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十八話

「凄い人ごみだな」

「えぇ、本当に」


 太朗と織姫は目の前の光景に目を瞬かせる。


 太朗たちが訪れたアミューズメントフロアの一角を占めるその場所には、二人の想像を超えた人で溢れていた。


「いつもこんなに人がいるのか?」

「あぁ、オフクロはあんまり、こういうところ来ないから分からないか。確かにいつも賑わってはいるけど、今日ほどじゃないかな。いつもはこの、七割ぐらいか?」

「それでも、そんなにか……」


 半ば呆れの混じった声が思わず太郎の口から零れ落ちる。


 絵に描いたような優等生である太朗にはお金を消費してまでして遊ぶ感覚が理解できないようだ。それは彼の妹である織姫も同様だ。


「しかし、着いたはいいけど、この中からどうやって遊児を探すよ?」


 バンダナがカメラを双眼鏡代わりに周囲を見渡す。その数、ざっと見ても五百は下らないだろう。そこから、たった一人を探すとなると、中々骨の折れる作業だ――普通ならば。


「ん? 遊児ならそこにいるよ」


 花湖は何故分からないのかと不思議そうな顔である一点を指差す。周囲を見渡せる背丈があるわけでもない彼女だが、指差す方向は微塵も揺ぎ無い。


「えっ何処だよ、ハナ公」


 しかし、花湖が指し示す場所を探してみても、バンダナのファインダーに遊児の姿は映らない。


「ハナ公言うな! だからあそこだって……あれ、あっちも気付いたのかな。こっちに来るよ」

「そのようだな」


 太朗は小さく頷く。花湖の発言から数秒後、彼女の言ったとおり、一人の少年が太朗たちの前に姿を現した。


「皆来たんだ…………暇なんだね」


 相変わらずテンションの低い二次元をこよなく愛する男、遊児の第一声はそれだった。


「おい、遊児。折角来た友人に対してなんだ、その言い草は!?」


 カメラを首にぶら下げ、自由になった両手で胸倉を掴んで揺するバンダナにも遊児は涼しい顔を崩さない。相変わらずの遊児のマイペースぶりに太朗は苦笑を禁じ得ない。


「バンダナ、そこまでだ」

「ったくよ~。お前、いつか友達無くすぜ?」

「大丈夫。バンダナがいなくなっても、オフクロたちがいるから」

「俺だけ除け者かよ!」


 そう言って小さく唇で弧を描く遊児にバンダナが鋭くツッコミを入れる。


「パーパ」

「何だい?」

「あれ……漫才?」

「そうだ」

「おぃ!」


 勢いよく振り返るバンダナの形相に雪は面白そうに笑い声を上げる。その声に毒気を抜かれたバンダナは力なく肩を竦める。


「オフクロも来たんだ……大丈夫?」

「あぁ、ご覧のとおりだ」


 主語がなくても遊児の言葉を理解することは太朗にとって訳ない。太朗が胸を軽く叩くと、遊児は微かに目尻を下げる。


 友人の僅かなその変化に、太朗は感謝の念を抱く。その小さな動きは、彼の心中を如実に表していた。


「それにしても、よくこの人ごみから俺たちを見つけられたな~」


 頭の後ろで腕を組んでいたヒロは不思議そうに首を傾げる。その疑問に、遊児は一点を指し示す。その先に立つのは、太朗だ。


「オフクロ……目立つから」

「確かに」


 不良の溜まり場のレッテルを貼られていたゲームセンターも過去の話、今や老若男女が訪れる遊びの場だ。様々な人間が訪れる場所だが、それでも太朗は目立っていた。


 今回、彼が目立っていたのはその体躯に加え、いくつか追加要素が加味されていたためだ。


「すぐに分かったのは、その子のおかげ」

「雪の?」


 雪の言葉を遊児は首を縦に振って肯定を示す。


「まぁ確かに」

「この上なく目立つわな」


 ヒロとバンダナも納得する。人ごみの中、確かに純白髪の雪はこの上なく目立つだろう。

 しかし、来客の多くは雪の身長を大きく超えており、周囲に囲まれればその存在を察知することはむしろ困難な筈である。だが、雪は周囲から注目を集めていた。


 理由は至って単純明快、目立つ場所にいるからだ。


 首を傾げる雪のすぐ隣に太朗の顔がある。そう、雪は太朗に抱きかかえられていた。


 しかも驚くべきことに、片腕でのお姫様抱っこだ。余程の腕力がなければ到底不可能な芸当だが、当の本人は涼しい顔だ。


 可憐な少女を抱きかかえる大柄の男が目立たぬ筈はなかった。しかし、理由はそれだけではなかった。遊児は僅かに首を傾げながら不思議そうに太朗の衣装を見つめる。


「その格好……狙った?」

「何の話だ。この服のコーディネートは織姫がしてくれたがそんなに可笑しいか?」

「いや、俺はよく似合ってると思うよ」

「パーパ、カッコいい」


 ヒロたちの賛同の声に織姫は満足げに頷く。実際に、太朗の衣装は彼の雰囲気に良く合っている。どうやら、問題はそこではないらしい。


 周囲をすれ違う人の中に「会長のコスプレ?」「似過ぎだろ、本物じゃねアレ」「コスプレ応援とか気合入ってるな~」などの呟きを耳にしたが太朗にはさっぱり分からない。


 首を傾げる一同に遊児は小さく笑いながら答える。


「すぐに分かるよ」


 その言葉を理解するのに、数分と要することはなかった。


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