癒していく。男の吐血が止まり、ゆっくりとまぶたが開かれる。全身の傷は残ったままだが、何とか命の危機は脱したようだ。


 「大丈夫ですか? お名前は?」

 「ジョン……ラライアン村のよろず屋だ……森の魔物にやられた……」


 そう言って、男は――ジョンは意識を失った。

 命に別状はないようだが、相当疲労しているようだ。


 「アダム殿」

 「アダム兄ちゃん!」

 「ああ……先生、彼を馬車の中に! このままラライアン村まで連れていきましょう」

 



 「うう……」

 「ジョン、大丈夫か?」

 「神父様か……ああ、なんとかな……ここは……?」

 「村の教会だ。お前が街道で倒れていたところをこちらにいらっしゃる勇者様たちが見つけてくださったんだ」


 ラライアン村についたアダム達は倒れていた男――よろず屋のジョンをひとまず村の教会まで連れていき、助けを求めた。ラライアン村のような小さな村には病院がないため、教会が医療行為を担うことが多い。ジョンは教会のベッドに寝かされ、神父とシスターにより治療を施されていた。


 「そうか……迷惑かけたな。助かった」

 「礼なら勇者様たちに言ってくれ。瀕死のお前に、回復魔法をかけてくれたんだ」


 神父に促されて、ジョンがベッドから起き上がる。

 そのジョンに顔を向けられたアダムは軽く会釈をした。


 「聖剣の勇者・アダム=レオトレーシーです。こちらは共のビル=ケンブリッジとターニア=ザクトリーです」


 動けないリサとマリーはカルロスと共に馬車の中で待機している。ギーは教会の礼拝堂で1人Xコマンダーと話している。


 「こんな子供まで……勇者……? アランと大して変わらない歳じゃないか……痛っ!」


 ターニアの方を見て、思わず体を起こしたジョンだったが、すぐに傷の痛みで倒れこんでしまう。まだ完全には癒えていないようだ。

 

 「失礼な人だな……これでも僕は忍びの勇者なんだぞ!」

 「ごめんな……坊主……」

 「僕、女の子なんだけど」

 「…………嘘だろ?」

 「今どこを見て言った……正直に答えろ」

 「いや、アランと大して変わらないなあ、と……」

 「女の子はそういう視線結構気にするんだぞ!」


 このまま放置しておくと、ターニアとジョンの漫才みたいな会話が延々と続きそうだ。話が進まないので、アダムは二人の会話を遮った。


 「ターニア、ちょっと黙ってて……ジョンさん、倒れていた時にも呟いていましたが、その『アラン』というのは一体……?」


 アダムの問いかけに、ジョンは暗い顔をしてうつむいた。あまりしゃべりたくないのだろう。黙り込んでしまった。


 「アランはジョンの弟です、勇者様」


 代わりに応えてくれたのは、村の教会の神父だった。


 「ジョンとアランの両親は5年前に事故で亡くなりました。2人は両親の死後、両親が営んでいたよろず屋を引き継ぎ、これまで二人で立派にやってきたのです」

 「2人でじゃない……アランのおかげだ。あいつが落ち着いて物事に対処してくれたから、俺は迷わずにここまでこれたんだ」


 ジョンが口を開いた。

 神父が説明を続ける。 

 

 「先月のことです。薬草採取の依頼を受けて、2人はこの村の近くの森に向かいました。そこに大量の木の魔物が現れて……ジョンは何とか無事に帰ってこられたのですが、アランは行方不明になったのです」

 

 木の魔物――おそらく、トレントだろう。ラライアン村の周囲には魔物が出現しなかったはずだが、いつの間にか――遅くとも1ケ月前には住み着いていたのだろうか?

 それよりも、こんな状況なら王都の魔物討伐隊が動くはずだ。トゥーリー村のような状況ならまだしも、普通の村で1ケ月も放置されているのはおかしい。

 

 「神父様、王都の討伐隊は!?」

 「王都の方には討伐隊を要請しましたが、未だ返事は来ておりません。魔物は今でもあの森に居ついています。危険な状況です。しかし……」


 神父はジョンの方を見る。ジョンは傷の痛みをこらえながら立ち上がった。


 「悪いが神父様、俺はアランのことを諦めきれねえ。また明日も探しに出るぜ」

 「危険だジョン! それにもう1ケ月経っている。アランはもう……」

 「あいつは村で一番頭がいいガキだ。きっと森の中で食料を探して生き延びている」


 ジョンはそう言って部屋から出ていこうとする。


 「待ってください、ジョンさん!」

 「助かりました、勇者様。ありがとうございます。でもこのことばっかりは譲れねえ」


 アダムはジョンを呼び止めたが、結局彼は出ていってしまった。

 

 「……すみません、勇者様」

 「いえ……神父様が謝ることじゃありません。それに弟さんがいなくなって不安なジョンさんの気持ちもわかります。何より、魔物が村の近くに棲みついているのなら、勇者として何もしないわけにはいきません」


 アダムはビルとターニアの方を向く。


 「先生、ターニア」

 「いいよ、アダム兄ちゃん」

 「寄り道にはなりますが、トレントを放置するわけにはいきません。あいつが繁殖すれば、いずれ王都にも害が出ます」


 2人は頷いた。アダムも頷き返す。


 「勇者様……もしかして……」

 「王都の討伐隊を待っている余裕はありません。俺達が森の魔物を討伐に向かいます」

 

 アダムの言葉に、神父は深く頭を下げた。


 「おお……これも神の思し召しか……勇者様、ありがとうございます!」

 「頭を上げてください。とりあえず、現在わかっている森の状況について詳しく――」

 「た、大変だ!」


 アダムが話を聞こうとしたその時だった。

 村の男が乱暴に扉を開けて部屋に入ってきた。何やら慌てているようだ。


 「おい、どうしたんだ? そんなに慌てて?」

 「あ、怪しい奴が村に入ってきた! 今、村の男たちで取り囲んでいる! きっと人型の魔物だ! 森の中からあふれてきたんだ!」


 人型の魔物――アダム達の脳裏にブラフの姿が浮かび上がる。

 ブラフが生きていたのか、それとも別の魔物なのか……


 「ど、どんなやつなんだ?」

 「わからん。車輪のついた馬のおもちゃにまたがって、すごい薄手の恰好をしていた! なぜか兜までつけやがっていて……」


 ――ん? どこかで見たことがあるような……あ……!

 アダムは後ろに置いてきた仲間のことを思い出した。


 「すみません、その人、大丈夫かもしれないです」

 「どういうことですか、勇者様?」




 「……アダム様、助けてください」

 「……すみません、クボタ殿」


 アダムの予想した通りだった。

 村の入り口で、クワやツルハシを持った屈強な村の男たちに取り囲まれている不審者。

 若干涙目になり両手を上げて無抵抗を示すその男は、アダム達が馬車で大きく距離を引き離し、後ろから自転車でついてくるはめになったクボタだった。

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