11.あなたが恋しい薬恋歌
焼き討ちにあったベルナルドとカシューは、城の一角に軟禁された。ただでさえアミアス家への粛正は非難が集まっている中、年端も行かぬ子どもを処刑してはまずいと前王でさえ思ったからだ。
その時、二人の子どもには焼き討ち唯一の生き残りである侍従長がいた。全身に火傷を負い、息も絶え絶えな老年の男だ。
気の良い男で、二人を叱りもしたが、悪戯をこそりと見て見ぬ振りしてくれるような優しい男だった。しかし、切れ者で名高い男でもあったので、逆襲を恐れた王家は、彼への手当てを許さなかった。
毎日子ども二人で焼け爛れた包帯を変え、弱まる息で謝る男を励まし続けた。
四日が経った頃、薬術師が城を訪れた。チャンスだと思った二人は、悪戯で鍛えた技で見張りの目を誤魔化し、そうして、本当に薬術師を連れてきてしまった。弱った侍従長も、この時ばかりは目を見開いた。
薬術師は必死に懇願する子どもに連れられ塔に現れたのだ。それがクロリア・ユーヴィー下薬一師である。
しかし、クロリアが男に癒術を施すことはなく、侍従長が息を引き取ったのは、その翌日だった。
見る影もなく焼け爛れた男は、苦しみながら死んでいった。墓はどこにあるのか、ベルナルド達は今も知らない。遺体は物のように兵士に運ばれていった。
何故癒してくれなかったのか。問う機会は二度となかった。薬術師が城にいたのは二日だけで、その間再び接触を試みれる程、警備は甘くない。いつか必ず問い詰める。ベルナルドは固く決意した。あれから十年以上経ってようやくその機会が巡ってきた。
平穏に聞いても、決して口を割ることはないだろうと追いつめた相手は、逆に話があるとまっすぐに桃色の瞳で見つめてきた。少女を挟んで、青い瞳の美しい青年と小柄なのに一番態度も存在感も大きい男が陣取っている。
サキは丁寧に礼をして、躊躇わず口を開いた。
「もどかしいのは苦手なのでご了承ください。ベルナルド王、貴方はきっとユーヴィー下薬一師への尋問をお望みでいらっしゃる。確かに我々は個人的な要請を承諾することも、個人を指名した薬術師の召喚に応じはしません。貴方が直接ユーヴィー下薬一師と見えるには、キオスに訪れるより他にない。けれど、貴方のお立場ではそれも不可能でしょう。それ故にとられた行動だと存じますが、貴方に一言申し上げたい。彼女は、薬術師としての職務を違えた事などありません」
淡々と紡がれた言葉を黙って聞いていたベルナルドは、最後の言葉を聞いて拳を握りしめた。ぎらりと光った瞳に、サキよりも彼女を挟んだ護衛二人が反応する。
それに気づいていながら、ベルナルドは唸るように問うた。
「だったら、何故、あの人を救ってはくれなかった」
死なないで死なないで。
彼らに残された唯一の大人の命が潰えようとする度、二人は泣きじゃくった。もう動かせない腕を揺らすだけにとどめ、どうぞお泣き召されるなと吐息よりも淡い声が聞こえ。そうして、途絶えた。
薬術師はやっと見つけた希望だった。たとえどんな制約があろうと、命の危機に瀕した者を救ってくれるはずだったのに。
「あやつは、穏やかな笑顔で、優しげな声で、他の人間を癒し、ジナールを見殺しにした」
激情こそ表に出さなかったものの、ベルナルドの中に渦巻く感情は激しさを増すばかりだ。記憶にある薬術師とさほど歳の変わらない目の前の女は、薬術師には珍しく笑顔がない。淡々と、まるで本を読むように言葉を紡ぐ。
「ユーヴィー下薬一師は、その外見通り、穏やかでお優しい方でした。彼女は癒したかった。癒して、助かってほしかった。それを拒まれたのは、侍従長その方です」
思いも寄らないサキの言葉に、ベルナルドとカシューは身を乗り出した。互いに目を合わせて、机を叩きつける。
「そんなはずがあるか! これ以上の虚言、私への侮辱と取るぞ!」
護衛二人が無言で立ち上がっても、サキは身動ぎ一つしない。
「ジナール・リプラ侍従長は、貴方のお父様の懐刀と呼ばれるほどのお方でした。故に、前王は危惧された。彼が貴方々の元に残されたままでは、いつか仇為すのではないかと。彼はそれに気づいておられた。貴方の食事に毒が混ぜられ、幼い護衛一人しか持たない貴方が、いつか殺されてしまうのではないかと侍従長は仰ったそうです。この身を礎に、貴方々の命を繋げる故、薬術師の手は必要ないと下薬一師は躊躇った。私達は薬術師です。死にゆく人を見殺しには出来ない。けれど、それ以上に、失われる命を分かっていて癒し、そうして手離すことが、彼女には出来なかった。彼女はパオイラに遠征に来た身でしかない。侍従長を癒した上に、貴方に向かう敵を倒し、貴方々を守り続けることは不可能です。彼女は侍従長の願いを優先した。たとえ貴方々に憎まれても、誹りを受けようと、そうすると決めた。それが貴方々を生かす唯一だと信じ、選んだ。これはそれだけの話です」
淡々と話し終えた女は、不意に薬術師としての職務を思い出したように、ふわりと微笑んだ。
薬術師の見本であるような穏やかな笑顔と、優しげな声、柔らかな雰囲気を持った女性だった。とても優しい人だった。優しくて、患者の為に泣いてばかりいた。見上げるばかりだったサキを抱き上げ、一緒に頑張りましょうねと微笑むような、そんな人だった。
「信じる信じないは貴方々の自由です。しかし、事実です。貴方々がご存知の侍従長と、私達が知っている下薬一師。照らし合わせて、貴方々が決めてください」
ベルナルドは、どっと椅子に凭れこむ。
記憶に残るジナールは、膿んだ皮膚を包帯からはみ出させた無残な姿だ。いつも矍鑠として、乱れ一つなく城の中を切り盛りしていた老人とは思えない姿が最後だ。
しかし、それ以前は朗らかに笑い、時に主である父さえ叱ってみせた。悪戯中に慌てて人差し指で内緒を示すと、同じようにそっと人差し指を立ててくれた人だった。
ユーヴィーは、ベルナルドとカシューに罵られても黙っていた。他の誰かに向けていた柔らかい笑顔と声音はしまいこまれ、黙黙とトランクを片づけて去っていった。
その背を見つめる老人の目は……? 怒りに満ちていたか? 諦めに沈んでいたか? 憎悪を覗かせていたか……?
答えは、否だ。
「……カシュー。お前は、どう思う?」
「……あの人の性格なら、有り得るのでしょうね」
「そうだな。あの人は何時だって、俺達に甘かった」
「ええ、本当に。変なご老人、でしたね」
思い返せば、カシューとこうやって話したのは随分昔のような気がする。
ジナールが死んでからは、溢れ出す憎しみが怖くて黙り込んだ。宰相が打診してきてから四年、計画にばかり奔走した。何かを考えていないと収まりがつかなかった。
無駄話すら鳴りを顰めた自分に、カシューは黙って付いてきてくれた。元々無口な男だったが、それでも冗談を言うこともあったのに、ベルナルドはそれも忘れていた。
最後に握った手は、ずるりと皮が向けた感触だけが残っている。しかし、皺だらけの手で頭をくしゃりと撫でた穏やかな時も、確かにあったのだ。彼は最後に何と言っただろう。吐息が漏れるだけでよく聞こえなかった。でも、きっと、二人の先を祈ってくれた。
そういう男だった。
『お願い、ジナールを助けて!』
何の見返りも返せないと分かっていながら求めた救いの手を、薬術師の女は取ってくれた。護衛騎士は止めろと怒ったのに、大丈夫だとベルナルドの手を取った。一度救われたからこそ、裏切られたように感じた。真実優しい笑顔の女だったからこそ、裏切られた後、優しいなどと思った自分が許せなかった。
肩を震わせて笑うベルナルドに、周りは戸惑い、狼狽えた。もしや気でも触れられたのかと、宰相は水入れを持って恐る恐る近づいてさえ来る。水をかけられては堪らない。ベルナルドは目元を拭った手でそれを制した。
「大事ない。そうか……私はずっと、拗ねて八つ当たりしていたのか。なあ、カシュー」
「さあ、俺にもとんと」
カシューの一人称が昔に戻っている。
ああ、俺達はまともなつもりだった。狂っているのは前王で、それに連なる大人達で。
だが、俺もまた、歪んでいたのか。そしてきっと、この国も。
制度も人々の考え方も、恨みはすれど歪に思えなかった俺は歪んでいるのだ。薬術師における全幅の信頼は、自分にだけ都合の良い信頼で。妖人における絶対的な傲慢さは、きっと、自分にもある。
優しげな人だと思った。父を裏切った大人達に幽閉されてから初めて、もう一度誰かを信じたいと思わせてくれた人だった。なのに彼女は裏切った。
でも、そうでないと誰かに言ってほしかったのかもしれない。だから、そう言ってもらえて、いきなり霧が晴れたように見えるのだろうか。彼女と同じ薬術師に、あの人は優しい人だったと言ってほしかったのか。
正しく子どもだ。情けない。
ベルナルドは肺が空になるまで深く息を吐き、静かに顔を上げた。
「申し訳ない。私個人としての最後の我侭と思ってくれ。イクスティリア、迷惑を懸けた。本当に申し訳ない」
サキはゆっくりと頷いた。大騒動があっさり解決するものだと拍子抜けもしたが、それ以上に不安になる。これがなければライラはレイルと共に行動することはなかっただろう。それにしても早すぎる。これは一体何の伏線だ? 変わったものは何なのだろう。
「サキ?」
兄の声にはっと顔を上げると、不思議そうな顔に囲まれていた。慌てて背筋を伸ばす。
「どうした、イクスティリア。すまぬ、疲れが出たか?」
「いえ、大丈夫です」
「そうか。それで、ユーヴィー殿は現在如何しておられるか。一言詫びを申し上げたい」
その申し出に、サキは緩やかに瞳を伏せた。
「クロリア・ユーヴィー下薬一師は、パオイラ遠征の翌年亡くなりました」
「亡くなった!? 何故だ!」
優しい方でしたから、と、サキは前置く。
「貴方々に為さったように、順番持ちであろうがなかろうが、縋られれば癒した。そして順番も決して疎かにはしなかった。特に、侍従長殿を救えなかった事を気に病まれ、彼に薬術師として果たせなかった事をと、誰よりも励まれた。そうして亡くなられた。享年十八歳です。癒術の酷使は薬術師の命を削りますから」
穏やかな笑顔はどんどん儚くなり、されど痩せこけても絶えることはなく。笑顔のまま癒し、その日最後の患者に施術を施し、そのまま亡くなった。痩せこけた細い腕だった。
若くして果てる薬術師は少なくない。それでも、早すぎる死だった。
「……そう、か。真実、優しいあの人に、わたしは二度と謝れないのだな」
ふわりとした綿菓子のような、春の兆しのような、優しそうな人だと見惚れる。そんな人だった。
ベルナルドは固く目を閉じて、ユーヴィーの冥福を祈る。カシューは何も言わない。けれど同じことを思っている。長い付き合いだ。顔を見なくても分かった。
「クロリアさんに恩義を感じてくださるなら、それを以降の国政に生かして頂ければ幸いです。泣く人が一人でも少なくなれば、それだけでクロリアさんは飛び上がって喜んでくれます。そういう、方でしたから」
優しい優しい人だった。優しい人の優しい笑顔を噛み締め、ベルナルドは強く頷いた。
「必ずや、あの人が泣かぬ国を目指そう……他者の平穏の為に身を削り、散っていったあの人の為に、必ずや」
散るを定めと咲こうとも。彼のように種が残るなら、薬術師は本懐を遂げたのだ。
彼は泣くことはなかった。固く閉じられた瞳が開かれた時、迷いのない青年がそこにいた。いい王になるだろう。王制の腐敗を身に染みて見てきた人だ。人の残酷さも、無情さも、愚かしさも、幼心に刻んで尚、この目が出来るなら大丈夫だ。彼は強い。
サキは、表情に出さず緊張していた掌をそっと開いた。汗が溜まって気持ち悪い。やっぱりこういうことに自分は向いていない。相手が誰だろうと惑わぬ瞳を、サキは知っている。いつまで経ってもライラさんのようにはなれないぁと、自分の不甲斐なさが苦い。
ふと顔を上げれば、いつも柔らかく微笑む兄が、鋭い目つきで窓を見つめていた。
「兄さん、どうしたの? 怖い顔して」
「隊長よりはマシだろう」
「うん」
サルダートの額に青筋が走る。
「てめぇら……この馬鹿兄妹がっ! イヅナ、抜剣許可!」
護衛二人は剣を引き抜いて構える。それに反応して剣に手をかけた衛兵は、すぐに方向を転換して背後を向く事になった。
窓枠に何かが降り立つ。鳥かと目を凝らした兵士達は、すぐに悲鳴を上げた。
通った鼻筋と形良い唇しか見えぬ顔は、それだけで端整と分かる美しさだ。中途半端な長さの白髪と尖った耳で妖人だと分かったが、誰も触れるなと明言するように炎を纏っていた。炎に照らされた白髪と、丁寧な刺繍が施された黒服の対比が美しい。
眼下でも騒ぐ声が聞こえる。まさか、あそこから跳躍してきたのか。下に詰めさせていた妖人部隊が、あっさり置き去りを喰らっていた。
ベルナルドの前にカシューが詰め、無言で剣を構える。
「あの妖人でしょう」
「何と……マリアンヌが執心した、あ奴か。よくもまあ、戻ってくる気になったものだ」
切れ長の瞳が白髪の隙間から覗いた。ぞくりと背が冷える。見知った金紫とまるで違う。諦めではない。只の憎悪でもない。ぎらぎらと感情だけが爆発しているのに、表情は変わらないのが余計に恐ろしかった。
「復讐など考えず、遠くで幸せになればいいものを。現れたなら捕えねばならぬぞ」
命じる為に上げた手を、ベルナルドは途中で止めた。
「レイル!?」
誰の予想も裏切って、薬術師の少女が駆け寄ったのだ。たっぷりとした黒髪が光を弾いて揺れる。レイルはその色を見て一瞬瞳を歪めた。
「何故、俺の名を知ってる」
名を教えた人間は只一人だ。それもすぐにいなくなる。
「貴方が私に教えてくれたのよ。こっちでライラさんから聞いてない? 私はサキ。サキ・イクスティリア。レイル、あっちでは、友達だったわ」
「あっちだのこっちだの、まともに喋ってほしいもんだが……そうか、あんたか。あいつがかっこいいだのと抜かしていたから、男だと思っていた」
無造作に懐に突っ込んだ紙切れを取り出す。いつの間にかサキの横に立っていたイヅナが受け取り、中を見て眉を寄せる。赤いインクに血印。一般には公開されていないが、模倣されぬように細々と設定された規定を全てこなした文章。キオスの庇護を離れる証だ。これが妹のものならば、イヅナは発狂する自信がある。
「レイル、ライラさんは!? どうして貴方一人なの!」
掴みかかろうとした手をイヅナが止めた。今のレイルには誰も触れられない。制止を振り切ろうと踠く妹に、イヅナの涼しげな瞳が閉じられ、開いた。
レイルの身体を纏っていた炎が掻き消える。何が起こったか把握する間もなく、サキが飛びついてきて胸倉を掴んでレイルを揺する。
「ライラさんは!?」
「妖人を癒すと、あいつらと行った」
「癒すって……一人で!? 無茶よ、そんなの!」
「最後の要求は果たした。俺は……自由だ」
バシンッ!
細い指のどこからそんな力が出たのか。重たい音をたててレイルの頬をぶったサキは、ぐしゃりと顔を歪めた。
「それが自由!? 馬鹿じゃないの!?」
「うるさい、離せ」
「そんな顔して何が自由よ! 自分に嘯いて生きるのが自由? 馬鹿馬鹿しすぎて笑えるわね、レイル。六歳の貴方のほうが余程かっこよかったわよ!」
「うるさい! あんたには関係ないだろう!」
鼻が触れ合うほど互いの顔が近くにある。レイルは舌打ちした。感情が高ぶったまま収まらない。この色が悪い。夜を切り取ったような黒色が彼女を思い出させる。振り向かず、躊躇いもしなかったまっすぐな黒髪。もう関係のない女だ。いや、最初から関係なんて。
「あっちでは守られてばかりだった。今度は私達が年上よ。レイル、貴方何をやってるの? 貴方が守るんでしょう!? 早く大きくなってライラさんを守るんだって言ったじゃない! どんな出会い方をしたって絶対大好きになるんだって、貴方、私に言ったじゃない!」
「俺じゃないっ」
思わず拒絶の電撃が散る。
弾かれたように身を乗り出したイヅナが動く必要はなかった。ばちんと鋭い音で電撃は弾かれたのだ。目を見開いたレイルの前で、サキは傷一つない状態で立っている。
サキは、どこか泣きそうな顔を笑みの形で皮肉気に歪めた。
「私は貴方に名前を貰った。貴方の力は私に届かない。私は確かに『貴方』に会うのは初めてよ。けれど、私の中の名は『貴方』を受け入れるわ」
再びレイルの胸倉が掴み上げられる。
「たった数日で変えられたくせに嘯くのもいい加減にしなさいよ! 力は届かなくても、貴方の爪でも牙でも私は死ぬわよ? 憎くて憎くて、誰も彼もが嫌いなくせに、私を殺せもしないじゃない! ライラさんが望んだこと裏切れないくせに、何で認めないの! ライラさん、本当に死んじゃうわよ!?」
桃色の瞳から涙が溢れ落ちた。激昂だけだった場所から突如溢れ出した水は止まらない。
「ライラさんが、また、いなくなっちゃう……!」
水が止まらない。なんて量の涙を流すのだと思っていたら、二人分だった。これは何だ。レイルは酷く動揺した。
悲しい。痛い。苦しい。切ない。
『レイル』
あの手が、恋しい。
泣いていることにも気づかなかった涙を止める術が分からない。
これは喪失感だ。手に入れたつもりも無いのに、喪失に呻くなどあんまりだ。
泣きじゃくる少女を、年下の少年が後ろから抱いた。
「俺の妹を泣かすなと言いたい所だが、如何せん話が分からない。が、泣かすな」
「全くだ。おいてめぇ」
それまで黙っていたサルダートもいい加減限界だったのか、誰より偉そうに席に戻って足を組んだ。
「レイルとかいったか。うちの薬術師がどうしたって? 説明してもらうぞ」
「あんたには関係ない」
にべもなく吐き捨てたレイルを鼻で笑い、机の上に小柄な身体にはごつすぎるブーツが叩きつけられた。罪もない机に罅が入る。だというのに、足を組み直して再度叩きつけられた机は、哀れにも縦横無尽に罅を走らせる新たな意匠を施された。
「このガキ共の護衛は俺が責任者なんだよ、クソガキ。めんどくせぇことごちゃごちゃごちゃごちゃ抜かしてねぇで、とっとと吐けや、白髪野郎!」
部屋にいたパオイラの衛兵は後にこう語る。
鬼が可愛いく思えるほどの魔王は、大層小柄でした、と。




