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その岩、踏むべからず ~ヨモツヒメの笑み~

 数日後、私は警視庁地下のいつもの倉庫にて、いつも通りの日常を送っていた。

 私が書類仕事を終えると、ちょうど鳴海刑事と大倉刑事も終わったようで、『お疲れ様です』と言って帰っていった。

 しかし、いつもなら鬼島警部は昼頃に昼食を食べに行ったまま事実上帰宅してしまうのだが、ここ最近はオモイカネ機関に詰めている。

 と言っても仕事をするわけではなく、競馬中継を見たり競馬新聞を見たり昼寝をしたり……様々な方法で時間をつぶしている。

 最近は、自宅から持ってきたのか熱血系格闘技マンガを持ち込んで読みふけっている。

 私は帰宅の準備を終えると、思い切ってその事について彼女に問いかけた。


「あ?」


 彼女はソファに寝そべったまま、マンガに釘付けになっていた視線を私に向けた。

 しばらく言うべきかどうか悩んでいる様子だったが、やがて口を開いた。


「あのよ……調子はどうなんだよ……? 最近、元気がねぇみたいだぜ?」


 私はその問いに対して、良好であると返事をした。

 彼女は少し疑っているようだったが、納得したのか、『ふ~ん』と言ってマンガに視線を戻した。


「ま、何かあったら言えよ……助けられるかどうかはわかんねぇけど……」


……今日は人類最後の日だろうか? 鬼島警部がここまで私の事を気遣ってくれるとは……。

 だが、その言葉はありがたく受け取っておこう。

 私は鬼島警部に心を込めてお礼を言うと、彼女が仕事をしていないことなど綺麗さっぱり忘れてオモイカネ機関を後にした。


           ※


 自宅に帰り、部屋着に着替えて家事を済まし、お風呂に入る……正直言って、あの事件が解決したとは思えない。

 だが、一応は『その者』に『事件解決』と連絡はしておいた。

『その者』が信用したかどうかは分からないが、今のところは左遷などの通知はきていない。

 テレビや新聞を見ていても、あの事件の事はまったく報道されなかった。まるで、初めから何事も無かったかのように……。

 おそらくは『その者』か組織が手を回したのだろうが、こういった案件は私としては気分が悪い。

 やはり、鳴海刑事達を連れてこなくてよかった。彼らがあの事件に関わっていたら、正直無事で済んだとは思えない。

 カチューシャの件だが、彼女は無事だ。

 しかし、異界に引きずり込まれる際に瘴気を少し浴びてしまったらしく、体調を崩している。

 タルホが言うには心配ないそうだし、本人も薬草や何かのスパイスのような物を混ぜ合わせた粉末を飲んで大人しくしていたため、さほど問題はないだろう。

 私が風呂からあがって自室に入ると、机の上に黒革手帳が置いてあった。

 その表紙には『八丁山付近連続怪死事件』と銘打たれている。

 手に取ってパラパラとめくってみると、そこには私が単独行動をとってからの記録がビッシリと書き込まれていた。

 私が夢中で手帳の中身に見入っていると、後ろから物音がした。


「どうじゃ?」


 そこにいたのはタルホだった。

 彼女はさも当然のように、自身が幽閉されていた部屋の扉の前にいた。

 私が絶句していると、彼女は笑いながら私の方に近づいてきた。


「わらわを外に出したくないようじゃがな……あの程度の錠前、わらわにかかればなんの障害にもならんわ。それとな……おぬし、事件やらなんやらをその黒帳簿に書き込んでおるじゃろ? じゃからその……なんというか……わらわがやってやろうと思ってな」


 彼女の言う事は当たっている。

 扉を封鎖している鎖付きの錠前は、彼女にその気になればたちまち開かれるだろう。だが、あれはどちらかというと外からの侵入者が入り込めないようにしている部分がある。

 それと黒革手帳だが……今回の事件捜査は秘匿捜査のため、記録をつけないで捜査していた。

 それだけに、タルホが黒革手帳に記録を残していたことに、ある種の感慨深さを覚えた。

 実際、この黒革手帳に事件の記録を書き込むという行為は、私が独自にやっているだけだ。自分が遭遇した事件を忘れないために……亡くなった者達を忘れないために……。

 別に記録をつけなくても、事件の事はいつでも思い出せる。

 だが、記録をつけるということで、自分の非力や不甲斐なさを覆い隠しているという部分もある。

 いずれにしても、私はタルホに感謝の言葉を述べた。


「うむ、それとな」


 彼女は扉の前に立つと、こちらを振り返った。


「異界で出会ったあの者についてじゃが……もう悪さはせんよ」


 ニヤリと妖しげな笑みを浮かべ、タルホは自分の部屋に戻っていった。

 その理由は気になったが、今は聞かない方が良いだろう。というより、聞く自信がない。あの時吸い込まれた女性の姿を思い出すだけで、私はそう思った。

 いずれにしても、事件の元凶と思われる存在が悪さをしないのなら、『その者』や組織から叱責を受けることはないだろう。

 私は黒革手帳をいつもの本棚に戻し、ベッドに潜り込んだ……気になる事は未だに多いが……気にしている時間はない。

 明日か、今から三時間後にも事件は起きるかもしれない……いちいち事件の深部を探っていったらキリがない。

 眠りについたとしても、また悪夢に襲われるかもしれない。

 なにより……明日も、生きていられるか分からない……。

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