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7: 魔法使い達の嘲笑




「はい、気をつけて、ローゼン」


「う、ん…え、でも……」


「手じゃなくっても袖でいいって。…掴まないと危ないのはローゼンだ。」


そう言われ、クラウンの袖を掴み、馬車から降りるローゼン。


「あ、ありがとう、ございます……」


「…いや」


「……あの、何でしょうか」


また、だ。

また、クラウンからの気持ち悪い視線を感じた。


馬車に乗っている時も、ローゼンはずっと落ち着かなかった。

ずっと、クラウンに見られていた、気がするのだ。

気にし過ぎかもしれないが、その熱い視線にはカルナも気づいていた。


「ローゼン様!さあ、どこから見て回りましょうか!」


何も答えずローゼンを見つめるクラウンと、その視線に怯えるローゼンを気の毒に思い、一つ軽く手を叩くとカルナは仕切りなおしをした。




青空の下、輝く太陽に照らされたセラフィア帝国は、上品さも合わせ、活気に溢れていた。

豪華に飾られた洋風な建物、アンティーク調のオブジェや、優雅な人々の暮らしがそこに現れていた。

街の噴水の近くでは、様々な楽器による演奏が披露されており、ゆったりとした優雅な時間が流れていた。

さらに、多くの人が行き交う市場では、艷やかな果実やみずみずしい食材が彩り豊かに並ぶ。




「…なんだか、素敵、ですね」


「ローゼンにそう言ってもらえると嬉しいな。…俺もさ、この町並みが大好きなんだ」


いつの間にか隣にいたクラウンが、ローゼンの顔を見て微笑む。まるで、先ほどの狂気を感じさせないその表情に困惑した。


「あ、う、うん…そうです、ね。…あ、えっと、私、この国の服が見たいです!か、カルナ!」


どうしていいのか、どんな顔をしたらいいのか分からず、咄嗟に出た理由とカルナの名を呼ぶ。

カルナはすでに予想がついていたのか、すぐさまローゼンの側にやってくる。


「そうですね、ローゼン様はこの国のお召し物をいくつかお持ちになったほうがいいと思われます。…王子、よろしいですか?」


「……ふーん?…あぁ、うん、いいよ。構わない。……ッ、ローゼン!!」




突然のことだった。

私は、眠り込むような目眩に襲われ、しかし、それは一瞬のことで…。

気づいたら、クラウンさんの胸に抱かれていた。


顔をなんとか動かし、後ろを見ると、フードを被った怪しげな人物がそこに立っていた。




「……誰、ですか…?」


「シッ、ローゼン。ローゼンは話さなくていい。」


クラウンさんは私をカルナに引き渡す。

カルナも警戒しているのか、右手にナイフを持ったまま、左手で強く私を抱き寄せた。

そのまま、じりじりと後退るようにし、クラウンさんの合図で私の手を引いて、カルナは走りだした。


「…っ、クラウンさん!」


振り返り叫んでも、その姿は遠ざかるばかりで。


嫌な予感しかしないのに、クラウンさんの姿を見つめるしか、できなかった。








♦♦♦



「…どうして、お前みたいな魔術師がここにいるんだ?」


「……眠り姫」


「……お前が、眠らせたのか、イグニス…!」


「違うよ、僕はただ眠らせたわけじゃない。僕は、"永遠に"眠るよう、魔法をかけたんだ。…教えてよ、王子様。あの女が眠り姫なんでしょ?」


イグニス、と呼ばれた人物は、悔しそうに、しかし愉しそうに顔を歪め、クラウンにそう問いかける。


「…ああ、ローゼンは眠り姫だ…。ただし、お前の、ではない。」


「……はあ?」


「ローゼンは俺だけの眠り姫だ。…誰にも渡さない。ローゼンが死ぬ時は、俺の死ぬ時。けれど、あの声も、あの感触も、あの瞳も、失うのなら、俺は絶対にローゼンを守るよ。…民や、帝国や、お前たち魔術師を殺してもな」


美しく、しかし、そこに狂気を秘めた微笑みで、目の前の愚かな魔術師を見つめる。


「…!…ああ、そう。王子様は僕たち魔術師の敵なんだね。…まあいいや、今日はそれが分かれば。本当は、あの眠り姫を殺…━」


イグニスは何かを悟ったのか、クラウンの前から立ち去ろうとした。

しかし、



「…は…?」


「今後、それ以上ローゼンに近づくようなら、次はないと思え」



はらりと舞うイグニスのフード。

クラウンはイグニスの背後に立つと、剣を鞘に収めながら言った。


端整な顔立ちをしたフードを失くした魔術師は、黄金の瞳を歪めながら、クラウンの立ち去る姿を見ながら呟く。


「…眠り姫は、元々僕の"恋人"にするために、眠らせておいたんだ……。だから、アイツのモノじゃない。僕の、眠り姫なんだ。」


イグニスは、魔法でフードを戻すと、街を離れ、森へと向かった。




♦♦♦




「…ローゼン、どうしたの?」


人通りの多い場所に、しゃがみこむローゼンと、それを慰めるカルナの姿を発見する。

ローゼンに近づくと、よく見れば彼女の瞳からは涙がポロポロと零れていた。


見惚れてしまうようなその光景に、興奮しないよう自身を抑え、"王子様"の俺で彼女に声をかけた。


「王子…ご無事でなによりです」


「っ、く……うぅ………っ」


カルナの言葉に軽く頷き、ローゼンの手を取り立たせる。

ローゼンは涙で歪んだ顔を見られたくないのか、俺の顔を見ないよう俯いていた。




なんだか、たまらなく、彼女が愛しくなった。




「っ!?…クラウン、さんっ…!?」


「ごめん。ローゼンが、可愛すぎるからいけないんだ。」


「あ、の、…貴方を置いて…危険、な、目に…っ、遭わせて、ごめん…、なさい…!」


抱きしめたローゼンに耳元で囁かれたのは、謝罪の言葉だった。


「怖くて」泣いていたのではなくて、


「残された俺」を心配して泣いていた…━のか?



「…怖かったから、泣いてるんだよね?もう大丈夫だよ、アイツは俺が━」


「ち、がう…!違い、ます!……クラウン、さんに、何かあったらっ…どうしよ、って…!」


しゃくりあげながら必死に伝えるその姿は、たまらなかった。

普段なら甘えてこないのに、こういう時は、きちんと俺の背に手を回し、抱きついてくる。



今すぐ、この場で、彼女を、……



危険な思考を振り切り、名残惜しいが彼女からそっと離れる。


「俺を心配してくれたんだね…嬉しいよ、ローゼン。もう、大丈夫だよ」


ローゼンの頭を優しく撫でる。

なんだか、むず痒くなるような、不思議な感覚だった。

この優しい感情が恋なら、俺の抱いている感情は一体なんなのだろうか?


今後、ローゼンの身に何か起きるようなことがあったら、どうしようか。

今回は俺がいたから守ってあげられたものの、俺がいなかったら………



いなかった、ら……?




「…あぁ、そうだ。ローゼン、俺さ、いいコト思いついたんだ」




ローゼンの肩越しに見えたカルナの顔が、酷く悲しそうに歪んだ。







♦♦♦




「ちょっと聞いてよ、ハリオル!」


扉を壊す勢いで、森の奥の小さな小屋に入るイグニス。


「………あれ、ハリオル?」


どこ?なんて言いながら、部屋の中を見回す。

すると、赤髪の妖艶な女性が、まさしく寝起きであるかのように、もぞもぞと布団から這い出てきた。


「ん……なによ、イグニス…。日中は起こさないでって、言ってるでしょ……?」


眩しそうに何度も瞬きをし、ぐっと伸びをする。


「あれ、一応操作で夜にしたつもりだったんだけどなぁ…」

 

「何かあったんでしょ?精神の乱れよ。その魔法の乱れも。」


ハリオル、と呼ばれた女性は気怠そうに説明をした。


「て、え!?アンタ…どうしたの、それ…」


そして、目を見開いてイグニスを見つめた。

飄々としているイグニスからは考えられない出血。

さらに、"魔法で作られた"マントが解れている、なんて。


「"僕の"眠り姫を奪った王子にやられたんだ。……アイツ、僕のことだけじゃない、きっと、ハリオルベルタ、君のことも把握してるに違いないよ」


「あら、眠り姫、目覚めたの?……たしか、あの王子のところには、ナナカがいたわよね…。厄介なことになるわねぇ…」


言葉こそ、不安にあふれているものの、ハリオルベルタの表情は嬉々としていた。

イグニスも同時に、笑みを浮かべる。



「ほんと、この国も面白くなってきたよ」



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