2-7 赤い破壊神
戦闘シーン増量しました
「コンバットシステム、起動!」
「電装!」
久保田武は左腕のメインコントロールブレス・Xコマンダーの丸ダイヤルを回すことでディメンダーXのコンバットシステムを起動させ、イグニッションレバーを押すことでディメンダースーツを展開、0.07秒で『電装』し、ディメンダーXに変身する。
ディメンダーXは対インベーダー試作型戦闘パワードスーツである。あらゆるインベーダーによる攻撃を想定しており、強力なパワーと高い耐久力を誇っているのだ。
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「これが……ディメンダーX……まさかオークの重量に耐えるとは……!」
「クボタのおっちゃんの真の姿……一体何者なの……?」
ビルとターニアは驚いてクボタの――いや、ディメンダーXの後姿を見つめている。
二人が見たクボタの姿は、体力のない若者の姿だった。それが一変したのだから無理もない。
「行くぞ!」
「来るか……やれ!」
「ぐおおおおおおおお!」
ディメンダーXは右手で地面を強くたたくと、自分の何倍もの大きさのあるジャイアントオークに向かって果敢に立ち向かう。
対するジャイアントオークも、キメラオークの言葉に従ってディメンダーXに襲い掛かる。
「とうっ!」
ジャイアントオークのパンチをかわすように、ディメンダーXは大きく跳躍する。
「ボルトキック!」
雷の魔力を纏った右足で、ジャイアントオークの顔面を蹴りつける。
「があああああああっ!」
顔面に雷を伴う蹴りを打ち込まれ、ジャイアントオーク苦しみだす。
「グラビティパンチ!」
さらにディメンダーXは飛び上がり、ジャイアントオークの腹に、闇魔法を纏ったパンチを打ち込む。ジャイアントオークは強烈なダメージを受け、その場にうずくまる。
「強い……確かに、強い……」
ビルが茫然と呟く。
ビルたちは三人一組でオークを倒した。この村に来る前にオークと戦った時には、八人で一体のオークに集中攻撃を仕掛けて倒した。それをこのディメンダーXはたった一人でこなしている。
果たして自分たち勇者にこんなまねができるだろうか? ディメンダーXは通常のオークよりもはるかに強力な、ジャイアントオーク相手にそれをやっているのだ。
「もらった! デュアルマグナム!」
ディメンダーXは腰からデュアルマグナムと呼んだ銃を抜き、とどめさすべくジャイアントオークに狙いを定めた。
「ちっ! させるかよ!」
だが、そうはさせまいと、キメラオークが背中の羽を激しく羽ばたかせた。凄まじい爆風がディメンダーXを襲う。
「うわっ!」
ディメンダーXは吹き飛ばされ、民家の壁を突き破って家屋の中に放り込まれた。
その隙に、キメラオークは赤い石を取り出す。
「最終手段だ……ブラフ、炎の力とやら、試させてもらうぜ」
ジャイアントオークに向かって、キメラオークは赤い石を投げつけた。石はたちまちジャイアントオークの体の中に吸い込まれる。
「ぐぎゃあああああああ!」
ジャイアントオークが叫び声をあげる。
そしてその体色が、燃え上がるように真っ赤に変わる。
「があああああああ!」
「うわっ! 炎が!」
「『水とんの術』……じょ、蒸発した!」
「なんて強い炎だ!」
ジャイアントオークは口から炎を吐き出した。炎は広場の周囲に点在する家に引火し、激しく燃え上がる。
「ああ、やっと天国に行ける……」
「そんなこと言わないで、マリー! 逃げるよ!」
アダム達は炎から逃れるように逃げ回る。近くの民家に避難していたカルロスもリサとマリーを抱えて家の中から飛び出し、広場から逃げ出す。
「まずい……どうすればいいんだ……!」
一体でもオークが巨大化して炎を吹き出す――こんな状況聞いたことがない。魔法を使える人間がいれば――魔法を使えるリサがいれば、水魔法で何とかなったが、これではどうにもならない。
「デュアルマグナム! ……ダメだ、効いてない!」
アダムが手詰まりに陥る中、いつの間にか民家から飛び出し、戦列に復帰したディメンダーX。デュアルマグナムから銀色に光る弾丸を放って応戦するが、あまり効いているようには見えない。防御力も上がっているのか。
「うわぁっ!」
さらに吐き出された炎でディメンダーXは後ろに倒れこむ。まさに絶体絶命の状況。
ディメンダーXでも勝てないのか……
アダムの心に絶望感が漂う。
「こうなったら……アダム様! 逃げてください! ここは私が何とかします!」
ディメンダーXはベルトのバックルから赤くて細長い、小さな薄い板を取り出した。
……濃縮された魔力を感じる。火の魔力か? かなり強力な魔力だ。近くにいて、なぜ気づけなかったのか?
それを前に突き出してディメンダーXが叫ぶ。
「第二電装!」
赤い板をXコマンダーに差し込み、横の小さなレバーを押す。
<アディション・レッドブレイカー>
ディメンダーXから冷静な声が鳴る。
するとXコマンダーから複数の赤い装甲が飛び出し、ディメンダーXの両手、両足、胸部、背中、そして頭部に装着される。
「変身した……?」
逃げるアダムたちの目の前で、ディメンダーXの姿が変わった。
銀色の装甲は上からかぶせられた赤い装甲に隠れる。
背中には銀色の時とは違い、二枚の大きな板がくっついている。
ディメンダーXの印象は、がらりと変わった。銀色の戦士から、力強い赤い戦士に。
「ディメンダーX・レッドブレイカー!」
背中の二枚の板を双剣のように振り回し、燃え盛る炎を背後にして、ディメンダーXは再び名乗りを上げた。
「がああああああっ!」
「うおおおおっ!」
ジャイアントオークが再び炎を吐き出す。ディメンダーXは二枚の板を盾にして、ジャイアントオークに接近。
「ブレイカーソード!」
二枚の板――ブレイカーソードを振り回し、ジャイアントオークを斬りつける。ジャイアントオークの胸部に深い裂傷を刻みこむ。
「うおりゃあああああ!」
ブレイカーソードを横に大きく振り回し、ジャイアントオークの両腕を切断。両腕を切り落とされたジャイアントオークは強烈な痛みに苦しみだす。
「ば、馬鹿な・・・・・・」
切り札を使って二重に強化したオークが押されている。
後ろで傍観するキメラオークが驚く中、ディメンダーXはXコマンダーの×印部分を触り、横の小さなレバーを押した。
<フィニッシュモード・スタンバイ……フルバースト!>
「ブレイカー・フィニッシュ!」
アダム達はディメンダーXの魔力が急激に高まり、その魔力がブレイカーソードに集中するのを感じた。
ブレイカーソードが赤く輝く。
「うおおおおおっ!」
ディメンダーXは二本のブレイカーソードをジャイアントオークに突き刺した。活性化された強力な魔力がジャイアントオークの体内に流れこみ、膨張。
「ぎゃあああああああ!」
そして、大爆発。ジャイアントオークは木っ端みじんになった。
「デュアルマグナム・消火ガス」
ジャイアントオークを倒したディメンダーXは、ブレイカーソードからデュアルマグナムに持ち替え、燃え盛る炎に向かって白いガスを噴き出した。
白いガスを吹き付けられた炎はみるみるその勢いを弱め、あっという間に消えてしまった。
「ば、馬鹿な・・・・・・」
「残るはお前だけだ、キメラオーク!」
ジャイアントオークを倒され、残ったのはキメラオークと四体の通常オークのみ。
狼狽えるオークたちに、ディメンダーXは銃口を向ける。デュアルマグナムの×印部分を触り、再びXコマンダーの小さなレバーを押す。
「くそっ! 銃ごときに負けるかよ……!」
キメラオークが背中の翼を羽ばたかせる。再び凄まじい爆風がディメンダーXを襲う。
しかし、赤い装甲を纏ったディメンダーXは微動だにしない。舞い上げられた砂や小石が赤い装甲にぶつかるも、装甲を傷つけることもなくむなしく弾き返される。
「突撃だ!」
キメラオークを先頭に、オークたちは一斉にディメンダーXに向かって襲い掛かる。
ディメンダーXもデュアルマグナムを操作する。
<フィニッシュモード・スタンバイ……フルバースト!>
「マグナム・フィニッシュ!」
デュアルマグナムから放たれた極太の光線を浴びて、通常オークの体は大爆発。一掃される。キメラオークも大きく後ろに吹き飛ばされ、翼に大きな穴をあけられる。
「う、嘘だろ……せっかくブラフに強化してもらったのに……!」
息も絶え絶えのキメラオークに、ディメンダーXがXコマンダーを操作する。
<フィニッシュモード・スタンバイ……フルバースト!>
「ブレイカー・フィニッシュ!」
背中のブレイカーソードが両肩に乗っかり、赤い光弾が発射される。光弾はキメラオークの体に直撃し、その体内で炸裂する。
「見事だ……ディメンダーX……」
キメラオークがゆっくりと後ろに倒れ、大爆発を起こす。
こうして、オークたちの恐るべき計画は潰えたのだった。
「本当に一人で倒してしまった……」
「強い……強すぎる……」
ディメンダーXの戦いぶりを初めて見たビルとターニアは放心している。
これが二回目となるアダムも驚いていた。まさかもう一つの姿が――さらに強力なもう一つの姿があったなんて。
「リーダー……」
「カルロス」
リサとマリーを抱えて避難していたカルロスが、アダムに近づいてきた。
「クボタ殿の戦い、見ていました……」
「そうか……」
「想像以上でした……完全に自信を失いました……」
「……」
アダムは何も答えることができなかった。
ディメンダーXは変身を解き、クボタの姿に戻ってアダム達のもとに近づいてくる。
「リーダー……勇者っていったい、何なんでしょう?」
「わからない……俺もわからなくなってきた……」