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2-1 到着早々

修正

戦闘シーン微増

  太陽の位置から、時刻はおそらく午前10時ごろ。

 アダム達はトゥーリー村へと向かって歩き出した。

 アダムとカルロスが人を乗せた大きな荷車を引き、一人はおかしな格好で見たこともない自転車を押し、さらに幼い少女を連れている。はたから見ると不思議な集団だった。


 「それでは、皆さんは魔王ジゴ・ラドキの軍団と戦う正義の勇者ということですか?」

 「ブラフ一人に袋叩きにされてしまいましたけどね……クボタ殿が追ってきた魔物というのは?」

 「巨大なヘビ型のインベ……魔物です。神出鬼没な奴で、全く動きを掴めません。永遠の闇の中のような空間を追っていたのですが、その途中でこのラスコー王国に迷い込んでしまったわけです」

 「山を削ったあの巨大物体は?」

 「その時に乗っていた……ええと、船のようなものです。今はこのXコマンダーの中に入っています」

 「その左腕の籠手ですか……召喚魔法のようなものか……?」


 アダムとクボタは話しながら、情報の共有と互いの認識の齟齬を解消しようとしていた。

 アダムにとって、クボタの話はやはり不思議なものだった。

 クボタの話によれば、クボタの国、ニホンには魔法がないらしい。魔法という言葉はあるが、それはあくまでおとぎ話の中のもので実際には実用化されていない。


 「本当に魔法があるとは驚きました。手の平から火の玉を出すなんてすごいです!」


 基礎魔法である『火球』を見せた時、クボタは子供のように興奮して驚いていた。演技かもしれないが、本当に魔法のない国から来たらしい。

 それにしても、ニホンという国は不思議な国だ。魔法の代わりにカガクという技術が発展した国らしく、ディメンダーXの装備もすべてそのカガクというものを使って作られたものらしい。ニホンという国では王族はいるが貴族制度は大昔に廃止され、しかも王族の代わりに平民が政治を行っているという。ミンシュ・シュギというらしい。詳しい説明は受けたが、アダムには理解できなかった。


 「そういえばクボタ殿は、ラスコー王国のことは知らないと言ってますが、なぜラスコー公用語を話しているのですか?」

 「それが自分にもわからないのです。気が付くと皆さんの言葉が理解できていて、自分はニホン語を話しているつもりなのですが、なぜかラスコー語に翻訳されているみたいで」

 「ふむ……」

 

 アダムは考える。

 クボタは発見されたとき、重度の魔力酔いだった。もしかしたらそれと何か関係があるのか……?


 「クボタのおっちゃん、その自転車貸して!」

 「ディメンダーX、コマちゃん貸して」


 二人が話していると、ターニアとギーがクボタに駆け寄ってくる。コマちゃんとは、Xコマンダーのことらしい。ギーにとってはあだ名のような感覚だろうか?


 「はい、ギーちゃん、これ大事なものだからなくさないでね。ターニア様、どうぞ」


 クボタが二人に付き合っていると、ビルがアダムに近づき、小声で話しかけてきた。


 「アダム殿、クボタとエクスカリバーのこと、どう思われますか?」

 

 ターニアに自転車の乗り方を教えるクボタと、Xコマンダーに話しかけるギーをちらりと見て、ビルはアダムに意見を求めた。


 「先生は二人のこと、怪しいと思っていらっしゃるのですか?」

 「当然です。クボタは言わずもがな、エクスカリバーも、人の姿に変身するとか聞いていません。偽物とすり替わった可能性もあります」

 「エクスカリバーはレオトレーシー家の屋敷で厳重に保管していた。俺も聖剣の勇者になるまでは数えるほどしか見たことがない。偽物であるとは考えにくいと思いますが?」

 「それでは、アダム殿はギーと名乗るあの妖怪をなんだと思っているのです?」

 「聖剣に宿る……精霊様?」

 「……アダム殿、ターニアに影響されておりませんか?」


 ビルは頭を抱える。自分たちのリーダーが、この緊急時に自転車で遊んでいるターニアと同じレベルの楽観主義者になってしまったのかと。

 しかしアダムは心配ないとビルの意見を否定した。

 

 「ギーもクボタ殿も、まだこちらに危害を加えようとはしていません。それに、自分はあの二人からは、先生たちと同じ安心を感じます。彼らも、俺たちの仲間です」

 「ですが!」

 「ビル殿、お言葉ですが、仮にあの二人が危険人物だったとして、我々に打つ手はありませんよ?」

 「カルロス……それはそうだが……」


 黙って話を聞いていたカルロスが、会話に入ってくる。

 

 「リーダー、僕はあの二人のこと、信じます。歩きながらずっと考えてました。クボタ殿が本当に単独でブラフを倒したのなら、これ以上に頼りになる者はいません。ギーちゃんも、正体はエクスカリバーです。もしかしたらエクスカリバーには、僕たちの知らない力が眠っているのかもしれません」

 「カルロス、あの二人を過信するのはやめろ。最終的に、国を救えるのは勇者である我々だけだ」

 「……ブラフを倒せなかった我々が、勇者、ねえ……?」


 ビルの言葉に、カルロスの声が急に低くなる。

 

 「何が言いたい?」

 「ビル殿、結論から言いましょう、ブラフを倒せなかった僕たちはクボタ殿以下の存在だ……」

 「口が過ぎるぞ……お前――」


 ビルの声もこわばってくる。

 このままではまずい、喧嘩になる――アダムは、大きな声で無理やり二人の話を遮った。


 「二人とも落ち着け!」

 「しかしアダム殿――」

 「先生はもう少しあの二人を信じてください!もし裏切られたら、その時に考える!カルロス、先生の言う通りだ。クボタ殿は俺たちが束になってもかなわないほど強い、ギーも何か特別な力を秘めている可能性がある。でも、俺たちも頑張らなくちゃいけない!……いいですね!」

 「了解……しました、申し訳ありません」

 「了解です、リーダー……すみません」


 二人が喧嘩になる一歩手前で止めたアダムはふう、と息を吐く。

 ブラフが倒されたとはいえ、こんなところで仲間割れを起こしては意味がない。魔王軍は全滅したわけではないし、リサとマリーの意識も戻らないのだ。

 

 「見て、アダム兄ちゃん!自転車乗れた!」

 「すごいですターニア様!初めてでこんなに乗れるようになるなんて!」

 

 ターニアは自転車に乗れて喜んでいる。

 クボタはそんなターニアを大げさなくらいの勢いでほめている


 「そうなんだ、コマちゃんも大変だねえ」


 ギーはXコマンダーに話しかけている。一見すると独り言を話しているようにも見える。

 アダムはその様子を見てうんうんと頷く。 


 「先生、カルロス、彼らを見ろ。俺たちはこのメンバーで旅を続けないといけない。もっと仲良くしよう」

 「リーダー、あれは油断しすぎです」

 「アダム殿、やはりターニアの影響を受けすぎです」

 「むう……」


 妙なところでカルロスとビルの意見が一致した。



 

 空が段々とオレンジ色に変わり始める。

 アダム達はおよそ丸一日歩き続け、トゥーリー村の入り口にたどり着いた。


 「つ、着いた……やっと……」


 クボタはその場にへたり込んだ。

 普段よほど歩きなれていないらしい。中盤辺りから息が切れ始め、最後の方はよぼよぼの老人みたいな歩きになっていた。途中から自転車が杖代わりになっていた。

 

 「クボタのおっちゃん、大丈夫?」

 「情けない奴だ」

 「いや、ビル様、ターニア様……あまり運動しない現代人にこの距離はきついです……」

 「ちょっと長いだけの距離だと思うけど……?」

 「エクスカリバーでさえほとんど一人で歩き切ったんだぞ?魔力酔いの件といい、お前そんな体たらくで本当に軍人か?」

 「ですから、軍人ではなくカガク者です……」


 本当に疲れ果ててしまったらしい。この程度でここまで疲れてしまうとは、クボタはどれだけ体力がないのだろう?


 「しょうがない、とりあえず今夜の宿を探そう」


 アダムも若干呆れつつそう言った時だった。


 「ひかえろお!ひかえろお!」

 

 村の中心から、突然大きな叫び声が聞こえた。おぞましい声だ。アダムの直感が、危険を告げる。忍びの勇者であるターニアも気配を察知する。


 「アダム兄ちゃん!魔物の気配だ!」

 「みたいだな。カルロス、ここの守りを頼む。ギー、いいよな?」

 「了解」


 ギーが手に持っていたXコマンダーをへとへとのクボタに投げ渡し、白い光に包まれる。そして元の姿――聖剣エクスカリバーに戻り、アダムの手元に飛んでいく。

 戦闘準備は整った。


 「先生、ターニア、行くぞ!」

 「了解!」


 リサとマリーの護衛をカルロスに任せ、アダム達三人は村の中心部に向かって駆けだした。




 村人たちは、村の中心部に集められ、伏せるように地面に座らされていた。

 村人たちを集めた張本人は、叫び声の主――筋骨隆々の巨体を持つ魔物、オークだった。

 手にはその巨体と同じくらいの大剣を持っている。


 「そこのオーク!村人たちに何をする気だ!」


 アダム達はオークと対峙する。オークは余裕の表情を浮かべてアダム達の方を振り向いた。


 「何者だ?」

 「勇者・アダム=レオトレーシー、ビル=ケンブリッジ、ターニア=ザクトリーだ」

 「そうか、お前たちがブラフに負け続けた勇者たちか」

 

 目の前の魔物は痛いところを突いてきた。ショックを受けつつも、自制心を働かせ、心の動揺を抑える。


 「余計なお世話だ。お前こそこちらの質問に答えてもらおう!」

 「なんてことはない。村人たちから食料を献上してもらうだけだ」

 「食料?」


 オークの横には山積みになった肉や野菜が置いてある。献上の名のもとに村人が持ってきたものだろう。これを村人たちから奪うつもりのようだ。


 「なるほど、食料を出させる代わりに村を襲わない……そういう約束か」

 「理解が早くて助かる。俺たちは平和的な取引をしているにすぎない」

 「ふざけるな!」


 このような手口は悪質だ。一見犠牲の出ないようなやり方だが、徐々に献上させる量を増やしていき、最終的に人々は餓えてしまう。卑怯な手口だ。

  

 「オーク!貴様はここで倒す!」

 「ふん!やれるものならやってみろ」


 アダム達はそれぞれの剣を抜く。


 「行くぞ!」


 三人は左右に分かれて逃げる村人たちの中をかき分けるようにして、オークに向かって突撃する。


 「一体で俺たちと出くわしたのが運の尽きだ!」

 

 アダムは真っ先にエクスカリバーで斬りつける。

 オークは大剣でそれを防ごうとするが、大剣はエクスカリバーの聖なる刃で真っ二つに切り裂かれる。

 「馬鹿な!負け続きの勇者では……!」


 動揺するオーク。ビルとターニアはその隙を見逃さない。

 

 「それは、」

 「ブラフ相手の話だ!」

 

 左右から飛び掛かり、ビルが鉄の剣で胴体を、ターニアが双剣で頭を斬りつける。


 「ぐわあああああ。くそ、まだまだ!」


 痛手を負いつつも、オークはその巨腕で三人を叩き潰そうとする。

 だが、頭部にダメージを受け、目がうまく開かないオークは狙いをつけられない。


 「『蜘蛛の糸』!」


 ターニアが攻撃を避けつつ、忍びの術の一つである『蜘蛛の糸』を放つ。粘着性の高い糸がオークの巨体に絡みつき、その動きを止める。

 

 「おのれ、おのれ……!」


 オークはその場でじたばたして力任せに糸をほどこうとするが、全くほどけない。


 「アダム殿!」

 「今だよ、アダム兄ちゃん!」


 二人の勇者の合図を受け、アダムはエクスカリバーに力を込めた。エクスカリバーの刀身が光り輝く。


 「『光の刃』!」


 アダムは輝く刃でオークの巨体を真っ二つに切り裂いた。


 「馬鹿……な……!」


 二つに裂けたオークの体は地面に崩れ落ちる。そしてアダムがエクスカリバーを鞘に戻すのと同時に、黒い霧となって消滅した。 

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