サイコ・ラバー ~いつか、きっと~
一週間後――この一連の婦女連続殺人事件は、正式に飯島佳代子の犯行であると警察から発表された。
あのビルからは、私達がいた場所以外にも大量の死体や遺体の一部などが発見されたらしい。
その数は公式発表の犠牲者を遥かに上回っており、女性に限らず様々な老若男女の死体や人体のパーツがあったとのこと。
それらの遺体は、完全に白骨化しているものや腐敗しているものまであったことから、事件が報道される前から、飯島佳代子は殺人行為に及んでいたらしい。
なかには行方不明者リストに載っている者の死体もあったことから、世間は改めて、今回の一連の事件に衝撃を受けている様子だった。
しかも、あのビルには人が生活していた痕跡があったことから、あの廃ビルが飯島佳代子の生活拠点であったということも公表された。
あまり人前では言えないが、それならばこの一連の事件は『婦女連続殺人事件』ではなく、ただ単に『連続大量殺人事件』で良いのでは、と思ったのは内緒である。
事件の現場となったビルは、近いうちに解体されることが決定された。
あのような現場があった場所であるから固定資産としての価値は暴落するだろうし、それならばいっそ解体して更地にしてしまおう、ということだろう――もっとも、その更地に買い手が付くかどうかは定かではない。
北条さつきは、しばらく芸能活動を休止する。
自分のマネージャーが世間を賑わせていた連続殺人の犯人だったうえ、自分も被害者の一人になりかけたショックと、マスコミの過熱報道から守るためだ。
まぁ、そうするように事務所に言ったのは私だけど……社長や両親は北条さつき本人が言っていた通り、彼女をこき使って荒稼ぎしようという魂胆が、話していて丸見えだった。
正式に警察の方から要請があると、両親は北条さつきとの縁を切ると言い、社長は彼女と事務所との契約を一方的に打ち切った。
今、彼女は私が保有しているセーフハウスの一つで生活している。何かと経費はかかるが、彼女の今の境遇を思えば不思議と嫌な気はしない。
それより今一番の問題は、
「はぁ~……」
これだ。大倉刑事は北条さつきが芸能活動を休止することを発表してから、毎日溜息を吐いている。
まぁ、大好きだったアイドルが芸能活動を休止してしまったらそうなるのも無理ないが、いい加減ウザくなってきた。
「はぁ~……」
「うるせぇっ!! ぶっ殺すぞっ!?」
とうとう鬼島警部がキレた。
「し、しかし警部殿……」
「男なんぞが溜息ばっかりつきやがってっ! いい加減に止めねぇとハラワタ抉るぞっ!?」
鬼島警部は、大倉刑事のデスクをバンバンと叩きながら恫喝した。
「う……うぅ……」
大倉刑事はシュンとうなだれて半ベソをかいている。
だが、これでいい……私も大倉刑事の溜息には我慢の限界が来ていたところだ。これぐらいビシッと言ってやった方が、今の大倉刑事にはちょうどいいかもしれない。
それに、私にはもう一つ気がかりなことがあった。
『またどこかで』
あの飯島佳代子の言葉……あの言葉が、今も私の脳裏にこびりついて離れない。
それに彼女は……私の過去を知っているようだった。二度と思い出したくない過去を……決して許されない罪の存在を……。
さらに喫茶店を出た後に掛けられてきた電話と血まみれの女、私の自宅で格闘した女……そのどれもが、私にとって非現実的な出来事に思えた。
あれらも飯島佳代子の仕業だったのだろうか? もしそうならどうやって……私の頭は、それらの事柄を考えていくだけでオーバーヒートしそうだった。
その時、私の携帯電話が鳴った。
「なんだ? 今度は警視正殿に女が出来たのか?」
私は鬼島警部の言葉を無視して、電話の画面を見た。
『死が二人を分かつまで、永遠に。 飯島佳代子』
(……っ! なんだ、これはっ!?)
自分でそのように思いながら、私は深い溜息をついた。
私は鬼島警部に、飯島佳代子がその後どうなったか質問した。
私の質問を聞いて、鬼島警部はソファに座りながら不機嫌そうにこちらを向いた。私に無視されたことが気にくわなかったらしい。
「あぁ? あの女ならまだ行方不明だぜ? ま、捜査一課が血眼になって探してるらしいから、近いうちに見つかるだろ」
ケラケラと笑って、鬼島警部は再びワイドショーの世界に戻っていった。
近いうちに見つかる……本当にそうあってほしいのだが……いずれにしても、携帯電話の機種と電話番号、メールアドレスは変えよう。それが、今の私にできる精一杯の防衛策だ。
まったく……とんでもない存在に目をつけられてしまった……。
ホラー系はどうやれば場面の緊張を出せばいいのか難しいですが、これからも頑張ります!
この小説と並行して、異世界モノも書いていきたいと思います!