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9:相互不理解



「ん……」


眩しい。そう感じ、ローゼンは目を開いた。

体がなんとなくだるいが、風邪とかではなさそうだ。


「ローゼン!目が覚めたのか!?怪我は?体調は?」


「まあ、カルナ!また遊びに来てくれたんだ!久しぶりだね」




「え…?」




カルナは動きを止めてしまう。


私、ローゼンは眠り姫であり、悪い魔女に眠らされていたところをこの国の王子、クラウンに助けられた。


この世界で私は姫として生まれ、100年の眠りについていたのだ。



「ローゼン、お前、………っ、お前の婚約者予定は誰だ?」


「ふふっ、なに?婚約者『予定』って!婚約者はクラウンだよ。決まってるでしょ?」



「っ━…クッソ、あの魔女め…!!!」



カルナはそれだけ言うと、私の部屋を出て行ってしまった。

遊びに来てくれた、わけではなかったのか。

少し悲しいけれど、そろそろ私も準備して行かなければ。




私の一番のお友達の、ナナカのところへ。




♦♦♦




「何をしたんだ、ナナカ!ローゼンがまるで別人じゃねぇか!」


「なにって………そうですよ、もう"お姫様"はいないんです。ローゼンに、なっていただいただけですよ」


カルナは、小屋からナナカを引っぱり出すと、問い詰めた。

あれは、自分の親友ではない、と。


しかし、ナナカは平然とそう答えたのだ。

なにも悪いことではないように。


「お姫様、じゃないって………お前、記憶を消したのか…?」


「ええ、この世界の人になったんです。ここに"来た"ではなく、ここに"いた"ローゼンに。そのほうが、ローゼンも苦しまなくて幸せなはずでしょう?」


ナナカの瞳は暗く、濁っているままだった。

あれだけ王子と結ばれることを嫌っていたナナカが、だ。

こんな、まるで、善い魔女のような行いをするなんて。




「………でも、あのローゼンは違う。悩んでいる姿も、異性が苦手なところも、それも全部ローゼンなんだ。どこか欠けた彼女が、幸せなはずがない。…見てろよ、魔女。オレがローゼンを助ける…」




「どんな、手を使ってでも」




カルナはそれだけ言うと、走り去る。

しかし、その覚悟に何かを察したナナカは、魔女の服に着替えると、急いでカルナを追いかけた。





♦♦♦





「小屋を訪ねてもいないし、ナナカはどこなんだろう?」


小屋の近くの森を、暇つぶしに散策するローゼン。クラウンも城には見当たらなかった。ナナカも小屋にもいない。カルナも出て行ってしまって、それから会えてない。



「……つまんないなぁ」



首元の飾りを鳴らしながら、ローゼンは、一つの湖に辿り着いた。

そこは木々に囲まれた、まるで楽園のような湖だった。手入れをされた木々はみずみずしく生い茂り、陽の光を浴びて影が水面に落ちている。

キラキラと輝く水面は宝石のように、翡翠色に染まっている。

その上を、小さな精霊が思い思いに行き交っている。



「……すごい、綺麗…!」




「へぇ、久しぶりの人間のお客さんだ!はじめまして!」




いつの間にか、ローゼンの隣には少年が…浮いていた。


「は、はじめまして!あの、勝手に入ってすみません。私はローゼンです。」


「うん…ご丁寧にありがとう。……でも、どうやら、"君"は君ではないみたいだね…」


「…?私が、私じゃない、ですか?」


「そうなんだけど…あぁ……なるほど、悪い魔女に"そう"されたんだね」


少年はローゼンの顎を掴むと、上を向かせる。

その瞳の色を見ていたのだ。


「そうだ。僕はね、月姫つきひ。姫って書くんだけど、ちゃんと男だよ?……悪い魔女はどうしようか?君が望むなら、悪い魔女を罰して、"君"から君に戻してあげることもできるよ?」


月姫、と名乗る少年は、ローゼンの手を引いて立ち上がる。ローゼンは悩んでいた。

悪い魔女が、誰なのか、と。そんな魔女に会った記憶がないのだ。


何より、この月姫という少年は、どうして私のことをそこまで知ってるのか。





━ザッ…━




「お前、ローゼンを離せ。こちらに渡せ」




「ふーん、王子様じゃなくて騎士様が来るなんて想定外だなぁ。……どうぞ?…ローゼン、君が戻ったら、またここにおいで?」


月姫はそれだけ言うと、湖へと姿を消した。

そばに来た騎士……カルナは、ローゼンの手をしっかりと握る。


「あ、ありがとう、カ━」


「わりぃ、ローゼン。こんな手荒な真似は、したくなかったけど…」


ローゼンの繋いだ手をくるりと反転させ、ローゼンはカルナの腕の中にいた。

そして、ローゼンの首元には、銀色に光るナイフ…。


それは端から見れば、人質を捕える犯罪者の図にしか見られなかった。



「カルナ…?」


「悪いな、もう少し、このまま我慢してくれ…」



カルナがそう発した直後、紫色の無数の光が、カルナとローゼン目掛けて放たれた。


しかし、それを読んでいたのか、軽々とその魔法をかわす。

そして、ひらりと舞い降りたカルナの目の前には、鬼のような形相をしたナナカが立っていた。

獲物を見るかのような、厳しい眼差し。そして、服は魔法使いとしての正装に着替えてまで。

本気なのが伺えるかっこうだった。




「返して、ください…!私の友達です!」


「だったらこの飾りを…首輪を外せ!それが先だ!」


「イヤです!それが、ないと…!」


「外せないなら…オレは、このローゼンなら、いらない。……分かるだろう?」


カルナはそう言い、首元のナイフを示すように、視線を向けた。

目の前の魔女の顔が、真っ青に染まるが分かった。


「い、いや…!カルナ、ナナカ、なんで…!?」


突然友人に命を狙われたことに恐怖を感じ、暴れようとするローゼン。

カルナも辛い気持ちを抑え、じっとナナカを見つめた。

ナナカはその視線なんか目に入らないかのように、ひたすらナイフとローゼンを交互に見つめ、涙を堪えながら、叫んだ。



「は、外します…外します、から、ローゼンだけは…!ローゼン、だけは、私から奪わないでください…!!」


「…そこから、だ。お前が魔女なら、そこから動かずとも魔法で外せるはずだ。…一歩でも動いてみろ、この剣は━」


「やります…だから!そのナイフを、仕舞ってください…!!!」


「お前がローゼンの首輪を外すまではこのままだ!………こんな枷がないと、ローゼンを繋ぎ止めておけないのか…?」




「…………そうです、ね。私、初めてだったんです。…誰かを、━。」




ナナカは、魔法でローゼンの首輪を外しながら、悲しそうに、そして、嬉しそうに微笑んだ。


その言葉を聞いて、カルナは顔を歪めた。




眩い光が消えると、ローゼンの首輪と、…ナナカの姿も、消えていたのだった。




━…誰かを、所有できたのは。…━



「どうして、普通に……なれないんだよ、お前は。」




カルナは、孤独な魔女と、孤独な眠り姫の少女を思い、魔女の森でぽつりと呟いた。


魔法が解けて、眠りについたローゼンを、大事そうに抱えて。






♦♦♦






「ローゼン。…今後、ナナカに必要以上、近づくな。」




目覚めた私に告げられたのは、残酷な一言だった。


「カルナ…なんで…?」


「なんで、って…。お前、操られてたのは覚えてるだろ?」


また、操られたら、どうするんだ?



カルナの言葉が、胸に染みた。

たしかに、ナナカに操られてた時の記憶は、ある。

それで、カルナに迷惑を掛けてしまったことも。


……でも、本当にそれでいいのだろうか。

ナナカと、分かり合えないままで…。



「私、行くよ。ナナカのところに。だって━」



「いい加減にしろよ…!じゃあまたもし、お前が操られて、それでオレがいなかったら!?…そうしたら、お前は、どうするんだよ…!?」


「その時は、クラウンさんに…」


「結局は他人頼りかよ…。ローゼン、お前さ、自分が力無いって、理解してんの?」


何かで頭を殴られたような、そんな衝撃が走る。


初めてだった。

誰かにそう言われたのも、この世界でしか言われないような、言葉も。


カルナが私を見る瞳は、軽蔑の色で染まっていた。




「…もう、いいや。勝手にすれば…?」


そう言って、私の部屋を出て行こうとするカルナ。


「カルナ!」


「呼ぶなよ!…オレさ、お前みたいな、守られてばかりで、他人のこと考えない女、大嫌いなんだ。」




━…バタン━





扉を閉める音が、やけに重く、煩く感じた。


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