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地獄からのお便りを ~捜査一課の女警部~

 鶴ヶ峰学園に到着し、学校の敷地内の駐車場に車を停め、速やかに職員室へと向かう。

 今回の事件は、学校の敷地内で起きたものではない。よって、捜査も慎重にやる必要があるだろう。

 私達が職員室のドアを開けると、近くにいた妙齢の男性が驚いた表情で私達を見てきた。

 私は緊張をほぐすように警察手帳を取り出し、柔和な声色で身分を明かした。鳴海刑事と大倉刑事も、同じようにする。ここでヘタに緊張されたり不信感を持たれれば、今後の捜査もやりにくくなるからだ。

 目の前の男性は、私達の説明を聞いた後にこの学校での探索を許可してくれた。ただし、内密にという条件付きでだ。

 私はその男性にお礼を言って職員室を出ると、早速聞き込みを開始した。

 今は正午であるため、生徒達が売店で昼食をとっているようだった。

 この鶴ヶ峰学園というのはかなりのマンモス校のようで、敷地はかなり広く中高一貫校だそうだ。

 私達は売店がある食堂へ行くと、そこにいた生徒達に『郵便屋』の事をしらみつぶしに聞きまわった。

 鳴海刑事と大倉刑事はその質問内容に不満があったようだが、なんとか生徒達が午後からの授業に出席するために食堂を立つ頃には、『郵便屋』についてあらかた話を聞くことができた。

 一つ目は、『郵便屋』は電話でその人の願い事を聞いた後、その願い事を叶えるための行動を書いた手紙を家に送ってくる。

 二つ目は、『郵便屋』は他人の視線を怖がるため、実際に会っても決して目を合わせないこと。

 三つ目は、『郵便屋』と話すのはあの公園の公衆電話でなければならないこと。

 最後に、『郵便屋』へとつながる電話番号は、自分の家に突然届くらしい。


「むぅ~、いったいどういう事だ? 自分には何がなんだか……」

「そうですね……」


 鳴海刑事と大倉刑事は、互いに顔を見合わせて溜息をついている……もっとも、私の心境も彼らと同じだ。

 私は学校での捜査を諦め、所轄の警察署で事情を聞くことにした。

 二人も即座に同意してくれたので、早速その場所を向かう。

 実際この事件……魑魅魍魎の仕業なのかイカれた人間の仕業なのかも分からない。

 自家用車を運転しながら、私はそんなことを考えていた。

『郵便屋』……その正体が何であれ、それに関連した可能性のある殺人事件が発生した以上は、なんとか解決に導かなければなるまい……たとえ、それが自分で納得のいく結末でなくても……。

……一つ気になる事がある。

 私が公園での聞き込みの際に出会った原川美知恵……彼女は倉崎に殴られて転倒した後、彼を見て怯え、『見ないでっ!』と言って走り去ってしまった。

 一方、『郵便屋』の特徴の一つには『他人の視線を怖がるため、実際に会っても決して目を合わせないこと』…………毎度のことであるが、私が関わる事件はあまりにも『出来過ぎだ偶然』が多すぎる。

 まさか……『その者』はすでに真相を知っているのだろうか?

……直接会ったこともないし、今まで事件の中で私を妨害するようなことは無かった、だからこれまで事件を解決し続けてきたのだ。

 だが、今回は事件の発生現場で犯人の特徴と合致する人物と出会ったのだ。

……やはり鳴海刑事と大倉刑事は置いていこうか……どうも今回はキナ臭いものがある……。

……そんなことを考えているうちに、我々を乗せた自動車は警察署の前に到着した。

 私は敷地内の駐車場に車を停め、受付の女性に警察手帳を提示し、例の公園で起きた殺人事件を担当した人物への面会を申し込んだ。

 女性は怪訝な表情を浮かべていたが、一応我々の持っている警察手帳は本物のため、面会の希望が叶った。

 我々は女性に言われた通りに、署内の二階に上がって刑事課の扉の前に来た。


「緊張しますなぁ……」

「えぇ……大丈夫なんでしょうか……」


 私は根拠なく問題ないことを伝えると、扉を開けた。


――聞き込みの方はどうなってるっ!?――被害者との関連はっ!?――本部長はもう来てるのかっ!?――総務課に準備させとけっ!――そこは、さながら戦場のようだった……。

 この様子から察するに、おそらくこちらの警察署では有力な手掛かりが掴めないでいるのだろう。

 後ろにいる鳴海刑事と大倉刑事は、この喧騒の雰囲気に飲みこまれていた。

 だが、そんな混乱の中で、私はある人物の存在が気になった。

 室内右奥、ロッカーの近くにあるソファに座るその女性は、目の前の喧騒など見えないかのように落ち着いていた。

 しかも、彼女の見た目は刑事にしてはかなりだらしない印象を受ける。

 伸ばし切ったボサボサの髪を後ろでヘアバンド一本で留め、着ているTシャツはヨレヨレだ。挙句の果てに、呑気に宙を見つめてクシャクシャのタバコを吹かしている。

 私はその女性に興味を持ち、彼女に近づいて行った。

 あいにく、他の刑事達は私や鳴海刑事、大倉刑事が見えていても気にしない。

 殺人事件なら大量の刑事が動員されるし、今は特に忙しい時間帯だ。三人の見覚えのない人間が立ち入っても、気にしないだろう。セキュリティー面に問題があると思うが、今はそれがありがたい。

 私が彼女の目の前に立つと、彼女はチラッと私の方を向いてタバコを灰皿に押し付けた。


「……アンタ、見ない顔だけど?」


 彼女はそれだけ言って、私の目を覗き込むように見る。こちらの出方を伺っているようだ。

 私は警察手帳を取り出して、彼女に見せた。後ろの鳴海刑事と大倉刑事も同じようにする。


「……なんだよ? 異動か?」


……彼女は私の警察手帳に書かれた警視正の階級を見ても、一切態度を変えなかった。

 とにかく私は彼女の言葉を否定し、公園で起きた殺人事件の担当者は誰か問いただした。


「……アタシだけど?」


……まさか、本当に刑事なのだろうか? まぁ、そうでなければなぜこんな場所にいるのか、まるで見当がつかない。

 私は彼女に、事件の詳細な情報を教えてもらえるように頼み込んだ。


「いいけど……アンタら、どこの所属? ウチじゃ見かけたことないけど?」


 私は、警視庁から来たと答えた。

 対する彼女は怪訝な表情を浮かべ、しばらく考え込む。


「ま、いいや。どうせここの連中は石頭ばかりで、人の話も聞こうとしないし……」


 そう言って、彼女は我々を応接室代わりの部屋に案内した。

 彼女がソファに座るのを見て、我々も腰かける。


「まず、事件の被害者は篠崎和佳子。私立鶴ヶ峰学園に通う高校二年生だ。殺害されたのは昨日の夜中らしい。遺体の発見現場は公園のトイレの床だそうだ。朝ジョギングに来たサラリーマンが見つけたらしい」

「目撃証言はないんですか?」


 鳴海刑事の質問に、彼女はニヒルな笑みを浮かべて慌ただしい刑事達がいる方向を示した。


「アレを見たら分かるだろ?」

「は、はぁ、なるほど……」


 私は話を元に戻すため、被害者に最近トラブルが無かったか聞いた。


「……なんでも、教師とトラブルになってたらしい。と言っても、アイツが何かしたってワケじゃなくて、教師の方がおかしいみたいに言ってたがな」

「被害者と面識があるのですかっ!?」


 大倉刑事が驚いて質問すると、彼女は憂鬱な表情を浮かべ、静かに口を開いた。


「アタシが生活安全課にいた頃、ちょっとな……ひねくれてて……反抗ばっかりして……大半の奴はアイツを嫌ってた……でも、アイツは本当はいい奴なんだっ! なのに……殺すなんてよ……」


 彼女はそう言ってうつむいてしまった。大倉刑事もまずいことを聞いてしまったとばかりに、巨体を縮こまらせる。

 しばらくしてから、彼女は再び口を開いた。


「……わりぃ。そんなわけで、アタシはアイツの仇を取ってやりたいんだよ」


 私は迷った。彼女の態度や風貌は警察官とは言いにくいが、その正義感は本物のようだ。今回の捜査に限って協力を仰げば、事件は大きく進展するかもしれない。だが、それは我々の存在をより広く知らしめることになってしまう。

 だが、答えは案外すんなりと出た。

 私は彼女に向かって、一緒に捜査するかどうか聞いた。


「えっ!? 良いんですかっ!?」


 鳴海刑事が驚きの声を上げるが、私としては問題ないと思っている。


「マジかよっ!? よっしゃ、そうと決まったら早いとこ行こうぜっ!」

「行くって……どこへでありますか?」


 大倉刑事の質問を聞いて、彼女は途端に表情を曇らせる。


「そりゃ……ホレ、アレだよ……なんだ、その……」


 私は、もう一度事件の現場を調べることを提示した。


「そうっ! そこだっ! 現場百遍、当たって砕けろってなっ!」


 そう言って、彼女は部屋を出てしまった。

 急いで後を追いかけると、彼女はすでに正面入り口で待っていた。


「んじゃ、行くかっ! あ、アタシの名前は鬼島陽子っ! 階級は警部だっ! よろしくなっ!」


……私はすでに、彼女を事件の捜査に引き込んだことを後悔している……。


             ※


 車を近くの駐車場に停めて再び公園の中に入ると、鬼島警部はズカズカと事件の起きた公園のトイレへ向かった。


「おい、神牙……大丈夫なのか?……警部殿はその……」

「警察官として問題がある、ですか?」

「せ、先輩っ!? ま、まぁ、その通りであります、押忍……」


 確かに、大倉刑事の言いたいこともよく分かる。

 だが、彼女はおそらく、今回の事件における強力な助っ人になりうる。なぜなら、亡くなった被害者と面識があった人物なのだ。

 彼女が現場や聞き込みを行えば、我々が気づかなかった点に気づくかもしれないことを、大倉刑事に伝えた。


「むぅ……そこまで言うなら構わんが……」


 そう言って、彼はトボトボと歩き始めた。

 私と鳴海刑事も公園のトイレに向かうと、すでに大倉刑事と鬼島警部が周辺を捜索しているようだった。周囲には、もはや警官や規制線は無い。どうやら『その者』がキレイに『掃除』していったようだ。


「よう、ここにはなんもないみたいだな」

「あ、先輩っ! お疲れ様ですっ!」


 私と鳴海刑事はそれぞれ返事をすると、今度は公衆電話の周辺を捜索することにした。

 鬼島警部からも改めて聞いたが、亡くなった篠崎和佳子はあの公衆電話から『郵便屋』に電話を掛けたらしい。

 だが、私は彼らに断ってもう一度公衆トイレの中を捜索することにした。

……やはり、眼球はそこには無かった。『その者』が、代わりに何か別の手がかりを置いてくれているかと期待したのだが、そう甘くはないらしい。

 そもそも、『その者』は今回の事件の詳細を知っているのだろうか? 漠然とした疑問を抱きながら、私は待たせていた三人と共に公衆電話の辺りまで来ると、手分けして捜索することにした。

 私は電話ボックスの中に入り、何か手掛かりがないか探し始めた。

 だが、なかなか見つからない……あの須川と佐藤の言う事が正しければ、ここが被害者の亡くなった理由にもっとも関連する場所のはずなのだが……そう思った矢先、私は電話ボックスの棚の中に一枚の紙が置いてあるのを見つけた。

 手に取ってよく見てみる……その紙は手の中に納まるサイズで、『郵便屋 03-✖✖✖✖ー✖✖✖✖』と書かれている……もしや……これが『郵便屋』に繋がる番号だろうか?

 だが、疑問がある。

『郵便屋』に繋がる番号は、『本人の家に突然届く』はずだ。という事は、この紙は亡くなった篠宮和佳子が持っていた物だろうか?

 私は一度電話ボックスから出て、鬼島警部に紙を見せ、篠崎和佳子の所持品は何があったのか訊ねた。


「……何も持ってなかったぜ。なんだ、コレ?」


 私は、須川と佐藤、鶴ヶ峰学園の生徒達が言っていた『郵便屋』の事をすべて話し、この紙は篠崎和佳子の物ではないかと伝えた。


「なるほどな……よし、それなら電話してみようぜっ!」

「どこにでありますか?」

「うおっ!? なんだ、デカブツッ!?」

「自分の名前は大倉でありますっ!」


 いつの間にか近くに来ていた大倉刑事に、私は鬼島警部に話したことを伝えた。


「むぅ~、確かにその可能性は高いな……しかし、電話をするのは――」

「うるせぇっ! アタシはやるぜっ!」


 大倉刑事の言葉も聞かず、鬼島警部は電話ボックスの中に入って電話を掛ける。

 後から来た鳴海刑事にも事情を説明すると、彼は驚愕と困惑が入り混じった表情で電話ボックスの中に入る鬼島警部を見た。

 私は電話ボックスの近くまで行き、アクリル板に耳を押し付けて聞き耳を立てた。鳴海刑事と大倉刑事も同じようにする。

 しばらく鬼島警部は黙って受話器に耳を当てていたが、やがて電話の相手に繋がったのか、大声で叫んだ。


「てめぇが和佳子を殺したのかっ!?」


……いきなりそんな質問をするとは……。


「おい、聞いてんのかっ!? おいっ!」


 彼女はしばらくそのような言葉を吐いていたが、途端に口を閉じ、聞き耳を立てている。


「……鬼島陽子だ」


 彼女は静かに自分の名前を言ったが、それっきりまた黙ってしまう。


「てめぇをぶっ飛ばしてやるっ!」


 そう思ったら突然、受話器に向かって怒声を浴びせる。


「あっ! おい、コラッ!……チッ」


 そんな声を上げて、彼女は受話器から耳を離した。

 私がどうだったか質問すると、彼女は黙って受話器を掛け、電話ボックスから出てきた。


「警部っ!」

「いかがでしたかっ!?」


 鳴海刑事と大倉刑事の質問にも答えようとせず、彼女はただただ黙って何かを考え込んでいる様子だった。


「……電話は繋がったんだけどよ……相手からは何も言ってこなかったぜ……黙って向こうの音を聞いてたら、換気扇みたいなブーンって音が聞こえて……なんか、留守番電話なんかで流れる機械みたいな女の声で、『お名前を教えて下さい』って言うから、アタシの名前を言った。

 そうしたら今度は、『願い事は何ですか?』って聞いてくるから、ぶっ飛ばすって……そうしたら、いきなり電話が切れたのさ」


……なるほど、どうやら『郵便屋』は実在するという事になる。少なくとも、電話の向こう側には……。

 私達が鬼島警部の言葉を聞いて考え込んでいると、後ろから声を掛けられた。


「あっ! 刑事さんっ!」


 そこにいる全員が後ろを振り向くと、そこには須川と佐藤がいた。


「……こんちは」


 須川の方は、相変わらずぶっきらぼうに挨拶をしてきた。

 私は鳴海刑事達に彼らを紹介すると、改めて二人にどうしてここに来たのか質問した。


「あの……『郵便屋』さんに電話しに来たんですっ!」


 驚いた……佐藤がそう話すという事は、『郵便屋』の電話番号が書かれた紙を彼女は持っているのだろうか?

 私はその事を彼女に質問した。


「……はい、持ってます」


 そう言って、彼女はポケットから一枚の紙を取り出して、私に見せてくれた。

 手に取ると、その紙には私が見つけた紙と同じ内容が書かれていた。


「よし、やってくれっ!」

「だ、ダメですよ鬼島警部っ! もし何かあったら――」

「コイツだって覚悟して来たんだろ? だったらいいじゃねぇかっ!」

「ですが警部、もし――」

「だぁーっ!! うるせぇっ! 来いっ!」


 そう言って、鬼島警部は佐藤の腕を引っ張って電話ボックスの中に押し込み、番号を押して受話器を佐藤に渡す。困惑した様子の佐藤は、受話器を耳を当てた。


「も、もしもし…………佐藤ゆかりです…………和佳子ちゃんを生き返らせてくださいっ!…………」


 私を含めた全員は、彼女のその言葉に驚いた。彼女は……本気で言っているのだろうか?

 須川の方を見ると、彼と目があった。彼は気まずそうに視線を下に向ける。


「きゃっ!?」


 その時、電話ボックスから佐藤の悲鳴が聞こえた!


「おい、大丈夫かっ!?」


 鬼島警部が、慌てて佐藤を電話ボックスから連れ出す。

 電話ボックスから連れ出された佐藤の視線は定まらず、その体を震わせていた。


「あ……あ……」

「ゆかりっ! どうしたんだよ、ゆかりっ!」


 いつの間にか佐藤の近くにいた須川は、佐藤の両肩を掴んで揺さぶる。

 しばらくして佐藤が落ち着くと、私は彼女に何があったのか問いただした。


「あ、あの……電話が繋がって……しばらくしてから女の人の声で『お名前を教えて下さい』って聞かれて、名前を答えました。そしたら今度は、『願い事は何ですか?』って聞かれて……和佳子ちゃんを生き返らせてくださいって……それからしばらくして、急に『見ないでっ!!』って……私……ビックリしちゃって……」


……『見ないで』……まただ。ここでも、別の点が浮かび上がる。

 確か、その言葉を発した事件の関係者は原川だ……彼女が『郵便屋』なのだろうか?

 私は佐藤に、女の声に聞き覚えは無いか訊ねた。


「……あの……留守番電話とかに使われている女の人の声だと思います……『見ないでっ!!』って言った方は人間だと思いますけど……すみません、分かりません……」


 つまり、この電話番号の向こう側にいるであろう人物は、何らかの加工を施した電子音声を使って名前と願い事を聞いた後……ん? おかしい……鬼島警部が電話を掛けた時は、願い事を聞いた後に電話を切ったはずだ……だが、佐藤の時は願い事を聞いた後に『見ないでっ!!』……これはいったいどういう事だろうか?

 私はもう一度電話ボックスの中に入り、公衆電話の置かれた棚の中を調べた。

 すると、何枚もの紙を見つけた……その紙には、プリントされた文字で様々な人名が書き込まれていた。

 ある紙には〇〇町町内会、ある紙には市議会議員、ある紙には鶴ヶ峰学園……鶴ヶ峰学園っ!?

 私は目を疑った。その紙の上には鶴ヶ峰学園と書かれており、一番下の部分がキレイに切り取られていた。

 それを見て、私は悪い予感がした……。


「おい、なんだよ、それ……」


 鬼島警部が、ひどく動揺した様子で問いかけてくる。おそらく、今の私の顔はひどいものになっているのだろう。

 私は鬼島警部に、それらの紙を手渡した。

 私から紙を受け取ってしばらく眺めていた鬼島警部も、見る見るうちに顔色が悪くなっていく。なるほど、私はこんな顔をしていたのか……。

 周りにいる者達も、鬼島警部の周りに集まっている。


「これは……」

「いったい……」

「……」


 全員、言葉を失っている。

 当然だろう、もしこれが……この紙を作った人物の意図が私の思い通りなら、大量連続殺人が起きかねない……まだ証拠もなく、そのようなことが起きる根拠もない。だが、もしこの紙を書いた人物、そして電話のメッセージを作り、『見ないでっ!!』と言った人物、そして篠崎和佳子を殺害した人物……複数犯か単独犯かは分からないが、彼女ら、或いは彼らは、紙に書かれている人物達を殺害していくんじゃないだろうか?

 もしこの紙に書かれた人物が『郵便屋』の情報を聞いた時に電話番号を送られたら……いや、それだけなら電話を掛けさせるには不完全だ。

 リストには市議会議員の名前もある。このリストに載っている名前が本物かは分からないが、そんな職業に就いている人物がホイホイと電話をするだろうか?

 鶴ヶ峰学園の紙の一番下……おそらく、篠崎和佳子の名前が書かれてた紙を合わせれば、ピッタリと一致するだろう。

……考えを整理しようとしたが、まるで頭が働かない……。

 その時、私は視線を感じた。普通のものではない、恐ろしい殺気を放つ視線だ……。

 大倉刑事も多少は感じたのだろう、体を小刻みに震わせている。

 茂みの方からだろうか……ゆっくりと近づいてみる。


「おい、神牙……」


 大倉刑事が後ろで心配そうに制止しようとしてくれるが、おそらくこの視線の主はこの事件に深く関わっているに違いない。

 ゆっくりと近づく……。


「見るなぁああぁあっ!!」


 その時、茂みの中から人影が飛び出してきたっ!


「神牙さんっ!」


 後ろで鳴海刑事の声を聞く中、その人物は公園の歩道や茂みを突っ切り、逃走した。追いかけるが、すぐに離される……ここで『力』を使うのは得策ではない、諦めるべきだ。

 私はゼェゼェと息を切らすフリをして、追跡を断念した。

 私の後ろから追い抜き、しばらくしてから戻ってきた大倉刑事と鬼島警部は、実に悔しそうな表情をしていた。


「すまん、逃げられた……」

「クソッ! アイツ、どんだけ逃げ足早いんだよっ!」


 仕方ない。だが、これは収穫だ。

 この事件の重要参考人と思われる人物が、犯行現場近くに現れた。

 まだまだこの事件の真相は霧の中だが、確実に目的地へ進んでいる。

 私は、この事件で初めて手掛かりらしい手掛かりを掴んだ快感を胸に、明日からの調査に対して奮励努力することを誓った。

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