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Mudmen•Blue マッドメン・ブルー  作者: sora_op


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9/10

Mudmen•Blueマッドメン・ブルー第9話:父への宣戦布告

〖免責事項〗

本作はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。

また、作中に登場する法律・科学技術・名称等は、物語上の演出が含まれています。


1.黒い証明書


邪魔者は消えた。


南鳥島の洋上で、剛田が操るクレーンが唸りを上げる。


「いっくぞオラァ! 吸い尽くせ!!」


いずみが調整したポンプが、深海6000メートルの泥を吸い上げる。


パイプを通って甲板のタンクに流れ込んだのは、ドス黒く、重く、そして美しい泥流だった。


「……出た」


優斗がタンクの覗き窓に張り付く。


「これ全部、宝の山なんだ……!」


船内ラボで、第三者機関である「日本海事検定協会」の検査員が、分析データに認証印を押した。


『分析結果:ジスプロシウム含有量、世界平均の20倍』

『品質等級:特A(精錬コスト極小)』


『初回出荷ロット:品質均一性を確認』


単なる期待ではない。「商品」としての価値が証明された瞬間だった。


史郎が、認証済みの証明書をスマホで撮影した。


「……さて。この『爆弾』を市場に投げ込みましょうか」


---


## 2.泥ショック(Mud Shock)


翌日。世界の資源市場は静まり返り、そして悲鳴を上げた。


これまでの「噂」レベルではなく、「第三者認証付きの品質データ」と「初回出荷確定」のニュースが流れたからだ。


中国の輸出業者が支配していた「レアアース・スポット価格(随時契約価格)」が、坂を転がり落ちるように下落を始めた。


商社のトレーディングルームで、史郎はモニターを見つめながら電話を耳に当てていた。


「ええ、本当ですよ。権田重工も豊川自動車も、既に中国との長期契約を見直しています。……今高い値段で買っているのは御社だけになりますよ?」


市場の心理センチメントが一変した。


「中国から買うしかない」という恐怖が消え、「日本から安く買えるかもしれない」という期待が、雪崩のような売り注文を呼んだのだ。


豊川自動車の役員が手を叩く。


「痛快だ! 中国側が慌てて『値下げ交渉』に応じ始めたぞ。……たった一隻の船が、世界の相場をひっくり返したんだ!」


---


## 3.国家の介入


凱旋帰国した『あかつき』を待っていたのは、無数のフラッシュと……黒塗りの高級車の列だった。


埠頭に降り立った文哉たちの前に、父・科学技術政策統括官が現れた。


父は、泥の入ったタンクを見上げ、無表情に言った。


「……よくやった。品質、量ともに申し分ない。想定以上だ」


「父さん……」


「だが、これからは『大人の管理』が必要だ」


父は冷徹に告げた。


「このプロジェクトは国家直轄とする。以降、生産計画、価格決定、技術情報はすべて内閣府が管理する。……民間(君たち)の手には余る」


嘉門先生が噛み付く。


「国有化して、官僚の判子がなきゃ動けないようにする気か!? それじゃあ日本のイノベーションは死ぬぞ!」


「綺麗事では国は守れん」


父は一蹴した。


「資源は外交カードだ。誰に売るか、いくらで売るか。それは国家が決めるべき『戦略エコノミック・ステイトクラフト』だ。……文哉、お前も来い。こちら側で管理する人間になれ」


それは、文哉に対する「合格通知」であり、同時に「研究者としての死刑宣告」だった。


---


## 4.父への反論プレゼン


文哉は、父の前に進み出た。


足は震えている。だが、もう逃げなかった。


「……お断りします、統括官」


父の眉がピクリと動く。「……何だと?」


「この泥を国有化し、役所が管理すれば、一時的に日本は強くなるでしょう。でも、スピードは落ちる。中国はすぐに新しい技術で追い上げてくる」


文哉は、タブレットを取り出した。そこには、この数ヶ月で集めた膨大なデータと、民間企業連合コンソーシアムの事業計画書が表示されていた。


「見てください。この泥の分離技術は、チャオという留学生がいたから完成した。

彼は、スパイ容疑をかけられて去った。でも、最後までデータを送らなかった。家族を人質に取られていたのに、仲間を裏切らなかった。……その人間が残した技術を、父さんは『国有化』して、彼の名前を消すつもりですか?」プラントだって、民間企業の知恵が集まってできた。……『国家管理』でガチガチに固められた組織に、このスピードが出せますか?」


文哉は、父の目を真っ直ぐに見つめた。


「父さんの言う『無謬性(完璧な管理)』は、リスクをゼロにするけれど、可能性もゼロにする。……不確実な市場の中に飛び込んで、失敗しながら最適解を見つける。それが僕たち研究者の仕事であり、民間の強さです」


「……失敗すれば、国益を損なうぞ」


「その時は、また僕たちが泥まみれになって直します! 剛田さんのように、史郎さんのように! ……だから父さん、僕たちを『管理』しないでください。僕たちに『競争』させてください!」


現場の静寂。


息子が初めて、論理ロジックで父を論破しようとしている。


父は長い間、文哉を睨みつけていた。


---


## 5.条件付きの勝利


やがて、父はふっと息を吐き、視線を海へと逸らした。


その頭の中で、瞬時に数万通りのシミュレーションが行われたのだろう。


「……いいだろう。技術開発と生産運用は、民間のコンソーシアムに任せる」


文哉の顔が輝く。「父さん!」


「ただし」


父は冷ややかに釘を刺した。


「『輸出管理』と『最終用途確認』、そして『技術情報の機密区分』は国が握る。お前たちが作った泥を、どこの国に出すか。その蛇口は私がコントロールする」


それは、完全勝利ではなかった。


「自由」と「規制」のギリギリの妥協点。


だが、父の立場からすれば、これ以上ない譲歩であり、文哉たちを「対等なパートナー」として認めた証でもあった。


「……文哉。お前はもう、私の『作品』ではないな」


父は背を向け、黒塗りの車へと歩き出した。


「お前は、私の『交渉相手』だ。……精々、国益に貢献しろ」


「それとだ……あの留学生の件、調べさせてもらった。彼の家族は、今は無事だそうだ。

それだけは、伝えておく」


文哉は息を呑んだ。父なりの、不器用な優しさだった。


車が走り去る。


文哉はその場にへたり込んだ。


「……勝った……のか?」


史郎が肩を叩く。


「ええ。あなた達が開発し、国が守る。……

『官民一体』の最強の形ですよ。これ以上ない着地だ」


嘉門先生が笑った。


「よく言った、文哉。……さあ、これで我々は自由だ。世界中が我々の泥を待っているぞ!」


南鳥島の青い空の下、マッドメンたちは本当の意味での「独立」を果たした。


---


## 〖やさしい 用語解説〗

### 嘉門先生と優斗の「マッドメン・ラボ」


---


### Theme 20:先物? スポット価格?


優斗:今回、ニュースで「価格が暴落した」って言ってましたけど、レアアースって株みたいに売買されてるんですか?


嘉門:銅やアルミと違って、レアアースはLME(ロンドン金属取引所)のような大きな市場では取引されていない。


主に売り手と買い手が直接交渉する「相対あいたい取引」や、その時々の時価で売買する「スポット市場」で価格が決まる。


* 今回の現象:

「日本から大量に出るぞ!」という確実な情報が出たことで、買いメーカーが「じゃあ今は中国から買うのを控えよう」となり、スポット価格が一気に下がったんだ。これを「アナウンスメント効果」と言う。


---


### Theme 21:エコノミック・ステイトクラフト(経済安全保障)


優斗:最後にお父さんが言ってた「蛇口は国が握る」ってどういうことですか?


嘉門:「技術は民間に自由にやらせるが、それが敵国に渡らないように国が監視する」ということだ。


これを「外為法(外国為替及び外国貿易法)」に基づく輸出管理と言う。


文哉たちの自由イノベーションを守りつつ、国の安全セキュリティも守る。……あの親父さんらしい、極めて現実的で賢い落とし所だな。


---


## 〖免責事項〗

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