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4話

久しぶりの更新です。お待たせしました!

中庭はちょうど洋館の中心に位置し、普通に庭と言っても差し支えない程の広さであった。

芝が綺麗に苅り揃えられ、真ん中には大きな木が一本、根をどっしりとおろしていた。

木漏れ日がキラキラと輝いて、どこからか吹き抜ける風はとても心地よいものである。


その大きな木の下で座っているとフワッと珈琲の香り。

振り返ると紗菜がニコりと笑ってコーヒーカップをひとつ持っていた。俺はその欠けたコーヒーカップを受け取って中の黒い液体を啜る。途端に口のなかに広がるのは香り豊かで少し酸味の効いた珈琲そのものの味であった。


まずは一口飲んで、ほぅと一息ついていると隣に紗菜が座る気配。

そのままお互い特に話すこともなく黙って過ごす。


今日は雲の流れが早い日だ。瞬きをする度に変わるそれを見つめるのも悪くないのだが、そろそろ首が痛くなってきた。

そのまま芝生の上に寝転がる。背中に感じる芝がチクチクと痛い。その痛みから逃れようとモゾモゾしながら、ふと隣を仰ぎ見るとまだ紗菜はじっと座っていた。


なんだか横顔をじっと見ているのも変な気がして、俺は手持ちぶさたに左手の薬指にはめてある銀の指輪を触る。

いつからか、俺の手にはまっていたそれが何の意味を成していて、つけていることに意味があるのかどうなのかはわからないのだが。



「幸村様は、」


突然紗菜が俺を見て口を開いた。俺はそのまま言葉が紡がれるのを黙って待った。


「幸村様はその指輪を....どうして?」


外さないのか。

そう聞きたかったのだろうか。

俺はそうだと信じて、それから少し考えてから口を開いた。


「特に理由は.....だがまぁ、強いて言うなら」


目線を紗菜の胸元に向ける。

その視線に気づいてか、紗菜はいつも首から下げているネックレスの先を服から出した。

それからその先についている指輪をつまんで、


「おそろい、でございますね。」


とひとつ微笑んだ。

そして何事も無かったかのように再び前を向いて黙ってしまった。

だが俺は無性にそんな紗菜をいとおしく感じていた。


俺は寝転んだままだった体をそっと起こして、紗菜の後ろに回る。そしてそのまま手を伸ばして抱き締めた。

振りほどくような素振りはなく、紗菜は交差した俺の手の上に自分の手を重ねた。


とても華奢で、とても冷たい体だった。


紗菜は高揚した顔で俺を見る。


「幸村...様...。」


甘い吐息が頬を撫でた。

紗菜は潤んだ瞳を閉じる。

そんな雰囲気に流されるように俺は顔を近づけた。

扇情的な空気に心臓が音をたてている。


唇がふれあう。


同時に伝わる『紗菜』は、やっぱり冷たかったが俺にはとても、とても熱かった。

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