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1-0 遭難!見知らぬ異世界

「逃がさん!」


 視覚的には不気味な光を放つワープ空間。そのトンネルのような空間の中を40メートルクラスの巨大な蛇の侵略本能系次元エネルギー変異暴走体――通称『インベーダー』がその発生源に向かって飛んでいく。そしてそれを追いかけるのは三角形の銀色の戦闘機――ディーフェニックス。機体の真ん中に位置するコックピットには、頭の先からつま先までを全身を銀色のスーツで身に包んだ戦士――ディメンダーXが操縦桿を操作している。


 情報モニターを搭載したマスクの下に隠れた彼の表情は、このワープ空間に逃げたインベーダーを逃すまいと必死だった。

 この蛇型インベーダーはこの1週間で福岡・名古屋・札幌など日本の複数の都市を襲撃。迎撃にあたった防衛軍の宇宙ハンター部隊は攻撃を仕掛けるもすぐに逃げられ、未だ倒せずにいた。今回は20分前に京都を襲撃したところを東京から駆け付けたディメンダーXが攻撃、ワープ空間に逃げ込んだ。ここで逃せば、また被害が出る。

 ディメンダーXは何としてでもこのワープ空間で倒すつもりでいた。


 「奴がネストに戻る前に仕留めなければ……!」


 インベーダーが向かう先は、おそらく奴らの発生源。通称『ネスト』。

 巣を意味するこの異空間からは、強力かつ複雑に絡み合った次元力・重力・磁力等が観測されている。宇宙艇・時空艇等がむやみにこの空間に飛び込んだが最後、観測機器・動力システムはショートし、機体はこのブラックホールのような空間に吸い寄せられて二度と元の宇宙には戻ってこれなくなると考えられ、恐れられていた。


 「フェニックス・レーザー!」

 

 ディーフェニックスから振動音と共に二本のレーザーが放たれる。だが蛇型インベーダーは寸前のところでレーザーを回避する。


 「ええい!……くそっ!」


 ディーフェニックスは次々とレーザー砲を撃ち込むが、インベーダーはひらりひらりとレーザーを避けていく。ワープ空間に入る前の戦闘でインベーダーもそれなりに深い傷を負っているはずだが、そのスピードは落ちない。ディーフェニックスはインベーダーと共にどんどんネストへと近づいていく。


 〈高エネルギー反応探知。キケン!キケン!〉


 左肩についているレーダーデバイスが警告音を発する。

 ネストから発せられる複雑に絡み合った様々なエネルギーの波が機体を大きく揺らす。


 「なにっ!まだ危険水域じゃないはずだぞ?」


 次元レーダーモニターでディーフェニックスの現在位置を確認するが、ネストに引き込まれる危険があるとあらかじめ予測されている危険水域にはまだ到達していない。それなのにディーフェニックスは激しいエネルギー波の嵐にさらされている。何はともあれ、このままだとディーフェニックスは追いかけてきたインベーダーと一緒にネストの中に吸い込まれてしまう。


 「残念だが、ここまでか……」


 ディメンダーXは功を焦って引き際を見誤るような男ではなかった。

 すぐさまレバーを操作して、ワープ空間から元いた宇宙空間に戻ろうとする。

 だが、


 「なんだ?反応がない……?」


 レバーを動かすが、エンジンが反応しない。

 エンジンが切り替わって空間突破用の振動波が発生するはずだが、何も起こらない。


 「まずいな……」


 焦るディメンダーX。計器は異常な値を示し、コックピットに警報音が鳴り響く。操縦桿も言うことを聞かない。


 「こちら久保田機。東京基地、東京基地、緊急事態発生! 緊急事態発生! 応答せよ……東京基地! ……ダメか!」


 宇宙ハンター部隊の東京基地に通信を試みるが、通じない。

 状況は非情にもどんどん悪化していく。追跡していたインベーダーは既に姿が見えなくなった。ディーフェニックスのコントロールは完全に効かなくなり、姿勢制御装置も動かなくなった。糸の切れた凧のような状態になった機体はぐるぐると回転し、重力の強い方向へと落ちていく。


 「ぐおおおおおっ!」


 コックピット内のディメンダーXにも複合エネルギー波が襲い掛かる。全身を頑丈なディメンダースーツで保護していても、強烈な複合エネルギー波には耐えられない。全身に強い重力がかかり、全身の筋肉がしびれて動かなくなる。胃と肺が焼けるように熱い。


 「しょうがない……」


 ディメンダーXは覚悟を決めた。

 エネルギー波の嵐から抜け出そうとすればレバーや操縦桿は言うことを聞かない。このまま続けてもネスト内に墜落してしまう。ならば、思い切ってこのエネルギーの流れに乗り、ネスト内に不時着するしかない。


 「うおおおおおっ!」


 エンジン出力と操縦桿、そして複合エネルギー波に含まれる重力波だけでなんとか姿勢を安定させたディーフェニックスはワープ空間からネストへ向かって落ちていく。不気味に光る空間の壁を通り抜け、上下左右のない空間を抜け、重力に従ってネストの中に入り込んでいく。


 「なっ、なんだ!?」


 ネストに近づくにしたがって、頭の中に何かが入って来てそのまま脳内に溶け込むような気持ち悪い感覚に襲われる。ディメンダーXはその感覚に耐え、激しく揺れる操縦桿を水平に保つ。

 やがて、視界は徐々に変わっていく。不気味なワープ空間の壁は透明になっていき、ネストの風景が現れる。


 「これは……?」


 インベーダーの巣窟と考えられる空間、ネスト。ワープ空間を完全に抜けて、目に飛び込んできたのは意外な光景だった。

 ワープ空間を抜けた先は、オレンジ色の空だった。モニター越しに下界を見下ろすと緑が広がり、所々に小さな町や大きな都市が点在していた。建物は石のレンガを積み重ねたようなものと木でできた小屋みたいなものが半々ずつ。わかりやすく言えばファンタジーものに出てくる中世ヨーロッパ風。石で舗装された道も見える。高くそびえる山も、夕日に照らされて輝く青い海もある。畑や湖まである。


 これはまるで……


 「地球……なのか?……うわっ!」


 ディーフェニックスを捕らえていたエネルギー波の嵐が、消える。それは辛うじてバランスを保っていた力の一つである重力波が途切れてしまったということ。


 「う、うわあああああ!」


 バランスを崩したディーフェネックス。地上に向かって真っ逆さまに落ちていく。

 ディメンダーXには本当になす術もなかった。落ちていく先は緑が生い茂る山の中腹。コックピットの中にディメンダーXの悲鳴が響く。


 ――激しい衝撃と、轟音。


 ディーフェニックスは地面に激突、山の斜面を削るように百メートル以上横滑り。轟音と共に森の木々を何十本もなぎ倒し、土砂崩れを引き起こしてようやく停止したのだった。


 「う、うう……」


 何秒ぐらい気を失っていたのだろうか?警告音が鳴り響く中、ディメンダーXは目を覚ます。ディーフェニックスはかなり派手に着地したようだ。頭がくらくらする。

 メインモニターは真っ暗で何も映らない。計器類も警告音と異常音を発している。


 「嵐と墜落でだいぶやられたらしいな」


 左腕に着けたメインコントロールブレス・Xコマンダーを操作し、ディメンダーシステムのチェックを行う。


 〈システムに多数のエラーを検出。スグにリカバリーをオコナッテください〉

 〈ディメンダースーツ形成維持困難。キケン〉

 〈マテリアライザー機能使用不能。ラジオデバイスシステム使用不能・・・・・・〉


 AIの合成音声が淡々と診断結果を告げる。

 結論から言うとシステムの三分の一が磁力・電子力・次元力でダメになったが、修理を行えば大丈夫のようだ。

 ほっと一安心したその時だった。


 〈警告!パラドックスエンジン暴走。手動でデータライズ収納シテください〉


 「ゆっくりもしていられないな・・・・・・!」

  

  突然、Xコマンダーが不吉なことを口にした。


  「データライザーは生きているのか?」

  〈イエス。データライズシステムはキノウしています〉

 

 ディーフェニックスには動力源としてパラドックスエンジンを搭載しているが、これが暴走しているらしい。放置しておけば爆発する。パラドックスエンジンが爆発した場合、周囲に影響はないが、機体と中のディメンダーXは無事では済まない。不安定な空間の拡大と圧縮が同時発生し、空間ごと巻き込まれて、体が空間に押し潰されると同時に空間ごとバラバラになってしまう。


 「よっこいしょ・・・・・・!」


 まだ複合エネルギー波の嵐の影響で全身が痛むが、ディメンダーXは無理やり体を起こす。痛いなんて言ってられない。命がかかっているのだ。シートベルトを外して立ち上がると、非常用のデータライズスイッチを押す。


 全長約20メートルのディーフェニックスが一瞬でデータ化されて消え、電子エネルギー化したデータとなる。これでエネルギー伝導回路が消滅したため、暴走・爆発の危険はなくなった。データはそのままXコマンダーのマルチモニターの中に吸い込まれる。


 「うわっ!」


 ディーフェニックスがデータ化して消えたことにより、中にいたディメンダーX、そしてデータ化できなかったリュックサックと改造マウンテンバイクが地面に落ちる。


 「いたたたた・・・・・・」


 コックピットは約5メートルの高さにあったから、その高さから落ちたことになる。ディメンダースーツを装着していなかったら、重症かもしくは死んでいただろう。


 えぐられた地面に寝転がり、ディメンダーXはレーダーデバイスを操作して周囲の状況について調べた。


 〈インベーダー反応ナシ。高エネルギー反応ナシ。大気濃度・安全。ウイルス・なし。放射線・安全〉


 「電装を解いても大丈夫か」


 ディメンダーXはXコマンダー中央のダイヤルを左に回し、コンバットモードをオフにする。同時に身にまとっていたディメンダースーツが電磁分解され、電子力データはXコマンダーに、余剰エネルギーは光粒子化されて霧散する。ディメンダーXは変身前の元の姿――黒いサイクルジャージを身に着けた、宇宙ハンター部隊出向中の若き科学者、久保田武(くぼた たけし)の姿に戻った。


 「はー、ふー」


 バイザーを上げ、頭を覆っていたヘルメットを脱ぎ、武は大きく深呼吸した。空気がきれいだ。しかし、まだ頭がくらくらする。


 「ここがネストの中か・・・・・・」


 ネスト内は恐ろしいインベーダーの巣窟。無数のインベーダーが跳梁跋扈する、不気味で恐ろしい場所だと思い込んでいたが、全然違った。地球と何も変わらない。今は夕方だろうか?オレンジ色の空に雲が浮かび、山の向こうに沈む太陽はまぶしい。街が見えたということは人もいるのだろう。


 「まるで地球じゃないか・・・・・・」 


 試作型インベーダー殲滅システム・ディメンダーX。

 開発者の久保田武は自ら強化服・ディメンダースーツを装着、世界各地でインベーダーとの激しい戦いを繰り広げていた。

 そんな彼がインベーダーを追跡して迷い込んだのは、インベーダーの発生源と考えられていた空間『ネスト』。

 しかしそこは、地球とよく似た『異世界』だった―― 

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