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2-5 暴露大作戦

村長の指示の下、村の人々によって縛られた勇者たちは、馬小屋の中に運び込まれた。

 時刻は夜の八時。辺りは暗くなり、村の灯りは消えていた。


 「シチューおいしかったなあ……でもこうも縛られちゃうとなあ……うれしさ半分だよ……」

 「文句を言うなターニア。お前五杯も食べただろ。これも敵を欺くためだ、我慢しろ」

 

 縛られる前、最後の晩餐で食べた温かいシチューを思い出し、現在の状況に文句を言うターニア。そんなターニアをビルが諫める。とは言ってもビルもどこか不満があるようだ。


 「先生、どうかしましたか? 機嫌が悪そうですが?」

 「当然です!両手足を縛られて、臭い馬小屋の中に入れられているのです!屈辱です!そして何よりも――」


 ビルがアダムに問いかけるように文句を言う。彼にしては珍しい。


 「なぜあの男を……クボタを作戦に組み込んだのですか! あの正体不明の怪しい男を!」

 

 ビルの一番の不満。それはクボタ=タケシに今回の作戦における重要な役割を与えたことだった。


 「仕方ありません。勇者である俺たちは魔物たちに、オークたちに顔が割れています。ならば勇者ではないクボタ殿にお願いするしかありません」

 「彼に務まるのですか?あのすぐに息切れする男に」

 「先生、何度も言いますが彼は強いですよ。もしかすると、俺たちを放っておいて、一人でオークの群れを全滅させるかもしれません」

 「信じられませんな……信じざるを得ない状況ではありますが……」 


 ビルは複雑な表情を浮かべる。

 アダムはブラフとの戦いの際に、クボタに――ディメンダーXに助けられた。アダムが生きてここにいることが何よりの証拠だ。だが、クボタの正体ははっきりしない。ニホン、またはニッポンという彼の国は聞いたことがない。ディメンダーXのその仕組みについてもよくわかっていない。総合的に判断するならば、彼と共に戦うことは、いつ爆発するかわからない爆弾を背負って戦っているようなものだ。リスクが大きすぎる。


 「……アダム殿はなぜクボタと共に戦えると思うのです?」

 

 ビルはアダムに尋ねる。アダムもクボタの危険性については十分理解しているはずだ。


 「先生、クボタ殿は俺たちの文化に合わせようとしてくれています。俺たちよりはるかに強いはずなのに、それでも俺たちに敬意を払おうとしてくれています。力を見せつけて、俺たちを従えることもできるはずなのに、決してそんなことはしようとしない」

 「それが理由ですか? 何か企んでいるのかもしれませんよ?」

 「かもしれません。でも俺は、彼に助けられました。信じたいんです、彼の正義が、俺たちの正義と一緒だと」

 

 甘い考えだな、とアダムは自分で言ってそう思った。ビルの言う通り、クボタが腹の中で何を考えているのかわからないのに。

 

 「……理解できませんな。そんな不確かなものを信じるなど」


 そんなアダムの心中を知ってか知らずか、ビルは硬く目を閉じ、眠ろうとした。


 「マリー、寒くないか?」

 「大丈夫。ありがとうカルロス。君も大丈夫?」

 「これくらい平気だよ」

 「ふふ、いつの間にか立派になっちゃって……これで戦いなんてなければ……」

 「……いつか、戦いのない日が来るよ」

 「私たちは明日、オークに殺されて終わる。きっとそう。それで終わり。天国にはいけるかな?」

 「マリー……」


 怪我で動けないマリーとリサも、縛られて馬小屋の中にいた。

 カルロスが心配してマリーに声をかける。

 マリーはやはり後ろ向きな考えに支配されている。


 「あれ? あれれれ? マリーちゃんとカルロス君、そんなに仲良かったっけ?」


 その様子に、リサが二人を茶化すような表情を浮かべる。


 「いいいい、いいいいやいやいやいや、なにも、何にもないですよ!」

 「そ、そそうですよ!カルロスとは幼なじみだし……これくらい……」

 「ふーん……ふーん、そうなんだあー」


 図星のようで、あからさまに慌てる二人。

 暗くて見えないが、顔を真っ赤にしているのだろう。

 そんな二人の様子に、リサが意地の悪そうな笑みを浮かべる。


 「え?カルロス君とマリーちゃん……いつの間に恋人同士に!?」

 「こいび……! べ、別に、カルロスとの間にはなんにもないよターニアちゃん」


 ターニアも食いついてきたが、マリーは必死に否定する。

 

 「そういえば……いつの間にか『カルロス君』から『カルロス』に変わっていたな……学校に通っていた時には『カルロス君』だったはずだが」

 「ア、アダム先輩まで……!」


 アダムも笑いながら乗っかってくる。

 カルロスとマリー、そしてターニアは士官学校の時のアダムの後輩だ。

 アダムから見て、学生時代のカルロスとマリーの関係は友達以上恋人未満だった。それが旅の中で深まったのだろうか?そんなどうでもいいことを考えていた。


 「みんな、もうそろそろ寝ないか……」

 

 アダム達が恋愛話で盛り上がっていると、うなるように低く、それでいてよく響く声でビルが呟いた。アダムも話に交じっているので一応抑えたのだろう。五人は何も言えなくなる。


 「……みんな、お休み」

 「お休み~」

 「お休み」

 「お休みなさい」

 「お休みなさいです」




 翌朝。

 トゥーリーの村にオークの群れがやってきた。その数二十三体。軍の大部隊を持ってこないと対抗できない数だ。

 村人たちは全員広場に集まり、跪いている。

 その中の一体、オークたちの中でも特に体の大きいオークが村長の前に出る。

 

 「おい、村長。昨日送ったうちの仲間が帰ってきてねえ……ついでに今週分の食料が来ていない件、きっちりと説明してもらおうか!」


 気性も荒そうだ。手にしたとげ付きの棍棒を乱暴に振り回し、村長を威圧している。

 村長はそんな大きなオークにびくびくしながらも、声を震わせて口を開く。


 「ご、ご説明させていただきます。昨日、王国の勇者たちがこの村を訪れました」

 「なんだと!」 


 オークは鼻息を荒くする。『勇者』という単語に驚いている。


 「で、どうしたんだ!? まさか……」

 「ゆ、勇者たちはオーク様を倒しました。で、ですが、私たちは幸運にも勇者たちを捕らえることに成功しました!」


 村長が合図をする。

 村の若者たちが、オークたちの前に並べられた六つのずた袋の口をあけた。


 「くそっ! こんな形で捕まってしまうとは……!」


 袋の中から顔を出したのは、縛られたアダム達六人の勇者たちだった。

 アダムは悔しそうな顔で、リーダー格の大きなオークをにらみつけている。


 「あ、赤い鎧に、指輪、白く輝くの剣……間違いない、聖剣の勇者だ! ほかの連中も――ま、間違いない! 残った六人の勇者が全員ここにいる!」


 本物の勇者であることを確認すると、オークたちはどよめいた。

 魔物たちにとって最大の敵である勇者たち。その勇者が全員、縛られてここにいるのだ。


 「村長、よくやった! お前ら、勇者たちをお頭のもとに連れていくぞ!」


 オークたちがアダムらを連れ去ろうとする。アダムは大きなオークが触れる前に、大声で叫んだ。


 「お前たち、トゥーリー村の人々を懐柔して一体何をするつもりだ!」

 「何もしねえよ! 俺たちは心優しいオーク様だからな!」

 「嘘をつけ!この村の状態はおかしい、なぜ村人たちがお前たち魔物を受け入れている!」

 「……知るかよ! そういう契約だからに決まっているだろ! ……食料を出してもらう代わりに、俺たちはこの村を守っているんだ!」


 一瞬間が開いた。


 「そうやって村人たちをだましているんだろう! そうでなければ、お前たちオークにはなんの得もない!」

 「う、うるさい! 勇者は黙っていろ!」


 大きなオークが手にした棍棒を地面にたたきつけた。

 地面を揺らす振動に村人たちから悲鳴が上がる。

 焦っている。


 「知っているぞ! お前たちが何をしようとしているか!」

 「はったりなんか聞かねえぞ!」


 今だ。

 アダムはありったけの息を吸い、一番の大声を出した。 


 「この村の人たちを『生贄』に、巨大な『力』を得ようとしているだろう!」


 オークたちの動きが止まった。

 次に、大きなオークの体がぶるぶると震えだす。

 アダムは作戦の成功を確信した。


 「お、お前……! なんで『命の爆弾』のことを知っている!」

 

 『命の爆弾』か…… 


 「知っているさ。それのために村人たちを懐柔し、時が来たらその『命』を『爆弾』の『材料』にするつもりだったんだろ!」


 村人の空気が変わる。

 これまでトゥーリーの村人たちがオークに抱いていた感情は、村を守ってもらっていたことに対する畏敬、敬愛といったものだった。それが、自分たちが『爆弾』の『材料』にされると分かり、今まで抱いていた感情は恐怖に変わる。


 「に、逃げろ! オークに殺される!」

 「早く村から逃げるんだ!」


 全てを悟った村人たちは、蜘蛛の子を散らすように、広場から逃げ出した。


 「くそ! せっかくの計画が台無しだ! 村の人間どもを捕まえるんだ!」


 オークの群れが、村人たちを捕らえるため一斉に動き出す。だが、縛られた勇者たちは動けない。

 万事休すかと思われた、その時だった。


 「おりゃあああああ!」


 路地裏から、一台の自転車が飛び出し、パニックに陥る村人の合間を縫ってオークの群れに突進する。自転車に足の指を轢かれたオークたちは悶絶し、動きが鈍る。

 昨日、アダムと別れ、一人村の中に隠れていたクボタだ。


 「て、てめえ……! 勇者たちの仲間か!」

 「そうだ。悪いが村の人たちには指一本触れさせない!」


 クボタはオークたちの大剣による攻撃をかわしながら、自転車でオークたちの足を轢き、その進軍を止める。

 

 「ええい、ちょこまかとうるさいやつだ!」


 大きなオークがとげ付き棍棒で地面を揺らすも、クボタの自転車はその動きを緩めいない。逆に、地面に突き刺さったオークの剣を伝って坂道を上るように駆け上り、オークの顔に体当たりをする。


 「くそっ!どうすりゃいいんだ!」

 「オークども、こっちを忘れてはいないか?」


 オークたちが振り返る。

 そこには、縛られていた縄を解いて自由の身になったアダム、ビル、ターニアの三人の勇者と、エクスカリバーが変身した少女・ギーがいた。ギーの手にはターニアのナイフが握られている。

 カルロスは動けいないリサとマリーを連れて、邪魔にならないよう民家に避難していた。


 「貴様ら……いつの間に!」

 「残念だったな。俺の聖剣は人の姿に変身できるんだ。お前たちがクボタ殿を追いかけている隙に、彼女に縄を切ってもらったのさ」

 「ちぇんじえくすかりばー」


 ギーがエクスカリバーに戻り、アダムの手の中に納まる。

 三人はそれぞれの武器を構えた。


 「さあ、反撃開始だ!」

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