理解はしたくない
北方大陸の冒険者組合では、冒険者の等級が星の数で示されている。
冒険者を目指す者は、最初に冒険者見習いとして組合に登録される。
まず、真面目に取り組めば大抵の者は達成可能な依頼を任されて、
それが何度か達成出来た者は晴れて「一つ星」の冒険者となる。
下級冒険者であれば一つ星、二つ星。
中級冒険者であれば三つ星、四つ星。
上級冒険者であれば五つ星、六つ星と星の数が増えていく。
特級冒険者と呼ばれている七つ星以上の者もいるにはいるのだが、
そうした者達は大国で数名いるかどうか。
昇格するためにはとにかく地道に依頼をこなしていくしかない。
例えば一つ星は、資格失効までの猶予期間が一か月なのだが、
その間に二度三度と依頼達成していれば二つ星に上がりやすい。
逆に猶予期間ギリギリまで何もしないような者は燻り続ける。
卓越した成果を上げた者ならば、飛び越えて三つ星も有り得る。
当然星の数が増えるに従って、依頼の難易度は上昇していく。
また達成報酬も増加し、次の資格失効までの猶予期間も延長される。
もっとも、上級冒険者以上にまで到達出来る者は極少数しかいない。
大多数の者は、下級や中級で廃業している。
大怪我をして治療費が払えなかった者、残念ながら死亡した者、
加齢から来る衰えに耐えられなかった者、別の生き方を見つけた者。
中には冒険者組合へ腕を買われて指導員などに就職する者もいる。
年老いてから唐突に冒険者となる者も結構な人数がいるが、
どちらかと言えば彼らは小遣い稼ぎのような感覚である。
この場合昇格に興味がない者がほとんどだ。
◆
ここにいる男は一つ星冒険者のナーボ。もうすぐ二十歳の手槍使い。
仕事振りは雑、依頼受注頻度は期限ギリギリ一か月。当然評価は低い。
周囲の人間は妥当と考えているが、彼の自己評価は異なっていた。
オレはこんなとこで足踏みするような男じゃない、もっと上に行ける。
未だに一つ星なのは、冒険者組合側の見る目が曇っているせいだ。
そう信じて疑っていない。その結果彼は組合へ直談判に出た。
「昇格試験を受けさせろ!もうオレも権利があるはずだろ!?」
規則に沿うなら、その言い分は正しい。一応試験を受ける権利はある。
より上位の指定された冒険者と試合を行い、勝てなくとも健闘すれば、
昇格は有り得る…ナーボが健闘出来るかどうかはともかくとして。
ナーボには副組合長が対応したのだが、その表情は渋いものだった。
「まあ、やるの自体は構わんぞ。
規定通り上位の者と一対一で試合してもらう。分かってるな?」
それを聞いてナーボは少し怖気づいた。昇格試験は試合だった!と。
小型害獣との戦闘経験は一応ある。オオヘビやオオネズミなどだが。
対人戦闘は練習場で何度かやった経験はあれど、勝てたためしがない。
大抵指導員は無論、同じ一つ星の冒険者にさえ叩きのめされている。
この時点で現在のナーボへの評価一つ星は妥当と言えよう。
どう答えようかナーボが迷っていると、
「ちょうど三つ星のやつがいるから、そいつとやってもらうか」
副組合長に呼ばれたのは、ナーボが以前から妬んでいる少年である。
なんだ、こいつなら勝てるだろ。自信満々にナーボは了承する。
「ああ、いいぜ。勝てば昇格できるんだろ?」
◆
副組合長に連れられて、ナーボと少年ーロドと言ったかーの二人は、
練習場へと入場する。野次馬が後から結構付いてきた。
「子供を相手に試合してみろ、とか副組合長は何考えてるんだ」
「アイツついてるよな。こんなので昇格出来ちゃうのかよ」
などと言う声が聞こえる一方で。
「あのひと死なないといいけどね」
と言う女の声も混ざっていた。
それはナーボにも聞こえ「さすがに少し痛めつけるだけだ」などと、
勝利を確信した上で、どう手加減しようかなどと考えていた。
昇格ついでに、立ち位置を誤解している小僧をへこませてやる。
双方武器を持ち、離れて位置に付く。副組合長はそれを確認し、
「準備はいいな?では、はじめ!」
と告げてすぐ、ナーボは何も出来ずに意識を失った。
◆
目を覚ましたナーボは練習場の長椅子に寝かされていた。
何が何やら分からない。気づいたらこうなっている。負けたのか?
野次馬連中も、さっきはあれだけいたのにもう誰もいない。
練習で武器を振るっている冒険者が数人いるだけである。
どういう事なのか知りたいナーボは、練習中の冒険者に聞いてみる。
一体何がどうなった、勝負はどうだったのか。教えてくれ、と。
聞かれた冒険者はため息をつき、口にする。
「お前さんの負けだよ。昇格かけてたんだっけ?不合格だとさ。
あの子の魔術喰らって、一撃で気絶だものな」
「魔術?あの小僧、短剣持ってたじゃねえか!?卑怯だろ!」
てっきり罠を仕掛けてせこく稼いでいるだけの小僧と思っていた。
あの場ではせいぜい短剣を投げてくるんだろう、等と考えていた。
見た目で相手を見くびるのが悪い。卑怯も何も論外だ。
思わずナーボは怒鳴ったが。
「気絶で済んで良かったと思うぞ。
副組合長があの子を『やり過ぎだ、バカ者』とか叱ってたし」
やり過ぎ?そんなヤバい魔術だったのか?と考え込むナーボに、
「これに懲りたらあの子に僻みでケンカ売るのもやめとけよ。
あの子、今王立中央学院の学生だが、一代騎士サマらしいぞ」
と冒険者は告げた。まさかのお貴族様かよ!?とナーボは青くなる。
正確には準貴族扱いだが、無論ナーボはそこまでは知らない。
さすがにお貴族様相手にいちゃもんなんか怖くてつけられない。
不敬罪とか言われて牢屋入りなんてまっぴらだ。
さすがに牢屋入りまでは滅多にないが、喧嘩を売るのを諦めたナーボ。
不満だらけではあるものの、それは飲み込む以外なかった。
◆
共に歩いている少女、ラーモがロドに話しかける。
先程練習場で「死なないといいけど」とつぶやいたのは彼女である。
無論、ロドではなくナーボへ向けた言葉だ。
「さっき使った魔術、なんだったの?ロドくん。
いきなり相手の人倒れたけど」
「ん?《窒息》。面倒事はすぐ終わらせて帰りたかったし」
ロドは事も無げに言う。彼が最近「害獣駆除」に使っている魔術だ。
対象の周囲の風の流れを止め、呼吸困難に陥れるものである。
大抵の害獣は傷もつけず仕留められるので便利なのだ。
魔術を使う魔獣には今一つ決め手に欠けるのだが。
「ひどいなー。死んでたかもじゃない」
もし魔術の効果時間を延ばしていれば、実際ナーボは息絶えていた。
不敬罪で牢屋入り、どころではない。
ラーモが非難するが、ロドは表情を変えず言い放つ。
「そうかなあ。冒険者ならみんないつも死ぬ覚悟はしてるでしょ?」
ロド、ラーモ、当時九歳とちょっと。
「装飾系の冒険者」「謎は深みにはまるばかり」の五年ほど前。
まだラーモは普通のフード付きローブ姿。魅惑の体型ではない。
オオヘビ:体長2mほど。オオネズミ:体長50㎝ほど。




