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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ここはなにかが欠けている

理解はしたくない

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/23

北方大陸の冒険者組合では、冒険者の等級が星の数で示されている。


冒険者を目指す者は、最初に冒険者見習いとして組合に登録される。

まず、真面目に取り組めば大抵の者は達成可能な依頼を任されて、

それが何度か達成出来た者は晴れて「一つ星」の冒険者となる。


下級冒険者であれば一つ星、二つ星。

中級冒険者であれば三つ星、四つ星。

上級冒険者であれば五つ星、六つ星と星の数が増えていく。

特級冒険者と呼ばれている七つ星以上の者もいるにはいるのだが、

そうした者達は大国で数名いるかどうか。


昇格するためにはとにかく地道に依頼をこなしていくしかない。


例えば一つ星は、資格失効までの猶予期間が一か月なのだが、

その間に二度三度と依頼達成していれば二つ星に上がりやすい。

逆に猶予期間ギリギリまで何もしないような者は燻り続ける。

卓越した成果を上げた者ならば、飛び越えて三つ星も有り得る。


当然星の数が増えるに従って、依頼の難易度は上昇していく。

また達成報酬も増加し、次の資格失効までの猶予期間も延長される。

もっとも、上級冒険者以上にまで到達出来る者は極少数しかいない。

大多数の者は、下級や中級で廃業している。


大怪我をして治療費が払えなかった者、残念ながら死亡した者、

加齢から来る衰えに耐えられなかった者、別の生き方を見つけた者。

中には冒険者組合へ腕を買われて指導員などに就職する者もいる。


年老いてから唐突に冒険者となる者も結構な人数がいるが、

どちらかと言えば彼らは小遣い稼ぎのような感覚である。

この場合昇格に興味がない者がほとんどだ。



ここにいる男は一つ星冒険者のナーボ。もうすぐ二十歳の手槍使い。


仕事振りは雑、依頼受注頻度は期限ギリギリ一か月。当然評価は低い。

周囲の人間は妥当と考えているが、彼の自己評価は異なっていた。


オレはこんなとこで足踏みするような男じゃない、もっと上に行ける。

未だに一つ星なのは、冒険者組合側の見る目が曇っているせいだ。

そう信じて疑っていない。その結果彼は組合へ直談判に出た。


「昇格試験を受けさせろ!もうオレも権利があるはずだろ!?」


規則に沿うなら、その言い分は正しい。一応試験を受ける権利はある。

より上位の指定された冒険者と試合を行い、勝てなくとも健闘すれば、

昇格は有り得る…ナーボが健闘出来るかどうかはともかくとして。


ナーボには副組合長が対応したのだが、その表情は渋いものだった。


「まあ、やるの自体は構わんぞ。

 規定通り上位の者と一対一で試合してもらう。分かってるな?」


それを聞いてナーボは少し怖気づいた。昇格試験は試合だった!と。

小型害獣との戦闘経験は一応ある。オオヘビやオオネズミなどだが。

対人戦闘は練習場で何度かやった経験はあれど、勝てたためしがない。

大抵指導員は無論、同じ一つ星の冒険者にさえ叩きのめされている。

この時点で現在のナーボへの評価一つ星は妥当と言えよう。


どう答えようかナーボが迷っていると、


「ちょうど三つ星のやつがいるから、そいつとやってもらうか」


副組合長に呼ばれたのは、ナーボが以前から妬んでいる少年である。

なんだ、こいつなら勝てるだろ。自信満々にナーボは了承する。


「ああ、いいぜ。勝てば昇格できるんだろ?」



副組合長に連れられて、ナーボと少年ーロドと言ったかーの二人は、

練習場へと入場する。野次馬が後から結構付いてきた。


「子供を相手に試合してみろ、とか副組合長は何考えてるんだ」

「アイツついてるよな。こんなので昇格出来ちゃうのかよ」


などと言う声が聞こえる一方で。


「あのひと死なないといいけどね」


と言う女の声も混ざっていた。


それはナーボにも聞こえ「さすがに少し痛めつけるだけだ」などと、

勝利を確信した上で、どう手加減しようかなどと考えていた。

昇格ついでに、立ち位置を誤解している小僧をへこませてやる。


双方武器を持ち、離れて位置に付く。副組合長はそれを確認し、


「準備はいいな?では、はじめ!」


と告げてすぐ、ナーボは何も出来ずに意識を失った。



目を覚ましたナーボは練習場の長椅子に寝かされていた。

何が何やら分からない。気づいたらこうなっている。負けたのか?

野次馬連中も、さっきはあれだけいたのにもう誰もいない。

練習で武器を振るっている冒険者が数人いるだけである。


どういう事なのか知りたいナーボは、練習中の冒険者に聞いてみる。

一体何がどうなった、勝負はどうだったのか。教えてくれ、と。

聞かれた冒険者はため息をつき、口にする。


「お前さんの負けだよ。昇格かけてたんだっけ?不合格だとさ。

 あの子の魔術喰らって、一撃で気絶だものな」


「魔術?あの小僧、短剣持ってたじゃねえか!?卑怯だろ!」


てっきり罠を仕掛けてせこく稼いでいるだけの小僧と思っていた。

あの場ではせいぜい短剣を投げてくるんだろう、等と考えていた。

見た目で相手を見くびるのが悪い。卑怯も何も論外だ。

思わずナーボは怒鳴ったが。


「気絶で済んで良かったと思うぞ。

 副組合長があの子を『やり過ぎだ、バカ者』とか叱ってたし」


やり過ぎ?そんなヤバい魔術だったのか?と考え込むナーボに、


「これに懲りたらあの子に僻みでケンカ売るのもやめとけよ。

 あの子、今王立中央学院の学生だが、一代騎士サマらしいぞ」


と冒険者は告げた。まさかのお貴族様かよ!?とナーボは青くなる。

正確には準貴族扱いだが、無論ナーボはそこまでは知らない。

さすがにお貴族様相手にいちゃもんなんか怖くてつけられない。

不敬罪とか言われて牢屋入りなんてまっぴらだ。


さすがに牢屋入りまでは滅多にないが、喧嘩を売るのを諦めたナーボ。

不満だらけではあるものの、それは飲み込む以外なかった。



共に歩いている少女、ラーモがロドに話しかける。

先程練習場で「死なないといいけど」とつぶやいたのは彼女である。

無論、ロドではなくナーボへ向けた言葉だ。


「さっき使った魔術、なんだったの?ロドくん。

 いきなり相手の人倒れたけど」


「ん?《窒息》。面倒事はすぐ終わらせて帰りたかったし」


ロドは事も無げに言う。彼が最近「害獣駆除・・・・」に使っている魔術だ。

対象の周囲の風の流れを止め、呼吸困難に陥れるものである。

大抵の害獣は傷もつけず仕留められるので便利なのだ。

魔術を使う魔獣には今一つ決め手に欠けるのだが。


「ひどいなー。死んでたかもじゃない」


もし魔術の効果時間を延ばしていれば、実際ナーボは息絶えていた。

不敬罪で牢屋入り、どころではない。


ラーモが非難するが、ロドは表情を変えず言い放つ。


「そうかなあ。冒険者ならみんないつも死ぬ覚悟はしてるでしょ?」

ロド、ラーモ、当時九歳とちょっと。

「装飾系の冒険者」「謎は深みにはまるばかり」の五年ほど前。

まだラーモは普通のフード付きローブ姿。魅惑の体型ではない。


オオヘビ:体長2mほど。オオネズミ:体長50㎝ほど。

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