壱
「ほら、隙できすぎでしょ!アンタ死ぬ気?」
ポッカリと空いた空間に、すかさず鋭い突きが入る。
私は咄嗟にしゃがんでそれを防ぎ、さらに足を出して蹴っ飛ばす。
「ふん、体術ばっかに頼ってたらお終いよ」
それが娘に言う言葉か!
内心そう思いながらも必死で受け流す。
ここは森の中。近くには私の家もある。
まさに今、槍の稽古中。
相手は師匠にして最強の槍の使い手である我が母。歳の割にはしなやかな体さばきだ。
私が槍を始めたのはちょうど五年前の十歳のときだった。その時から母さんに槍を教わっている。体術は母さんのを真似して覚えた。
「歳の割にはよく動くよね!」
「それが師匠に言う言葉?このヘボ!」
「なんだと!?それが娘に言う言葉?」
どっちもどっちである。
槍が交わる度にカンカン、と森に音が響く。
どちらの額にも、汗が線を引いて落ちてゆく。
傾いた赤い光が、山へ沈んだ時。
急にぐらりと母さんの体が揺らぐ。
「母さん!?」
「甘いっ!!!!!!!」
はっ、と思った瞬間
私の槍は母さんの早業によって、弧を描いて手から離れていった。
「私の勝ちね。」
どや顔にも似た表情で私をみる母さん。
「同情を買うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
私の怒りは爆発した。
しかし、結局槍を拾いに森の中へ走るのは私だった。
「早くしなさいよ、夕飯出来てるからね。」
ウインクして私を見る眼差しは、いつしか師匠から母親へと変わっていた。