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2-2 魔物に支配された村

「皆さん、大丈夫ですか?」


 オークを倒し、アダムは村人たちに声をかける。

 村を襲っていた魔物を倒したのだ。村人たちは喜んでいるだろうと思ったが、村人たちから掛けられた言葉は思いもよらないものだった。


 「あ、あんたら、何をしてくれたんだ!」

 「どうしてくれるんだ!もうこの村はおわりだ!」

 「魔物に村を守ってもらっていたのに!」

 「勇者様!どう責任を取ってくれるんですか!」


 村人たちはアダム達を取り囲み、次々と罵倒の言葉を浴びせかける。


 「ど、どうなっているんだ・・・・・・」


 アダム達は予想外の事態に狼狽えることしかできない。

 そんな時、大騒ぎする人々の群れをかき分け、一人の老人がアダムに近づき、話しかけてきた。周囲の人々と違い、落ち着いた様子だ。


 「勇者様、ちょっとよろしいですか?」

 「あ、あなたは?」

 「この村の村長です。ちょっと私の家まで来ていただけませんか?そこにいらっしゃるお連れの方も一緒に」


 村の入り口で待機していたはずのカルロスとクボタが、荷車を引いて近づいてきていた。


 「カルロス!クボタ殿!どうして・・・・・・?」

 「クボタ殿がもう魔物の反応はしないといったので・・・・・・すみません、僕も半信半疑だったのですが・・・・・・」

 

 クボタは自分の左肩の黒い箱を指さして説明する。

 

 「このレーダーデバイスで、魔物の反応を察知できるんです」

 「なんと・・・・・・」 


 クボタ殿は魔物の気配まで察知できるのか・・・・・・?

 アダムは驚きながらも、村長の方に向き直る。

 

 「村長、案内をお願いしてもいいですか?」


 

 

 先に、荷車に乗せていたリサとマリーを村の宿屋のベッドに寝かせる。そしてアダム達は村で一番大きな家、村長の家に案内された。エクスカリバーは戦闘終了後にギーの姿になり、荷車とクボタの自転車は家の外においている。


 「まずは勇者様、先ほどの村人たちの心ない言葉を謝罪したい」

 「頭を上げてください、村長。それよりもどうして村の皆さんは魔物に味方するような発言を?」

 

 村長はしばらく押し黙る。

 アダム達は待っていたが、なかなか答えない。その様子にビルが痺れを切らし、大きな声で問い正した。

 

 「村長、いい加減説明していただきたい!」

 「申し訳ありません、勇者様・・・・・・申し上げにくいのですが、この村は魔物に・・・・・・オークの群れに守ってもらっているのです」


 やはり、この村は魔物に支配されているようだ。アダムは村長に気になっていることを質問する。


 「村長、この村が魔物に支配されたのはいつごろからですか?何か被害はありませんか?魔物たちに渡したのは食料だけですか?」

 「魔物が・・・・・・オークの群れがこの村に来たのは一か月ほど前です。魔王の復活でこの村の周辺でも魔物の数が増えました。その時に、食料を定期的に提供し、この村の統治を任せるのであれば、この村の人間を襲わない、そして魔物たちにもこの村を襲わないようにさせるとオークの群れの長が言ってきたのです」

 

 この村を支配しているのはオークの群れ、先ほどアダム達が倒したのはその中の一体のようだ。ほかに村の中にはオークがいなかったことから、離れて支配しているパターンらしい。

 村長は一息つき、話を続ける。


 「その日以来、村に魔物の被害は出ておりません。確かに脅されてやむを得ず支配されておりますが、食料の提供だけで村は守られているので、村人たちからの反感はありません。逆に、魔物の被害を抑えられなかった王国に対して不満が出ております」


 このトゥーリー村では、魔物は王国よりも好感度が高いらしい。

 厄介なことだとアダムは思った。オークたちを殲滅しようにも、下手をすれば反感を持った村人たちに妨害されてしまう恐れがある。勇者の権限があれば実力を行使することもできるが、アダムは国民に剣を向けることはしたくなかった。

 アダムは一応、村長に聞いてみる。


 「村長、もし俺たちがこの村を支配するオークの群れを殲滅しようとしたら・・・・・・」

 「それだけはおやめください。村人の反発は必至でしょう」


 アダムの思った通りだった。

 村長は勇者たちにひざまずき、頭を下げる。


 「オークは週に一度、この村に来ます。しかし、勇者様たちが倒したオークが戻ってこないとなると、明日にでもオークたちは群れでこの村に来るでしょう・・・・・・」

 「村長・・・・・・それは俺たちにすぐにでも出ていってほしいということですか?」


 村長はさらに深く頭を下げる。


 「勇者の皆様、どうか、どうか、この村をお見逃しください。お願いいたします」




 村長の話の後、アダム達はリサとマリーを寝かせている宿屋に集まった。

 カルロスは魔力回復薬を探しに出かけている。

 

 「アダム殿、この村の人間たちはどうかしています!魔物に魂を売るなんて!」

  

 ビルはかなり憤慨している。正義や規律を重視するビルからすれば、トゥーリー村の村人たちの行動はとても許せないものだろう。彼が感情的になるのも無理はない。

 

 「でも、オークたちもだいぶ気前がいいよね。食料だけで他の魔物まで抑えるなんて」


 一方で、ターニアの方は冷静に状況を分析していた。

  

 「ターニアの言う通りだ。搾取するだけならまだしも、村人の好感度まで上げて何を企んでいるんだろう?」

 

 アダムもターニアの言葉に同意する。しかし、その理由がわからなかった。

 だが、クボタはその理由を理解しているようだ。ちょっといいですか、と言い自分の意見を述べる


 「おそらく、何か他に大きなことを企んでいる、ということだと思います。似たような事例を以前見たことがあります」

 「以前見た・・・・・・クボタ殿、詳しく教えてもらえませんか?」

 「魔物がある町の住民を洗脳して、侵略の尖兵にしました。そして周囲の町を魔物の代わりに襲わせたんです」

 「なかなか賢いことをする魔物もいるものだな・・・・・・」

 「そうですね・・・・・・しかも今回厄介なのは、村の人々が洗脳されていないことですね。仮にオーク型を全滅できても、人間の襲撃を受ける可能性があります」

 「困った、どうしたものか・・・・・・」


 アダムは頭を抱えた。堂々と魔物を倒すことができないとなると・・・・・・

 いや、たしかオークの知能は・・・・・・性格は・・・・・・ならば・・・・・・

 オークたちが何を考えているかはわからないが・・・・・・


 「アダム殿、ここの村人のことなど気にする必要はありません!こんな人間ども、下手をすれば王国に対して反乱を起こす可能性だってあります。村の人間たちごと粛清してやりましょう!」

 「ちょっと、ビルのおっちゃん落ち着いて!勇者が平民殺したりなんかしたら、絶対他の貴族からの反発が出るよ!」

 「甘い!ここは厳しく対応すべきだ!」

 「ちょっとおっちゃん、落ち着いてよ~!」


 ビルは過激な意見を振りかざして熱弁を振るう。ターニアが止めようとしているが、全く聞き耳を持たない。


 「ビル様、落ち着いてください。ここは村人に見つからないよう、こっそり全滅させるとか――」

 「いや、他に手はある」


 クボタの提案を、アダムが遮った。


 「何かいい方法があるの、アダム兄ちゃん?」

 「ああ。俺たちが村人たちに捕まり、オークの群れの前に引きずり出されればいい」

 「へ?どういうこと?」


 ターニアの問いかけに、アダムが提案したのは意味不明な作戦だった。

 ターニアも間抜けな声を出して聞き直す。


 「つまり、だ――」

 「リーダー、ただいま帰りました」


 アダムが作戦を説明しようとした時、カルロスが帰ってきた。しかしその手には何も握られていない。


 「おかえり・・・・・・カルロス、魔力回復薬はどうした?」

 「それが・・・・・・どこにも売っていませんでした」

 「売っていなかった?」


 聞き返すアダムに、カルロスがうなずく。


 「それはおかしい!この村は食料以外は物資不足ではないはずだぞ!」


 ビルが叫ぶ。

 たしかに、村の様子を見る限り物資が不足しているようには見えなかった。小さかったが市場の品ぞろえは普通だったし、一か月間食料をオークたちに献上し続けているとはいえ、人々もまだ飢えているようではなかった。

 そうなると、考えられるのは・・・・・・


 「売っていなかったんじゃない・・・・・・売ってもらえなかったに違いありませんぞ、アダム殿!」


 ビルの言う通り、売ってもらえなかったと考えるのが筋だろう。原因は考えるまでもなく、先ほどのオークとの戦闘だろう。

 当てが外れてしまい、アダムは再び頭を抱えた。このままではリサとマリーの命の危機だ。


 「アダム、魔力がほしいの?」


 その時、クボタのXコマンダーで遊んでいたギーが不思議そうな目で話しかけてきた。

 

 「ああ。でも魔力回復薬がないと・・・・・・」

 「じゃあ、ギーの魔力をアダムにあげる」


 そう言ってギーはアダムの手を握った。


 「お前、何を――」

 「ちゅーにゅー」


 ギーが間延びした声でそう言うと、アダムは自分の体に魔力が流れ込んでくるのを感じた。ギーの握った右手から、温かい何かが流れ込んでくるように、魔力が流れ込んでくる。

 

 「ギー・・・・・・これは・・・・・・?」

 「ギーの魔力あげてる。アダムの魔力だったら半分の半分くらいは戻せる」


 半分の半分・・・・・・つまり4分の1だ。

 アダムが聖剣の勇者であることを考えると結構な魔力量だ。

 それを回復してしまうとは・・・・・・いや、聖剣エクスカリバーなら不思議な力があっても当然か――アダムはそう考える。


 「はい、完了」

 「ああ、ありがとう」


 十秒程度で、魔力の注入は完了した。アダムの体、精神に特に異常は感じられない。


 「本当に魔力が回復している。一時的なものじゃない・・・・・・ありがとう、ギー」

 「どういたしまして。ギーのありがたみ、わかった?」

 「ああ、わかったよ。ありがとう、ギー」


 アダムはギーの頭を撫でる。ギーは嬉しそうに撫でられている。


 「うふふ。ギー、またコマちゃんとお話ししてくるー」


 ギーは再びXコマンダーとの会話に戻っていった。

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