二
「じゃあ……月華ちゃんも死を経験したんだ」
櫛八玉の屋敷の客間。長机を挟んだ二つのソファーに座り、向かい合った月華と櫛八玉は、やや暗い面持ちをしていた。
久し振りの再会、積もる話はあったものの、まずは重い話をした方がいいだろうということで、業務連絡や近況の話をしたところ、この世界での死亡経験に話が至ったのである。
月華は兄達と高レベルフィールドで。
櫛八玉はクラスティとふたりで、同じく高レベルフィールドで。
「先輩巻き込むなんて……幾ら外部の回復職に頼みたかったからって、ちょっと酷いですね」
月華はクラスティに対して顔をしかめ、腕を組んだ。
「ま、クラスティ君の横暴なんていつものことじゃない。気にするだけ損だよ」
一方の櫛八玉は肩をすくめる。あまり気に病んではいなさそうだ。
「そうなんですけど……というか、ふたりで〈シンジュク御苑地下ダンジョン〉に行くとか、無謀過ぎます」
「うーん……まあ解ってたことではあるんだけどね」
櫛八玉は苦笑した。彼女がそんな態度では、月華の気勢も殺がれてしまう。
ため息をついて、カップをあおった月華に、櫛八玉は尋ねた。
「あんまり聞くことじゃないだろうけどさ……どう? 死んだ感想は」
「んー……」
月華は首を傾げた。
「あまり気分のいいことじゃないとは言えます。死ぬ瞬間のことは、今でも思い出せますし……うん、正直嫌な気分でした」
それに、と、月華は空になったカップを皿に戻した。
「元の世界で経験した、嫌な記憶を思い出したような気がするんです。何だったかはうまく思い出せないんですけど、とにかく薄暗くて、気持ちが沈んでいくような……一度死亡した〈冒険者〉がフィールドに出るのをやめたって話があるんですけど、その理由が解りました。あんな経験を味わったら、確かに二度と死にたくないって思う人が出るのも当たり前だと思います」
「月華ちゃんは? 君は死にたくないと、もう戦いたくないと思ったかい?」
「まさか」
即座に出たのは否定だった。偽らざる本心だった。
「精神的に参ったのは事実です。直後は、刀を持つのも嫌になりました。でも、いつまでも立ち止まってはいられないでしょう。また死ぬのが嫌なら、もっと強くなればいいだけです」
「……その辺、変わんないなあ」
櫛八玉は実に嬉しそうに笑った。
「ま、確かにそうなんだけどね。うん、努力あるのみだ、若者よ」
「先輩、その発言は年寄りくさいです」
「あ……き、聞かなかったことにして!」
先ほどの落ち着いた面持ちから一転、あわてふためく櫛八玉に、月華はくすくす笑う。
「解ってますよ。……ところで、先輩」
「んー?」
「御前に何を頼まれたんですか?」
御前。かつての〈D.D.D〉の三羽烏のひとりであり、現在は自らが主宰しているギルドのギルドマスターである朝霧のことである。
ここに来る直前、月華は朝霧の元に訪れていた。その時言われた、櫛八玉によろしくという言葉。
常であれば気にならない、当たり前の発言であったが、そこに含められた何かを、月華は感じ取っていた。
櫛八玉は首を傾げた。
「朝霧先輩から、何も聞いてないのかな?」
「聞く間が無くって……訊こうとしたら、御前、用事が入ってしまって」
「先輩も忙しい人だからねー……」
櫛八玉は納得の声を上げた。
「うん。確かに頼まれたよ。クラスティ君にも話を通したらしいから、多分近い内に月華ちゃんの耳に入るとは思うけど」
そう前置きして、櫛八玉は朝霧に頼まれたことを話し始めた。
ミナミからアキバへと移住したい〈冒険者〉の一団が、近いうちにこちらに向かうこと。
その一団を追う〈Plant hwyaden〉の追手を〈テンプルサイドの街〉の郊外で叩き潰す算段であること。
その際に主力になる、〈暗殺者〉と〈追跡者〉のみのギルド〈彩風の暗殺団〉の拠点を〈テンプルサイドの街〉に移して、〈ミナミ〉に対する牽制にしたいこと。
それらの隠れ蓑に、この街の近くで朝霧のギルドの新人合宿を行いたいこと。
全てをを聞き終えて、月華は感嘆のため息を長々と吐いた。
「さすが御前というか何というか……あの人は生きるチートですよね」
「ゲーム時代からそうだったんだら、現実化した今じゃ、もう無双状態だよ。本人は否定しているけどね」
乾いた笑みを浮かべる後輩ふたりである。
「ま、シリアスな話はこれくらいにして――ね、せっかくだし、うちの新人の戦闘訓練の手伝い、してくれないかな」
「え?」
月華は櫛八玉を見返した。
「いいですけど……でも、ギルドメンバーだけで充分指導できるんじゃないですか?」
「確かにヤエもいるし、ユウタ君もいるけど。でも、やっぱり三人だけだと限界があるんだよ。それに私達、回復職、魔法攻撃職、戦士職でしょ? 武器攻撃職がいないんだよ。別の職業だと、指導にも限界あるし……複数のアバター持ってるヤエも、武器攻撃職はやったことないしね」
「なるほど……」
月華はこくん、とカップの中身を一口含んだ。
もとより断る理由は無い。月華は足元に置いた双刀に目をやった。
―――
櫛八玉のギルド〈太陽の軌跡〉はその大半が初心者である。月華とのレベルも装備も大幅な差がある。
だから月華はまず、師範システムでレベルを下げ、武器も〈製作級〉のものに取り替えて指導にあたった。
〈テンプルサイドの街〉の郊外、月華は刀を二振り手にして、立っていた。
多少息切れしてはいるものの、二、三回深呼吸すれば元に戻る。
一方で、短い草の生えた地面に伏しているギルドメンバーは途切れ途切れの荒々しいものだった。
ギルドメンバー、武器攻撃職の面々である。月華と同じ〈盗剣士〉だけでなく、〈暗殺者〉や〈吟遊詩人〉もいる。
離れた場所には櫛八玉以下、複数のギルドメンバーがおり、櫛八玉以外、呆然とした顔をしていた。
「これが〈D.D.D〉の幹部……」
「さすがクシさんの後輩……」
口々に呟くのは、今しがた見た月華の剣術に対する驚きだった。
月華自身は、特別なことをしたつもりはなかった。彼女はただ、実地訓練だと言って向かってきたギルドメンバーを相手取っただけである。
ただ、実力差は歴然だった。
「……やり過ぎたかな」
思わずそう呟いてしまう月華である。レベル差はなかったが、練度では月華の方が上であるため、それなりに抑えたつもりではあるのだが。
「大丈夫なんじゃないかい? ただ、今の戦い方、解説を入れた方がいいだろうねぇ」
櫛八玉は苦笑した。月華はやっぱり、と首をすくめる。
「解説、か……そうだなあ」
月華は再度、剣を構え直した。
武器攻撃職の面々が真剣な面持ちで月華の言葉を待つ。それだけでなく、外野までもが神妙な面持ちをしていた。
「まず、私は二刀流だね。二刀流だから、こういう風に、両手に武器を持つわけだが、この際、二刀流の基本を意識しなければならない」
「二刀流の基本?」
「どちらかが防御、どちらかが攻撃という意識だ」
剣を軽く振るい、月華は言う。
「これは剣道における二刀流の基本なんだが――剣道で二刀流を使用する際、長刀と小太刀になる。この時、小太刀を防御、つまり相手の攻撃を防ぐのに使い、隙ができたら長刀で一本取る、というのが基本的スタイルなんだ。性質上、扱いづらい技術だが、使いこなせば攻防一体の剣技となる。かの宮本武蔵もこの技術を用いたというし、公式の大会で二刀流の選手が優勝したという記録も残ってる」
月華は見渡す。初心者の顔を。
「先に言っておく。私が言いたいのは、二刀流の素晴らしさではない。基本の重要度だ。何ごとにおいても、基本というのは技術の根幹であり、根元だ。基本がなっていなければ、どんなに素晴らしい手腕があっても外見だけの鍍金のようなものだよ。戦士職には戦士職の、回復職には回復職の、魔法攻撃職には魔法攻撃職の基本があるように、武器攻撃職にも武器攻撃職の基本がある。私が今、君達を退けた技は、その基本に忠実だからこそできたことだ。そして何より、基本から自分のスタイルへと昇華できたからこそだ」
「スタイル?」
「そう。私は二刀流という基本を、自分なりのスタイルに、一段格上げした。これは別に、特別なことじゃないよ。大抵の人間がやっていることだ。自分に合った戦い方は何なのか、一つ一つ考えて、吟味して、身に付けていく。武器を選ぶことも、立派なスタイル確立の一つだよ」
月華は唇を緩めた。先ほどとは違い、穏やかな笑みだ。
「それぞれにはそれぞれに合った戦い方がある。短い時間だけど、少しでもそれを教えられたらと思うよ。できることは少ないけどね」
『は……はいっ』
何とも元気な返事に、月華は笑みを深める。その視界の端で、櫛八玉が首を傾げるのが見えた。
「ほどよくまとまったところで、まぜっ返すようで悪いんだけどさ……月華ちゃん」
「はい?」
「さっきの技ーー動き、かな。月華ちゃんの言葉を借りればスタイルか。あれ、ちょっと特殊なような気がしたんだけど」
「ああ、そっちも解説しなきゃですね」
月華は頬をかいた。
「といっても、特別なことじゃないんですけどね。ただ、〈盗剣士〉の特技を手動で発動させて、うまい具合に組み合わせただけで」
「手動!? また手間のかかる……」
「そうですね、手間がかかります。でも、その分戦術の幅は広がります」
でも、と、月華は剣腹に映った自分の顔を見つめた。
「まだ、足りない気がするんです……もっと向上できる、そんな気が」
月華は気付かない。呟くその横顔が、まさしく戦士そのものであることに。
現実世界では浮かべることのなかった、剣先にも似た鋭さを持っていたことに。
―――
疲れた――呟いた声は、その言葉以上に疲労をにじませていた。
月華は用意されていた部屋の、豪奢なベッドに身を沈めた。
手足はだるく、頭の中も霞がったようであった。だが月華は、その疲労をいとう気持ちは無かった。
櫛八玉のギルドメンバーは想像以上にいい気概の持ち主だった。月華が教えたことを反復し、実践しようとする姿は、現実世界で剣道を教えていた子供達にも似たひたむきさがあった。それでついつい指導に熱が入り、気が付いた時にはどっぷり日が沈んでしまっていたのである。
慌てて屋敷に戻り、櫛八玉や屋敷で働くふたりのメイドが作ってくれた夕食をごちそうになったのだが、そこから更に質問責めにあった。
だいたいが櫛八玉が〈D.D.D〉にいたときのこと、たまに冒険の話。
膨大な質問をこなし、用意された風呂の中でも一緒に入った面々に色々尋ねられ――なぜが話が飛躍して月華のバストサイズに至ったりもした――気が付けば、日にちが変わっていた。
早く寝たいと思うが、まず荷物を整理しなければ、と、泥になりかけの身体を叱咤して、鞄の中に手を突っ込む。
元より明日には帰る予定だった。明日に荷物整理を放り投げて、帰る準備が滞るのもまずかろう。
ある程度満足して、月華は気付く。戦闘において彼女を常に守っているゴシックドレス――〈黒姫のパーティードレス〉が椅子の上に放り出されたままなことに。
慌ててドレスを手に取り、ハンガーにかける。特に消耗していないのだからしわすらできないのは解っているものの、気持ちの問題である。
月華はタンスの中にかけて、ふと、何となくドレスのフレーバーテキストを見た。
『かつて黒姫と呼ばれた〈古来種〉が戦場で常に身に付けていた衣。彼女の魂は今なおこの衣に宿り、まとう者に己が力を与える。全てはヤマトの大地のために』
「ヤマトの大地のために、かあ」
月華はドレスをそっと撫でた。
月華は、まだこの世界を現実と見れてないところがある。それば、中途半端に残ってしまっているゲーム時代の残り香のせいだ。現実だと強く認識しながらも、深い深い底辺では、まだゲームなのではと考えている。
それは取るに足らない、意識して現実だと言い聞かせていればくすんでしまうような考えだ。だから月華は、特に気にしていない。
ただ、現実とゲームという二つの認識が混在してしまった時、ふと思う時がある。それは、今のようにフレーバーテキストを読み上げた時だった。
「ここに書いてること、全部現実化したりして」
まさかね、と即座に打ち消し、月華はベッドの中へと戻った。
――彼女の妄言がまさしく現実になるのは、これから五ヶ月後のことになる。
―――
早朝、ホムラはリリアとフィン、ザジと共に、フィールドに出ていた。アキバから離れた、森の中である。アキバ川に通じる海にほど近いが、今はそちらに用は無い。
時折、なにかと忙しい蒼月や月華にかわり、ホムラやリリアがフィンやザジの訓練に付き合うことがあった。
アキバ最大の戦闘ギルド〈D.D.D〉である、わざわざ相手をしなくともパーティを組んでくれるメンバーや訓練の面倒を見てくれる高レベル者はいるのだが――でなければ、教導部隊の存在理由がなくなってしまう――それでも、やはり心易い人間との方が気楽なのだろう。ふたりはよく、蒼月達に頼んでいた。
特にザジは、〈D.D.D〉唯一の〈大地人〉メンバーである。扱いが難しい――とまではいかないものの、やはり一番うまく付き合えるのは蒼月達だった。
そしていつものように、四人でアキバから少し離れた場所で、モンスターを相手取っている。
ホムラは勿論、リリアから見てもフィンとザジは低レベルなので、師範システムを使用していた。とはいえ、ふたりはすでに四十レベルに至っている。フィンは四十五、ザジはちょうど四十。ちなみにリリアは、この間七十レベルになった。
ホムラはモンスターと相対しているザジに障壁をかけながら、首を傾げる。考えるのは、ザジのレベルのことだ。
〈冒険者〉のフィンはともかく、〈大地人〉であるザジは、レベルが上がるスピードが遅い。それ自体はおかしくないのだが、ザジの話や、最近増えてきた〈大地人〉を見るに、本当はもっと遅くてしかるべきなのではと思いつつある。
ザジ本人いわく、彼は現在十歳。〈冒険者〉ならいざ知らず、四十レベルの〈大地人〉の子供など聞いたことがない。
ミナミからアキバに至るまでの道中で見た子供達に彼と同レベルの者はいなかったし、戦闘訓練を積んでいそうな〈大地人〉でさえ、時には彼より下の者がいた。勿論、レベリングなどしていない。
才能、なのだろうか。ホムラは近付いてきた〈茨イタチ〉を刀で迎撃しながら、考える。
はたして才能で片付けていいものか――
「ホムラ……?」
リリアの呼びかけに、ホムラは我に返った。目の前には、おどおどしたリリアの顔がある。
「戦闘、終わったよ……?」
「あ? まじ? ……まじだ」
ほとんど無意識に戦っていたらしい。モンスターの死骸が、足元に転がっていた。無意識でも迎撃できるようになったのは、いいことだろうか。
「じゃあ、もうちょっと奥行こうか。まだいける?」
「私、は、大丈夫……」
「おけーです!」
「僕も大丈夫です」
じゃあ行こうか、とホムラが声をかけようとした時だった。
「……!」
それは悲鳴だったのか咆哮だったのか。とにかく聞き苦しい声が、四人の鼓膜を貫いた。
「っ、今、の……」
「あっちだな」
ホムラは聞こえてきた方向――南の方に視線を向けた。
ちょうど海の方面だ。
「……どうする?」
仲間を振り返り、尋ねる。だが、尋ねるまでも無かった。
全員無言で声の方へと走り出した。
先頭を走るのはザジだ。彼の技術は戦士職――師事している蒼月と同じ〈武士〉のそれだから、戦闘が行われていた時の対処のためだろう。
ホムラはザジに障壁をかけ直しながら、思考を巡らせる。
今の声は、おそらくモンスターの声だろう。人間と言うには、あまりに潰れた声だった。
この辺りであのような声を出すとなると、〈緑小鬼〉だろうか。
「っ、いた!」
ザジの声に、ホムラは視線を先へとやった。
まず目についたのは、馬に乗った一団である。豪奢な服装や華美に飾られた騎馬、徒歩のものまでやたらに飾られた集団だ。
その前にいるのは、緑の肌の、小柄な人型の群れ。十はいるその群れは、やはり〈緑小鬼〉だった。
「先制します!」
ザジは宣言と共に、刀を振りかぶった。
「〈飯綱斬り〉!」
赤い閃光が刃から放たれる。鋭い衝撃は、一匹の〈緑小鬼〉の背中にぶち当たった。
ぐぎゃ、と悲鳴を上げ、振り返る〈緑小鬼〉。そこへ更に、ザジは突っ込む。それに続くのは、ホムラとリリアだ。
割り入ったザジは、手負いの〈緑小鬼〉に追撃を与える。それに対し、攻撃された〈緑小鬼〉はよろめき、残りの九匹はザジの周りを取り囲む。
「ザジ! 連中の陣形を崩せ!」
「了解! 〈火車の太刀〉!」
ザジの持つ太刀の刃先に炎が宿り、彼を中心に〈緑小鬼〉を斬り裂いて円を描く。それによって空いた隙を突いて、リリアが突っ込んだ。
えぐるように槍を振るい、手負いの〈緑小鬼〉を突き刺す。短く悲鳴を上げ、〈緑小鬼〉は倒れた。
「あと九匹っと。〈雲雀の凶祓い〉!」
ホムラはすぐ目の前の〈緑小鬼〉の背中を刀で斬り裂く。返す手で、追撃を放った。
〈緑小鬼〉は腹を貫かれ、ぐらりとよろめく。ホムラが刀を抜くと同時にザジの一撃を受け、完全に倒れ伏した。
が、〈緑小鬼〉もやられるだけではない。ザジ、ホムラ、リリアへと殺到する。それを、ザジが〈武士の挑発〉で敵愾心を一手に集め、遅れて追い付いたフィンが〈友なる柳〉を使って一部の動きを制限する。
ザジは〈緑小鬼〉の猛攻を、時に受け流し、時に障壁で受け止めながら、視線を完全に自分に集中させていた。その外で、ホムラとリリアが各個撃破していく。
数が五匹になったところで、ホムラの指示に従ってザジは〈大地人〉から引き離すように下がった。
「リリア!」
「うん……っ」
リリアは前もって用意していた永続式援護歌〈輪唱のキャロル〉を〈剣速のエチュード〉と入れ替えで発動させる。この辺りの用意は、今までの連携の賜物だ。
ホムラもまた、後方に下がって魔法の準備をする。
目前ではザジが〈緑小鬼〉をひとりで相手取っている。ところどころで傷を負っているが、フィンの脈動回復で癒えていく。
準備を整え、ホムラは大声で呼びかけた。
「ザジ、どけ!」
ザジは即座に反応した。飛び上がるように斜め後方に移動する。刀は下ろさない。
それを確認して、ホムラは魔法を放った。
「〈剣の神呪〉!」
ホムラの振り下ろした両手から、無数の刃が放たれる。鋭い爆風がザジの攻撃で傷付いていた〈緑小鬼〉達を切り裂き、あるいは貫いていった。
魔法の発動が止まったころには、〈緑小鬼〉達はぴくりともしなくなっていた。どうやら倒しきったようである。
「……〈剣の神呪〉はやり過ぎだったかな」
「いまさらですかあ」
フィンはあきれ声を上げた。ザジと顔を見合わせたリリアは、苦笑を浮かべる。
「んー、ま、いいか。おーい、おじさん達、大丈夫ー?」
戦闘のさなか、ほとんど忘れ去られていた〈大地人〉達は我に返ったようだった。
「ぼ、〈冒険者〉殿か? 助かった、礼を言う」
「んー……それよりおじさん達さ、どこいくの? さっきみたいに襲われるかもだし、よかったら護衛するけど」
ホムラの提案に、しかし、〈大地人〉の一団は受け入れなかった。
「それには及ばぬ。目的地はすぐそこにある」
「すぐそこって……もしかして」
「……アキバ……?」
ホムラの言葉に重ねるようにして、リリアが呟く。頷く〈大地人〉に、彼らはただ困惑した。
第二話投稿しました。ここまでは導入部分です。
次回から、本格的にザントリーフ戦の話に移ろうかと思います。
ところで、月華達をのちのちのゴブリン王討伐隊に参加させたいのですが、詳細が解らないです……ゴブリン王討伐隊中心の話出るのかなあ……あとクラスティさんはほんどこ行ったんだろ。




