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鬼島陽子編 ストーカー ~親友の見たモノ~

「じゃ、もうそろそろ寝ようか」

「ああ、そうだな」


 あれから、アタシは麗華を自宅に届けてそのまま彼女の部屋にいる。

 一応、車で送迎している最中に後ろに気を配っていたが、尾行してくるような車は無かった。

 それからアパートから少し離れた所に車を停めて、しばらく周辺の様子を探ってみたけど、特に不審な人物や車両は見られなかった。

 ただ、こいつはちょっと妙だと思う……。一時は、麗華のアパートの扉を叩くようなことやってのけた奴が、こうもおとなしくなるもんかな?

 別に、何か起きればいいってわけじゃないが……ちょっと怖いぜ。

 アパートに帰ってからは、麗華を玄関先で待たせてアタシが警棒片手に彼女の部屋を捜索したけど、特に不審な点は見つからなかった。

 もしかしたら、ストーカーが合鍵なんか作って待ち構えてたり、部屋を荒らしてたりするかもしれないからな。

 だが、それも無かった。ひょっとして、今日は仕事かなんかで来れないだけなのか?

 それだったら、とりあえずは安心なんだが……いずれ決着はつけなきゃならねぇ。麗華には悪いが、いつかは警察に連絡しなきゃな。

 そして、アタシは今日も麗華の部屋で寝ることになった。


「ねぇ、陽子。今日はあたしが床で寝るよ」

「あ? なんでだよ?」


 これから寝ようって時に、麗華の奴がモジモジしながら言ってきた。


「だってさ、陽子もあたしの事を守ってくれて疲れたでしょ?今日くらい、ベッドで寝て欲しいかなって思って……」

「いいのか?」

「うん、大丈夫」


 そう言って、麗華はニコッと笑顔を浮かべた。ホント、優しいよなぁ……。


「そっか……なら、世話になるよ」

「うんっ!」


 そして、アタシはベッド、麗華は床の布団で寝ることになった。

 明かりを消してしばらくして、アタシのまぶたに眠気が襲ってくる。

 ベッドが妙に心地よく感じる。アタシのアパートの布団とは大違いだぜ。

 考えてみりゃ、麗華も大変だよな……確か、実家が会社やってて大金持ちだったな。

 今勤めている会社も、その会社の傘下グループの一つらしくて、親父に無理やり入らされたらしい。

 ま、しょうがねぇよな……高校の時に女優になりたいなんて言って、両親に内緒で上京するんだからよ。

 アタシだったら、ためらいなくコネ入社して悠々自適な人生を送るっつうのによ……金持ちの娘が考えることはよく分からんぜ。

 ただ、麗華が良い奴だってのは昔から知ってる。

 そのおかげかもしれねぇけど、今いる会社じゃ麗華が社長令嬢であることは上層部しか知らないにも関わらず、麗華は人当たりが良いことで社内で評判らしい。アタシも鼻が高いぜ。

 そんな麗華が、まさかストーカーに狙われるなんてな……こうして眠る直前になると、アタシの脳ミソはなぜかフル回転しやがる。

 そのおかげで、疑問ができちまった。そもそも、そのストーカーはどこで麗華の事を知ったんだ?

 チラッと聞いたり見たりしたことがあるが、ストーカー案件の何割かは別れた女房や亭主、元恋人とかだ。でも、アタシが麗華とつるんでる時に、麗華からそんな話を聞いたことは一回もない。

 アタシに隠してるっていう可能性も無くはないが、それだったら何のために隠してんだって話になる。

 ただ単に麗華が帰宅か出社途中に出会った奴の中にストーカーになった奴がいるかしれねぇが、それだったら今日、麗華を送迎している途中でアタシが気づくと思うんだよな……あるいは、アタシの存在にビビッて今日は付きまとうのを止めたとも考えられる。

 アタシはそこまで考えて、床に敷いた簡易布団に寝ている麗華に小声で話しかけた。


「なぁ、麗華……」

「ん……えっ!?」


 カーテンから漏れる月明かりの元で、下の布団の中にいる、麗華と思われる影が大きな声を出してビクッと動いた。よかった、まだ起きてるみたいだぜ。

 だが、そこまで驚くことか? まぁ、色々精神的に参ってるかもしれねぇな……。


「お前さ……ストーカーの正体に心当たりはないのか?」

「……」


 麗華からは返事が無い……じっとこっちの方を向いたまま、石みたいに固まってやがる。


「……ん~……」


 少しして、間延びした声が聞こえた。どうやら、思い当たる人間がいないか考えていたらしい。


「心当たりはないけど……すごくいい人だと思う」

「はぁっ!?」


 こいつ、正気かっ!? 自分のストーカーをいい人って……まさかこれって、この前神牙が教えてくれたストップホーム症候群ってヤツなのかっ!? いやでも、アレは確か誘拐だか監禁だかで一緒になった被害者と加害者に起こるヤツじゃなかったっけ? じゃあ、なんで、麗華はそんなことを言うんだ? あぁーっ! ムシャクシャするっ!

 アタシはそう思って、ベッドから降りてリモコンを取り、部屋の明かりを点けた。チカチカと明かりが点灯した後、パッと部屋の中は明るくなった。アタシの足元には、アタシの方を向いた麗華がいた。

 彼女はどこか引きつった笑みを浮かべ、アタシをジッと見ている。


「……もぅ、せっかく寝てたのに……ま、いいや」


 そう言って麗華は布団から起き上がって、ベッドにいるアタシの手を掴んでグイグイと引っ張って行った。


「お、おいっ! なんだよっ!?」


 アタシが踏みとどまると、麗華は神妙な顔してこっちを振り返った。


「ごめん、ちょっとコンビニで買いたい物があるから付いてきてよ」

「買いたい物って……今から行くのか?」

「うん、どうしても欲しいの……」


……はぁ、やっぱこういうとこはお嬢様なんだなぁ……でも考えてみれば、今こいつはストーカーに狙われてんだよな。それならしょうがないか。


「分かった……行こうぜ」

「うん、行こっ!」


 麗華はそう言うと、アタシの手を引っ張って玄関から出ていった。

 ただ、玄関を出ると麗華の足は止まっちまった。


「なんだ? どうかしたのか?」

「……」


 アタシが声をかけても、黙ったままうつむいている。

 その顔はいかにも病人みたいな色になってて、普段汗なんか垂れ流さないのに、今は額からドバドバ汗が流れてやがる。


「おい、麗華――」


 アタシがそこまで言うと、麗華はアタシの手を握ったまま、また歩き始めた。

 ただ、部屋を出る時とは違ってその歩みは早くなっている。正直言って、走っていると言ってもいいぐらいだ。


「お、おい、麗華っ!」


 アタシが声をかけても、麗華は黙ったままアパートの階段を駆け下り、アパートの前の道路を歩いて行った。

 そして、近くにあるコンビニに着くとアタシの手を離して振り向いた。


「ねぇ……陽子……」

「なんだよ?」


 麗華の声は今にもかすれそうで、顔を近づけないと聞こえなかった。

 アタシがコンビニの側に立ってて、麗華はコンビニとは反対の方向に立ってる。そのおかげで、麗華の顔色がよく分かった。一言で言えば、死にそう。そう、今にも死にそうなんだ。


「部屋に戻って……見てきてくれない?」

「はぁっ!?」


 おまけに、言ってることもよく分からねぇ。

 それに、あの時部屋で別の気配を感じた気がするんだが……まさかそれと関係があるのか? ま、聞いてみないと分からなねぇな。


「どういうことだよ?」


 アタシがそう聞くと、麗華の顔色が一段と悪くなっていく。


「あたしね……見ちゃったんだ……違う……あれは……」

「だから、なにをっ!?」


 アタシがちょっとイラついた口調で問い詰めると、麗華は涙目を浮かべてアタシを見た……アレッ? っていうことは、麗華を泣かしたのはアタシになるのか? いや、違うからなっ!? アタシが聞く前から麗華は涙目になってたからなっ!?


「陽子、どうしたの?」

「あ、いや、ゴホンッ!……なんでもねぇ。それで、何を見たんだ?」


 アタシがもう一度麗華に聞くと、麗華も神妙な顔に戻って言った。


「あのね……陽子が寝ていたベッドの下に、いたの……男の人が……」

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