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Mudmen•Blue マッドメン・ブルー  作者: sora_op


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8/10

Mudmen•Blueマッドメン・ブルー 第8話:疑惑の借金

〖免責事項〗

本作はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。また、作中に登場する法律・科学技術・名称等は、物語上の演出が含まれています。


第8話:疑惑の借金


---


### 1.不完全なリスト


食堂に集められた乗組員たち。空気は最悪だった。


史郎がテーブルに広げたのは、乗組員全員の「身上調査書」だ。


「……はっきり言います。このプロジェクトに参加する際、全員のセキュリティ・チェックは行いました。ですが、それは完璧ではない」


経産省の立会官・久我山が、鼻で笑って口を挟んだ。


「当然だ。民間人の君らがやる調査などザルだよ。私のような『特定秘密取扱資格セキュリティ・クリアランス』を持っているのは、この船では私と、船長くらいのものだ。……残りは、すねに傷を持つ有象無象だろう?」


久我山の視線が、現場監督の剛田ごうだに突き刺さる。


剛田が視線を逸らした。その反応を、史郎は見逃さなかった。


「……剛田さん。あなたの口座記録、洗わせてもらいました」


史郎がタブレットを剛田に見せる。


「消費者金融に300万円の借金がありますね。そして先週、あなたの口座に不明な入金があった」


船内がざわつく。


いずみが叫ぶ。


「嘘だろ!? おっちゃん、アタシたちのこと裏切ったのかよ!」


---


### 2.叩けば出る埃


剛田は唇を噛み締め、重い口を開いた。


「……借金は、ある。離婚した嫁への慰謝料と、娘の学費だ。工場の経営が傾いて、どうしても金が要った」


久我山が勝ち誇ったように手を叩く。


「決まりだな! 金に困った作業員が、小銭欲しさにボルトを緩めた。動機も手口も十分だ。住金さん、彼を拘束したまえ!」


「……ですが」


剛田が顔を上げ、史郎を睨みつけた。


「俺は、魂までは売っちゃいねえ! その『入金』の日付を見てみろ! ……俺が競馬で万馬券を当てた日だ!」


剛田は拳を握りしめた。


「堂々としていればいい」——あの夜、名前も知らない学生に言われた言葉が、胸の奥で響いていた。


史郎は伝票を確認し、小さく息を吐いた。


「……確かに。JRA(日本中央競馬会)からの払戻金ですね。300万の借金に対して、入金は50万。……スパイの報酬にしてはショボすぎる」


剛田は借金まみれで、ギャンブル好きのダメ親父だった。


だが、スパイではなかった。


いずみが安堵のため息をつく。


「紛らわしいんだよ、バカおっちゃん!」


史郎は久我山に向き直った。


「……剛田さんは『シロ(借金はあるが無害)』です。では、久我山さん。次こそは疑う余地のない、あなたご自慢の『クリアランス』の内側を見せてもらいましょうか」


---


### 3.慢心という名の隙


「無礼な! 私は国の人間だぞ!」


久我山は激昂したが、その目には焦りの色が浮かんでいた。


彼は、剛田をスケープゴート(身代わり)にして逃げ切るつもりだったのだ。それが失敗した今、彼には「自分は絶対に疑われない」という特権にしがみつくしかなかった。


その夜。史郎はあえて久我山に聞こえるように、嘉門先生と話をした。


「……剛田さんが犯人じゃないとなると、やはり『データ』ですね。サーバーに残っているログの断片を復元すれば、誰が電子ロックを開けたか分かるはずです」


これこそが罠だ。


「自分は管理者だ。自分が一番偉い」と信じている久我山なら、必ず自分で消しに来る。


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### 4.特権のハニーポット


深夜のサーバー室。


久我山は震える手でキーボードを叩いていた。


「ええい、なぜ消えない! 私は管理者権限(root)を持っているはずだぞ!」


画面上の『EVIDENCE(証拠)』ファイルが、何度削除してもゾンビのように復活する。


焦った彼は、禁断のコマンド――『システム全初期化』を入力しようとした。


その瞬間、背後でカシャリとシャッター音がした。


史郎だ。


「……そこまでです、久我山さん。そのコマンドを打てば、船は漂流する。あなたは証拠隠滅のために、我々全員を殺す気ですか」


史郎は久我山を見下ろしながら、心の中で呟いた。(……弱みを握られた人間が、全員裏切るわけじゃない。)


「う、うるさい! 私は……私は嵌められたんだ! あいつらが、私の昔の写真を!」


久我山が崩れ落ちる。


彼もまた、剛田と同じように「弱み」を持っていた。


だが、剛田が「汗水たらして働いて返す」道を選んだのに対し、久我山は「国の権限を悪用して隠す」道を選んだ。


クリアランスを持っていたがゆえに、彼は誰にも相談できず、より深い闇に落ちていったのだ。


---


### 5.エピローグ:清濁併せ吞む


久我山は個室に軟禁された。


食堂で、剛田が気まずそうにカップ酒を飲んでいる。


「……悪かったな、商社マン。俺みたいなのが混ざっててよ」


史郎は、剛田の隣に座り、何も言わずに自分のグラスを出した。


「……注いでくださいよ、剛田さん」


「あ?」


「完璧な人間なんていない。借金があろうが、ギャンブル好きだろうが……嵐の中でバルブを直したのはあなただ。私は、あなたの『過去』より『仕事』を信じますよ」


剛田は驚いた顔をして、それからニカっと笑い、なみなみと酒を注いだ。


「……へっ、キザな野郎だ」


「……なあ、商社マン。昔、俺に『堂々としていればいい』って言ってくれた若い奴がいてな。中国人の留学生だった。名前は……チャオ、だったかな」


史郎の手が、一瞬止まった。


「……そうですか。いい奴だったんですね」


「ああ。あいつのおかげで、今日、胸を張れた気がするよ」


船は進む。


清らかな理想だけではない。借金も、欲望も、後悔も。


人間臭い「泥」を抱えながら、彼らは宝の眠る海域へ到達した。


---


## 〖やさしい 用語解説〗

### 嘉門先生と優斗の「マッドメン・ラボ」


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### Theme 17:クリアランスを持っている=聖人君子?


優斗: 今回、久我山さんは「クリアランス持ち」で、剛田さんは「借金持ち」でしたけど、結局どっちが信用できるんですかね?


嘉門: そこが難しいところだ。


セキュリティ・クリアランス(適性評価)は、あくまで「調査時点でのリスクの低さ」を証明するもので、人格を保証する免許証じゃない。


* 久我山タイプ: 調査はクリアしたが、プライドが高く、失敗を隠そうとして弱みを握られる(インサイダー・スレット)。

* 剛田タイプ: 借金などの「傷」はあるが、それをオープンにして働いているため、逆に脅迫されにくい。


優斗: なるほど。「弱みを隠している人」が一番危ないってことですね。


---


### Theme 18:特権IDの管理


優斗: 久我山さん、最後は暴走してましたね。


嘉門: 彼は「自分は特権階級だ」と勘違いしていたな。


最近のセキュリティでは「Need to know(知る必要のあることだけ教える)」の原則に加え、たとえ偉い人でも、一人で重要な操作をさせない「二人認証」などが常識になっている。


史郎君の罠は、久我山の「自分一人でなんとかできる」という傲慢さを突いた見事な作戦だったわけだ。


〖免責事項〗

本作はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。また、作中に登場する法律・科学技術・名称等は、物語上の演出が含まれています。

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