2-4 村の様子
「ギー、先生とカルロスは気絶したままなのか?」
「勇者の力は強力。たぶんもうすぐ起きる」
アダムは気絶してベッドで寝かされているビルとカルロスを見る。
少し時間があるなら、あれをやっておかなければならない。
「ターニア、ちょっとみんなを任せていいか?」
「いいけど、アダム兄ちゃんお出かけ?」
「ああ。この村の様子を見てくる」
ギーに気絶させられたビルとカルロス、意識は回復したが動けないマリーとリサをターニアに任せ、アダムは村の様子を見に行くことにした。
「アダム様、さっきのオークの群れを殲滅する作戦のためですか?わざと捕まって突き出されるっていう・・・・・・」
「はい。大丈夫だとは思うんですが、念のため。オークの支配の実態を探る必要があります」
「アダム君、先に説明してくれるかしら?」
「わかりました。クボタ殿の力もお借りしたいので聞いていただきたいのですが――」
クボタとリサに尋ねられ、アダムは作戦の概要を説明した。
作戦の概要を聞き、クボタは一点だけ、オークの知能と行動の傾向について確認をする。
クボタの疑問に、四人の勇者は「それだけは間違いない」と断言した。その返事を受けて、クボタも作戦への参加を了承した。
だが、マリーには不安があるようだった。
「アダム先輩・・・・・・どうでもいいですけど、これ結構危険な作戦じゃないですか?もしオークたちが乗ってこなかったら・・・・・・」
「ああ。だから今から調べに行く。万が一ここのオークたちの行動の傾向が違った場合、作戦を変えなければならない」
「アダム様、私も同行してよろしいですか?皆様を疑っているわけではありませんが、オークの行動パターンが自分の知っているものと違いすぎます」
「ギーも一緒に行く。アダムの聖剣を置いていくな」
クボタとギーもアダムに同行すると言ってきた。
「わかった。クボタ殿、ギーもついてきてくれ」
同行を許可した。クボタもギーも、この国のことは何も知らないようだ。一緒に村を歩けば、ちょっとは勉強になるかもしれない。
宿屋を出て、三人は市場に向かう。
外に出たアダムたちに向けられる視線は厳しいものだった。アダムが村を守るオークを倒した勇者だからだろう。直接文句を言ってくる者はいないが、すれ違う人々はにらみつけるような視線を向けてくる。
「アダム様、勇者というものは結構厳しい目で見られているものなのですね・・・・・・」
「ここまで敵視されることはそうそうありませんよ。普通はもっと好意的な目で見られるのですが・・・・・・」
「アダム、あれ何?おいしそう!あれ食べたい!」
人々の厳しい視線にびくびくするクボタ。
それとは対照的に、ギーは人々の視線は一切気にせず、市場のお菓子に興味を示している。
話を聞けるチャンスか?
「すみません、そのリンゴパイを三つください」
「・・・・・・はいよ」
アダムからお金を受け取り、露天のおばさんはそっけない態度で冷めたリンゴパイをアダム達三人に渡す。嫌々ながらだったが、カルロスの時とは違い今回は運よく品物を買うことができた。
アダムはおばさんが顔を背ける前に話しかける。
「さっきはすみませんでした。オークを倒してしまって」
「・・・・・・まったくだよ。オーク様はこの村の守り神だよ?何してくれてるんだい」
オーク様。守り神。
「ここのオーク様はかなり良くしてくださっているみたいで」
「王国の兵士も、勇者様も全くあてにならないさ。本当にお優しい方々だよ」
優しい・・・・・・なるほど。
「怖くないのですか?」
「怖くないね。村人を脅すようなこともないしさ」
アダムは周囲を見回す。
村の中にオークの姿は見えない。
そういえば村長が言っていた。オークたちは一週間に一回村に来ると。
オークたちがトゥーリー村に現れたのは一か月前。つまり村には4回しか来ていない。
支配しているというには接点が少ない・・・・・・いや、当然か?
「ちなみに、オークに会ったことは?」
「ないよ。ないけど、いい話しか聞かないさ」
・・・・・・やっぱり、そういうことなのか?
「もういいだろう勇者様・・・・・・行った行った!」
やはりこの村の勇者に対する風当たりは強い。
しかし、必要な情報は得ることができた。早々に立ち去ることにする。
「すみませんでした。ありがとうございます」
「いや、なんか疲れました・・・・・・ちょっときついです」
「ディメンダーX情けない」
三人はベンチに腰掛け、先ほど買ったリンゴパイを口にする。
クボタは村人たちの視線にだいぶ参っているようだった。だいぶ疲れた顔をしている。そんなクボタに対して、村人たちの視線を気にしなかったギーは容赦ない。
「アダム、何かわかった?」
「わかった。やはりここのオークたちは普通のオークと変わらない。裏に手を引いている者はいるかもしれないが、オークたちだけなら、あの手が使える」
リンゴパイを売っていたおばさんの話から、アダムは作戦の成功を確信していた。
ギーの質問にもはっきりと明言する。
「しかし、もしオークたちに指示を出している黒幕が出てきたらどうします?」
「大丈夫だと思います。おそらく来るならオークたちも一緒です。その時はオークたちに吐かせてしまえばいい」
「なかなか大胆ですね・・・・・・ニホンじゃ考えられません・・・・・・」
クボタはまだ不安そうだ。アダムは一応確認を取る。
「クボタ殿、この作戦、協力はできませんか?」
「いえ、協力させてください。オークの知能に頼った作戦は初めてですが、今の状況では闇討ちぐらいしか他に方法がありません。それではこの村の人たちのオークに対する信用を壊せない」
幸いなことにクボタは協力してくれるようだった。
アダムは握手を求める。
「ありがとうございます。共にトゥーリーの村を救うため、頑張りましょう!」
「不安にさせてしまってすみませんでした。こちらこそよろしくお願いします!」
二人が固い握手を交わした時だった。遠くからターニアの声がした。
「アダムにいちゃーん!」
ターニアが走ってくる。何かあったのだろうか?
「どうした、ターニア?」
「村長さんが来たよ!僕たちにすぐにでも出ていってほしいって言ってる!」
ついに来たか・・・・・・作戦決行のチャンスか?
アダムはクボタの方を見る。
「クボタ殿、よろしいですか?」
「はい。装備はすべて持ってきております。あとはXコマンダーだけです」
「よし・・・・・・ギー、Xコマンダーをクボタ殿に返して、エクスカリバーに戻ってくれ。さっきの作戦は聞いていたな?」
「オッケー。まかせんしゃい」
ギーが敬礼して、光に包まれる。そして聖剣エクスカリバーに戻り、アダムの手の中に納まった。Xコマンダーもクボタの左手に自動で装着される。クボタの驚いた顔から察するに、ギーの不思議な力のようだ。
「クボタ殿、夕食代です。では、手はず通りに」
「ありがとうございます。では」
アダムからお金を受け取ったクボタは、その場から走り去っていった。
続いてアダムはターニアの方を向く。
「ターニア、ナイフは?」
「ここに差してるよ。これで大丈夫?」
ターニアが腰のベルトに差したナイフをポンポンと叩く。
こちらも大丈夫のようだ。
「よし、それじゃあ村長殿に会いに行こうか」
アダムとターニア、エクスカリバーになったギーが宿に戻ると、ビルとカルロスはすでに起きていた。げっそりとした顔をして力なくベッドに腰かけているような状態だったが。
「ただいま」
「おかえりなさい、リーダー・・・・・・」
「アダム殿、もう喧嘩しません・・・・・・」
とりあえず大丈夫そうだ。
アダムは椅子に座って待っていた村長に顔を向ける。
「勇者様・・・・・・申し訳ございません。オークの長から、使い魔で連絡がありました。明日の朝、戻ってこないオークと食料のことについてオークの群れがの村に来ると」
使い魔――魔物たちが使っているという、伝書鳩のような通信手段だ。
やはりオークたちはこの村にやってくるらしい。
これはチャンスだ。
「村に勇者がいるとなっては、オークから何をされるか分かったものではありません。この村をオークの群れと勇者様たちとの戦場にしたくないのです。ですから――」
「村長、ちょっとよろしいですか?」
アダムは村長の話を遮った。
ここからが作戦の始まりである。
「村長、俺たちを縛って、オークたちの前に突き出してくれませんか?」
「は? ・・・・・・勇者様、なにを言っておれられるのですか?」
「勇者たちを追い出しましたよりも、勇者たちを拘束しましたの方がオークたちに説明もしやすいでしょう?」
アダムの言葉に村長は戸惑うが、すぐに冷静になった。
「勇者様・・・・・・何を考えていらっしゃるのですか?」
「秘密です。信じてもらえませんか?」
「信じたいです。オークに支配されたこのトゥーリー村の状況は、はっきり言っていいとは言えません。オークたちは絶対に、よからぬことを考えているでしょう・・・・・・しかし・・・・・・」
「防ぐなら、俺たちがいる今しかありません。村長・・・・・・」
村長はしばらく押し黙る。長い沈黙の時間が流れる。そして、
「・・・・・・わかりました。勇者様たちを信じましょう」
村長はようやくアダムの提案に賛同してくれた。