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Mudmen•Blue マッドメン・ブルー  作者: sora_op


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7/10

Mudmen•Blueマッドメン・ブルー第7話:プロの流儀

〖免責事項〗

本作はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。また、作中に登場する法律・科学技術・名称等は、物語上の演出が含まれています。


1.漆黒の海へ


巨大調査船『あかつき』は、南鳥島沖のEEZ(排他的経済水域)に到着した。


甲板には、権田重工のロゴが入ったヘルメットを被った、ベテラン作業員たちが忙しなく動き回っている。


いずみたち学生チームは、安全なブリッジ(船橋)のガラス越しにその様子を見ていた。


「……すげえ。やっぱプロは動きが違うな」


いずみは悔しそうだが、その目は輝いていた。自分の設計した機械が、本職の手によって組み上げられていくのだ。


だが、その海域は平穏ではなかった。

右舷数キロ先に、灰色の船影が見える。中国海警局の大型船だ。彼らは国際法ギリギリのラインで並走し、時折、大音量の不快なノイズ(音響攻撃)を浴びせてくる。


ブリッジの隅には、経済産業省から派遣された立会官(技術系公務員)の姿もあった。彼は青ざめた顔で、しきりに衛星電話で本省と連絡を取っている。


「……はい。中国船の挑発を確認。……いえ、まだ作業は中止させません。ですが、少しでも危険があれば即刻……」


史郎は、その立会官に冷たいコーヒーを差し出した。


「役人さんは大変ですね。現場の責任と、霞が関の顔色と、両方見なきゃいけない」


「……嫌味ですか、住金さん。私の仕事は、国民の税金が無駄にならないよう監視することです」


立会官はコーヒーを受け取らず、双眼鏡を覗き続けた。彼らは「手は出さないが、目は離さない」。それがリアルな公務員のスタンスだった。


あさつき


---


## 2.暴走するブラックボックス


作業開始から数時間。ついにいずみ特製の「深海用エアリフト・ユニット」が海底6000メートルに着底した。


ポンプ稼働。黒い泥が上がり始める。


「成功だ!」


船内ラボで歓声が上がった瞬間だった。


突如、警報音が鳴り響いた。


「ユニットの油圧低下! 制御不能!」


権田重工の技師長、現場監督の剛田ごうだが無線で怒鳴る。


「バルブが固着してる! このままじゃ圧力が逆流して、船上のタンクが破裂するぞ!」


外は、折悪しく発生した熱帯低気圧のせいで、暴風雨になりつつあった。


船が大きく傾く。


立会官が叫んだ。


「中止だ! 安全規定に基づき、ワイヤーを切断してユニットを投棄してください! 人命優先です!」


それは正しい判断だった。泥のために人が死ぬわけにはいかない。


剛田も苦渋の表情で、切断ボタンに手をかけた。


---


## 3.開発者の懇願


「待ってください!! 切らないで!!」


いずみがマイクに飛びついた。


「それ、故障じゃないんです! 安全装置が過敏に反応してロックしてるだけなんです!」


剛田が無線越しに怒鳴り返す。


「素人は黙ってろ! こっちは何十年も海でやってんだ! 今すぐ切らないと共倒れだ!」


「おっちゃん、頼むよ、信じてくれよ!!」


いずみの声は、悲鳴に近かった。涙声で、必死に訴える。

「そのユニットは……アタシたちが、必死で計算して、廃材から作り上げた希望なんです! ここで捨てたら、もう二度と作れない! みんなの頑張りが、全部ゴミになる!」


ブリッジが一瞬静まり返る。


いずみは、ガラスに額を押し付けて叫んだ。


「直し方はあるんです! マニュアルにはないけど……油圧バルブCを強制開放しながら、メイン電源を一瞬だけ落として再起動すれば、ロックは外れます! ……でも、タイミングがシビアで、アタシじゃ怖くてできない……」


いずみは拳を握りしめ、頭を下げた。


「プロの皆さんなら、できるはずです! お願いします、アタシたちの夢を、捨てないでください……!」


---


## 4.プロの流儀


無線機から、激しい雨音と、現場の沈黙が流れてきた。


剛田たち作業員は、暴風雨の中で立ち尽くしている。


やがて、剛田の低い声が聞こえた。


『……おい、お嬢ちゃん。もしそれが失敗したら、タンクが吹き飛んで俺たちはミンチだぞ』


「……計算は合ってます。文哉のシミュレーションと、アタシの設計を信じてください」


数秒の沈黙。


剛田が、フッと笑った気配がした。


『……上等だ。学生にそこまで言われて、逃げたら日本のモノづくりの恥だわな』


剛田が部下たちに指示を飛ばした。


『野郎ども! 聞いたな! マニュアルは破り捨てるぞ! 命懸けのリセットだ、ビビった奴は船内に戻れ!』


剛田は一瞬、遠い目をした。以前、どこかの居酒屋で会った若い学生の顔が浮かんだ気がした。

「堂々としていればいい」——そう言われた夜のことを、なぜか思い出していた。


『『おう!!』』


誰一人、戻ろうとする者はいなかった。


彼らもまた、ジャパン・アベンジャーズの一員。「現場のプロ」たちだった。


---


## 5.大人の本気


甲板での作業は壮絶だった。


波を被りながら、剛田たちがバルブにしがみつく。


「バルブC開放! 電源カット用意!」


「3、2、1……今だ!!」


船内の照明が一瞬落ち、非常灯の赤色に変わる。


全員が息を飲む。


ズゥゥゥン……。


重低音と共に、甲板のユニットが再起動した。


赤い警告ランプが消え、正常を示す緑色が点灯する。


『……ロック解除。圧力正常。……泥、上がってきてます!』


ブリッジに、割れんばかりの拍手が巻き起こった。

いずみはその場にへたり込み、ボロボロと泣いた。


「よかった……よかったぁ……」


立会官は、呆気にとられた顔で、それから小さくため息をつき、本省への電話を切った。


「……報告。『現場の判断により、状況は収束』。……まったく、寿命が縮みますよ」


そう言いながらも、彼の手は少し震えながら、安堵のために胸ポケットのハンカチを探していた。


---


## 6.エピローグ:緩められたボルト


嵐が去った後。


剛田がいずみの元へやってきた。手には、ユニットから取り外した一本のボルトが握られている。


「嬢ちゃん。礼を言いに来た。あんたの言う通り、いい機械だったよ」


「……おっちゃんたちこそ。凄かった」


剛田は表情を曇らせ、ボルトを差し出した。


「だがな、一つ解せねえことがある。……この制御バルブのボルト、振動で緩んだんじゃねえ」


「え?」


「ネジ山が潰れてる。誰かが、意図的にレンチで緩めた跡だ」


いずみの背筋が凍りつく。


ハッキング(チャオ)ではない。これは、物理的な破壊工作サボタージュ


この船の中に、まだ「敵」がいる。


史郎がそのボルトを受け取り、冷徹な目で船内を見渡した。

(……チャオは、データを送らなかった。だが、物理的な破壊工作は別の人間だ。まだ、モグラがいる)


「……モグラ叩きは、まだ終わっていなかったようですね」


史郎が毅然とした顔で、自分に言い聞かせるように呟いた。


---


## 〖やさしい 用語解説〗


### 嘉門先生と優斗の「マッドメン・ラボ」


#### Theme 15:公務員(官僚)は現場に来るの?


優斗: 今回、ブリッジにいた「立会官」の人、怖そうでしたね。実際にああいう人が乗ってくるんですか?


嘉門: 国の予算を使った大規模プロジェクトの場合、「確認」のために乗船することはある。

ただ、本省(霞が関)のキャリア官僚が何ヶ月も船に乗ることは稀だ。大抵は、以下のようなパターンが多いぞ。


* JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)の職員:

* 資源開発のプロ。現場監督や技術的なチェックを行うために乗船する。実務部隊だ。


* 経産省や文科省の技術系職員:

* 重要な局面(今回のような初掘削など)に合わせて、ヘリやボートで一時的に視察に来る。


* 委託された民間企業の監督員:

* 国から「管理」を任されたコンサルやエンジニアリング会社の人。


優斗: なるほど。じゃあ、あの立会官の人は「現場で泥まみれ」にはならないんですね。


嘉門: 彼らの仕事は「安全管理」と「予算の適正執行」だからな。「無茶をして事故を起こされる」のが一番困る立場なんだ。だから今回のようにストップをかけるのが、ある意味で彼らの正義なんだよ。


#### Theme 16:領海とEEZと中国船


優斗: 中国船が近くにいましたけど、あれって追い払えないんですか?


嘉門: そこが海の法律の難しいところだ。


領海(12海里=約22km)に入れば強制退去させられるが、今回はEEZ(排他的経済水域)だ。


EEZは「資源は日本のもの」だが、「船が通るだけ(航行の自由)」は認められている。


* 中国側の言い分:

「通っているだけだ」「科学調査をしているだけだ(許可なく調査するのは違法だが、グレーゾーンを攻めてくる)」


* 日本側の対応:

放水や体当たりはできず、無線で「警告」し続けるしかない。


史郎の補足: だからこそ、今回は民間船のフリをして近づき、ソナーなどの「見えない攻撃」を仕掛けてくる。非常に陰湿で、リアルな攻防戦ですよ。


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