三
おかしい、と呟いたのは、蒼月だった。
教導部に用があって訪れていた月華と、相手をしていたリーゼ、蒼月の手伝いをしてきたザジは、一斉に彼を見る。
「何がおかしいの、兄さん」
月華が尋ねると、蒼月は手にした資料を手の甲でぱしりと叩いた。
「初心者の教導告書を読んでたんだが、最近、なぜか異様に〈緑小鬼〉の遭遇率が多いんだ。場所的にも、こんなに出るところじゃないし、そもそも遭遇頻度自体、そこまでないはずの場所なんだが」
「ちょっと見せてくださいますか?」
リーゼが蒼月に近付き、手を差し出した。蒼月から渡された資料に目を通し始めた彼女の顔が、みるみる疑問に彩られていく。
「……確かに、おかしいですわ。こんなに〈緑小鬼〉が出るなんて……」
「そういえば、僕が外に出る時も、アキバから離れたところだとよく〈緑小鬼〉がよく出ました。一ヶ月前に貴族様達を襲ってたのも、〈緑小鬼〉でした」
一ヶ月前にザジとホムラ、リリア、フィンが助けた貴族の一団。彼らは、〈自由都市同盟イースタル〉からの特使だった。
彼らが〈円卓会議〉に届けた内容は、彼らの会議への参加を求める招待状、同盟に加わらないかという勧誘である。現在、〈D.D.D〉のクラスティと高山三佐、〈海洋機構〉のミチタカとカーユという幹部、〈記録の地平線〉のシロエと彼の副官――本人いわくしのび――アカツキ、〈三日月同盟〉のヘンリエッタが会議が行われている〈エターナルアイスの古宮殿〉に代表として滞在中だ。
クラスティは何やら新しい暇潰しの相手ができたようで、月華、蒼月、リーゼほか、幹部の面々で見知らぬその人物に合掌したのは記憶に新しい。
それよりも、今は〈緑小鬼〉である。蒼月はザジを見下ろした。
「そういえば、そうだったか。……ますます奇妙だな」
「現実化したことゆえの、異常発生でしょうか」
「もしくは何かのイベントか……ん」
呟きながら、月華は喉の奥に引っ掛かりを覚えた。
――〈緑小鬼〉……イベント……何かあったような。
しかし、すぐそこまで出かかっているというのに、なかなか最後のパーツがはまらない。月華は眉をしかめた。
「何だろうな……何か嫌な予感がする。イベントだとしても、この状況だと何が起こるのか解らないし」
「こういう時、つくづく思いますわね、攻略サイトが閲覧できたらと」
「こうりゃくさいと?」
「あぁ、何でもないよ。とにかく、初心者達に注意勧告しておくか。俺達はともかく、低レベルプレイヤーに〈緑小鬼〉の連戦はちょっときついだろうし」
ゲーム時代であれば、そこまで気を配る必要はなかっただろう。レベル二十以上のパーティであれば、複数回でも殲滅可能である。
しかし、現実化した今は、実際のレベルより五から十上で考えるべきである。闘い慣れていないと、〈緑小鬼〉でも苦戦する可能性は大きい。
月華は苦い顔をして言った。
「これ、〈D.D.D〉だけの問題じゃない。アキバの〈冒険者〉全員に言えることだよね」
「そりゃな」
蒼月は重々しく頷いた。
「そういや、チョウシでやってる例の合宿。あれ今日が最終日だったか」
「うちからは誰も出していませんので、現在どうなっているのかは解りませんが、予定通りであれば、確かにそうですわね」
リーゼが同意すれば、蒼月の顔はすっと曇った。
「……何も起きてない、よな?」
答えを求める言葉に、しかし、肯定する術は、誰も持ち合わせてはいなかった。
―――
月華達の嫌な予感は当たってしまった。
総じて、そういった予感は当たるものだけれど、今回ばかりは外れてほしかったというのが、彼女達の本音である。
高山からの念話を切り、月華は唇を引き締めた。
リアルタイムで念話の内容を伝えられた幹部の面々は、重々しい表情を浮かべていた。
〈ゴブリン王の帰還〉。
〈エルダー・テイル〉時代、人気があった大規模戦闘の一つである。
それが、現在起こっている事象の原因であり、最近の〈緑小鬼〉増加の理由だった。
「……俺達は、どうする?」
ゆっくり口を開いたのは、リチョウだった。腕を組み、虎によく似た猫人族が見るのは、クラスティからギルドの運営を任されているリーゼである。
リーゼは無表情で言った。
「〈円卓会議〉の結論が出るまで待機です。ただ、一応いつでも戦える準備をするよう、ギルメン全員に通達してください」
リーゼの言葉に、まず反応したのは月華だった。
「零師団には、私が伝えよう。各部隊にも伝えておく。他は、自分の所属班にそれぞれお願いします」
「了解。……それにしても、〈大地人〉貴族はどうするつもりなんだろうな」
リチョウは頷きながら、何とも言えない顔をした。
一番気にかかるのは、リチョウの言う通り〈大地人〉の動向である。〈緑小鬼〉達がアキバを攻撃してくるなら、〈冒険者〉は当然応戦するし、殲滅することになるだろう。
しかし、アキバに攻撃が及ばなければどうだろうか。アキバに損害が出なければ、〈冒険者〉は〈緑小鬼〉を討伐する必要は無い。
しかしその場合、〈大地人〉はどうなるだろうか。外との隔たりが木の柵程度でしかない開拓村は当然蹂躙されるだろうし、城壁がある街も、無事ではすまないだろう。
〈冒険者〉にとって、〈緑小鬼〉はそれほど強敵ではない。しかし〈大地人〉にとっては、命を奪っていく凶悪な亜人間である。〈冒険者〉が守らなければ、全滅は無くともほぼそれに近い状態になるだろう。
だが、〈冒険者〉には〈大地人〉を守る理由が無い。依頼を受けているわけではないし、助けてくれと請われているわけでもない。
極論を言えば、見捨ててしまっても構わないのである。
結果は〈大地人〉貴族の対応次第だ。〈冒険者〉側から何かしらアクションを起こそうにも、今後のことを考えると、受動的にならざるをえない。
皆が渋い顔をする中、一番苦々しい顔をしているのは蒼月だった。
蒼月の弟子という形で〈D.D.D〉に在籍しているザジは、〈大地人〉である。
職業が〈開拓民〉から〈武士見習い〉に変わった今でも、彼が〈大地人〉であるという事実に変わりはない。
ザジと深く関わり合いを持つ蒼月にとって、容易に〈大地人〉を助けにいけないという現状は歯がゆいものだろう。もしこの事実をザジが知れば、彼は後先考えず飛び出していってしまうかもしれない。
月華とて、動くに動けない現状に苛立っている。どうしようもないことは理解しているが、理性に感情がついてこないのである。
大組織の上層に身を起いていると言っても、所詮十九歳だ。成人すらしていない未熟な身で、できることなどたかが知れている。
月華はひそかに唇を噛む。気付いたのは、蒼月だけだった。
―――
「月華」
レイド部隊に連絡を終え、自室で自分の戦闘準備をしていた月華の部屋に蒼月が訪れたのは、日が沈んでしばらくしてからだった。
「兄さん」
月華はノックの後に許可無く入ってきた蒼月を目を瞬かせて見る。
蒼月は鎧を脱ぎ、外套を袖を通さずに羽織っただけの姿だった。気だるげな雰囲気だが、目は強い光を灯している。
「何? えっと、確認することあったっけ?」
「違うよ」
蒼月はつかつかと月華に近付き、ぐしゃぐしゃと月華の頭を撫で回した。
「わ、兄さん、な、なに」
「友華」
月華はぎょっとした。呼ばれた名前は、この世界での名前ではなく、現実世界での本名だったからだ。
顔を上げた先の蒼月は、穏やかに微笑んでいた。
「しんどくないか? 苦しくないか? 無理してないか?」
「にい、さん」
「苦しいことがあったらちゃんと言えよ。俺達、兄妹だろ。弱音を吐けない立場かもしれないけどさ、俺にぐらいちゃんと吐き出せよ」
「…………」
「何もできないこと、無いさ。きっと、やるべきことがある」
――俺が言いたいのは、とりあえずそれだけ。
蒼月は照れくさそうに頬を染めた。それを見つめ、しばらくして月華はうつむく。
「兄さん、ありがと」
「ん」
「私さ、凄く今、悔しいんだ」
月華は長々と息をついて傍の椅子に腰を下ろした。蒼月は立ったままである。
「私は、〈D.D.D〉の幹部だ。それに、仮とはいえレイド部隊を率いている。無闇に動くことはできないし、何も考えず飛び出すこともできない。……知ってるのに何もできないなんて、悔しいよ」
「……そうだな」
「いっそ無名だったらって、ちょっと思う」
「でも無名だったらこのことを知ることもできなかっただろう。……ジレンマだな」
「そうだね」
月華は椅子の上で膝を抱えた。
「つくづく思うよね。私、できること少ないんだ」
「そんなもん、みんなそうだろ。一個人にできることなんて、本当に限られてる。おまえだけじゃない。俺だってできることなんてたかが知れているし、大将だって万能じゃない。あの人だって人間だし」
クラスティのことを指して、蒼月は肩をすくめる。
「三佐さんだってリチョウさんだってそうだし、チートだなんだと言われてるクシさんや御前だってそう。長所短所以前に、能力の限界ってのがあるんだよ。その辺は、〈冒険者〉になっても変わらないな。全てをひとりでこなして何でもひとりでできるなんてもん、物語の中だけだよ」
蒼月はふ、と笑って、また月華の頭を撫でた。今度は、すくように穏やかな手付きで。
「だから、できないことで思いつめるな。できることで頑張ればいいのさ」
「……ん」
月華は頷き、少しだけ笑った。
「何か、懐かしい」
「ん?」
「初心者だった頃はさ、全然強くなれなくて、兄さんに泣きついてばっかだったけ」
「あったな、そんなことも。父さんや母さんがまたやめるって話になった時も、おまえ随分泣いてたけど」
「う……しょうがないじゃない。私、その時は小学生だったんだからな」
「解ってるって……おい、叩くなっ」
痛いって、などと、大したダメージにもなってないのに、そう言って蒼月は笑う。月華も自然、笑みが深まる。
「……でも、確かに懐かしい。そういえば、俺達がまだまだ中堅だったころだよな、〈D.D.D〉ができたのは」
「初期メンバーは全員いたよね。クラスティ隊長は勿論、クシ先輩や三佐さん、リチョウさんや御前、レッドさんやレモンさんもいたんだよなぁ……レッドさん、色んな意味で無事かな」
「あの人は殺しても死なないよ。〈冒険者〉としてじゃなくて、何というか、人格的に」
「あはは」
月華は小さく笑い声を上げた後、蒼月をじっと見上げた。
「兄さん、本当にありがとね」
「気にすんな。それよか、その情けない顔、外でさらすなよ。"黒姫剣士"さん?」
「だ、だからその二つ名で呼ばないでよ! ……いいよね、兄さんは。"蒼の竜騎士"だし」
「……うーん」
何をうらやましがっているのか蒼月にはさっぱり解らないが、彼自身もまた、己の二つ名を気に入っているわけではない。〈武士〉なのになぜ騎士? などと思っているのである。由来はサブ職業に関係しているのは理解しているが――
「……うん、でも、うん。そうだ。弱音吐いてる暇なんて無いよな」
月華はぺちり、と自身の両頬を軽くはたいた。
「外に出たら私は、〈D.D.D〉の幹部、月華だ」
「俺もだな。外に出たらおまえの兄貴じゃない。〈D.D.D〉幹部、蒼月だよ」
そう言い合って、でも、今少しだけと、兄妹はしばらく、寄り添っていた。
―――
日付が変わった頃合いだった。突如の念話に、月華は叩き起こされた。
叩き起こされた、と言っても、それに対して不機嫌になることはない。そもそも仮眠であったし、むしろ、やっと来たかという心境である。
いつものゴシックドレスを身にまとい、銀の金属籠手を付け、黒刃の双刀を腰に帯びる。青みを帯びた黒髪をまとめあげて部屋を出れば、そこには弱音を吐いていた少女はいない。二振りの太刀を振るう力強さを持った、ひとりの剣士が存在していた。
「隊長!」
〈鷲獅子〉でアキバの街へと帰還したクラスティを、月華は〈D.D.D〉の他の面々と共に迎えた。
クラスティは、自身の〈鷲獅子〉に、ひとりの少女を乗せていた。
かがり火に当てられて輝く長く豊かな銀の髪をゆらめかせた、ふんわりとした造りのドレスをまとった少女は、ため息をつかんばかりに美しい面差しを不安げに曇らせていた。
それに頓着することなく、クラスティは同じく降り立ったシロエに、彼女を任せ、月華達の元に歩み寄ってくる。
「……彼女は?」
横を歩きながら月華が言外に放っておいていいのかと尋ねれば、クラスティは微笑を浮かべた。
その顔が、いつもよりやや強張っていることに月華が首を傾げる暇無く、クラスティは答える。
「念話で伝えただろう。あの方はレイネシア姫。今回のことで、我々〈冒険者〉にお願いがあるらしい。準備はシロエ君に任せた」
「お願い、ですか」
月華はシロエの後を慌ててついていく少女を見やった。
「念話を受けてからずっと思ってたんですけど、〈同盟〉の領主ではないんですね」
「ああ。彼女は筆頭領主であるセルジアット公の孫娘ではあるが、そういった公での権力は無いね」
「そう、ですか」
月華は顔をしかめた。
「彼女では不満かい?」
「そうではありませんが……でも、本来なら政治権力のある人間が来るべきなんじゃないかと思って。姫ひとりに責任を押し付ける形になってる〈同盟〉には、ちょっと怒ってます」
てきぱきと指示を出しつつ、月華は唇を曲げる。その横で、ホムラがつい、と肩をすくめた。
クラスティは目を細めた。
「君の言いたいことは解る。だが、今は」
「解ってます。姫の話を聞きましょう。彼女の願いは、きっと届きますよ。だって、隊長が認めた人間なんでしょう?」
月華は頬を緩めて言えば、クラスティは虚を突かれたように目を瞬いた。
―――
魔法の光が瞬く明朝、皆の前に立ったシロエが説明したのは、〈緑小鬼〉の進行と、その度合いだった。事前に知っていた〈円卓会議〉参加ギルドの幹部面々はともかく、ほとんどの〈冒険者〉にとっては寝耳に水の情報である。しかし、クエストだと考えれば受け入れるのは早い。皆、地図を広げたり仲間と話し合いながら、現状を確認し合っていた。
〈D.D.D〉のメンバーと共に広場の中央で控えている月華は、蒼月とホムラと並んで舞台を見つめている。
一区切り付いたのだろう。シロエは一度息をついた後、再び口を開いた。
「一方僕らの方ですが、おそらくこの軍勢からアキバの街を防衛することはさほど難しくないと考えられます。――食料以外の、特に技術面での自給率の高いこの街は一定の防衛力をもっています。〈自由都市同盟〉を必ずしも、絶対に、助けなければならないわけではない。損得でいえば、助ける必要はない。繰り返しますが、助ける必要は、一切ありません。――その上で、聞いていただきたい話があります」
シロエは、天幕の袖に向かって誰かを呼ぶように腕を動かした。それに応えて現れたのは、いつもの立派な鎧で身を包んだクラスティと、先刻クラスティと共に鷲獅子でアキバに降り立った銀髪の姫君である。
姫君が現れたとたん、月華は何とも言えない顔になった。蒼月は苦笑したし、ホムラはうわーあざとい、と、いつもの調子で呟く。
というのも、姫君の格好に問題があった。
アキバに来た際、彼女は美しい造りのドレス姿だった。それが、なぜか今は白銀に輝く美しい戦装束である。
それも、高いデザイン性から、女性〈冒険者〉に人気の高い〈戦女神の銀鎧〉だ。
おそらくは、シロエの指示だろう。ホムラのあざといという発言も、的外れではない。
姫君は、おそらく戸惑っているのだろう、動揺を隠せない顔で視線をさ迷わせていた。その姿はたよりなさげで、明らかに鎧に着られている様である。もっとも、その揺らぎに気付けたのは、おそらくごく少数だろう。一見すれば、彼女はただ言葉を選んでいるだけのように思えた。
そんな彼女の後ろで、クラスティが斧を床に突き立てる。次いでシロエも、長錫杖を両手で立て掛けた。
彼らを振り返り、すぐ前に向き直った姫君に、すでに揺るぎは無かった。一歩前に進み出た彼女の顔は、鎧姿に見あった凛々しさがあった。
「――みなさん、はじめまして。私は〈大地人〉。〈自由都市同盟イースタル〉の一翼を担う、マイハマの街を治めるコーウェン家の娘、レイネシア=エルアルテ=コーウェンと申します。本日は皆さんにお願いがあってやってまいりました」
朝の澄んだ空気の中、姫君の声は静かに響き渡る。一字一句漏らさぬようにと、〈冒険者〉達も口を閉ざして耳を傾けていた。
彼女は言葉を投げかける。ただ真剣に、ただただまっすぐに。
投じる言葉は一つ一つに彼女の願いがこもっていた。彼女の祈りが灯っていた。
姫君は、ごまかしも偽りも使わなかった。もっと甘い言葉も、もっと耳に心地よい言葉もあっただろう。けれど、けっしてそれを使おうとはしなかった。
姫君はあくまで、言葉通り〈冒険者〉達にお願いをしているのだ。それはいっそ、愚直とすら言えた。
「わたしは臆病で怠惰で、考えなしのお飾りですけれど……。戦場へ……いきます。ですから、よければ、それでもよいと思う方は、一緒にきてはくれませんか? あなた方の善意と自由の名の下に、助けてくれませんか? わたしはわたしの力の限り『冒険者の自由』を守りたいと思います」
月華は知らず息を詰めていた。意識さえ消失するほどに、姫君を――レイネシアを見つめていた。
〈冒険者〉である自分よりもはるかに弱く脆く、手を振るっただけで消し飛んでしまうような、儚い存在であるはずの、〈大地人〉の少女を。
「どうか、お願いします」
最後の言葉は、震えていた。ほとんど呟きに近い、否、囁きにすら満たない小さな言葉だった。
けれど、応えない者は、いなかった。
それは、爆発のように一瞬だった。
武器を鳴らす者、鬨の声を上げる者、咆哮を上げる者――様々な形であるが、全て、レイネシアに応えていた。
正面から向き合った姫君に対して、〈冒険者〉もまた正面から答えを返したのである。
その中で、月華はレイネシアから目をそらさなかった。
双刀の柄を握りしめながら、熱心に彼女を見つめていた。
「兄さん、彼女は、強いね」
広場を覆う爆音にかき消されてしまうような、小さな囁きだった。誰の耳にも届かないような小さな声を、しかし蒼月は正しく聞き取る。
「そうだな、強いな」
彼もまた、刀を手に鋭く力強い眼差しを舞台に注いでいた。そんな目は、戦場以外で見ることは珍しい。
「彼女は、自分のできることをした。全力を尽くしてできる限りやりきった。次は、俺達の番だ」
「……うん」
月華は頷く。それでも、レイネシアから視線をそらすことは無い。そこに羨望が含まれていることには、とうに気付いている。
けれど、それは一瞬のことだった。
――彼女は自分にできることをやった。次は私達だ。
投稿おそくなって申しわけないです;;ということで、次回、ようやく月華達はザントリーフ戦に向かいます。投稿遅いとなかなか進まないですねっ(当たり前)
今回、ちょろっとだけ月華の本名出てきました。今思うと、うちの子たちリアルの名前全然出してないんですよね。
多分これから出すことないでしょうからとりあえず兄妹の名前だけ↓
月華……藤本友華
蒼月……藤本政人
あと、この話は月華の心の弱さをテーマにしています。この子強さばっかクローズアップされてるから、本当は普通の女の子なんですよって書きたくなったんです。
次回は戦闘メインで、あんまり心理描写無いと思います。多分来年に投稿するかと……
では、皆さんよいお年を。